感染症対策と働き方改革を推進 2022年度診療報酬改定の概要

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感染症対策と働き方改革を推進 2022年度診療報酬改定の概要

  1. 次期診療報酬改定の基本的方向性
  2. 外来・在宅医療に関する改定のポイント
  3. 入院医療に関する改定のポイント
  4. 働き方改革推進とその他改定のポイント


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目次

1.次期診療報酬改定の基本的方向性

1.2022年度診療報酬改定の方向性

(1)2022年度診療報酬は、前回に続き全体マイナス改定へ

次期診療報酬改定の改定率は、診療報酬本体部分が0.43%引き上げられた一方で、薬価、材料価格の引き下げの影響により、全体改定率は0.94%のマイナス改定となりました。
前回改定と同様に、全体改定率は引き下げられましたが、本体部分のプラス改定は今回で8回連続です。
本体部分の引き上げ幅には、看護職員の処遇改善への特例的な対応と不妊治療の保険適用のための特例的な対応の財源として、それぞれ0.2%、合わせて0.4%のプラス要因が含まれます。
その一方で、一定期間は再診を受けなくても繰り返し使えるリフィル処方箋※の導入・活用促進による効率化によりマイナス0.1%、小児の感染防止対策に係る加算措置(医科分)の期限到来でマイナス0.1%、合わせて0.2%のマイナス要因が含まれ、実質的な引き上げ幅は0.23%です。
※リフィル処方箋とは、一定の定められた期間内に反復使用できる処方箋のこと

2022年度診療報酬改定率等

(2)次期改定にあたっての基本認識

次期診療報酬改定に向けた議論の経緯を踏まえ、改定にあたっては次の4点が基本認識として示されました。

2022年度診療報酬改定の基本認識

2.次期改定の基本的視点と具体的方向性

次期診療報酬改定では、次のような基本的視点と具体的方向性を明示しています。

2022年度診療報酬改定の基本的視点と具体的方向性

2.外来・在宅医療に関する改定のポイント

1.外来診療時の感染防止対策の評価新設

2022年がスタートした中で、新型コロナウイルスの新規感染者数が再び増加しています。
2022年1月26日現在では、全国の34都道府県に新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置が発出されています。

新型コロナウイルス感染症の国内発生動向

こうした中、2022年度診療報酬改定では感染防止対策の強化が進められ、診療所における外来診療時の感染防止対策に対する評価が新設されることとなりました。
具体的には、平時からの感染防止対策の実施や、地域の医療機関等が連携して実施する感染症対策への参画を更に推進する観点から、外来診療時の感染防止対策に係る評価を行うとしています。
さらに、「外来感染対策向上加算」を届け出る場合には、「連携強化加算」と「サーベイランス※強化加算」の算定も可能となります。
なお、個別改定項目の点数等については今回作成時点の1月時点では未確定となります。
※サーベイランスとは、医療関連感染の発生状況を把握し、その評価を感染防止対策に活用すること

外来感染対策向上加算の概要

2.外来・在宅医療に関する改定とかかりつけ医機能評価の見直し

通院患者のスムーズな在宅医療への移行を推進する観点から、外来医療を担う医師と在宅医療を担う医師が、患家において共同して必要な指導を行った場合について新たに評価を行います。

外来在宅共同指導料の概要

2022年度改定では、かかりつけ医機能の評価が見直され、その一部を紹介します。

かかりつけ医機能の評価等の見直し

3.情報通信機器の活用と訪問看護に関する評価見直し

(1)情報通信機器を活用した場合の評価見直し

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の見直しを踏まえ、情報通信機器を用いた場合の初診・再診料・外来診療料が見直されます。
対象患者は、同指針に基づき、「医師が情報通信機器を用いた診療の実施が可能と判断した患者」としています。
現時点では算定要件、施設基準については確定していません。さらに、在宅時・施設入居時等医学総合管理料におけるオンライン在宅管理に係る評価の見直し等も予定されています。

(2)訪問看護に関する評価見直し

専門性の高い看護師による同行訪問について、褥瘡ケアに係る専門の研修を受けた看護師として、特定行為研修修了者(創傷管理関連)が追加されます。
また、質の高い訪問看護の更なる充実を図る観点から、専門性の高い看護師が、利用者の病態に応じた高度なケア及び管理を実施した場合について新たに評価を行います。
また、退院日のターミナルケアの見直しや退院日に看護師等が長時間の退院支援指導を行った場合の評価を新設すること等が予定されています。

3.入院医療に関する改定のポイント

1.医療機能や患者の状態に応じた入院医療を評価

地域において急性期・高度急性期医療を集中的・効率的に提供する体制を確保する観点から、手術や救急医療等の高度かつ専門的な医療に係る実績を一定程度有した上で、急性期入院医療を実施するための体制について新たな評価を行います。

急性期充実体制加算の概要

また、重症度、医療・看護必要度の測定に係る負担軽減及び測定の適正化を更に推進する観点から、急性期一般入院料1(許可病床数200床以上)を算定する病棟について、重症度、医療・看護必要度Ⅱを用いることが要件化されます。
さらに、注目点としては、重症度、医療・看護必要度の評価項目について改定が行われる見通しで、現行の評価体系・項目では、処置や手術の該当割合が少ない内科系の急性期病床が影響を受ける可能性があります。

改定が予定されている重症度、医療・看護必要度の評価項目

2.地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料の見直し

地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料については、評価体系が見直される予定です。
当該入院料の役割は、①急性期治療を経過した患者の受け入れ、②在宅で療養を行っている患者等の受け入れ、③在宅復帰支援、の3つとされています。
厚生労働省は、自院の一般病棟や自宅等からの入棟割合にばらつきや患者の入棟元の違いによって重症度、医療・看護必要度に相違があること、病床種別が一般病床か療養病床かによって救急実施の有無の傾向が異なるといった点を指摘しました。
地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料1では「自院の一般病棟からの転棟割合が60%以上」の病棟・病室は全体の30%にとどまったのに対し、同入院料2では70%に達することが分かりました。
前回の2020年度改定では、自院の一般病棟からの転棟割合が60%以上の大規模病院(400床以上)について、地域包括ケア病棟入院料が1割減額される仕組みが導入されたため、この減額の対象が広げられる可能性があります。
また、在宅復帰率の要件の見直し等、全体的に評価体制が見直される見込みです。

地域包括ケア病棟・病室の自院の一般病棟からの転棟割合

3.療養病棟入院基本料の見直し

(1)療養病棟入院基本料に係る経過措置について

医療法に基づく医療療養病床に係る人員配置標準の経過措置の見直し方針及び届出状況を踏まえ、療養病棟入院基本料の経過措置の取扱いを見直すこととしています。
具体的には、現行の算定基準である、療養病棟入院料2の100分の85に相当する点数が見直され、2年間延長されるといった内容です。
また、疾患別リハビリテーション料を算定する患者に対して、機能的自立度評価法(Functional Independence Measure 以下「FIM」という)の測定を月に1回以上行っていない場合は、1日の算定上限額が設定されます。
さらに、医療区分2の患者であって、疾患別リハビリテーション料を算定する患者に対して、FIMの測定を行っていない場合においては、医療区分1の場合に相当する点数を算定することになります(経過措置有り)。
入院料毎の1日当たりのレセプト請求点数を見ると、経過措置療養病棟のリハビリテーションの点数が極端に高かったことが明らかとなり、療養病棟入院基本料としての役割からは少しずれており、そのあり方を検討するきっかけとなりました。

入院料毎の1日当たりのレセプト請求点数

(2)中心静脈栄養の実施に係る療養病棟入院基本料について

中心静脈栄養を実施している患者について、当該病棟が患者の摂食機能又は嚥下機能の回復に必要な体制を有していない場合においては、 療養病棟入院基本料の医療区分3の点数に代えて、医療区分2に相当する点数を算定することとなります(経過措置有り)。
背景として、中心静脈栄養患者に対し嚥下リハビリが不十分であると考えられたためです。

中心静脈栄養患者の入院中の嚥下リハビリの有無

4.働き方改革推進とその他改定のポイント

1.働き方改革推進

(1)働き方改革推進概要と地域医療体制確保加算の評価見直し

医師についての時間外労働の上限については、2024年4月からの適用となります。
2024年4月からは下記のA水準以外の各水準は、指定を受けた医療機関に所属する全ての医師に適用されるのではなく、指定される事由となった業務に従事する医師にのみ適用されます。
所属する医師に異なる水準を適用させるためには、医療機関はそれぞれの水準についての都道府県知事の指定を受ける必要があります。

各水準の指定と適用を受ける医師について

医師の上限時間適用が迫る中、2022年度改定では、周産期医療又は小児救急医療を担う医療機関を、地域医療体制確保加算の対象医療機関に追加するとともに、評価が見直されます。
また、新たに「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン」に沿った計画の作成を地域医療体制確保加算の要件として追加する見込みです。

(2)医師事務作業補助体制加算の評価見直し

働き方改革推進に関する評価見直しは多岐にわたるため、今回はその一部を紹介していきます。
2020年度の診療報酬改定では、「働き方改革に向けての対策」が重点課題として盛り込まれ、急性期・回復期・慢性期、そして病床を有する診療所にまで算定範囲が拡大されました。
また、評価の見直しも行われ、全ての点数が一律50点の引き上げが行われました。
2022年度改定では、再度評価の見直しが行われるとともに、医師事務作業補助体制加算の施設基準が変更される見込みです。
例えば、医師事務作業補助体制加算1については、医師事務作業補助者が実施について「8割以上の勤務時間を医師事務作業補助業務に従事」という要件から、医師事務作業補助者の経験年数に着目した評価に見直され、「3年以上の勤務経験を有する医師事務作業補助者が配置区分ごとに5割以上配置されていること」が要件とされる見通しです。

(3)医療機関におけるICTを活用した業務の効率化・合理化

医療従事者等により実施されるカンファレンス等について、ビデオ通話が可能な機器を用いて、対面によらない方法で実施する場合の入退院支援加算等の要件が緩和されます。
2020年度改定においても緩和されましたが、「入退院支援加算は原則、対面で実施」が求められていましたが、改定後は「ビデオ通話でも差し支えない」と緩和される見込みです。

情報通信機器を用いたカンファレンス等の推進 2020年度改定時

2.その他の改定ポイント

(1)外来医療等におけるデータ提出に係る評価の新設

外来医療、在宅医療及びリハビリテーション医療について、データに基づく適切な評価を推進する観点から、生活習慣病管理料、在宅時医学総合管理料等、疾患別リハビリテーション料等を算定する場合におけるデータ提出に係る新たな評価を行います。
これらのデータについては、令和5年10月診療分をめどにデータ提出を受け付ける方向で対応する予定です。

外来医療等におけるデータ提出加算の概要

(2)処方箋料の見直し

2022年度改定では、症状が安定している患者について、医師の処方により、医師及び薬剤師の適切な連携の下、一定期間内に処方箋を反復利用できるリフィル処方箋の仕組みが設けられます。
このリフィル処方箋により、処方を行った場合に処方箋料における長期投薬に係る減算規定を適用しないことが予定されています。
当該処方箋の使用による投与期間の上限等については今後決定する予定です。

(3)2022年度以降を見据えた改定のポイント

2022年度改定は、基本的には前回の2020年度改定とほぼ同じで、医療機能の分化・強化や地域連携、地域包括ケアシステムの推進という点に変わりはありません。
2024年度からの第8次医療計画では、5疾病5事業の「5事業」にも「新興感染症等の感染拡大時における医療」が加わり、5疾病6事業として医療体制を見直すことになっています。
この流れからも感染症対策や、2024年度に控える医師の働き方改革の推進に向けた取り組みが今後も報酬上の評価ポイントになると考えられます。

 

■参考資料
厚生労働省:中央社会保険医療協議会資料

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