- 次期診療報酬改定に向けた検討事項
- かかりつけ医機能強化と医療機関連携を推進
- 需要増加を見越した在宅医療・訪問看護への対応
- 地域医療構想の実現に向けた入院医療と今後の展望
1.次期診療報酬改定に向けた検討事項
1.2022年診療報酬改定の方向性
次期診療報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会総会(以下、中医協総会)において2021年7月より議論が進められています。
2022年診療報酬改定は、これまで進めてきた医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進、医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進などを踏襲しつつ、コロナ・感染症対応を意識した改定内容となる見通しです。
また、2022年度厚生労働省概算要求における重点要求(ポイント)を見ると、「新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえた柔軟で強靱な保健・医療・介護の構築」を掲げていることから、コロナ対応を意識しつつ地域包括ケアシステムを推進していきたいという政府の考えが読み取れます。
2.コロナ・感染症への対応と算定状況
政府はこれまで新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の特例的な対応として、一時的に報酬額を引き上げるなどして対応してきました。
クリニックに関する診療報酬の算定状況を見ると、院内トリアージ実施料(入院+外来)の算定回数については、前年同月と比較し2~5倍の増加となりました。
次に、電話や情報通信機器を用いた診療を実施した場合の再診料(電話等再診料)の算定状況やオンライン診療料の算定状況を見ると、コロナ禍における規制緩和によって令和2年度は大幅増となりました。
今後、こうした特例的な評価についてコロナ終息後はどのようにしていくのかが議論されています。
また、感染症対策を行う医療機関を増やすために感染防止対策加算の要件についても検討される見通しです。
3.新興感染症等に対応できる医療提供体制の構築に向けた取組
第204回通常国会において成立した改正医療法において、「新興感染症等の感染拡大時の医療」を、2024年度から開始する都道府県の第8次医療計画における5疾病5事業の6事業目として位置づけました。
各都道府県においては、感染拡大に対応可能な医療機関・病床等の確保、専門人材の確保、院内感染対策の徹底等についてあらかじめ準備をしておくことが求められています。
こうした第8次医療計画に向けた検討状況も踏まえつつ、新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症等に対応できる医療提供体制の構築に向けた取組についてどのように考えていくか、また診療報酬改定で対応するのかなど議論されています。
実績として、専門性の高い看護師を複数名配置している医療機関は、クラスターが発生した他の医療機関や施設等に対して当該職員を派遣し、感染症対策に係る支援を実施していたことを踏まえて、専門性の高い看護師を複数名配置していることの重要性を念頭に検討が進められます。
2.かかりつけ医機能強化と医療機関連携を推進
1.外来医療をとりまく環境変化とかかりつけ医機能・医療機関連携強化の推進
日本の人口は減少局面を迎え、2065年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は38%台の水準になると推計されています。
一方、64歳以下の人口・人口割合は減少が見込まれ、働き手の不足、少子化などが懸念されています。
健康寿命及び平均寿命は延伸している状況で、今後も更なる患者の高齢化が予想されるとともに、医療費の伸びが懸念されます。
15歳未満の外来患者数・人口の推移を見ると、15歳未満の人口は減少しているにもかかわらず、15歳未満の患者数はさほど減少しておらず、今後も小児医療等の需要は一定数見込まれる状況です。
こうした外来医療を取り巻く環境の変化に対応すべく、かかりつけ医は、予防や健康づくり、治療、専門医療機関への紹介、終末期医療への対応も含め、地域の医療・保健福祉の中心となる必要があります。
かかりつけ医のあり方を今一度整理するとともに、患者に対するメリットを明確化した上で、それに見合った評価をするべきという意見や、かかりつけ医については、一定の研修を受けていること等の条件を明確にし、医療の質向上と患者への理解を深めるといった意見が出されています。
また、かかりつけ医との連携を評価する診療情報提供料(Ⅲ)について、2020年度改定で新設されましたが、算定可能な医療機関が限定されていること、回数が3月に1回とされていることなどが普及を妨げている可能性があり、2022年度改定では見直され算定しやすくなることが考えられます。
2.オンライン診療報酬の行方
オンライン診療については、現在「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」でオンライン診療指針の見直しに向けて議論が進められています。
中医協では、この見直しが行われた後、具体的な要件設定・点数設定の議論が行われていきます。
また、2020年度改定では、遠隔地等において情報通信機器を用いた遠隔診療の評価「遠隔連携診療料」が新設されており、2022年度改定ではその拡大も注目されます。
3.需要増加を見越した在宅医療・訪問看護への対応
1.在宅医療をとりまく環境変化と在宅医療の需要・改定論点
現在、日本の年間死亡数は増加傾向にあり、2040年ころまでは増加が見込まれています。
最も年間死亡数の多いと予測される2040年と2020年現在を比較すると、約30万人/年の差が推計されています。
次に、人生の最期をむかえるとき生活したい場所と死亡の場所の推移を見ると、国民の約3割は、「最期をむかえるときに生活したい場所」について、「自宅」を希望している一方で、病院で最期をむかえる割合が多いことがわかります。
医療費問題、医療従事者減少の見込み、死亡者数の増加見込み、人生の最期を自宅等で過ごしたいという人の割合の多さ等を考慮し、国の政策として在宅での看取りや在宅医療の整備が進められています。
こうした背景や高齢化の進展等から、在宅医療の需要・介護保険利用者数の更なる増加が見込まれ、在宅医療を担う医療機関と市町村・医師会との連携、医療・介護の切れ目のない提供体制の構築等を推進し、質の高い在宅医療を十分な量提供できるようにするため、診療報酬の在り方について検討されています。
診療報酬上の評価では、24 時間の往診体制・連絡体制を構築した場合の評価として「継続診療加算」がありますが、あまり普及していない状況であり、要件の緩和や報酬額の見直しなどが議論されています。
2.コロナ禍においても大幅な需要増であった訪問看護の報酬を再度検討
新型コロナウイルスの影響で全体の医療費がマイナスの状況でも訪問看護は二桁の伸び率が見られたことから、患者の状態に応じた適切な職種、頻度、内容で訪問看護が行われているのか検証が必要との意見が出ていました。
また、理学療法士による算定が増えている原因、ケアの内容について分析・検討すべきとの意見もあります。
一方、医療ニーズの高い訪問看護需要が増えていることから、特定行為研修修了者等の専門性の高い看護師が在宅で活躍することで、かかりつけ医と連携しやすくなるという観点から、専門性の高い看護師による訪問看護の報酬上の評価が広がる可能性があります。
4.地域医療構想の実現に向けた入院医療と今後の展望
1.地域医療構想の実現に向けた入院医療の改定論点
(1)入院医療全般と急性期医療の今後について
現在、人口の減少・高齢化に伴う医療ニーズの質・量の変化や労働力人口の減少を見据え、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するために医療機関の機能分化・連携を進めています。
都道府県は、各地域における2025年の医療需要と病床の必要量について、医療機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)ごとに推計し、「地域医療構想」として策定しています。
2022年度改定においても新型コロナ禍を踏まえて、より一層、地域医療構想を推進する流れとなりそうです。
急性期医療については、新型コロナの影響で状況が一変したことから、2022年度改定において医療現場に大きな影響を与えるマイナスの改定はないものと考えられます。
(2)回復期入院医療について
地域包括ケア病棟入院料・管理料等について、前回改定において、診療実績に係る基準が引き上げられた一方で、新型コロナの影響により、経過措置が延長されている状況です。
こうした状況下では改定の影響を検証することが難しく、時間が必要だという意見もあり、大幅な改定はないものと考えられます。
回復期リハビリテーション病棟入院料については、現在、回復期リハビリテーション病棟入院料1のみに管理栄養士の配置が必置となり、適切な栄養管理がなされている状況です。
一方、入院料2~4においては配置が必須ではないものの、管理栄養士を配置し、栄養管理を実施している場合もあることから、入院料2~4についても評価すべきという意見が出ています。
(3)慢性期入院医療について
療養病棟の経過措置については、減少傾向にあることから2022年度末で終了すべきという意見が出ていますが、患者に不利益が及ばないよう慎重に対応する必要があり、経過措置の医療機関数などについて経過を見て判断するものと思われます。
2.2022年度診療報酬改定に向けた今後の展望
2022年度改定に向けて、感染症対応への評価が焦点になっています。
基本診療料への包括化についても議論されていますが、感染症対策が進んでいる医療機関とそうではない医療機関では獲得できる報酬が変わってくる可能性が考えられます。
クリニックについては在宅医療への参加が重要になってくることが予想され、他医療機関と連携を取りながら、伸びる在宅医療需要に対応していく体制作りが必要です。
訪問看護については、コロナ禍においても大幅に医療費が伸びていることから、今後検証が行われ、調整が入る可能性があります。
対応策としては、今後も医療ニーズが高い在宅患者の増加が見込まれることから、特定行為研修修了者等の専門性の高い看護師を配備し、より専門性、質の高い訪問看護を提供していくことです。
また、専門性の高い訪問看護の提供は、政府の政策に沿う形となるので、2022年度以降の改定を見据えても準備しておきたい部分です。
入院医療については、コロナ禍において前回改定時の効果の検証が難しい状況です。
しかし、地域医療構想を推進していく考え方に変わりはないので、医療機関間の連携や機能分化が進むよう政策誘導していくことが考えられます。
■参考資料
厚生労働省:2022年度予算概算要求の概要
中医協 総会資料
2020年度医療費の動向