ワークライフバランスの実現を目指す社員の採用や定着に繋がる福利厚生改革術

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ワークライフバランスの実現を目指す社員の採用や定着に繋がる福利厚生改革術

  1. ワークライフバランスの実現と人材の採用・定着
  2. 「働きやすさ」を重視した福利厚生の見直し
  3. 事務負担軽減のための福利厚生アウトソーシング
  4. 福利厚生改善の実践的取り組み事例

 


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目次

1.ワークライフバランスの実現と人材の採用・定着

社員の満足度やモチベーションが高い企業においては、共通する特長がいくつかありますが、そのうちのひとつに「充実した福利厚生制度」の存在とその利活用が挙げられます。
利活用しやすい福利厚生制度の導入や既存制度の充実・強化、風土の醸成により、社員のモチベーションを高めることが業務の効率化や社員の定着や高業績の実現に繋がるといえます。
しかしながら、多くの中小企業がその重要性や必要性を理解はしていても、どんな制度があるのか、また効果的な導入や充実・強化の方策については、ノウハウが不足していると考えられます。
今回は、ワークライフバランスの実現や働き方改革への対応、そして人材の確保・定着といった、現在の日本の企業を取り巻く環境の変化を背景として、充実した福利厚生制度の実現がその回答のひとつとなり得ることを示し、提言します。

1.ワークライフバランスの実現による企業側のメリット

近年、福利厚生制度の充実強化に関心を持つ中小企業が増加傾向にあります。
特に注目されているのは、法律で定められている健康保険や介護保険・厚生年金保険・雇用保険などといったものよりも、法定外の独自の福利厚生制度の新設や充実強化です。
こうした動きの背景には、社員やこれから社会に出ようとする学生などの企業や労働に対する価値観が、近年大きく変化してきていることが挙げられます。
自分が働きたい企業に対するものさしが、企業の規模やブランド、賃金などから、経営の考え方や進め方、更にいうと「人を資本として大切にしているか」否かに変遷してきていると考えられます。

現在実施している福利厚生制度と新たに実施したい福利厚生制度

近年の福利厚生制度の新たな導入や既存制度の充実強化に関するこれまでの動きには、下記の2点において違いがあります。

現在実施している福利厚生制度と新たに実施したい福利厚生制度

《1》対象は「社員個人」から「社員だけでなくその家族」へ

近年の福利厚生制度は、その対象を「社員個人」だけでなく、「その社員の家族」をも対象にしたものに変わってきています。
新たに導入が進んでいるメニューとしては、育児・介護・ライフサポート、健康増進・疾病予防、余暇・リラクゼーションの充実など、社員の家族も対象としたものが多くなっている傾向にあります。
一方、住宅補助や社員食堂の会社補助、保養施設利用時の宿泊補助などは、実態として一部の社員しか対象とならないなどの理由から、廃止・縮小されるケースも増えています。

《2》社員は「企業の一員」から「その社員の家族の一員」へ

また、社員本人やその家族のメモリアルデーやその結びつきや関係性を意識した制度が導入されるなど、「社員が家族と過ごす時間」を大事にすることを後押しするようなメニューが増えていることからも、企業側も社員に対する捉え方が「企業の一員」から「(社員の)家族の一員」へと変わってきていることがわかります。

2.働き方改革への対応としての福利厚生への取組み

「働き方改革」によって労働者のライフスタイルは大きな影響を受けることになりますが、その一方で、事業主においては、社員の生活や健康を守りつつも、自社の生産性の向上や優秀な人材の確保という課題に対しても同時に取り組まなければなりません。
労働人口が減少し続けている日本の現状において、生産性の向上は非常に重要なテーマです。
「働き方改革」においても生産性の向上が前提となっており、この観点から職場における福利厚生の充実は必須の課題のひとつといえるでしょう。
特に「働き方改革」の中で提言されているテーマのうち、「労働時間の是正」は福利厚生の充実とも密接に結びつくテーマです。

長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等

残業時間の削減や勤務間インターバル制度の普及促進などを通じて、社員の健康管理と、ワークライフバランスの実現、さらには「社員とその家族の時間」「余暇の過ごし方」「健康管理」といった観点からも、福利厚生制度の充実を図ることは、働き方改革への対応に有効といえるでしょう。

3.人材の採用・定着への影響

少子高齢化が進み労働力人口が減少の一途にある日本社会において、社員の確保はどの企業にとっても喫緊の課題です。
福利厚生制度の充実がもたらす効果により、社員の採用や定着にプラスの影響があると考えられます。
下表は厚生労働省による就労条件総合調査(2016年)により、常用労働者一人当たりに対する福利厚生費の月額をまとめたものです。
目安として、社員1,000人未満の企業規模においては、社員一人当たりの月額福利厚生費は約4,000円~6,000円程度となっています。
賃金月額などと同様に、こうした「企業が社員のためにかける費用」の水準も、人材の確保に影響する一因ととらえることができます。

中小企業の福利厚生費

2.「働きやすさ」を重視した福利厚生の見直し

1.目的の変遷:社員満足から生産性向上へ

福利厚生は、社会・経済・雇用環境の変化にあわせて、その目的や手法も変化してきています。
バブル崩壊以降の経済変化とそれに伴う福利厚生の実施目的等の変化については、次のグラフの通り分野ごとに変遷しています。

分野ごとの福利厚生費の推移

社会環境では、90年代初頭から出生率の低下と少子化が社会問題として認識され始めましたが、少子化対策は2003年以降に本格化しました。
2003年の景気回復以降は、団塊世代の定年退職もあり、人手不足が深刻化してきた状況の中で、社員のワークライフバランスや両立支援の推進、メンタル不全を含む疾病予防等、働きやすい職場にする、社員の保護などの法制が相次いで施行されました。
こうした社会・経済・雇用環境の変化を受けて、福利厚生も変化してきました。
まず、社員のニーズの多様化に応えるため、95年にカフェテリアプランを導入する企業が現れました。
福利厚生アウトソーシングが登場したのもこの頃です。
03年以降は人手不足で人材確保が困難になり、福利厚生は社員の労働生産性を高める手段として位置づけられました。
福利厚生は施設へ投資するものから、社員へ投資するものへ変化しました。
こうして、福利厚生の目的と投資対象は「社員の満足度向上」から「労働生産性の向上」へ変化してきたのです。

2.福利厚生見直しの進め方

福利厚生の見直しを行う際の手順は、原則として下図の考え方に則って進めます。

福利厚生見直しの進め方

《1》目的の明確化

まずは、見直しの目的の明確化です。目的としては、経営環境に合わせた見直しや、社員の要望への対応、コストダウンが挙げられます。
また、人事制度と併せて整備を進めるケースもあります。

《2》実施・利用状況の把握

次いで、福利厚生の制度の実施状況・利用状況とその費用を把握します。
福利厚生を見直す場合、新規予算策定の時期に実施する場合は少なく、見直しの原資は現行制度のスクラップ&ビルドで捻出する場合がほとんどです。
こうした費用等の定量データと並行して、労働組合や社員、または人事部内で福利厚生の課題点を抽出するという定性データの収集も行います。

《3》ビジョンの策定

そして、福利厚生ビジョンを策定します。見直しの際には、既存のものに対し、何らかの方向性の提示や具体的な指示・要望があることが多いので、それに沿ってビジョンを策定していきます。
この段階でビジョンを明確にし、関係者と共有することが望まれます。
共有が十分でないと、制度の内容や運用といった詳細を詰める際に、案が収束せずビジョンと実際の制度や運用が一貫しない懸念があります。
ビジョンに基づき、制度案と福利厚生規程や、その運用案を固め、労使合意と機関決定を経て規程を施行します。
但し、新制度実施後も効果検証を行う必要があります。社員の声を聞いて、修正すべき点は修正します。
制度見直しにより、社員の労働生産性や満足度の向上等にプラスの効果がないと意味がありませんので、福利厚生制度を改定したことの告知は、社員による新制度の利用を高め、ひいては費用対効果を高めるためにもぜひ実施したほうが良いでしょう。

3.福利厚生見直し後のスタンダードモデル

福利厚生のスタンダードモデルは、カフェテリアプランがあります。
カフェテリアプランの導入においては、社員の代表からなるプロジェクトチームを組成し、実態のニーズに合うものに再構築します。
新たに採用するものとしては、育児・介護・ライフサポート、健康増進・疾病予防、余暇・リラクゼーションの充実などがあります。
一方、住宅補助や社員食堂の会社補助、保養施設利用時の宿泊補助などは、一部の社員しか利用していないことなどから廃止・縮小し、新たなメニューのための原資とするケースなどがあります。

カフェテリアプランの普及推移

一方、福利厚生費用の効率的な分配方法としては、共済会を置いて社員と事業主で費用を折半するという手法も一般的です。
共済会で賄われる福利厚生の内容はそれほど多くはありませんが、事業主が負担する費用を少なく抑えることができるのがメリットです。

3.事務負担軽減のための福利厚生アウトソーシング

1.アウトソーシングとしての福利厚生パッケージ

1990年代後半、企業が収益の低下に苦しむ中で、人事総務業務のアウトソーシングが日本に紹介されました。
アウトソーシングの範囲は段階的に拡大し、給与計算や経理事務にとどまらず、福利厚生もその対象になりました。
外部の福利厚生リソースを活用するアウトソーシングとして、福利厚生パッケージがあります(福利厚生代行、福利厚生アウトソーシングとも呼ばれます)。

福利厚生パッケージの仕組み

人事・総務部門の福利厚生担当が行っていた業務(福利厚生施設やサービス業者との提携、社員への福利厚生の告知、社員からの利用申込の受付と施設等への取り次ぎなど)をアウトソーサーが行います。
アウトソーサーが提供する福利厚生サービスは、国内・海外の宿泊施設、育児・介護サービス、人間ドック等の健康管理サービス、フィットネスクラブ等のスポーツ施設、通学ネットでの自己啓発・資格取得講座、レジャー施設、飲食店等であり、社員等が割引料金で利用できる、といったものになります。

2.福利厚生アウトソーシングのメリット・デメリット

アウトソーシングのメリットとしては、大きく次の3つが挙げられます。

アウトソーシングのメリット

《1》外部リソースによるサービス

外部リソースによるサービスを利用することで、自社で福利厚生の体制を構築することに比べ短期間のうちに福利厚生を充実させることができます。
福利厚生担当が手薄なことが多い中堅・中小企業、外資系企業やベンチャー企業等がアウトソーシングに積極的なのはこのためと考えられます。
また、事業主の福利厚生事務を削減できることから、福利厚生を運営するためのシステム開発・維持・改修といった固定コストも不要となり、福利厚生費を社員に比例する変動費とすることも可能となります。
これも社員が少ない事業主にとって導入しやすい点です。

《2》スケールメリット

アウトソーサーは、多くの企業・団体から福利厚生を受託します。
2017年4月時点で福利厚生パッケージを利用している企業・団体の数は約21,000社、利用できる社員数は2,000万人を超えています(労務研究所「旬刊福利厚生」2017年5月上旬号)。
利用が多ければ多いほど、スケールメリットにより個々の福利厚生サービスの仕入れ値が引き下がるため、利用料金も下がり一段と利用が増えるという好循環になります。

《3》ノウハウの蓄積

福利厚生の受託実績が蓄積されるにつれ、アウトソーサーは福利厚生運営のノウハウを蓄積し専門性を高めることが可能となります。
これにより受託した事業主の人事・総務部門だけでなく、利用する社員にとっても満足度の高いサービスとなります。
福利厚生は社員に対するサービス業として位置づけられることから、そのサービス水準は高くあることが望まれます。
また、社員等が利用する施設・サービスも専門業者が運営しているため、そのサービスレベルは利用者にとって満足のいくものになります。
一方、デメリットとしては「標準化によるサービスの変更」という点があります。
アウトソーシングは単なる社内事務の外部委託ではありません。アウトソーサーは個々の事業主の社内事務を受託する際、アウトソーサーが持つサービスやシステムでそのまま運用できるよう標準化を求めます。
なぜなら、アウトソーサーはサービスを標準化することによってスケールメリットを発揮でき、オペレーションコストを引き下げてコストダウンを実現できるからです。
このことにより、委託元にとっては従前の福利厚生とその運用の一部見直しを余儀なくされ、見直しの内容によっては労使合意を求められる可能性があります。

3.福利厚生アウトソーシングの種類

福利厚生アウトソーシングは、大きく2つに分けることができます。

《1》専業型アウトソーサー

専業型アウトソーサーは、従前より存在したものが多く、主なものとして職場給食、社宅管理、保養所管理、ライフプランセミナー、会員制リゾートクラブ、フィットネスクラブ等があります。

《2》総合型アウトソーサー

一方、総合型アウトソーサーは、特定の福利厚生制度のアウトソーシングではなく、複数種類の福利厚生サービスを、一元的に割引料金で企業や団体の社員に提供します。
このサービスは福利厚生パッケージと呼ばれ、専業型アウトソーサーと総合型アウトソーサーの関係性をまとめると下図のようになります。

専業型アウトソーサーと総合型アウトソーサーの関係性

こうした福利厚生パッケージを提供するのが総合型アウトソーサーです。
このようなアウトソーサーは同時にカフェテリアプランの制度設計や運営管理も受託したり、福利厚生事務の代行、専業型アウトソーサーの企業・団体への紹介など、福利厚生のワンストップソリューションが可能な窓口となっています。

4.福利厚生改善の実践的取り組み事例

1.ポイント制により社員の意識改革を行い残業時間を大幅削減

A社は、社員が数百名規模のIT企業です。
残業時間削減のため、ポイント制を導入して社員の意識改革を行いました。

ポイント制により社員の意識改革を行い残業時間を大幅削減

A社の取り組みでは、まず社員、管理職、経営層それぞれの意識改革を行いました。
特に管理職は「不要不急な業務の見直し」を実施し、また業務時間を圧縮することに伴うリスクの発生については経営層の意識を変える必要がありました。
次いで、フレックスタイムや在宅勤務、リモートワークといった柔軟な勤務時間帯の設定を行いました。
フレキシブルな働き方が推進されたことで、育児や介護と仕事の両立が実現しやすくなり、優秀な社員の社外流出のリスクを下げることにも繋がりました。
そして、社員それぞれのスケジュール管理や業務改善を具体化し、ポイントを付与するインセンティブポイント制度を導入しました。
例えば、週次での業務進捗を当初スケジュールと比較し、進捗の程度によってポイントを付与したり、社外研修への参加や資格取得、退社時間の早期化の徹底など、個々人の取り組み内容に応じてポイントを付与します。
ポイントは福利厚生を利用する際に使用できることとし、社員の業務改善への意識を福利厚生をより多く利用できるというメリットへ直結させることに成功したのです。
これらの取り組みにより、前年同時期との対比で全社で残業時間が約12%もの削減に繋がりました。
この取り組みはその後、ポイント付与の対象となる取り組みを社員自らが提案するなど、自発的な業務改善に結びつけて継続しています。

2.カフェテリアプランの導入によりダイバーシティに対応した福利厚生の実現

B社は、社員約250名の医療用品製造・販売業です。
カフェテリアプランの導入により、多様な福利厚生のニーズへの対応を実現しました。

カフェテリアプランの導入によりダイバーシティに対応した福利厚生の実現

B社では、女性の社員が多いことや、単身赴任者が一定数いることなどに照らし、福利厚生のメニューがニーズの実態とずれていることが社員から指摘されていました。
規制補助費用の適用対象が偏っていたり、育児や介護との両立に対する支援がないなど、実態と乖離していました。
また、自社製品の無償配付の費用が増加してきたこともあり、福利厚生のメニューを見直すこととなりました。
カフェテリアプランの導入においては、社員の代表からなるプロジェクトチームを組成し、実態のニーズに合うものに再構築しました。
新たに採用されたものとしては、育児・介護・ライフサポート、健康増進・疾病予防、余暇・リラクゼーションの充実などが追加されました。
一方、住宅補助や社員食堂の会社補助、保養施設利用時の宿泊補助などは、実態として一部の社員しか利用していないことなどから廃止・縮小し、新たなメニューのための原資としました。
このような取り組みにより、社員参加のうえで福利厚生のメニューが刷新され、より多くの社員がその恩恵を受けることができるようになったことで、社員アンケートの結果などからも、満足度が向上したことがわかりました。

3.共済会への加入促進により非正規社員の待遇を改善

C社は、社員約200名の宅配業者です。
社員の中でも多くの割合を占める非正規社員の待遇改善を図りました。

共済会への加入促進により非正規社員の待遇を改善

C社における仕分作業員はそのほとんどが非正規社員であり、彼らを対象とした福利厚生の改善にかかる費用の捻出に苦慮していました。
これは、同一労働同一賃金の観点からも、対策が必要な事項です。
同社の共済会は、正社員、役員、嘱託社員を対象としており、会員である社員と事業主が同額を負担する形となっていたため、福利厚生の充実を図ることによる事業主の負担増を軽減するため、共済会の加入対象を非正規社員にまで拡大することにしました。
非正規社員のほとんどは有期雇用・無期雇用の契約社員とパートタイマーだったことから、共済会の規約を改定し、アルバイトを除く全ての社員を対象としました。
共済会加入により得られる福利厚生としては、相互扶助の慶弔給付、社内のクラブ活動・同好会活動の活動費補助などがあり、結果として正社員と非正規社員間の交流促進にも貢献しました。
これらの取り組みにより職場全体の一体感を醸成することができ、また、非正規社員の採用や定着についても徐々に改善がみられました。

こうした事例が示すように、福利厚生制度の充実を図ることで、社員だけでなくその家族の満足度を高めることが労働生産の向上にも寄与し、また、人材確保が困難な時代において社員の確保・定着にも非常に有効な取り組みの実現が期待できます。

 

■参考文献
「共済会の実践的グランドデザイン」可児俊信 著 労務研究所
「実践!福利厚生改革 可児俊信」日本法令
「日本でいちばん社員のやる気が上がる会社」坂本光司 著 筑摩書房

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