意欲・能力を存分に発揮できる環境を作る働き方改革に対応した賃金制度改革

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意欲・能力を存分に発揮できる環境を作る働き方改革に対応した賃金制度改革

  1. 働き方改革で迫られる賃金制度改革
  2. 国が示す同一労働同一賃金の考え方
  3. 同一労働同一賃金を実現する賃金体系
  4. 格差是正につながった人事制度の導入事例

 


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1.働き方改革で迫られる賃金制度改革

1.「働き方改革」の背景

我が国は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化に直面しています。
このような環境のもとで、企業としては、自社の生産性向上、就業機会の拡大、および意欲・能力を存分に発揮できる労働環境を作ることが重要な課題になっています。
「働き方改革」は、これらの課題解決のために、厚生労働省が中心となり、労働者の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
今回は、働き方改革関連法のうち、同一労働同一賃金に着目し、企業が構築するべき人事制度改定のポイントをまとめました。

2.同一労働同一賃金の実現が義務化された「働き方改革関連法」

働き方改革関連法は、平成30年7月6日に成立し、公布されました。
平成31年4月1日に施行が予定されており、同法改正によって企業には次のような対応が求められています。
今回の法改正は、罰則規定も一部設けられている点において、強制力のある改正といえます。

働き方改革関連法の概要

3.「同一労働同一賃金」先進国の欧州と日本の違い

同一労働同一賃金を考えるにあたって、よく引き合いに出されるのがヨーロッパ各国です。
例えばドイツでは、パートタイム労働者の時間あたり賃金がフルタイム労働者の8割、フランスでは9割とほぼ正規雇用者に近い水準となっています。
一方、日本では6割弱になっており、正規・非正規間の格差が大きいことが一目瞭然です。

諸外国のフルタイム労働者とパートタイム労働者の賃金水準

実は現在の日本の法律では労働契約法20条やパートタイム労働法8条によって「不合理」な格差を設けることは既に禁止されているのです。

パートタイム労働法第8条

現行法では、具体的な内容についてまで触れられていません。
裁判所によって最終的に判断される模範的概念であり、合理性・不合理性の判断が難しいため、問題がある場合でも労働者が訴訟を起こすなどしなければ是正されないのが実情です。
そこで、待遇差について何が不合理で何が合理的かの具体例を明示し、最終的には強制力を持たせるのが法改正のねらいでもあります。

2.国が示す同一労働同一賃金の考え方

1.同一労働同一賃金ガイドライン案の概要

国は、同一労働同一賃金を実現するために、平成28年12月20日に同一労働同一賃金ガイドラインを作成しています。
現時点では「案」の段階であり、今後、関係者の意見や改正法案についての国会審議等を経て、平成32年4月1日に施行される予定です。
ガイドラインでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の給与支給に格差が生じないための取り組みについて解説しています。
ガイドライン案は、同一労働同一賃金の原則な考え方や基本給や諸手当などで起こりやすい待遇差の典型的な事例(問題になる例、ならない例)などで構成されています。

ガイドライン案の主要4項目

また、ガイドライン案は、同一賃金の支給を求めるなど従来の法律では踏み込んでいない領域にも踏み込み、どのようなときに同一賃金が必要かを示しています。
均等を原則としながらも、労働者間に違いがあることを許容しています。
そのため、どのような違いまでなら許容されるのかが実務には重要になりますが、現在のガイドライン案では不十分さを指摘する声も少なくありませんが、準用することで期待できる効果とデメリットは、以下のようにまとめることができます。

準用することで期待できる効果とデメリット

2.ガイドライン案における給与支給のポイント解説

ガイドライン案は、同一の企業・団体における、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を是正することを目的としているため、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に実際に待遇差が存在する場合に参照されることを目的としています。
ガイドライン案の給与支給におけるポイントは、以下のとおりです。

ガイドライン案の給与支給におけるポイント

多様な働き方がある昨今、「正社員だから」「勤続年数が長いから」「年齢が高いから」という理由だけで高い賃金がもらえる時代ではありません。
不合理な待遇差の有無を早期に点検し改善に努める必要があります。

3.ガイドラインが示す待遇差で問題となるケース

ガイドライン案において、様々な待遇差が存在する賃金制度となっている場合に、その差が不合理な制度に該当するかどうかの有無を示しています。
基本給や賞与、手当など、給与の支給項目別に問題になる例とならない例について紹介します。

(1)基本給で問題となるケース

職能給制度を運用

ただし、キャリアコースを目指している無期雇用フルタイム労働者Aさんが、その一環として、パートタイム労働者Bさんの指示を受けながらBさんと同様の定型的な業務を行っている場合、Aさんにとっては、あくまでキャリアコースの一環であることから、AさんがBさんよりも高い基本給を支給されていても、問題になりません。

年功給制度を運用

基本給を労働者の勤続年数に応じて支給しているA社において、有期雇用労働者であるBさんに対し、勤続年数を当初の雇用契約開始時から通算して勤続年数を加味した上で支給している場合は、問題となりません。

(2)賞与で問題となるケース

賞与で問題となるケース

業績等への貢献に応じ賞与を支給しているA社は、無期雇用フルタイム労働者であるBさんと同一の業績への貢献がある有期雇用労働者であるCさんに対して、Cさんと同一の支給をしている場合は、問題となりません。

(3)手当で問題となるケース

役職手当

無期雇用フルタイム労働者Aさんと同一の役職名で、役職の内容、責任も同じ有期雇用パートタイム労働者Bさんに、Aさんに支給している役職手当の労働時間に比例した分を支給する場合は、問題となりません。

深夜・休日手当

無期雇用フルタイム労働者であるAさんと同じ時間、深夜、休日労働を行ったパートタイム労働者であるBさんに、同一の深夜、休日手当を支給している場合は、問題となりません。

通勤手当

お、採用圏を隣接する市町村に限定しているパートタイム労働者のAさんが、その後、本人都合で採用圏外へ転居し、当該圏内の支給ルールに基づき、その上限までを支給している場合は、問題となりません。

3.同一労働同一賃金を実現する賃金体系

1.社員の役割・資格・能力を等級制度で体系化

同一労働同一賃金を実現するためには、まずは、雇用形態別に社員の役割、資格、能力を等級制度によって体系化することが必要です。
以下の表は、非正規社員であるパート、地域限定正社員、正社員の関連性を示したものです。
それぞれの役割や責任の度合いを資格によって示し、資格が上がると給与がアップする仕組みを取り入れることにより、公平な賃金制度を構築することが可能になります。

従業員区分と資格・役割体系図例

賃金を決定する際には生活給への配慮も必要ですが、能力や職務の内容と乖離が生じる可能性があるため、同一労働同一賃金を実現するためには、雇用形態、年齢、勤続年数等によって賃金が決定する仕組みからの脱却が求められます。

2.非正規社員の賃金改善につながる要素別点数法

非正規社員が増加し、すでに基幹的な役割を担う社員が増加する一方で、その働き・貢献に見合った待遇が得られていない場合もあります。
厚生労働省では、非正規社員と正社員の均等・均衡を図るために、仕事の大きさを正社員と比較する「職務評価」を推奨しており、その中でも公平な賃金を実現できる要素別点数法を紹介します。
要素別点数法のメリットは、職務内容を構成要素ごとに点数化し、その大きさを比較することができるため、パートタイム労働者と正社員の均等・均衡待遇がどの程度確保されているかをチェックすることができ、パートタイム労働者の果たしている職務をより正確に把握し、納得性を高めるために役立てることができる手法です。

要素別点数法とは、要素別点数法のイメージ

要素別点数法による職務評価は、「職務評価表」を用いて職務評価ポイントを算出して行う方法です。
職務評価表は、下記の3つの要素から構成されています。

要素別点数法の導入ポイントと導入例

4.格差是正につながった人事制度の導入事例

1.正社員転換制度で経験を積んだ人材確保に成功

正社員転換制度で経験を積んだ人材確保に成功

同社は、昭和24年に設立されたセロファンを中心とする包装紙販売業です。
同社における契約社員及び派遣社員の1年以内離職率は7割と高く、退職理由として「自分に合わない」、「きつい」、「機械操作を覚えられない」等を挙げる者が多くいました。
パッケージデザインや印刷という業務説明から受ける印象と、実際の業務(印刷機等の機械操作)に差異があるためではないかと推察されていました。
一方で、正社員の定着率は高く、退職者はほとんどいません。
また、業務に適性があると感じた契約社員や派遣社員の多くは正社員転換を希望するため、適性があるとみられる契約社員については正社員に転換させてきました。
これを制度として確立するために平成26年4月に正社員転換制度を整備し、就業規則に条項を追加しました。

【契約社員の正社員転換試験では面接試験を実施】

正社員転換試験を受験する要件は、(1) フルタイム勤務が可能であること、(2) 契約社員として勤務した実績を踏まえて所属長の推薦を得ること(勤務経験1年以上が目安)、(3) 営業職の場合は転居を伴う異動が可能であること、の3つとなっています。
転換を希望する者が要件を満たしている場合には、人事担当課が面接試験を実施し、面接の結果が良好だった者にはレポートの提出を求め、合格者を正社員に転換させています。
ここで提出するレポートは、正社員になったらどのようなキャリアビジョンを持っているか、現場の担当者としてどのような改善提案をしていきたいかといった内容のものです。
これを提出してもらうことにより同社として今後どのように成長をサポートしていくかを考え、本人は仕事に対する想いや夢を再確認する、またこれからのキャリアについて考えるきっかけとしています。

【派遣社員も契約社員と同じ要件で正社員として採用】

派遣社員の場合も、業務に対する適性が高い者は、契約社員の正社員転換と同じ要件で、契約満了後に正社員として採用しています。
派遣社員の正社員転換に当たっては、平成24年度より派遣労働者雇用安定化特別奨励金を数回にわたって受給しています。
業務に適性があると感じた契約社員や派遣社員の多くは正社員転換を希望するため、業務経験を積んだ人材確保に成功しました。

制度導入の効果

2.優秀な人材を有効活用する正社員転換制度

優秀な人材を有効活用する正社員転換制度

同社は、福岡を拠点に、生協組合員を対象にした損害保険及び生命保険等の保険代理店業務を主事業としています。
優秀なパートスタッフに正社員として働きたいという思いを持つスタッフがいて、企業側も優秀なパートスタッフを正社員として受け入れ、更なる活躍を促したいと考えていました。

【優秀な人材を有効活用するため正社員とパートスタッフの人事制度を一本化】

優秀なパートスタッフを正社員として転換する場合の対応を具体化するため、平成21年度に正社員とパートスタッフの人事制度を一本化し、刷新しました。
具体的な内容としては、等級制度・人事考課制度の見直しや正社員転換制度の導入、賞与や退職金の支給方法の見直し等です。

【正社員として多様な働き方を柔軟に選択し、行き来できる仕組み】

正社員転換後の労働時間は、本人の希望に基づきフルタイム(7時間15分)及び短時間(6時間)から選択できます。
また、転換直後は短時間勤務であっても、その後本人が希望すればフルタイムに移行することが可能です。
フルタイムと短時間の相互の移行に回数の制限はありません。なお、短時間勤務の場合の賃金は、フルタイムの場合の時間案分で設定されており、時間当たり賃金は同一です。
育児・介護を理由とするほか、県外への転居等特別な事情が認められる場合にはフルタイムから短時間への移行も認められます。
また、一般職区分の正社員に転換後、本人が希望し、企業側が認めれば総合職区分への移行も可能となっています。

制度導入の効果

 

■参考文献
『働き方改革実現の労務管理』宮崎 晃、西村 裕一、鈴木 啓太、本村 安宏著(中央経済社)
『働き方改革法の実務』川嶋 英明著(日本法令)
『厚生労働省ホームページ』(働き方改革の実現に向けて)」
『同一労働同一賃金ガイドライン案』 平成28年12月20日』政府働き方改革実現会議」

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