生産性向上と職場環境整備を実現 働き方改革を支援する助成金の概要

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

生産性向上と職場環境整備を実現 働き方改革を支援する助成金の概要

  1. 働き方改革で対応が求められる3つの課題
  2. 生産性向上に向けた社員の能力向上を図る助成金
  3. 長時間労働の是正策に係る費用を補填する助成金
  4. 同一労働同一賃金等の処遇整備時に使える助成金

 


この記事をPDFでダウンロードする。(企業経営情報)

1.働き方改革で対応が求められる3つの課題

2017年6月に「働き方関連法案」として成立し、2018年4月から一部が施行された働き方改革は、厚生労働省が中心となり、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、育児や介護との両立など、多様な働き方の実現を目指しています。
今回は、働き方改革が実現しようとしていることに対して企業が対応する際に、必要となる費用の一部を補えることができる助成金を紹介します。

1.働き方改革で求められていること

本法案は、現在の日本が直面している雇用形態による待遇差、長時間労働等種々の課題の包括的解決を目的とするものであり、3つの目的と8つの法律からなります。

働き方改革関連法案3つの目的、働き方改革関連法案一覧

働き方改革関連法案が求めるのは、今後予想されている労働力不足への対応を時間という量で解決するのではなく、働き方を変えて企業の生産性を向上させていくことです。

2.働き方改革への対応に活用できる助成金

働き方改革における3つの目的は、そのまま企業の課題と捉えることができます。
そして前頁で触れた生産性向上も今後の企業経営のキーワードになります。

働き方改革の目的と対応する課題,、企業経営における3つの課題

企業がこれらに対して取り組む諸施策には費用が掛かるものもあります。
例えば専門家による助言に対する費用や業務効率化のためのパソコンソフト導入費用です。
このような諸施策を実施していく際に企業が活用できる助成金があります。
国も働き方改革支援に力を入れており、多くの助成金メニューを用意しています。

働き方改革に関連する助成金一覧(抜粋)

3.3つの課題解決に向けた諸施策と対応する助成金

企業経営において、働き方改革の目的を実現するためには、(1) 生産性の向上、(2) 長時間労働の是正、(3) 同一労働同一賃金の実現の3つを主要課題としました。
実際にどのような対応策が必要で、その際に対応する助成金にはどのようなものがあるか下図にまとめました。

企業の取り組み課題と対応する助成金

(1)生産性向上

働き方改革全体のテーマともいえ、企業の取り組みとして社員教育を通じて能力向上を図り、企業の生産性の向上とともに企業成果を維持向上させていくなどの取り組みが想定されています。
こうした取り組みに対して人材開発支援助成金が用意されています。

(2)長時間労働の是正

残業時間の上限が設定され段階的に上限時間が引き下げられています。
その対応のために、勤務時間を流動的に設定したり、IT技術を活用して情報共有したりすることで業務効率を高め、労働時間短縮につなげるなどの取り組みなどに対して、時間外労働改善助成金が用意されています。

(3)同一労働同一賃金の実現

実現に向けては、非正規社員の正規社員への転換や職務内容の整備、給与表・諸手当の整備などが求められています。
また不合理なものになっていないかどうかを判断するガイドラインも示されおり、確認しながら整備していくことが必要です。
このような取り組みなどに対しては、キャリアアップ助成金が用意されています。
なお、助成金の受給には共通する要件があります。

助成金の共通申請要件

2.生産性向上に向けた社員の能力向上を図る助成金

働き方改革実現に向けた取り組みの中で、重要なキーワードは「生産性」であり、その向上のために設備投資や業務標準化などの取り組みを支援する助成金が拡充されています。
生産性向上の鍵を握る、社員の能力開発を支援する「人材開発支援助成金」と今年度拡充された「人材確保等支援助成金の働き方改革支援コース」の2つを紹介します。

1.助成金の受給額が増額する生産性要件とは

各種助成金にも生産性要件が設定されています。

生産性向上達成時の増額例

では、その生産性とはいったいどのようなものなのでしょうか。

(1)生産性要件

助成金を申請する事業所が、次の生産性要件を満たした場合に、助成金の増額を受けることができます。

生産性要件

(2)生産性の算定式

増額要件に必要な生産性の算定式は下記になります。

生産性の算定式

2.社員の能力開発時に適用可能な人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、社員に対して職務に関連する専門的な知識および技能の習得をさせるための職業訓練等を計画的に実施した場合に、訓練費や訓練期間中の給与の一部を助成する制度です。
社員の能力開発を積極的に行い、能力向上を図ることで生産性向上の実現を目指していく事業者を支援しています。
以下の7つのコースからなります。

人材開発支援助成金コース一覧

数多くのコースが設定されているため活用の機会が多い助成金の一つですが、申請にあたっては留意点があり、準備が必要です。

計画申請時の留意点

申請書類や研修受講処理の煩雑さから活用していない事業者もいますが、働き方改革が掲げる生産性向上に向けて社員のスキルアップは欠かせません。
助成コースも統合や拡充を繰り返しながら使いやすく、助成額も増額されています。
計画的な育成計画を作成し、積極的な活用を検討すべきです。

3.生産性向上の源泉となる人材採用時に使える人材確保等支援助成金

人材確保等支援助成金は、各企業が雇用管理改善、生産性向上等の取り組みを行い、社員の職場定着の促進等を図ることを目的としています。
各企業においては、「魅力ある職場」を創出し、現在就業している従業員の職場定着等を高めることが必要です。
さらに2019年度からはこれまでに加え、働き方改革支援推進コースが新設されました。
こちらのコースを中心にポイントを確認します。

(1)人材確保等支援助成金の概要

この助成金は、生産性向上に資する設備等の投資を行ったり、給料アップ等の雇用改善を図ったりする企業に対して支給されるもので、以下の10コースがあります。

人材確保等支援助成金の概要

(2)働き方改革支援コースの概要

今年度より新設され、中小企業のみが対象の助成金です。
中小企業が新たに労働者を雇い入れ、一定の雇用管理改善を達成した場合に雇い入れた1人あたり60万円(上限あり)が助成されます。

対象事業者、支給要件、助成額

3.長時間労働の是正策に係る費用を補填する助成金

働き方改革において、数値目標として明確になっているのが長時間労働に対する取り組みです。
長時間労働に関しては日々報道されるなど社会問題化しており、労働者の心身の健康を守るためにも、その是正は重要な取り組み課題の一つになります。
この取り組みに対応する時間外労働改善助成金を紹介します。

1.長時間労働の是正に向けた目標値の確認

働き方改革関連法案において、労働時間に関する制度見直しは以下の3つが主要なものになります。
具体的な数値目標と導入スケジュールがあるのでしっかりと押さえておく必要があります(導入スケジュールは、2019年7月時点)。

長時間労働是正に向けた法整備

中小企業に対しては導入までの猶予期間がありますが、時間外労働削減に向けた取り組みは社員の意識改革や働き方の改善等々、一朝一夕には実現できないため早めに着手していくことが求められます。
その理由として、今回の働き方改革関連法整備において、労働基準法の規制値を遵守できない企業は、法的な罰則を受けることになりました(※1)。
こうした罰則を受けないために整備するのでなく、自社で働く方の心身の健康を保つために、主体的に整備していくことが望まれます。

※1)労働時間等に対する罰則:6ヶ月以下の懲役または、30万円以下の罰金となります。

2.時間外労働上限コースの概要

時間外労働時間の削減だけでなく、働き方(在宅、シフト勤務)等を工夫したり、社員の意識改善を図ったりする事業者への助成金として時間外労働改善助成金があり、以下の5つのコースが設定されています。

(1)時間外労働改善助成金5つのコース

時間外労働改善助成金5つのコース

上記の中でも労働時間改善に重要な、時間外労働上限設定コースと職場意識改革改善コースの2つを取り上げ、ポイントを確認していきます。

(2)時間外労働上限設定コース

このコースは、時間外労働の短縮を目標値して申請し、その達成に向けた費用の補助を受けることができます。
要件を充足するためのポイントを確認します。

対象事業主、成果目標、助成金の支給対象となる10の取り組み、支給額

(3)職場意識改善コースの概要(申請期限2019年9月30日)

ワークライフバランスを推進するための制度で、労働時間や有給休暇消化率の改善度合いに対して助成金を受給することができます。
政府は2020年目標として、「週労働時間60時間以上の雇用者5割減」「年次有給休暇取得率70%の達成」を掲げています。

対象事業者、成果目標、助成金の支給対象となる取り組み、支給額

4.同一労働同一賃金等の処遇整備時に使える助成金

働き方改革で求められる対応の一つに、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者(以下、「有期契約労働者等」という。)といった非正規雇用の労働者と正規雇用労働者との間にある処遇格差是正を図る必要があります。
その際には、同じ職務内容等であれば同じく処遇する、いわゆる同一労働同一賃金への対応が求められます。
企業がこの対応を推進する際に活用できる助成金を紹介します。

1.キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金は、有期契約労働者等に対して正規社員への転換やスキルアップ、昇給等の取り組みを実施し、待遇改善やキャリアアップにつなげる企業に対して行う助成制度です。
2019年度は、以下の7つのコースがあります。

キャリアアップ助成金 全コース

キャリアアップ助成金は、有期契約労働者等に対する諸施策を実施する際に活用できるものが多くあります。
次に、企業での取り組みが比較的多い、正社員化と給与体系整備時に活用できる2つのコースについて紹介します。

2.正社員化コースの概要

有期契約労働者等を正規社員に転換することで支給される助成金です。
対象者や実施策等に諸条件がありますが、比較的申請手続きも複雑ではないので活用したいコースです。
以下、助成額、対象者、申請の流れと留意点を確認します。

助成額、対象となる社員、申請の流れと留意点

3.給与体系整備時に活用できる2つのコース

キャリアアップ助成金のうち、賃金規定等共通化コースと諸手当制度共通化コースは、基本給のほか住宅手当や通勤手当、また賞与の支給有無などの見直し時に活用できます。
それぞれのポイントを確認していきます。

助成額、対象となる整備内容

本稿で紹介した助成金だけでなく、働き方改革関連に対応する多くの助成金メニューが用意されています。
企業経営に資する活用をご検討ください。

 

■参考資料
「働き方改革対応・助成金」佐藤敦規
 厚生労働省助成金案内リーフレット:「人材開発支援助成金」「人材確保等支援助成金」
「時間外労働改善助成金」「キャリアアップ助成金」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。