制度を活用し働きやすい職場環境を整備する 育児・介護休業法の制度概要と改正内容

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制度を活用し働きやすい職場環境を整備する 育児・介護休業法の制度概要と改正内容

  1. 育児・介護休業法における各制度の概要
  2. 育児・介護休業法改正の背景と主な改正ポイント
  3. 育児・介護に関するハラスメント事例と対応策


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1.育児・介護休業法における各制度の概要

クリニックにおいて、働きながら家庭で子育てや介護を行っている職員は一定数います。
仕事と家庭の両立しやすい職場づくりは、クリニックにとっても優秀な人材の確保・育成・定着につながるなどメリットが多く考えられます。
育児・介護休業法制度をよく理解しておらず、活用もしていないというクリニックにおいては、制度の理解を深めて、適切に活用していくことで労使双方にメリットが生まれる可能性がありますので、本稿を参考にしていただければと思います。

1.育児休業・介護休業制度の概要

(1)育児休業

労働者が原則として1歳に満たない子を養育するための休業制度として創設されました。
育児関係の「子」の範囲は、労働者と法律上の親子関係がある子(養子を含む)のほか、特別養子縁組のための試験的な養育期間にある子や養子縁組里親に委託されている子等を含みます。

現行の育児休業制度の概要

(2)介護休業

介護休業は、労働者がその要介護状態(負傷、疾病または身体上若しくは精神上の障がいにより、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護するためにする休業制度です。

現行の介護休業制度の概要

2.子の看護休暇・介護休暇制度の概要

子の看護休暇・介護休暇制度は、よく育児休業、介護休業と混同されている制度です。
大きな違いとして、子の看護休暇・介護休暇については雇用保険からの給付が設定されていないことです。
また、休暇時の給与の支払いの有無については事業主の判断になりますので、クリニックにおいても有給とするか無給とするかは自院の判断に委ねられます。
このことについて理解しておかなければ職員とのトラブル要因となりかねませんので、就業規則や育児介護休業規程等で休暇時の給与の支払いをあらかじめ定めておき、自院のルール作りをしておくことが必要です。

(1)子の看護休暇

小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者は、1年に5日(当該子が2人以上の場合は10日)まで、病気・けがをした子の看護または子に予防接種・健康診断を受けさせるために休暇を取得できます。

子の看護休暇制度の概要

(2)介護休暇

要介護状態にある対象家族の介護その他の世話を行う労働者は、年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで、介護その他の世話を行うために休暇を取得できます。

介護休暇制度の概要

また、次章で説明しますが、2021年1月1日以降については、子の看護休暇・介護休暇は時間単位での取得が可能となりました。

3.労働時間制限に関する制度概要

育児・介護休業法では休業、休暇制度の他に労働時間に関する事項についても定められています。
ここでは、おおまかな制度内容について紹介します。
以下の制度の活用については、対象外となる労働者や労使協定で対象外とできる労働者もいますので、事前に確認しておくことが必要です。

育児・介護休業法で定められている労働時間に関する制限

2.育児・介護休業法改正の背景と主な改正ポイント

1.育児・介護休業法改正の背景

現在日本では、少子高齢化が進み、働き手が少なくなることが見込まれています。
少子化の急速な進行は、労働力人口の減少、地域社会の活力低下など社会経済に深刻な影響を与え、また、高齢化の進展により、家族介護を要する労働者が増えることが予測されます。

人口の長期推移

現状、子どもを生み育て、家庭生活を豊かに過ごしたいと願う人は男女ともに多いにもかかわらず実現しにくい状況です。
また、介護を理由に離職するケースもあります。
持続可能で安心できる社会を作るためには、「就労」と「結婚・出産・子育て」、あるいは「就労」と「介護」の「二者択一構造」を解消し、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」を実現することが必要不可欠です。
こうした中、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて、育児・介護休業法は改正を重ね、少しずつ活用しやすい制度へと変わってきました。
2020年6月からは、育児休業等に関するハラスメントの防止対策が強化され、2021年1月からは、子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得可能になりました。

2.近年の育児・介護休業法改正のポイント

(1)育児休業等に関するハラスメントの防止対策の強化(2020年6月1日施行)

職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、育児・介護休業法や男女雇用機会均等法により、雇用管理上の措置を講じることが既に義務付けられています。
今回の法改正により、以下のとおり、ハラスメントの防止対策が強化されました。
職場における妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントの概要については、第3章で説明します。

育児休業等に関するハラスメントの防止対策の強化 改正内容

この中で特に気を付けなければならないことは、雇用している職員が他の職員等にハラスメント行為を行った場合、事業主は責任を問われる可能性があるという点です。
例えば、ハラスメントに関する十分な周知徹底・措置がなされていない状況下で、院長が知らないところで職員間にハラスメント行為があった際には、院長(事業主)が責任を問われることになります。
こうしたことを未然に防ぐためにも、ハラスメントに関する理解を深めることが労使共にとても重要です。
また、育児・介護休業法改正と同時に、職場におけるパワーハラスメント・セクシュアルハラスメント防止対策についても、労働施策総合推進法及び男女雇用機会均等法の改正で明文化されています。

(2)子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得可能に(2021年1月1日施行)

2021年1月1日以降、子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得することが可能になりました。
具体的な変更点については下記のとおりです。

子の看護休暇・介護休暇に関する改正内容

3.2022年以降の育児・介護休業法改正ポイント

2022年以降、育児・介護休業法は多くの改正が予定されています。
改正の理由の一つとしては、男性の育児休暇取得率を上げることにより、男女問わずワーク・ライフ・バランスのとれた働き方を実現させることです。
女性の雇用継続の実現や子育てしやすい環境を整えることで、将来の子どもの数が増える可能性が高まることも視野に入れた改正と考えられます。

雇用環境整備、個別の周知と意向確認、有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和、産後パパ育休(出生時育児休業)の創設、育児休業の分割取得

3.育児・介護に関するハラスメント事例と対応策

1.妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの実態

職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることです。
妊娠の状態や育児休業制度等の利用等と嫌がらせとなる行為の間に因果関係があるものがハラスメントに該当します。
クリニックにおいても、他業種に比べ女性職員の割合が多いことから、特に注意が必要となる部分です。
なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものはハラスメントには該当しません。
「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」には「制度等※の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」があります。
※制度等とは、産前休業その他の妊娠または出産に関する制度または措置、育児休業、介護休業等の制度または措置のこと

制度等の利用への嫌がらせ型の例、状態への嫌がらせ型の例

2.自院でのハラスメント対応策

自院では、ハラスメント対応についてどのようなことが求められているのかを確認していきます。
事業主が雇用管理上講ずべき措置は以下のとおりです。

事業主が雇用管理上講ずべき措置①、事業主が雇用管理上講ずべき措置②

具体的な対応策として、ハラスメントに対する職員への周知・啓発部分については、就業規則等で記載することをお勧めします。
記載する際には、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなど、他のハラスメントを含めた記載内容にするようにします。
次に、相談窓口は就業規則等で周知させ、担当者を必ず決めておくことです。
職員がどこに相談してよいかわかりやすいよう周知徹底しておくことが求められます。
ハラスメント行為が行われた際には、就業規則等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講じることと、事案の内容や状況に応じて、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講じる必要があります。
また、再発防止に向けては、再度ハラスメント行為禁止の周知徹底や研修等を実施する必要があります。
対応マニュアルを作成しておくことも対策の一つです。

ハラスメントに対する事前対応策

3.2022年以降の法改正への対応

第2章で紹介した2022年度以降の改正育児・介護休業法施行に向けての準備の流れは以下のとおりです。

施行に向けて準備いただくこと

まず、上記①については、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、個別に面談や書面交付等を行う必要があります。
その時にはあらかじめ厚生労働省が公表しているパンフレット等を準備しておきましょう。そして相談窓口担当者を決めて設置し、就業規則に記載し周知徹底に努めます。
②については育児介護休業規程の見直しや必要に応じて労使協定の見直しが必要です。
③、④については就業規則・育児介護休業規程の見直しが必須で、必要に応じて労使協定を見直します。
これまで紹介してきたように、育児介護休業に関する制度は近年何度も改正されており、2022年も新たな制度が予定されています。
よって、自院の就業規則や育児介護休業規程の見直しがしばらく行われていない場合、法律を満たした内容ではなくなっている可能性が高いです。
厚生労働省では、モデル就業規則や育児介護休業規程、改正点を公表していますので、自院の就業規則と見比べてみることと、制度理解を深めておくことをお勧めします。

 

■参考資料
厚生労働省:令和2年版 厚生労働白書
      育児・介護休業法のあらまし
      育児・介護休業法の改正について~男性の育児休業取得促進等~
      ハラスメントに関する各種パンフレット

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