勤務環境改善と適正な労働時間を管理する医療機関における働き方改革

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勤務環境改善と適正な労働時間を管理する医療機関における働き方改革

  1. 医療機関における働き方改革
  2. 医療従事者の負担軽減と働き方改革の推進
  3. 労働時間に関する具体的対応策
  4. 働き方改革に向けた支援ツールと管理体制


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1.医療機関における働き方改革

1.医療機関における働き方改革の必要性

医療機関における働き方改革は、医師会を中心に厚生労働省等で議論が進められています。
2017年4月に「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が報告書をまとめ、今後の医療提供のあり方として、「働く人が疲弊しない、財政的にも持続可能なシステム」を確立することが必要であるとしています。
一方で、急速な改革は医療の崩壊につながる可能性があると懸念されています。
現在医療従事者は、日進月歩の医療技術や、より質の高い医療に対するニーズの高まり、患者へのきめ細かな対応が求められる傾向等により、長時間労働に拍車がかかっています。
医療従事者の働き方は、社会全体の課題として、提供側だけでなく患者側等も含め、医療提供体制を損なわない働き方改革を進めていく必要があります。
働き方改革を進める上で重要な医療提供体制については、医師の偏在問題への対応、地域医療構想の進展に向けた取り組み等が行われています。

医療提供体制の現在の状況

2.医療機関における働き方改革の法適用関係

2018年6月に働き方改革関連法が成立し、医療機関における適用関係が明らかとなりました。
それぞれの適用の時期は次の表のとおりとなっています。
このうち年次有給休暇、労働時間の状況の把握の規制及び産業医・産業保健機能の強化については、2019年4月から適用となります。
医師については、医師法に基づく応召義務などの特殊性を踏まえた対応が必要とし、改正法の施行5年後を目途に規制を適用するとされました。
また、医療界の参加の下で検討の場を設け、2年後を目途に規制の具体的なあり方や労働時間の短縮策などについて結論を得るとしています。

医療機関の規模別の適用関係(概要)

3.医師の労働時間短縮に向けての取り組み

医師の働き方については、「医師の働き方改革に関する検討会」において時間外労働規制のあり方や、医師の労働時間の短縮策についての検討を進めています。
2018年2月には「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」をまとめ、できることから自主的な取組を進めるように厚生労働省から都道府県等を通じて周知を図っています。

医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組(一部抜粋)

2.医療従事者の負担軽減と働き方改革の推進

1.医療従事者の負担軽減と働き方改革推進への対応

2017年12月に公表された2018年度診療報酬改定の基本方針では、医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進を基本方針の一つとして、下記のように基本的視点と具体方向性の例が示されました。

基本的視点、具体的方向性の例

これを受けて2018年度診療報酬改定では、「医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進」が4つの柱のうちの1つに設定され、チーム医療等の推進(業務の共同化、移管等)等の勤務環境の改善と業務の効率化・合理化が具体的な内容として盛り込まれました。
チーム医療の推進を進めるため、医師や看護師、コメディカルなどの専門職と、看護補助者、事務作業補助者等との役割分担をどうするかが改定の重要なポイントとされました。

チーム医療等の推進等の勤務環境の改善

2.医療従事者の負担軽減への対応

医師の負担を軽減させるため、医師事務作業補助体制加算の見直しが行われ、医師事務作業補助体制加算1及び2の評価を引き上げました。
また、勤務場所の要件の緩和として、対面を求めるカンファレンスにおける情報通信機器(ICT)の活用が認められるようになりました。
要件の緩和により、関係機関間・医療従事者間の効率的な情報共有・連携を促しています。

勤務場所に関する要件の緩和、対象となる診療報酬

3.業務の効率化・合理化

医療機関の業務の効率化の観点から、施設基準等の届出において、様式の廃止や提出する資料数の低減、届出する機会を減らす等の合理化を行うなど、施設基準等の届出等の簡素化・合理化の推進及び診療報酬に関するデータの利活用推進に向けて、診療報酬明細書等の請求時の対応の変更等を行いました。

施設基準等の届出等の簡素化・合理化

3.労働時間に関する具体的対応策

1.労働時間の適正把握

厚生労働省より、2017年1月20日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(以下、「本ガイドライン」という)が公開され、始業・終業時間の管理方法等が示されました。
ポイントは、労働時間の把握については客観的な記録を基礎とし、やむを得ず自己申告で労働時間を把握する場合は、労働者による適正な申告を前提とすることです。
使用者には労働時間を適正に把握する義務があります。
また、労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たります。
例えば、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間に該当します。

始業・終業時刻の確認・記録、始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法、自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置

2.時間外労働の上限規制への対応

労働時間は労働基準法によって上限が定められており、労使の合意に基づく所定の手続きをとらなければ延長することはできません。
また、時間外労働・休日労働をさせるためには36協定の締結が必要となります。

労働時間・休日に関する原則

これまで、時間外労働の上限は厚生労働大臣の告示によって基準が定められていましたが、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別な事情が予想される場合には、特別条項付きの36協定を締結すれば、限度時間を超える時間まで時間外労働を行わせることが可能でした。
今回の改正により、罰則付きの上限が法律に規定され、臨時的で特別な事情がある場合にも上回ることのできない上限が設けられました。

法改正のポイント

上限規制に適応した36協定を締結・届出を行った場合、次の段階として36協定に定めた内容を遵守するよう、日々の労働時間を管理する必要があります。
下記の労働時間の管理におけるポイントを守り、適正な労働時間となるよう心掛けることが必要です。

労働時間の管理におけるポイント

4.働き方改革に向けた支援ツールと管理体制

1.勤務環境改善支援ツール

厚生労働省は、医療勤務環境改善を図ることで医療従事者の勤務負担の軽減、働きがいの向上に繋がるだけではなく、患者には質の高い医療が提供され、経営にはコストの適正化や経営の質の向上が期待されるとしています。

医療勤務環境改善の意義

厚生労働省内に設置された医師の働き方に関する検討会では参考資料として医療機関の管理者に向けてのリーフレットが示されました。
このリーフレットは、働き方改革関連法の順次施行による医療機関の法適用情報や相談窓口について案内しています。

医療機関の法適用情報と相談窓口

2.36協定届の作成、届出支援ツール

36協定を届け出るに当たり、法律に定める要件を満たしていなければ受理してもらうことはできません。
協定した内容が法律の要件を満たしているか確認するためにオンラインで36協定届出ができるツール(36協定届の新様式作成ツールは2019年2月公開済。中小企業は2020年4月以降)があります。
また、36協定届や就業規則の届出など、労働基準法に係る届出等は、電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」により、電子申請が利用可能となります。電子申請を利用した場合、労働基準監督署に行く必要はありません。
※36協定届と36協定は別のものであり、届出は電子申請等を利用した場合でも、36協定には過半数労働組合又は過半数代表者の署名・押印が必要となります。

36協定届等作成支援ツールと電子申請

3.改革に向けた医療機関の管理体制

働き方改革や医療従事者の勤務環境改善に向けて、医療機関としてどのような管理体制を構築するかを考えなければなりません。
まずは、2019年4月から規制の対象となる医療従事者の勤務時間を客観的に把握することが重要となります。
36協定の定めを超えた時間外労働の有無の確認を行い、超過している場合は勤務超過解消に向けた取り組みが必要です。
また、医療機関の働き方を変えるには意識改革が求められます。
勤務環境改善に取り組む目的を定め、全体に周知させ、当事者主意識をもたせた主体的な改革を推進すべきです。

 

■参考資料
厚生労働省 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について
~時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
厚生労働省 医師の働き方に関する検討会
厚生労働省 医療従事者の勤務環境の改善について
厚生労働省 平成30年度診療報酬改定の概要
PHASE3 2018年11月号

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