科学的根拠に基づく介護実施と医療との連携を強化 2021年度介護報酬改定事業所別改定ポイント

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科学的根拠に基づく介護実施と医療との連携を強化 2021年度介護報酬改定事業所別改定ポイント

  1. 2021年度介護報酬改定の概要
  2. 通所・訪問系・多機能系サービスは自立支援強化
  3. 施設・居住系サービスは重度化防止対策強化
  4. 医療・介護連携強化に向けた対応策


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1.2021年度介護報酬改定の概要

1.2021年度介護報酬改定の概要

2021年度介護報酬改定の主要テーマは、地域包括ケアシステムの推進、自立支援・重度化防止の推進、介護人材の確保・介護現場の革新、制度の安定性・持続可能性の確保の4つで考えられてきましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行や、大規模な水害など昨今の災害発生状況を踏まえ、「感染症や災害への対応力強化」をテーマに加えました。
また、2021年度介護報酬の改定率は+0.7%となりました。

介護報酬改定率の経過、2021年度介護報酬改定の概要、2021年度介護報酬改定の各テーマ

2.各テーマごとの主要な改定事項

(1)感染症や災害への対応力強化

日頃からの備えと業務継続に向けた取組の推進を図るため、介護サービス事業者に以下のことが義務化づけられます。
ただし、3年の経過措置期間を設けることとしています。

介護サービス事業者に義務付けられる事項

(2)地域包括ケアシステムの推進

介護に関わる全ての者の認知症対応力を向上させていくため、介護に直接携わる職員のうち、医療・福祉関係の資格を有さない者について、認知症介護基礎研修を受講させるために必要な措置を講じることが義務づけられます。
ただし、3年の経過措置期間を設けることとしています。

(3)自立支援・重度化防止の取組の推進

利用者の状態やサービスの内容などの情報を幅広く集める「CHASE」を本格稼働します。
エビデンスに基づく科学的介護の基盤に育てたい考えにより、リハビリの情報に特化した既存の「VISIT」との一体的な運用も始めます。
これを機に、分かりやすさの観点から両者を統一した名称「LIFE(Long-term care Information system For Evidence)」へ変更します。
概要については次章で紹介いたします。

(4)介護人材の確保・介護現場の革新

運営基準や加算の要件等における各種会議等の実施について、感染防止や多職種連携促進の観点から、テレビ電話等を活用しての実施を認められるようになります。
利用者等が参加せず、医療・介護の関係者のみで実施するものについては、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱のためのガイダンス」及び「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」等を参考にして、テレビ電話等の活用が可能となります。
利用者等が参加して実施するものについては、上記に加えて、利用者等の同意を得た上でテレビ電話等を活用しての実施が認められます。
ただし、利用者の居宅を訪問しての実施が求められるものを除きます。

(5)制度の安定性・持続可能性の確保

介護職員処遇改善加算(Ⅳ)及び(Ⅴ)について、上位区分の算定が進んでいることから廃止されます。
※2021年3月末時点で同加算を算定している場合1年間の経過措置有り。

介護職員処遇改善加算

2.通所・訪問系・多機能系サービスは自立支援強化

1.CHASE・VISIT情報の収集・活用とPDCAサイクルの推進

CHASE・VISITへのデータ提出とフィードバックの活用によりPDCAサイクルの推進とケアの質の向上を図る取組を推進します。
CHASEは、高齢者の状態・ケア内容等のデータベースであり2020年度から運用を開始しています。
VISITは、リハビリテーションに関する情報を収集しています。
現在の医療においては、エビデンス(根拠)を用いた「根拠にもとづく医療」が定着しています。
これまでに蓄積された様々な臨床結果や情報をもとに最新かつ最良な根拠を用いて、患者に合った医療を提供しています。
介護の分野でも同じように取り組もうと動き出したのがCHASEであり、VISITと連動させて科学的根拠に基づいた介護の実現を目指しています。
仕組みとしては、利用者に係るデータ(ADL、栄養、口腔・嚥下、認知症等)をCHASEに提出してフィードバックを受け、事業所単位でのPDCAサイクル・ケアの質の向上を図るというものです。
また、これに関する報酬として新たに「科学的介護推進体制加算」が新設されました。

PDCAサイクルの推進(イメージ)、科学的介護推進体制加算

2021年度改定では、リハビリテーションマネジメント加算、個別機能訓練加算など、多くの加算が見直され、CHASE・VISITへのデータ提出とフィードバックの活用が上位報酬の算定要件となるため、自法人・自院においても対応が求められることになります。

2.通所介護等における口腔衛生管理や栄養ケア・マネジメントの強化

通所系サービス等について、介護職員等による口腔スクリーニングの実施が新たに評価されます。
同様に、管理栄養士と介護職員等の連携による栄養アセスメントの取り組みも評価されます。
栄養改善加算においては、管理栄養士が必要に応じて利用者の居宅を訪問する取り組みが求められることとなりました。

口腔衛生管理や栄養ケア・マネジメントの強化

3.認知症への対応力向上に向けた取り組み

介護サービスにおける認知症対応力を向上させていく観点から、訪問系サービスについて認知症専門ケア加算が新たに創設されます。

認知症専門ケア加算の概要

4.訪問系サービスの主な改定内容

看取り期の利用者に訪問介護を提供する場合に、2時間ルール(2時間未満の間隔のサービス提供は所要時間を合算すること)を弾力化し、所要時間を合算せずにそれぞれの所定単位数の算定が可能となります。
訪問介護の通院等乗降介助については、利用者の負担軽減や利便性向上の観点から、居宅が始点又は終点となる場合の目的地間の移送についても算定可能となります。
訪問看護については、主治の医師が必要と認める場合に退院・退所当日の算定が可能となります。
また、看護体制強化加算の要件や評価が見直されます。

3.施設・居住系サービスは重度化防止対策強化

1.CHASE・VISIT情報の収集・活用とPDCAサイクルの推進

施設・居住系サービスにおいても科学的介護推進体制加算が新設されます。
ただし、介護療養型医療施設は除きます。

科学的介護推進体制加算

介護老人保健施設、介護医療院においては、VISITへデータを提出しフィードバックを受けPDCAサイクルを推進することを評価する取組を推進する観点から新たな加算が新設されます。

リハビリテーションマネジメントの強化に関連して新設された加算

この他、介護保険施設における口腔衛生の管理や栄養ケア・マネジメントの強化の観点から、口腔衛生管理体制加算等が廃止され、新たな仕組みが設けられます。

2.医療と介護の連携の推進

介護老人保健施設における、かかりつけ医連携薬剤調整加算について、かかりつけ医との連携を推進し継続的な薬物治療を提供する観点から見直されます。

かかりつけ医連携薬剤調整加算の見直し

また、介護医療院について、長期療養・生活施設の機能の充実の観点から長期入院患者の受入れ・サービス提供が新たに評価されます。

長期療養生活移行加算

3.看取りへの対応の充実

施設・居住系サービスにおける看取りへの対応の充実を図るため、特養、老健施設や介護付きホーム、認知症グループホームの看取りに係る加算について、現行の死亡日以前30日前からの算定に加えて、それ以前の一定期間の対応について新たに評価されます。
介護付きホームについては、看取り期において新たな評価区分が設けられます。

看取り介護加算の見直し

4.寝たきり防止等、重度化防止の取組の推進

施設系サービスについて、寝たきり防止や重度化防止等の観点から、施設での日中生活支援の評価を新たに行います。

自立支援促進加算の概要

4.医療・介護連携強化に向けた対応策

1.地域包括ケアシステムの構築に向けた医療・介護連携強化策

(1)医療・介護連携強化に向けた対応策

介護事業所が目指す介護報酬改定への対策としては、各種加算をできる限り算定していくことです。
介護報酬改定は、地域包括ケアシステムの構築等に向けて、国が各事業所に期待する、目指してほしい方向性を示しているといえます。
政策誘導で進められる改定内容を理解して対応することが重要となります。

地域包括ケアシステムの構築に向けた医療・介護連携強化策

(2)再入院しない仕組みづくりで利用者・入所者数の維持を可能に

認知症の方は、入院による身体機能の低下、退院後の服薬の難しさ、適切な栄養管理が出来ない等の理由から再入院しやすいと言われています。
国の政策として、同じ病気で再入院させない仕組みづくりが進められています。
認知症患者の再入院を減らすためには、身体機能や認知機能が衰えないような身体機能維持管理・栄養管理が必要となります。
また、退院後の適切な服薬も求められます。
このような背景から、2021年度介護報酬改定では各サービスの見直しが行われました。
介護事業者はこうした評価の見直しを重要視して、対応していくことが求められ、医療機関、他事業所、地域の住民等から選ばれる事業所になることで利用者の獲得につながり安定した収入が得られるようになります。

他事業所・利用者等から選ばれる介護事業者のポイント、2021年介護報酬改定にて各サービスの評価項目見直し、入退院時の医療・介護連携に関する報酬(イメージ)

2.2021年度改定に向けて対応・検討するべき事項

政府は省令を改正し、介護現場の業務負担軽減の推進の観点から、利用者等への説明・同意、諸記録の保存・交付等が電磁的な対応を認める考えです。
また、運営規程等の重要事項の掲示について、事業所の掲示だけでなく、閲覧可能な形でファイル等で事業所に備え置くこと等が可能となります。

介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会での文書負担軽減に関する取組

2021年度改定に向けて対応・検討するべき事項の一つとして、ICTへの対応が挙げられます。
コロナ禍の影響も重なり、ICT対応は早めの判断が求められることになりそうです。

3月中に対応・検討すべきポイント(ICT対応の強化)

 

■参考資料
社会保障審議会-介護給付費分科会 第184回資料、第199回資料

※2021年2月10日(水)、株式会社吉岡経営センター主催 医療経営セミナー「2021年 介護報酬改定 事業所別改定内容と対応策」
(講師:株式会社リンクアップラボ 酒井 麻由美 氏)の講演要旨および配布レジュメをベースとし、一部を再構成して作成したものです。
掲載の図表については、出典を明記したものを除き、全て本セミナーレジュメに使用、または一部加工しています。

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