- 新型コロナウイルス感染症の医療機関への影響
- コロナ禍における政府の対応策
- オンライン診療恒久化の方向性
- Withコロナ時代における経営ポイント
1.新型コロナウイルス感染症の医療機関への影響
1.新型コロナウイルス感染症による医療機関への影響と医療費の動向
(1)新型コロナウイルス感染症による医療機関への影響
WHO(世界保健機関)が公式に発表している世界最初の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の症例は2019年12月8日で、公式の世界最初の症例から既に1年が経過しました。
新型コロナによる医療機関への影響は大きく、収入の大幅な減少、コロナ対策費用の発生等により経営状態が厳しい医療機関が多いのが現状です。
(2)医療費の動向
下表は厚生労働省が公表している「最近の医療費の動向[概算医療費]令和2年度8月号」からの抜粋で、医療費について、前年同期と比べたときの割合を示すものです。
2020年8月の概算医療費は、3.5兆円で医療費の伸び率は前年同月と比べマイナス3.5%となっています。
2020年5月のマイナス11.9%よりは落ち込み幅は少なくなっているものの、依然マイナスが続いている状況です。
2020年度の4月~8月の5カ月間ではマイナス6.2%となり、医療機関にとっては厳しい現状であるといえます。
診療種類別にみると、唯一、訪問看護療養が前年同期比でプラス推移となっています。
2020年度の4月~8月の5カ月間をみるとプラス17.6%と大幅に増加していますが、その要因の一つとして、患者が新型コロナの感染リスクを考慮して受診を控え訪問看護に切り替えたことが考えられます。
2.新型コロナの影響による医療機関の患者数の変化と保険収入減少要因
(1)診療種類別レセプト件数の前年同月比
レセプト件数の前年同月比でみると、4月以降、医科、歯科、調剤いずれにおいても、減少がみられましたが、6月には下げ幅に回復がみられました。
(2)医科クリニックの診療科別レセプト点数の前年同月比
レセプト点数の前年同月比でみると、4月以降は、いずれの診療科も減少していますが、耳鼻咽喉科、小児科の減少が顕著となりました。
6月には回復傾向となりましたが、診療科ごとにバラツキがみられました。
(3)保険収入減少の要因
コロナ渦において、保険収入が減少した要因についてまとめると以下のようなことが考えられます。
2.コロナ禍における政府の対応策
1.コロナ禍における診療報酬上の対応
政府は、コロナ禍における診療報酬上の対応としてこれまで以下のことを特例的に行ってきました。
令和3年度においても、令和2年度予備費等で措置してきた新型コロナを疑う患者への外来診療に係る評価(院内トリアージ実施料)及び新型コロナ患者に対する入院診療に係る評価(救急医療管理加算、二類感染症患者入院診療加算、特定入院料等)については、当面の間継続することとしています。
2.医療機関・薬局等における感染拡大防止等の支援
新型コロナ感染症の院内等での感染拡大を防ぐための取組を行う病院・診療所・薬局・訪問看護ステーション・助産所に対して、感染拡大防止対策や診療体制確保などに要する費用を補助する目的の事業です。
3.2021年度 厚生労働省予算案における重点事項
2021年度予算案における重点事項の中で、「Withコロナ時代に対応した保健・医療・介護の構築」を掲げています。
ポイントは、ポストコロナ時代を見据えてデジタル化を重点的に推進していることです。
3.オンライン診療恒久化の方向性
1.オンライン診療の恒久化に向けた今後の見通し
(1)今後の検討のスケジュールについて
政府はコロナ禍において、これまで時限的・特例的な措置としてオンライン診療の規制緩和を行ってきましたが、オンライン診療の恒久化に向けた意見も多く、検討を重ねてきました。
また、政府はオンライン診療の恒久化に向けて、2020年内に一定の方向性を示すことを念頭に検討を進めてきましたが、新型コロナが再度拡大している状況であることから、検証を行いつつ、時限的・特例的措置を当面継続することを念頭に、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下、指針)の改定に関する議論については、引き続き、専門的な観点も含め、丁寧に検討することが適当であるとの見解を示しました。
こうした中、今後のオンライン診療に関する検討スケジュール(案)が公表され、中身をみると指針の改定は2021年の秋頃に行われる見通しとなっています。
2.初診のオンライン診療を適切に実施するための安全性・信頼性について
(1)初診のオンライン診療の適切な実施に向けた医師・患者に関する検討
初診の場合にも安全性・信頼性を担保するためには、医師が患者の医学的情報を把握していることや医師と患者間の関係性が醸成されていることが重要です。
この「医師・患者関係」については、過去の受診歴等がベースとなることを踏まえ、過去に受診歴がない場合、初診からオンラインで受診することについてどのように考えるかについて検討がなされ、今後の方針が示されました。
(2)安全性・信頼性を十分確保するためのルールについて
安全性・信頼性を十分確保する観点から、以下のルールの下で初診オンライン診療を実施することとして検討がなされています。
①安全性に関するルール
対面診療が必要な場合には、オンライン診療を実施した「医師」に限らず、当該医師の所属する「医療機関」において実施することとし、対面診療での対応が困難である場合は、原則、日常的にアクセス可能な距離にある他の医療機関と連携を確実に行うことをルールとして盛り込むことが検討されています。
また、かかりつけの医療機関の所在地と異なる二次医療圏に居住する(二拠点居住を含む)者が初診からオンライン診療を受ける場合においては、速やかに対面診療を受けられる医療機関を受診前に確保しておくことや、物理的に離れた専門医がオンライン診療する際に、対面診療が必要だと判断した場合には、紹介元の医療機関が対面診療を実施することを基本として議論が進められています。
初診からオンライン診療を行う場合は、不適切な症状や状態の患者を事前に除外するためにオンライントリアージあるいは電話トリアージを受けることを必須として、トリアージに用いる医学的な判断基準については、各主要学会からの意見をとりまとめて検討する考えです。
②信頼性に関するルール
オンライン診療における患者への事前説明・同意については、対応案として以下の項目について事前に説明ないし確認した上で同意を得ることを求めていく考えです。
また、医師・患者双方の本人確認については、身分確認書類を画面上で提示すること等により行うことを徹底すること等で対応するとしています。
③安全性・信頼性双方に関するルール
処方薬の制限に関しては、初診からの未承認・適応外医薬品の処方は不可とする扱いとし、再診において、過去の対面診療により既に処方され、引き続き必要と医師が判断する場合には引き続き処方可能とする考えです。
オンライン診療の研修の必修化については、これまで指針で定める研修で提供されている研修内容に検討を加え、研修を実施することは引き続き必要であると見解を示しました。
4.Withコロナ時代における経営ポイント
1.Withコロナを意識した経営ポイント
(1)待合室等の工夫で感染対策を行う
待合室を含めた院内での感染リスクが懸念されている中、院内感染への不安による通院控えによって、定期通院が必要な患者が治療できず、病気の悪化や再発を起こしてしまうリスクが考えられます。
そこで、埼玉県戸田市にある「さとう埼玉リウマチクリニック」は待合室を含めた院内を、新型コロナ予防を徹底したものに作り替えました。
院内の待合室は、椅子と椅子との間がアクリル板で仕切られ飛沫感染を防止し、患者同士が向き合わないような椅子の配置、またソーシャルディスタンスである2mを確保した配置になっています。
(2)コストの全面見直しとマーケティング分析の実施
コロナの影響によりお手軽受診の減少で、医療マーケット(特に中小病院、開業医)は縮小されていますので、自院の収入に合わせたコスト管理が必要となります。
コスト管理とあわせて自院の来院エリア、患者層を再度分析します。
感染対策状況など患者の反応を含めて確認することがポイントとなります。
(3)AIの活用による業務効率化
AI問診サービス等を提供している会社(Ubie株式会社など)のシステムを利用して業務の効率化と人と人との接触機会を最小限に抑えることができます。
2.受診しやすい環境づくりと差別化
(1)薬の処方日数切れの患者に受診を促す
コロナ禍において、新規患者が大きく減少する中、医療機関によってはかかりつけ患者は減少していない医療機関があります。
その背景には、かかりつけ患者に対する配慮をかかさず、来院を促している医療機関の努力があります。
あるクリニックでは、予約日に来院しなかった、あるいは処方日数が切れる日に来院しなかった患者全員に翌日、医院の看護師が患者に電話で連絡しています。
クリニックから連絡のあった患者の多くが、再診するためクリニックに足を運んでいます。
かかりつけ医は、かかりつけ患者に対する責任感を強く持ち、薬が切れても来院しなかった患者を気にかけて対応することで、信頼関係の構築と受診促進を実現しています。
(2)受診が不安な患者に配慮した多様な受診形態
来院することに対して不安を感じている患者に対して、複数の診療方法を設けているクリニックがあります。
例えば、患者の希望に応じて、クリニックの脇に特設診療スペースを設け、そこで受診できる仕組みや、オンライン診療や電話診療を選択できるといった選択肢を提供することです。
(3)自由診療など新たな収入源の確保
新型コロナの影響により、感染症に対する意識が高まっている中、地域によってはワクチンの公的扶助が受けられるところもあり、肺炎球菌ワクチンや風疹抗体検査など、自由診療が新たな収入源となる可能性があります。
その他、看護師による患者に寄り添うきめ細やかな問診により、患者満足度の向上と医師業務の効率化を図ることができます。
Withコロナ時代に合わせた工夫と患者満足度向上が今後の経営ポイントといえます。
■参考資料
厚生労働省:最近の医療費の動向[概算医療費] 令和2年度8月号 中央社会保険医療協議会 総会資料 医療機関・薬局等における感染拡大防止等の支援」について 令和3年度予算案の概要
さとう埼玉リウマチクリニックホームページ
AI問診ユビーホームページ
PHASE3 December 2020 特集「ウィズコロナ時代の診療体制」