同一労働同一賃金への対応期限が迫る不合理な格差を是正する雇用改善のポイント

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同一労働同一賃金への対応期限が迫る不合理な格差を是正する雇用改善のポイント

  1. 働き方改革が目指している「同一労働同一賃金」
  2. 2つのキーワード「均衡待遇」と「均等待遇」
  3. 格差是正に対応する給与制度の設計ポイント
  4. 非正規社員の定着につながった成功事例

 


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1.働き方改革が目指している「同一労働同一賃金」

1.「働き方改革」推進の背景

わが国では、2000年代に入ってからパートタイムや契約社員、派遣社員などの非正規雇用労働者の比率が大きく増え、この数年は4割弱に達しています。
一方、大胆な金融緩和後の景気回復とともに、構造的な人口減少が進む中で、若年層やパートタイムの人手不足感が急速に拡がってきています。
有効求人倍率はバブル景気当時の水準を超え、高度経済成長期に匹敵する高さになりました。
中でも正社員の有効求人倍率は、調査開始以来、最高記録を更新し続けています。
企業としては、これまで正社員の脇役と位置づけることが多かった女性や高年齢者、外国人、障がい者などに雇用の幅を広げて、多様な人材を活用する必要に迫られています。
本稿では、働き方改革関連法のうち、同一労働同一賃金に着目し、企業が構築するべき人事制度改定のポイントをまとめました。

労働力人口の推移

2.「働き方改革関連法」の3つの目的

2018年6月に「働き方改革関連法」が成立し、同一企業・団体における正規雇用と非正規雇用(パートタイマ―・契約社員・派遣労働者)の間に不合理な待遇差の解消を目指す「同一労働同一賃金」が大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月から適用されます。
法案成立の背景は、現在の日本が直面している雇用形態による待遇差、長時間労働等種々の課題を包括的に解決することにあります。
働き方改革関連法は、3つの目的を果たすために改正されました。

働き方改革関連法における3つの目的、働き方改革関連8法の概要

3.「同一労働同一賃金」ガイドラインに示された考え方

今回の法改正で目指している「同一労働同一賃金」は「均等・均衡待遇の理念」に基づき「差別的取扱い及び不合理な待遇の禁止」にあります。
賃金に関することはもちろん、賃金以外の福利厚生や教育等も射程に入れたものになっており、その内容は厚生労働省におけるガイドライン案に示されています。

ガイドラインに示された基本的な考え方

ガイドライン案では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の給与支給に格差が生じないための取り組みについて解説しています。
本案は、同一労働同一賃金の原則な考え方や基本給や諸手当などで起こりやすい待遇差の典型的な事例(問題になる例、ならない例)などで構成されています。

同一労働同一賃金ガイドライン 要約【抜粋】

2.2つのキーワード 「均衡待遇」と「均等待遇」

1.「均衡待遇」と「均等待遇」について

「同一労働同一賃金」を理解する上で2つの重要なキーワードがあります。
それは「均衡待遇」と「均等待遇」です。

「均衡待遇」と「均等待遇」

「均衡待遇」と「均等待遇」の根本にある考え方は、「職務の内容に違いがあるのであれば違いに応じた賃金を支払い、同じであれば同じ賃金を支払わなければならない」というものです。
その判断基準は、以下のとおりになります。

■均衡待遇の規定(新パートタイム・有期雇用労働法第8条)

均衡待遇を判断する際に次の3つの要素を考慮した上で、正社員とパートタイム・有期契約社員の間において不合理な待遇差があるかどうかが判断され、不合理であればその待遇差が禁止されます。

均衡待遇の規定

■均等待遇の規定(新パートタイム・有期雇用労働法第9条)

均等待遇を判断する際に次の2つの要素を考慮した上で、同じであれば差別的扱いが禁止されます。

均等待遇の規定

2.不合理な待遇差の点検・検討手順

働き方改革関連法は、同一の企業・団体における、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を是正することを目的としています。
事業主が不合理な待遇差がないかを点検し、対応策を検討するための手順は以下のとおりです。

正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を点検・検討する手順

不合理な待遇差を点検・検討する具体的な方法

3.格差是正に対応する給与制度の設計ポイント

1.役割に基準を置き等級制度を設計

前章で解説したとおり、中小企業においても同一労働同一賃金への対応は必要となっています。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、賃金の均等待遇と均衡待遇を実現するためには、人事制度の基本となる等級制度を整備することが有益になります。
その対象は正規雇用労働者だけでなく、非正規雇用労働者まで広げ、その相互関係を明確にすることが必要となります。
そしてその等級制度に対応した賃金制度を構築することが望ましいです。
等級制度と賃金テーブルの対応関係のイメージは以下のようになります。

等級制度の設計ポイント、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の等級・賃金の均等待遇と均衡待遇のイメージ

2.非正規雇用労働者への公平な賃金を実現させる要素別点数法

厚生労働省では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の均等・均衡を図るために、仕事の大きさを正社員と比較する「職務評価」を推奨しており、その中でも公平な賃金を実現できる要素別点数法を紹介します。
要素別点数法のメリットは、職務内容を構成要素ごとに点数化し、その大きさを比較することができるため、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の均等・均衡待遇がどの程度確保されているかをチェックすることができ、非正規雇用労働者の果たしている職務をより正確に把握し、納得性を高めるために役立てることができる手法です。

要素別点数法とは

要素別点数法による職務評価は、「職務評価表」を用いて職務評価ポイントを算出して行う方法です。
職務評価表は、下記の3つの要素から構成されています。

要素別点数法の導入ポイントと導入例

3.基本給・賞与・諸手当のガイドラインにおける解釈

ガイドライン案おいて、様々な待遇差が存在する賃金制度となっている場合に、その差が不合理な制度に該当するかどうかの有無を示しています。
給与の支給項目別に問題になる例と、ならない例について紹介します。

(1)基本給のガイドラインにおける解釈

基本給のガイドラインにおける解釈

(2)賞与のガイドラインにおける解釈

賞与のガイドラインにおける解釈

(3)手当のガイドラインにおける解釈

手当のガイドラインにおける解釈

4.非正規社員の定着につながった成功事例

1.正社員転換制度で経験を積んだ人材確保に成功した株式会社亀屋万年堂グループ

正社員転換制度で経験を積んだ人材確保に成功した㈱亀屋万年堂グループ

2.人事制度を一本化し、社員の定着率向上に成功した株式会社コープライフサービス

人事制度を一本化し、社員の定着率向上に成功した㈱コープライフサービス

3.非正規従業員の身分や生活の安定と向上を推進した株式会社白虎

非正規従業員の身分や生活の安定と向上を推進した㈱白虎

 

■参考文献
「同一労働同一賃金」菊谷 寛之 著(第一法規株式会社)
「同一労働同一賃金の法律と実務」服部 弘、佐藤 純編著、鵜飼 一賴、大原 武彦、島田 佳子、小島 史明、山口 寛志、佐野 吉昭、一丸 綾子 著(株式会社中央経済社)
「同一労働同一賃金Q&Aガイドライン・判例から読み解く」高仲 幸雄 著(経団連出版)
不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(厚生労働省)
厚生労働省ホームページ:多様な人材活用で輝く企業応援サイト

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