在宅医療で活かす「特定行為」これからの医療を支える看護師の役割

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

  1. 在宅医療を支える看護師養成の仕組み
  2. 看護師が特定行為を行うまでの流れ
  3. 外来診療と在宅医療での活用への期待


この記事をPDFでダウンロードする。

 

1.在宅医療を支える看護師養成の仕組み

看護師の特定行為に関する研修制度の運用始まる

2015年10月より、保健師助産師看護師法(以下、「保助看法」)の改正に基づいて「特定行為に係る看護師の研修制度」が開始されました。
厚生労働省では、団塊の世代のすべてが75歳以上となる2025年に向けて、重度の要介護状態となってもできる限り住み慣れた地域で療養することができるよう、在宅医療を推進するための様々な施策を講じています。
こうした背景により、看護師には患者の状態を見極め、必要な医療サービスを適切なタイミングで届けるなど、速やかに対応する役割が期待されています。
このため、診療の補助のうち、一定の行為を特定行為として規定し、これらの特定行為を医師が予め作成した手順書(指示)によって適時、適切に実施する看護師を養成する研修制度が創設されました。
これが「特定行為に係る看護師の研修制度(以下、特定行為研修)」であり、本制度は、今後の急性期医療から在宅医療等を支えていく看護師を計画的に養成することを目的とするものです。

(1)特定行為研修制度の創設と運用まで

今後の医療提供体制の柱となる在宅医療等の推進を図っていくためには、医師又は歯科医師の判断を待たずに、手順書により、一定の診療の補助(例えば脱水時の点滴(脱水の程度の判断と輸液による補正)など)を行う看護師を養成し、確保していく必要があります。
特定行為研修制度は、その行為を特定し、手順書によりそれを実施する場合の研修制度を創設し、その内容を標準化することにより、今後の在宅医療等を支えていく看護師を計画的に養成していくことが、本制度創設の目的です。

(2)特定行為研修に期待される効果

特定行為研修を受けた看護師が、患者の状態を見極めることで、適時・適切な対応が可能になります。
また、患者や家族の立場に立ったわかりやすい説明ができ、「治療」と「生活」の両面からの支援の促進に貢献できると期待されています。
一方、診療の補助の実施に当たっては、従前どおり、看護師は医師又は歯科医師の指示のもとで、特定行為に相当する診療の補助を行うことができます。
医療安全の確保の観点から、引き続き診療の補助を適切に行うことができるよう、医療機関の管理者は、看護師自身の能力開発・向上への意欲とともに、看護師が自ら研修を受ける機会を確保できるようにするために必要な配慮等が求められています。

2.特定行為研修と手順書の内容

(1)特定行為研修の具体的内容と基準

特定行為研修は、看護師が手順書により特定行為を行う場合に特に必要とされる実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能の向上を図るための研修であって、特定行為区分ごとに特定行為研修の基準に適合するものとなっています。
特定行為研修の基準は、以下のとおりです。

(2)手順書の定義と記載内容

手順書とは、医師又は歯科医師が看護師に診療の補助を行わせるために、その指示として作成する文書であって、「看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲」、「診療の補助の内容」等が定められているものです。
手順書の記載事項としては、以下のとおりです。

なお、「(3) 当該手順書に係る特定行為の対象となる患者」とは、その手順書を適用する患者の状態を指し、患者は、医師又は歯科医師が手順書により指示を行う時点において特定されている必要があります。
手順書の具体的な内容については、(1) から(6) の手順書の記載事項に沿って、各医療現場において、必要に応じて看護師等と連携し、医師又は歯科医師があらかじめ作成することになっています。
さらに、各医療現場の判断で、記載事項以外の事項やその具体的内容を追加することも可能です。
また、複数の医療機関が、同一の手順書を活用することができますが、手順書を個々の患者に適用するかどうかは、医療現場の医師の判断によることとなります。
第3章において、手順書例を掲載していますが、作成した手順書は普遍的なものではなく、自院の物理的・人的資源等に鑑みた医療提供体制に応じ、定期的に評価し、見直していく仕組みを整備することが必要です。

2.看護師が特定行為を行うまでの流れ

1.特定行為は限定列挙方式

看護師による診療の補助のうち、特定行為とは「実践的な理解力・思考力・判断力を要し、かつ高度な専門知識と技能をもって行う必要がある行為」と解釈されています。
これを具体化する作業において、チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ(以下、「WG」)においては、次のような考え方を採用しました。

上記の考え方に基づき、特定行為の検討を行った結果、最終的に該当する38行為が決定されました。
これら特定行為は、改正保助看法において限定列挙方式により定められています。

(1)38の特定行為と21の特定行為区分

38の特定行為は、その管理対象となる器官や行為によって21種類に大きく区分されており、特定行為研修においては、区分別にそれぞれ異なる知識や能力が必要とされることから、すべての特定行為に共通する基礎科目と区分別科目が実施されることとなっています。

2.看護師が行う診療補助業務の流れはこう変わる

看護師が行う診療補助業務のうち、特定行為研修を修了して特定行為を行う場合であっても、指示を行うのはあくまで医師又は歯科医師です。
特定行為研修制度の創設によって知識と能力を備えた看護師が増え、「チーム医療の推進」と「医療安全の確保」という両輪によって、患者のニーズに適った医療提供体制を構築することができるとした一方で、看護師による診療補助業務は、医師又は歯科医師の指示のもとで実施するという原則は維持されています。

(1)医師の指示から診療補助実施までの基本的フロー

医師による包括的指示・具体的指示が行われてから診療補助が実施されるまでは、次のような流れとなります。
医師が、(1) 患者の診察および診断によって、(2) 予め手順書に定められた病態が起こりうる患者か否かの判断を経たうえで、(3) その患者について看護師が手順書に基づいて、病態の範囲にあるか否かの確認を行い、診療補助(特定行為)を実施しうるかという判断を行います。
また、(3) の判断を行う上で、医師が看護師の能力や患者の病態について評価を行うことも求められています。

(2)特定行為を行う場合の具体的実施の流れ ~腹腔ドレーンの抜去

特定行為として定められている「腹腔ドレーンの抜去」のケースで、包括的指示により看護師が特定行為を実施するフローは、次のように想定されます。
医師の手順書(=包括的指示)に基づいて看護師が特定行為を行う場合、医師は、(1) 予め対象となる患者について、その看護師が腹腔ドレーン抜去を実施可能であることを判断したうえで、(2) 手順書に基づいて病態を確認できた場合には、腹腔ドレーンの抜去を実施する旨の指示を行うことになります。
そして指示を受けた看護師は、(3) 患者の病態が医師から指示された状態かどうか否かを確認し、その範囲内にあることを確認した場合、腹腔ドレーンの抜去を実施することができると解釈されます。
その包括的指示は、下記のようなイメージであり、病態について医師から指示された範囲にあるかどうかという確認が、特定行為実施の最終判断基準になるということです。

3.外来診療と在宅医療での活用への期待

1.「特定行為」を行う看護師の育成推進

特定行為研修制度は、看護師が手順書により行う特定行為を標準化することにより、今後の急性期医療から在宅医療を支える看護師の育成を推進しようとするもので、厚生労働省では10万人の養成を目指し、看護師の受講を促す仕組みを構築し支援しています。

(1)特定行為を実施する看護師育成の取り組み

特定行為研修は、厚生労働大臣が指定する指定研修機関(2016年8月現在:全国で28施設)で行われています。
病院と大学院を中心と、基礎科目と併せて、それぞれ特定行為区分を単位とする区分別科目が、講義と演習および実習によって実施されています。
特定行為研修終了後には、指定研修機関より修了証が交付され、研修修了者の名簿は厚生労働省に報告されます。
これにより、特定行為を行える知識と能力があることを確認することができます。

また、特定行為研修には、活用可能な支援制度が用意されています。

医療機関・施設の管理者は、これらの制度活用も想定して、特定行為研修受講中の学習環境の整備や勤務の調整を図ること、ならびに研修修了後の配置先の配慮など、特定行為研修を受講した職員が学んだ内容を十分に活用できる配慮が求められています。

(2)手順書の作成例~医師と看護師が協働

特定行為研修においては、共通科目として根拠に基づく手順書を医師、歯科医師と共に作成するプロセスを学ぶ内容が含まれています。
それぞれの医療機関・施設により、検討し個別に作成されるものですが、医師の包括的指示を実践する内容でもあり、運用するにつれて見直しの必要も生じることが想定されています。
この点については、看護師の責任と役割も加味しなければなりません。
医療機関としては、自院の医療提供体制を鑑み、手順書を定期的に評価し改良する仕組みを構築していくことも求められます。

2.外来患者対応に関連した業務でのイメージ

在宅療養患者、特に独居の高齢者患者は今後も増加すると思われ、医師だけでは外来診療に対応が難しい状況になるかもしれません。
特定行為に係る研修を終えた看護師が、医師の包括的指示に従い、外来診療の補助を担うことで、より迅速な対応の強化を図ることが可能になると考えられています。
例えば、救急外来を受診した外傷患者のケースでは、次のような診療補助業務の流れが想定されています。

このようなケースでは、特定行為研修を終えた看護師が、医師の包括的指示の下で必要な検査や初期対応を実施することが可能になると考えられます。
これによって、患者の待ち時間短縮や重症化の予防につながるため、患者にとっても負担が軽減される効果が期待されます。
また、複数の患者を同時に、かつ並行して診察・治療することが求められる救急現場においては、医師の身体的・精神的負担軽減を図り、医療安全確保にも有効なものとして、現場の医師からも評価されています(厚生労働省パンフレット「未来の医療を支える特定行為研修のご案内」記載)。

3.在宅医療・訪問看護における業務でのイメージ

特定行為研修を受講した看護師に最も期待されている役割とは、在宅療養を送っている患者対応の場面です。
例えば、終末期を迎えている在宅療養患者のケースでは、患者の状態や症状の経過を理解しているため、適切な処置を適切な時期に行うことが可能になり、患者の苦痛軽減につながります。
また、患者・家族の希望する在宅医療の実現に近づき、ひいては患者の意思とニーズに対応した在宅医療の推進を図るという効果も期待されています。

医療における人材不足は、早晩解決できる課題ではありません。
しかし、医師やコメディカルで構成するチーム医療の実践により、業務負担の軽減を図ることができます。
外来診療では、看護師による手順書に基づく特定行為の実施がその一端を担うことになります。
そして、特定行為を行う看護師の役割は、高齢化の進展とともに、在宅医療において最もその可能性が期待されています。

 

■参考文献
厚生労働省ホームページより
「特定行為に係る看護師の研修制度について」
「特定行為に係る看護師の研修制度に関するQ&A」
「未来の医療を支える『特定行為研修』」
「『特定行為』に関する看護師の研修制度が始まります」
公益社団法人 全日本病院協会「特定行為に係る手順書例集」(平成28年2月)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。