在宅医療需要拡大に対応する在宅医療参入促進策の概要

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在宅医療需要拡大に対応する在宅医療参入促進策の概要

  1. 在宅医療需要の拡大と外来医療需要の減少
  2. 在宅医療参入促進のインセンティブ
  3. 医療連携体制の強化と看取りの充実
  4. オンライン診療と在宅医療需要への対応


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1.在宅医療需要の拡大と外来医療需要の減少

1.在宅医療の需要拡大

(1)在宅医療需要拡大の見込み

厚生労働省「第11回医療計画の見直し等に関する検討会」で公開された資料よると、高齢化の進展や療養病床の医療区分1の入院患者の70%と医療資源投入量の低い入院患者等を介護施設や在宅医療等に移行させることにより在宅医療の需要は大幅に増える見込みとなっています。

在宅医療の需要拡大の見込み

(2)整備が進まない在宅医療提供体制

24時間対応体制の在宅医療を提供する医療機関(在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院)の数は、在宅療養支援診療所(在支診)は横ばい、在宅療養支援病院については微増していますが、在宅医療を担う医療機関は訪問診療の需要の伸びと比較すると増えていないのが現状です。
政府は、今後需要の拡大が予想される在宅医療に対し、診療報酬を上げて対応をしています。

在宅療養支援診療所数の推移、在宅療養支援病院数の推移

2.減少する外来医療需要

2015年3月に公表された経済産業省の「将来の地域医療における保険者と企業の在り方に関する研究会報告書」で、外来医療需要は2025年にピークを迎え、その後減少に転ずるという見通しが示されました。
一方、入院医療需要は2040年がピークで、その後はおおむね横ばいで推移する見込みです。

入院医療需要と外来医療需要の推移

入院医療需要は加齢に伴い増加し、外来医療需要は若年層の医療需要の割合が大きく、80歳を超えると減少に転じる傾向があります。
そのため、団塊の世代が後期高齢者となる2025年にかけて、外来・入院医療需要の双方が増加していき、その中でも入院に関する医療需要の伸びが大きくなることは既に認識されており、これに向けた医療提供体制の整備が進められているところです。
2025年以降は、高齢化が引き続き進行する中で、入院医療需要はさらに増加し、外来医療需要は、若年層人口の減少に加え、団塊の世代が80歳以上になることにより減少に転じることが予想されます。
こうした入院と外来の医療需要の推計から、将来的に多くの地域において、診療所をはじめとする外来医療需要減少への対応のため、医療資源を在宅による訪問診療・看護等に活用することで対応していくことが考えられます。

2.在宅医療参入促進のインセンティブ

1.質の高い在宅医療の確保に向けた取り組み

政府としては、在宅医療のニーズの増大に備え診療報酬の見直しを行い、在宅医療の報酬を高くしてその担い手を増やす方針を明らかにしています。
今次改定では、外来医療や入院医療において、在宅医療の提供実績を要件とした報酬が設定されたことが重要なポイントのひとつとなりました。

質の高い在宅医療の確保のための診療報酬改定

2.診療報酬改定で在宅医療の効率化を図る

在宅医療の提供を促すため、在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の見直しや包括的支援加算の新設等の評価が改められました。
評価の引き下げにも見えますが、点数にメリハリをつけ、状態の安定している患者への報酬を抑え、通院が困難な患者等に対して報酬を厚くしています。

宅時医学総合管理料の診療報酬改定前後(数字は診療報酬の点数)、在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の報酬体系見直しのポイント

3.地域包括診療料等、報酬加算に訪問診療等を要件化

初・再診料について、在宅医療を提供している場合に加算される報酬の見直しが行われています。
具体的には、「地域包括診療料1」と再診料に加算される「地域包括診療料加算1」の算定要件に訪問診療実績が問われ、新設された初診料の加算である「機能強化加算」は地域包括診療料等の届出をした医療機関が対象となりました。

「地域包括診療料1」と「地域包括診療料加算1」の見直し(在宅医療提供実績部分)、機能強化加算の施設基準(一部抜粋)

4.入院医療は在宅医療提供で報酬増加

入院医療では、地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料1及び3の算定要件に在宅医療等の提供等を含む「地域包括ケアに関する実績部分」として以下の内容が盛り込まれ、また200床未満の病院で要件を満たす場合は、改定前より180点高い入院料を算定することが可能となり、かなり手厚い評価となりました。

地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料の評価

3.医療連携体制の強化と看取りの充実

1.専門外の診療を他医療機関がサポート

(1)医療機関連携を報酬上で評価

在宅医療では、在宅患者訪問診療料の見直しが行われ、今までの「1人の患者に対して1つの保険医療機関の保険医の指導管理の下に継続的に行われる訪問診療」(1訪問診療1医療機関の原則)体制から、依頼を受けて他医療機関が訪問診療を行う場合も算定が可能となり、複数医師の連携による在宅医療が可能となりました。

在宅患者訪問診療料(Ⅰ)、在宅患者訪問診療料(Ⅰ)の2の主な算定要件

(2)医療機関連携の強化

今回の改定では、一人の患者を異なる専門分野の医療機関が連携する体制への評価が導入されました。
例えば、内科の医師が診ていた患者に皮膚疾患や精神疾患などで専門的な治療や処置が必要となった時に依頼することが考えられます。
こうした取り組みは専門の医師が患者を診ることで医療提供の質を上げるだけではなく、連携によるインセンティブでの強化によって、新たな医療機関が在宅医療に算入しやすい環境を作る目的もあります。

2.診療所の在宅医療連携を評価

24時間往診体制や緊急時のための病床確保などを要件とする「在宅療養支援診療所」(在支診)が機能する一方、要件を満たせない医療機関についても在宅医療を提供している実態があります。
こうした背景の下、今次改定では在支診以外の診療所がかかりつけの患者に対し、他の医療機関との連携等により24時間の往診体制と連絡体制を構築した場合に「継続診療加算」として新たに216点(月に1回)算定することが可能となりました。
この結果、在支診以外の診療所にとっては連携により自院の負担が減るだけではなく、報酬の上でも手厚い評価となりました。

継続診療加算の算定要件

3.在宅等での見取りの推進

(1)患者主体の看取りの推進

国は患者が住み慣れた自宅や介護施設など、望む場所において看取りを行うことができるよう本人の意思を尊重したサービスの提供を推進しています。
また、今次改定では「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の普及と理解を促す評価が導入されました。
高齢化の進展により、在宅医療でも本人が望む人生最後の場所を考慮し、患者主体の医療を心がけていくことが必要とされます。

「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」一部抜粋

(2)在宅ターミナルケア加算の充実や介護老人福祉施設における看取りを評価

訪問診療を行っていた患者が、在宅で最期を迎えた場合に加算される「在宅ターミナルケア加算」について改定前より一律500点プラスとなっています。
また、算定要件の一つに「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」等の内容を踏まえ、患者本人及びその家族等と話し合いを行い、患者本人及びその家族等の意思決定を基本に他の関係者との連携の上対応することが盛り込まれています。
さらに、介護老人福祉施設における看取りについては、介護老人福祉施設で看取り介護加算を算定している場合においても、医療機関では在宅患者訪問診療料、在宅ターミナルケア加算等が算定できることとなりました。
こうしたターミナルケアが必要な患者に対しては、患者・家族・医療・介護等が一体となってケアしていくという意図があります。

4.オンライン診療と在宅医療需要への対応

1.オンライン診療の実用化へ

今改定で初めてオンライン診療が診療報酬として算定できるようになりました。
オンライン診療とは、「遠隔医療のうち医師と患者間において、情報通信機器を通して患者の診察及び診断を行い診断結果を伝達する等の診療行為をリアルタイムで行う行為のこと」です。
具体的には、患者は自宅のスマートフォンのビデオ通話機能等を使って医師が患者に行う診療などが例として挙げられます。
在宅医療に関しては、オンライン診療料とオンライン在宅管理料が算定可能です。
また、在宅時医学総合管理料の見直しにより状態の安定した患者についての訪問は月2回から1回となるよう評価面で誘導しており、オンライン診療の活用によって、こうした診療を補うこととしました。

オンライン診療料、在宅時医学総合管理料 オンライン在宅管理料

2.在宅医療需要への対応

(1)第7次医療計画における在宅医療の充実に向けた取り組み

在宅医療の提供体制については都道府県の課題となっています。2018年4月からスタートしている第7次医療計画の策定については、原則として訪問診療を実施している診療所・病院数に関する数値目標と、その達成に向けた施策を記載することとなっています。
また、退院支援、急変時の対応、看取り等についても数値目標と、その達成に向けた施策を可能な限り記載することが各都道府県に求められ、達成に向けた取り組みが必要となっています。

医療計画における在宅医療の数値目標と施策

(2)在宅医療の充実に向けて都道府県が取り組むべき事項

2018年11月、厚生労働省の「第7回在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」が開催され、都道府県が取り組んでいくべき事項の案が示されています。
その中では、都道府県単位・二次医療圏単位のデータのみでは、医療関係者の当事者意識を喚起できないことや、個別の地域の対応の議論につながらない等の理由から、市町村単位等のデータを用いて把握する必要性から、在宅医療の取組状況の見える化を促しています。
また、在宅医療の人材確保育成については医療従事者への普及・啓発事業やスキルアップ研修の支援等を行うこと、在宅医療や介護に関する地域住民への普及・啓発、人生の最終段階における医療・ケアについての意思決定支援等が重要であるとしています。
さらに、在宅医療に関する各種ルールの整備として、以下のことを示しています。

医療計画における在宅医療の数値目標と施策

(3)増える在宅医療の需要には社会全体が協力して対応する

医療計画では、在宅医療の提供体制に求められる医療機能として退院支援、日常の療養支援、急変時の対応、看取りの4つを確保することとしています。
また、在宅医療は増大する慢性期の医療ニーズや、地域医療構想における追加的需要の受け皿としての役割を期待されており、その提供体制の整備を各都道府県と国が協力して行うこととされています。
さらに、診療報酬改定により在宅医療に関連する報酬は手厚くなっており、医療施策において重要な位置付けであることは変わりありません。
今後も拡大する在宅医療需要には、社会全体がこの問題を理解し、限られた医療資源の中で各専門分野が協力して対応していくことが求められています。

 

■参考文献
厚生労働省「医療計画の見直し等に関する検討会」
     「主な施設基準の届出状況等」
     「平成30年度診療報酬改定について」
     「社会保障審議会医療部会 平成30年度診療報酬改定の概要」
     「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」
     「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」
経済産業省「将来の地域医療における保険者と企業の在り方に関する研究会報告書」
日経ヘルスケア2018年9月号

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