コロナ禍における受診動向の変化に対応 患者視点で考えるクリニック経営戦略

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コロナ禍における受診動向の変化に対応 患者視点で考えるクリニック経営戦略

  1. 受診動向の変化と医療機関の経営への影響
  2. 受診控えの理由とオンライン診療活用の実態
  3. 患者視点で考える経営戦略
  4. オンライン診療導入事例


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1.受診動向の変化と医療機関の経営への影響

1.新型コロナウイルスによる受診動向の変化と医療機関への影響

新型コロナウイルスの感染は、2020年1月15日に国内で最初の感染者が確認されて以降、急速に拡大しました。
政府は、感染拡大を防止するため、2020年4月7日には7都府県を対象に緊急事態宣言が発出(16日には対象が全国に拡大)され、外出自粛要請と飲食店等に対する休業要請が行われました。
ウイルスの特性がよくわからなかった最初の感染拡大期においては、このように人の動きを止め、人と人との接触を極力減らす対策がとられました。
2021年についても緊急事態宣言が一部の地域に発出され、クリニック経営に大きな影響を与えています。
医科について、2020年4月から2021年1月のレセプト件数対前年同月比による患者数の変化を見てみると、外来の方が減少幅が大きく、より影響を受けていることがわかります。
どちらも6月以降は減少幅が小さくなっていますが、外来の方が回復は鈍いという状況でした。

入院・外来別レセプト件数の前年同月比

次に、医科診療所について診療科別に見てみると、2020年4月、5月には、いずれの診療科も減少している中、特に小児科、耳鼻咽喉科は5月に4割を超える落ち込みとなりました。
いずれの診療科も6月以降は減少幅が縮小傾向でしたが、小児科・耳鼻咽喉科といった一部の診療科では低い水準が続きました。

医科診療所の診療科別レセプト件数の前年同月比

外来医療費について、医科診療所の主たる診療科別の状況を見てみると、レセプト件数と同様に、4月~5月にかけていずれの診療科も減少し、特に小児科と耳鼻咽喉科では4割程度の減少と大きなマイナスでした。
その後、減少幅は小さくなりましたが、11月にはいずれの診療科もマイナスで、小児科や耳鼻咽喉科は2割程度の大きな減少となりました。

医療費の動向 医科診療所(外来)の診療科別の状況 伸び率

2.患者の受診動向

患者の受診動向をこれまでの結果から考察すると、最初の感染拡大から一旦収束した後再び感染が拡大した2020年末頃までの患者の受診動向等については、以下のような変化が生じていたことが推察されます。

患者の受診動向

2021年以降の国内の感染状況については、東京オリンピックが開催された中、7月・8月と新型コロナウイルスの感染は再び拡大してきています。
更なる感染拡大が患者の受診動向に影響を及ぼす可能性があり、患者視点に立ったクリニック経営がより重要性を増してきているといえます。

2.受診控えの理由とオンライン診療活用の実態

1.医療機関への受診控えの理由

新型コロナ感染拡大により、持病を有している者の通院頻度に変化がみられました。

持病を有している者の新型コロナウイルス感染拡大前後の通院頻度の変化と通院抑制理由

持病を有している者の通院頻度について見ると、18.3%が通院頻度を減らし、6.5%が通院自体を取りやめています。
また、通院を抑制した理由としては、「医療機関で新型コロナウイルスに感染するかもしれないと思ったから」が69.2%と最多であり、「他の人に新型コロナウイルスを感染させるかもしれないと思ったから」との回答も19.1%を占めました。
他にも外出自体の自粛に伴って通院を抑制したとの回答も見られるなど、患者の受診動向に、新型コロナウイルス感染症が強い影響を与えていたことがわかります。

2.オンライン診療活用の実態

こうした新型コロナウイルス感染症の影響もあり、政府は必要な医療機関の受診を確保するために、オンライン診療、オンライン服薬指導の特例を実施しました。
オンライン診療については、これまで、対面による診察を経た上で行うことを原則としてきましたが、新型コロナウイルス感染拡大により医療機関の受診が困難となったこと等を踏まえ、2020年2月以降、電話や情報通信機器を用いた診療等が可能な場合を拡大し、4月には、時限的・特例的な取扱いとして、医師が医学的に可能であると判断した範囲において、初診から電話やオンラインにより診断や処方を行うことが可能となりました。
その結果、オンライン診療等を実施可能とする医療機関が全体の15%程度となっています。

オンライン診療等を実施できるとして登録した医療機関数、初診からの電話及びオンライン診療の件数

服薬指導についても、薬剤師が、患者や服薬状況等に関する情報を得た上で、電話や情報通信機器を用いて服薬指導等を適切に行うことが可能と判断した場合には、医療機関の診察が対面であった場合も含めて、電話や情報通信機器による服薬指導等を行うことが可能とされました。
診療報酬については、電話やオンラインによる初診について初診料として214点が算定できるようになり、また、定期的に対面診療を受けていた慢性疾患を抱える患者に対し電話やオンラインによる診療を行った場合の管理料も100点から147点に引き上げられました。
これらの措置は、平時ではない状況を踏まえ、新型コロナウイルス感染症が収束するまでの時限的なものとして導入されましたが、現在、その恒久化に向けて、今般の時限的措置の検証結果を踏まえつつ、安全性・信頼性を確保する観点から、初診でオンライン診療を実施する際のルールについて検討が進められています。

3.患者視点で考える経営戦略

1.新型コロナウイルス感染症の影響下で求められること

(1)診療科や患者層、立地等で受ける影響に違いがある

新型コロナウイルス感染症拡大による影響は、診療科や来院する患者層で異なります。
例えば、前述したとおり、小児科・耳鼻咽喉科では大きく影響が出ている一方、皮膚科や産婦人科などは比較的影響が少なかったといえます。

新型コロナウイルス感染症拡大による受ける影響の違い

(2)患者は受診しなければならない理由を抱えている

受診を続ける必要のある患者の多くは生活習慣病の患者です。定期的に受診し、病状を確認して薬を処方する必要があります。
一部の患者はオンライン診療に移行していますが、多くの患者は通院を続けるという選択をしています。
こうした患者を今後も確保していくためにも感染対策は勿論のこと、患者視点に立った治療や対応を心がけていかなければなりません。

(3)オンライン診療に取り組み、慣れておく必要がある

オンライン診療は、既に一部が診療報酬に取り入れられている一方で、診療の単価が低いことや対面診療より質が低下することなどから採用していないクリニックもあります。
現時点で考えると、オンライン診療は医療機関にとってメリットがあまり多くないといえるかもしれません。
しかし、患者視点で考えると、自宅等からオンライン診療を受けて薬が郵送で届くという使い勝手の良さ、便利さがあります。
今後、オンライン診療が普及していくことが見込まれる中で、乗り遅れず自院で対応できる準備をしておく必要があります。

2.今後のクリニック経営の考え方と対応策

(1)国の政策や患者ニーズの変化を捉える

新型コロナウイルス感染症拡大により国の財政状況は悪化しています。
今後、感染が収束してきたら医療費の更なる削減、増税も考えられます。
中でも医療費については、患者への直接的な利益が少ない部分から削減されていく可能性があります。
また、感染症予防が習慣化されてきている中で、従来型のインフルエンザのような感染症が減少していき、需要が減少していくと考えられます。
生活習慣病の患者自体は減少することはないと思いますが、患者視点で受診する価値が見出せなかった場合、オンライン診療に切り替えてくる患者が増えてくると予想されます。
さらに、世の中がオンライン診療で十分であると認識された場合、対面受診する患者が減少し、オンライン診療患者が増えることで患者単価が下がる可能性もあります。
よって、オンライン診療への対応は慣れておくことと、患者視点に立った診療が不可欠になってきているということがいえます。

(2)かかりつけ医で安定収入を確保する

固定患者を獲得していくためにはかかりつけ医になり、安定した収入を確保していくことが考えられます。
また、外来一本に頼っていくよりも在宅診療も視野に入れておくことも重要です。
今後、新型コロナウイルス感染症拡大のようなことが起きた場合、経験上、生活習慣病の患者や在宅患者は変わらず一定の需要が見込まれるので、リスクヘッジとしても在宅医療は考えておきたい部分です。

固定患者獲得の流れ

3.コロナ禍における接遇ポイント

新型コロナウイルス感染症が蔓延する前までは患者と近い距離で日常会話を交えながら対話していましたが、コロナ禍では、ソーシャルディスタンスを意識し、一定の距離を置いて話すことが一般的となりました。あるいは、なるべく会話を避けて対応することもあります。
患者視点で見ると、マスクで対応する職員の表情が見えず不安に感じてしまうこともあります。
また、職員目線においては、患者に伝えたいことが伝わったか表情で確認することが難しくなりました。
こうした状況下では、患者への説明が正確に伝わっているか慎重に確認することが必要になります。
以下にコロナ禍における接遇ポイントをまとめました。

コロナ禍における接遇ポイント

対面以外でも電話対応も重要なポイントとなります。
対面での会話は減少していますが、電話対応は変わらず必要となりますので、患者視点に立った対応が求められます。

電話対応のポイント

4.オンライン診療導入事例

オンライン診療を採用していないクリニックについて、導入の検討をするための参考として事例を紹介します。
総務省の遠隔医療モデル参考書-オンライン診療版-ではオンライン診療の導入事例が記載されています。
今回はこの事例から一部抜粋して紹介いたします。

事例1.在宅患者を対象としたオンライン診療の取組み

Aクリニックは在宅医療を中心とした医療機関であり、通院困難な患者のご自宅を訪問して診療し、地域の医療機関と情報共有・連携を行い、24時間365日体制で在宅医療を支えています。
在宅患者に対する医療提供体制の強化の一環として、対面診療の補完のためにオンライン診療を活用しています。

取組の概要図

Aクリニックでは、在宅患者に対して、対面診療を補完する目的でオンライン診療を実施しています。
対面診療時に診療計画を策定し、訪問計画の一部にオンライン診療を組み込むことで、医師の訪問負担を軽減しつつ、在宅患者さんの診療頻度を高めています。

 

使用しているシステム、オンライン診療を活用することによる効果

一方、実施上の課題としては、高齢の患者が多く、必要な端末を持っていない・操作ができない等が挙げられます。
これらの課題に対しては、オンライン診療システム提供事業者による端末の設定・貸し出しサポート等、初期の導入ハードルを下げてスムーズにオンライン診療を開始するための取り組みも行っており、初めは操作に戸惑っていた患者が回数を重ねるごとに一人で操作できる範囲が増える等、サポートによる一定の効果も現れ始めています。

事例2.訪問看護師がサポートする地方部でのオンライン診療の取組み

Bクリニックでは今後増加が見込まれる在宅医療において、地域医療体制の格差解消、社会問題になっている交通弱者などの課題を解決するための手段の1つとして、オンライン診療は有効な手段となる可能性が高いと考えました。
Bクリニックのある地域では、地域の高齢世帯の増加及びこれに伴う免許自主返納により、通院困難な方が増加していました。
こうした通院困難な高齢者への診療方法として、テレビ電話を活用した診察を導入しました。
また、対象は高齢者であり、タブレット端末を単独で操作することは難しいことが想定されました。
そこで、訪問看護などのサービスを提供するNPO法人「遠隔医療推進ネットワーク」と協力し、看護師を患者宅に派遣し、端末の操作や医師の診察を補助する体制を構築しました。

使用しているシステム、取組のイメージ

オンライン診療を実施する際には、看護師がタブレットのiPadを患者宅へ持参し、端末の立ち上げや医師へ準備完了の連絡を行います。
アプリのFaceTimeを用いてテレビ電話で診察を行っています。iPadで通信できない場合も考え、スマートフォンをバックアップ用の通信機として持参しています。
看護師がタブレット端末を操作することにより、医師の要求に従って適切な身体の部位を写すことができます。
また、看護師が持参している医療機器により、血圧や脈拍、経皮的動脈酸素飽和度の測定、遠隔での呼吸音の聴取、心電図検査も可能です。
必要に応じて医師の指示により検査や処置もオンライン診療時に実施することが可能です。

所感、成果、課題等

 

■参考資料
厚生労働省:令和3年度 厚生労働白書
総務省:遠隔医療モデル参考書-オンライン診療版-
MMPG:CLINIC BAMBOO:2021.6、2021.7

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