患者のファン化で安定した経営を目指す 満足度向上で固定患者を獲得するポイント

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患者のファン化で安定した経営を目指す 満足度向上で固定患者を獲得するポイント

  1. 患者満足度が重要視される背景と要因
  2. 初診時の対応がリピート率向上に影響
  3. 患者満足度向上がリピート率を高める
  4. リピート率を高めたクリニック事例


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1.患者満足度が重要視される背景と要因

1.医療に対する患者の捉え方

医療法人制度が施行された昭和25年当時は戦後間もなく、感染症等の急性期患者が中心の時代で、全国的に医療機関の量的整備が急務とされていました。
こうした現状のもと、公的機関のみでは供給が間に合わず、民間の協力も必須となりました。
現在、医療機関は飽和状態となっており、開業すれば患者が来る、何もしなくても患者を維持できる時代ではなくなりました。
少し足を延ばせば、同じ標榜診療科の医療機関があり、患者が自分好みの医療機関を選ぶ時代へと変わりました。

医療に対する患者の捉え方の変化

また、国の政策としても患者主体の医療の提供が推進され、次第に患者意識にも変化がみられるようになり、医療機関経営の観点から、患者主体の医療提供(サービス)が重要視されるようになりました。

2.患者が期待する医療提供(サービス)

患者の高齢化により、長期にわたって適切な医療を提供できる関係性を維持することが求められ、患者と医療機関、医師など医療従事者との信頼関係・良好なコミュニケーション構築がより重要となってきました。
患者の意見や意向を受け止め、家庭環境や経済状況などの背景も踏まえて、患者個々に合わせた最適な医療サービスの提供が期待されています。
患者に寄り添ったサービスを提供した結果、患者が医療機関に期待する「納得・安心・ 満足」というキーワードを全て満たし、当該医療機関が提供する医療サービスは「良い」という評価を得られることになります。
高度で優秀な技術を提供したとしても、サービスが「良い」と評価されなければ、患者からの信頼も選択も得られることは困難となります。

受療時の患者満足度イメージ図

3.新型コロナウイルスで変わる患者意識

(1)新型コロナウイルス感染症拡大による生活と意識の変化

昨年10月の公表された、公益社団法人 日本医師会「第7回 日本の医療に関する意識調査」によると、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の蔓延により82.1%の国民が生活の不安を感じ、96.8%が外出自粛要請に従っていました。
また、強制的な外出禁止や休業などが必要と考える人の割合が93.6%にのぼり、新型コロナが患者に与えた影響として、外出自粛による受診控えが起こり、昨年ほどではありませんが、今も少なからず受診控えが続いていると考えられます。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大による生活の不安(n=1,212)、国の外出自粛要請に従ったか(n=1,212) 強制的な外出禁止・休業は必要と思うか(n=1,212)

(2)医療機関受診への不安

医療機関の受診が不安と回答した割合は69.3%にのぼり、患者の医療機関受診に対する不安が高まっていることがわかります。

医療機関の待合室などで感染症に感染する不安

こうした調査結果から、医療機関は受診に不安を抱える患者に対して、どのようにして医療サービスを提供していくかを真剣に考えていかなければならない時代に入ったと考えられます。

4.患者満足度向上による自院への影響

外来診療による自院の収入は、患者数と通院回数、平均点数により決まります。
よって、収入を増やすためには患者数を増やすか、通院回数を増やすか、平均点数を上げる必要があります。
患者満足度が高まることで以下のことが期待できます。

患者満足度が高いことによる影響

2.初診時の対応がリピート率向上に影響

1.患者満足度を向上させるための課題

(1)患者への課題

患者満足度を構成する要素として、「医師・看護師等の専門技術能力」、「医師・看護師等の対人マナー」、「医療機関の設備・利便性」、「プライバシー保護」、そして「感染対策」などが考えられます。
特に、外来患者に対しては、医師・看護師等の専門技術能力はもちろんのこと、接遇力や感染対策の影響が大きいものと考えられます。

(2)職員間連携への課題

患者満足度を高めるためには個々での対応では不十分であり、一貫性のない対応は患者の不満原因となりえます。
職員連携を高めチームとして患者を診ていく体制をとる必要があります。
また、このような職員間による接遇の差を無くす取り組みも必要です。

(3)職員のモチベーションへの課題

医療機関サイドがいくら高い目標や患者満足度を上げる取り組みを行っても、対応する職員のモチベーションが低ければ期待する結果は得られません。
職員満足度向上に向けた取り組みが、患者満足度向上のためには必要となります。

(4)適切な職員数の配置への課題

患者満足度向上に向けた取り組み計画があり、職員のモチベーションが高い状況であっても、職員数が足りず実行に移せなければ絵に描いた餅となってしまいます。
計画に必要となる職員数を確保することも考慮しなければなりません。

2.継続受診の判断要素となる初診時の医師の対応

(1)初診時の対応課題

患者は初診時に、次回受診を同一の医療機関で行うかを判断しています。
患者は何を基準に継続受診か医療機関変更を決定しているか理解することが必要です。

継続受診に繋がらない要因

①と②については、患者への説明不足や患者自身の理解が必要です。
例えば、検査結果から、数値上特に問題ないと医師が伝えても、患者側が痛みや不調が改善していない場合不満に繋がり、信頼できない医師と判断されてしまう可能性があります。
③については、患者はお客様という視点でみると、次回以降利用を控える方が多いと思います。
④と⑤については、限られた診察時間でも根拠を示して丁寧に病状や治療方針を説明することが求められます。
説明の際には、画像や検査データ、模型、絵などを用いて患者が理解できるように努めます。
この時患者の多くが求めていることは、明確な病名とその原因です。
患者目線で何を知りたいのか、何を求めているのかを探り応えていかなければなりません。
⑥については、患者の話に耳を傾け聞くことが必要です。
患者が自分の思いや話を聞いてくれない、わかってくれないと判断すると継続受診することはないでしょう。
このように、患者は初診時に継続受診を判断していることが多く、ここでの対応は非常に重要となります。
前章で述べましたが、患者は最善の治療を求めて受診します。
ここで、患者の期待が診療内容を上回ってしまうと不満に繋がり、医療機関を変更するという判断をします。
患者は継続受診をする中で徐々に信頼感を高めていき、異なる新たな傷病を発生した際には、信頼できる医師に診てもらいたいと思うようになるのです。

(2)患者との信頼関係を構築するためのポイント

初診時に短時間で患者にある程度信頼してもらい、継続受診を選択してもらうために求められることは以下の2つです。

初診時に求められるポイント

①については、病気の発見、病名や病状の改善など医師としてのスキルが求められます。
また、画像や検査データ、模型、絵などを用いて丁寧に説明していきます。
仮に1回の受診で治癒しなかったとしても、病状が改善したり、軽度で済めば納得が得られ満足させることができます。
②については、患者との良好な関係を築くために必要となります。
先ずは患者の話に耳を傾け、訴えと意向を確認します。
患者に共感し、経済的事情など、患者の背景を含めた医療管理をしていくことが求められます。

(3)自己分析と患者満足度の把握

ファン患者を獲得するためには、客観的な自己分析が必要となります。

自己分析のポイント

また、患者の動向を見ることで、医師に対してどのような評価を下したかを確認します。
医師自ら観察することは難しい部分もありますが、他職員の協力のもとある程度探ることは可能です。

受診結果に満足したか確認するポイント

3.患者満足度向上がリピート率を高める

1.患者対応力の強化

(1)患者満足を引き出す説明

患者から、「先生の説明は病気の説明でしかなくて物足りない」という話を聞きます。
患者は、日常生活上どのように対応していったらよいかという具体的な説明を求めています。
医師と患者が考える「説明」に対する認識のズレが、患者の不満につながっていることが多いようです。
患者数が多く、医師から十分な説明ができない場合でも、看護師など他の職員から患者の生活を中心にした説明を行うことが必要と思われます。
例えば、「血液検査の結果、この数値はなかなか下がりませんが、食事や日常生活でこの点に注意をしていけば悪化が食い止められます」という具合に説明します。他にも患者の気持ちに対する共感、同調の言葉をプラスできると良い印象を与えます。
病気や薬の知識が豊富であることは当然ですが、患者が本質的に知りたいのは、自分の生活がどうなるかという視点だと思われます。
この気持ちを忘れずに患者への説明を心掛けるようにします。
ただし、医師一人では十分な説明時間が取れないことも多いため、職員にも同じような気持ちで患者に接してもらえるよう継続的な研修が必要となります。

(2)患者を気遣う一言でファン患者を増やす

院内での声掛けは、とても大切なことです。全員に同じ言葉をかけるのではなく患者に合わせた声がけも必要となります。
また、「マニュアルに書いてあるから話しかける」、「聞かれた質問だけに答える」、「知っている患者だからお話する」のでは、十分な対応であるとはいえません。
患者だけでなく、周囲の人も笑顔になるようなプラスの一言を添えるだけで、患者との関係が良くなる可能性があります。

患者を気遣う一言例

2.患者ロイヤリティを高める

患者満足度が高まると、診療サービスを提供してくれた医療機関に対するロイヤリティ(忠誠心)が生まれ、「継続した受診意向」や「家族や友人への紹介意向(口コミ)」というかたちで、自院に安定した利益をもたらします。
患者は治療を目的に来院しますが、無意識のうちに心のケアを求めている方もいます。
現在のコロナ禍において、コミュニケーションが不足している中、医師をはじめとする職員に自分の不安や思いを聞いてほしいと願っている患者は一定数いると思われます。
こうした環境下では、医師や職員が少しでも患者に寄り添い思いを聞いて不安を少しでも解消することで患者はその医療機関に好印象を抱きます。
継続受診や口コミを増やすために、医療機関の設備や医師の技術は大事ですが、職員間の統一した対応・連携も重要となります。
職員間で連携が取れていて、情報を共有し診療に当たっていることが患者に伝われば、安心感や信頼感が生まれ、他人に紹介したくなる医療機関となります。

3.新型コロナ感染対策と受診しやすい環境づくり

院内での感染リスクが懸念されている中、院内感染への不安による通院控えによって、定期通院が必要な患者が治療できず、病気の悪化や再発を起こしてしまうリスクが考えられます。
感染対策を行うことにより、患者の心理的な負担を軽減することができます。

院内感染対策の例

4.職員満足度向上が患者満足度向上に繋がる

患者満足度を向上させ、患者を確保していくためにはどうすればよいか、組織全体で考え、施策に取り組む必要があります。
医療は「人」が「人」に対して直接サービスを提供する数少ない産業であり、全費用のおよそ半分を人件費が占める、極めて労働集約的な産業であるといえます。
職員の満足度が向上することは、離職率の低下に繋がります。
ベテラン看護師がいることで業務効率化が実現するとともに、新人の教育も充実していきます。
新人の成長が早まれば、医療サービスの質も向上していきます。このことで患者満足度が高まり、患者が患者を呼び、安定した収入が期待できます。
このようなプラスのスパイラルを維持していくためには、先ずできることはやると覚悟を決めることです。

職員満足度向上によるプラスのスパイラル

患者のリピート率が低く、新規の患者が多いケースでは、今までの広告宣伝費用等を既存の患者満足度向上のために投資することも一つの方法です。
自院のファン患者を増やすことが安定経営への近道であると考えられます。

4.リピート率を高めたクリニック事例

事例1|患者の治療意欲を促進したAクリニック

(1)Aクリニックの概要

Aクリニックは専門外来を開設し、栄養指導や運動教室など専門職による個人ケアの要素を取り入れることで、患者の治療に対する意欲を促進させてリピート率を高めた事例を紹介致します。

Aクリニックの概要

(2)リピート率を高めることに繋がった具体的な施策

患者の治療意欲を高めるため、栄養指導や運動教室などでは、検査数値や各種スコアを患者に示し、前回計測時と今回計測値の違いを知ることができます。
毎回良い結果が出るとは限りませんが、前回より良い結果が出れば、患者は自分の努力が報われたと感じ、治療の成果を実感することができます。
その結果、継続治療のモチベーションが上がりリピート率の向上に繋がっています。
また、リピート率が高い背景として職員が患者と接する姿勢も要因の1つです。
同院では、「指導」という形ではなく、「寄り添う」ことを重要視しています。
長期的に患者との関係性を築いていくため、職員間連携を徹底し安心して通院できるよう心掛けています。

事例2|患者自身を診ていくことで継続受診に繋がったBクリニック

(1)Bクリニックの概要

Bクリニックは、患者が100歳になった時を想定して、治療方針や薬の処方、生活への助言を行っています。
ただ目の前の1つの病気を治療するのではなく、患者自身を継続して診ていくといった姿勢が継続受診に繋がっている事例を紹介致します。

Bクリニックの概要

(2)継続受診には患者とのコミュニケーションが大事

コロナ禍においても、外来継続には患者とのコミュニケーションが重要であると考えています。
必要な検査を行い、検査の結果を患者目線でわかりやすく伝えることで患者は安心することができます。
特に、糖尿病のような生活習慣病を患っている患者は、治療は生涯にわたって続いていくことになるので、コミュニケーションが非常に大事になります。
100歳まで生きるためには何が必要かを検査していることを患者に伝え、患者は納得して受診し続けています。
患者からの些細な質問にも応え、専門外のことについては先生を紹介することで、患者は自分を網羅的に診てくれていると感じているようです。

(3)毎月来院したくなるサービスを提供

患者を継続して診ていくためには毎月来院してもらうことが必要と考え、例えば、患者には来月受診した際には血液検査の結果を詳しく説明することを伝えています。
そうすることで、患者は来月受診した際の検査結果が気になり、足を運ぶことになります。
毎月の来院を促し、100歳までを想定した患者サービスが継続受診に繋がっています。

事例3|丁寧な説明で患者の治療意欲を高め、継続受診に繋げたCクリニック

(1)Cクリニックの概要

Cクリニックは睡眠時無呼吸症候群を専門の1つとする診療所で、高い専門性と患者視点で丁寧な説明で治療に対する意欲を高め、ガイドラインに基づいた治療を行い、結果を出して継続受診に繋げた事例を紹介致します。

Cクリニックの概要

(2)リピート率を高めることに繋がった具体的な施策

今までのノウハウを活かし、顔の骨格や体重の増加、筋肉のゆるみとのいびきや無呼吸の関係性、様々な治療とCPAPの有用性等について、専門用語を患者にもわかりやすい言葉に置き換えて説明し、検査数値についても数値の持つ意味をわかりやすく説明しています。
患者は高い専門性と確かな治療技術、丁寧でわかりやすい説明を通して継続受診の意思を固めているようです。

(3)患者が患者を紹介

初診患者は、院長の知り合いや産業医、他院からの紹介等で、「いびき」の症状を指摘されて当院に来院するケースが多いとのことです。
こうしてCクリニックの治療を受けた患者が好印象を抱き、知り合いを紹介して新たな患者獲得に繋がることもあるようです。
患者のリピート率を高めるためには、高い専門性はもちろんのこと、患者自身が継続受診したい、若しくはしなければならないと思えるサービスを提供できるかが大事であると考えられます。
コロナ禍、コロナ後においても患者との信頼関係構築は必須だといえます。

 

■参考資料
公益社団法人:日本医師会「第7回 日本の医療に関する意識調査」
MMPG:CLINICばんぶう2021年5月号

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