- 2020年 日本経済の推移
- 「売り手」優勢と捉えるべき労働市場
- 景気回復を示す地域別の景況判断と雇用情勢
- コロナ禍でも躍進する中小企業の取り組み事例
1.2020年 日本経済の推移
本年5月25日に「緊急事態宣言」が解除され、国民生活、経済活動は、急速に動き始めています。
また、政府は、特別定額給付金の支給や事業継続に資する各種補助施策などを続けており、社会・経済活動の回復を後押ししています。
今回は、2020年の地域別経済動向について解説するとともに、企業の取り組み状況について紹介します。
1.政府発表は「景気は極めて厳しい状況にあるが下げ止まりつつある」
本年7月22日に内閣府が発表した「月例経済報告」のなかで、経済の基調判断を以下のように述べています。
また、同報告は、「先行きについては、感染拡大の防止策を講じつつ、社会経済活動のレベルを段階的に引き上げていくなかで、各種政策の効果もあって、極めて厳しい状況から持ち直しに向かうことが期待されるが、感染症が内外経済に与える影響に十分注意する必要がある。
また、令和2年7月豪雨等の経済に与える影響や金融資本市場の変動に十分留意する必要がある。」として、景気回復の準備は整いつつも感染の第2波・第3波の発生により、再び経済活動などが停滞する可能性も引き続き懸念されている事を示唆しています。
2.政府施策の基本的な方向性
本年7月22日に内閣府が発表した「月例経済報告」において、今後の経済政策の基本的方向性を以下のように示し、コロナ禍における経済停滞からの脱却に向けての施策が重点項目として挙げられています。
3.景気ウォッチャーから読み取れる景気の回復傾向
内閣府は、本年7月8日付で2020年6月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査(※)」の結果を発表しました。その内容によれば現状判断DI(※)は、前回月比で上昇し、先行き判断DIも上昇しました。
結果報告書によると基調判断は「新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、感染症の動向を懸念しつつも、持ち直しが続くとみている。」と示されました。
(1)景気の現状判断DI
本年6月の景気の現状に対する判断DIは、38.8ポイントです。
家計動向関連、企業動向関連、雇用関連のすべてのDIが上昇したことから、前月を23.3ポイントも上回り、2ヶ月連続の上昇となりました。
(2)景気の先行き判断DI
2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは、44.0ポイントです。
家計動向関連、企業動向関連、雇用関連の全てのDIが上昇したことから前月を7.5 ポイント上回りました。
新型コロナウイルスの影響拡大を懸念する形で、決して高い値ではありませんが、こちらも新型コロナウイルス流行前の水準にまで戻っているため、今後の動向に注視するとともに、意識はすでに前向きであることがうかがえます。
2.「売り手」優勢と捉えるべき労働市場
本年6月30日に総務省統計局が発表した「労働力調査」のなかで、「雇用状況」、「完全失業率」、「有効求人倍率」、「非労働力人口」に焦点をあて、以下の通りまとめました。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けての緊急事態宣言に伴う休業要請、自粛ムードによって、特に都市部での飲食店、小売店、サービス業、それに付随する卸売業などが事業の縮小を余儀なくされた結果、有効求人倍率の減少を招きましたが、アフターコロナ時代に成長が見込まれている業務領域も多いことから、依然売り手優勢と捉え、従業員の確保・定着・育成に目を向けていかなければならない状況であると考えられます。
1.役員を除く雇用者数の増減推移
正規の職員・従業員数は3,534万人と前年同期に比べ1万人減少し、8ヶ月ぶりの減少です。
また、非正規の職員・従業員数は2,045万人と同61万人減少し、3ヶ月連続の減少です。
一方、役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は36.7%と前年同期と比べ0.6ポイント低下している状況です。
また、主な産業別の就業者数を比較すると新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けた「宿泊業・飲食サービス業」を筆頭に前年同月比で就業者数が減少し、「情報通信業」、「不動産業・物品賃貸業」、「医療・福祉」に関しては、就業者数が増加しています。
2.ロナ禍でも新規求人倍率が上昇基調に入る
総務省による「労働力調査」によると5月の有効求人倍率は1.20倍で、前月に比べて0.12ポイント低下しましたが、5月の新規求人倍率は1.88倍で、前月に比べて0.03ポイント上昇しました。
新規求人倍率とは、全国の公共職業安定所(ハローワーク)で、当月に受け付けられた新規求人数(a)と、同じく全国の公共職業安定所(ハローワーク)で当月に求職者登録を行った新規求職者数(b)から算出されます。【(a)/(b)】
今年に入り上昇し続けていた新規求人倍率が、4月に一旦、大きく減少しましたが、コロナ禍でも上昇基調に入ったことがうかがえます。
3.ウィズコロナに順応した企業活動で休業者数減少
本年4月、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発出される中で休業者が急増し、その数は597万人(1年前に比べて420万人の増加)と過去最多を記録しました。
緊急事態宣言が全面解除となった直後の5月分の労働力調査(調査期間は5月25日~31日の1週間)の結果をみると、休業者数は423万人(1年前に比べ274万人の増加)と引き続き高い水準となっていますが、増加の幅は420万人から274万人と、146万人縮小しました。では、4月に休業者であった人は、5月にどうなったのでしょうか。
休業者がどのような状態に移行したかを考えるにあたり、まずは労働力調査における就業状態の分類と休業者の定義を確認します。
労働力調査では、15歳以上人口を以下のように就業状態別に分類しています。
本年4月に休業者であった方573万人のうち、引き続き休業者の人が283万人、従業者に移行した人が252万人、完全失業者に移行した人が10万人、非労働力人口に移行した人が28万人となっています。
また、割合でみると以下の通り、「引き続き休業者の人 49.4%」、「従業者に移行した人 44.0%」、「完全失業者に移行した人 1.7%」、「非労働力人口に移行した人 4.9%」となっており、4月に休業者であった人のうち、約半数は休業の状態が続いているものの、残りの多くの人は仕事に戻り、一部の人のみ完全失業者(1.7%)になったことが分かります。
つまり、休業を余儀なくされた多くの企業は、ウィズコロナ、アフターコロナへ順応すべく本来の企業活動へとスイッチしたことがうかがえます。
3.景気回復を示す地域別の景況判断と雇用情勢
地域別の経済動向は、内閣府が四半期毎に公表している日本の各地域の経済動向を調査した「地域経済動向」と日本銀行が四半期毎に公表している「地域経済報告」があります。
内閣府の「地域経済動向」は、概況、分野別の動き、地域別の動向、主要指標、参考資料から構成されており、日本銀行の「地域経済報告」は、各地域の景気判断の概要、地域別金融経済概況、参考計表から構成されています。
今回は、日本銀行の「地域経済報告」を中心にまとめました。
この「地域経済報告」では、日本全国を北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄の9地域に区分した上で地域毎の景況判断をしています。
1.先行きの期待感が示された各地域の需要項目別の判断
以下は、日本銀行が示す各地域の需要項目別の景況判断です。
需要項目別では、経済活動の再開で、個人消費に持ち直しの動きが見られるほか、設備投資でもリモートワーク対応でソフトウェア投資を急ピッチで進めるなどの動きがあり、先行きに明るい兆候も出ています。
2.景気回復が期待される地域別の雇用情勢と金融情勢の動き
地域別の新規求人倍率と金融情勢は、以下の通りです。
5月の新規求人倍率は、一部の地域を除き、4月と比べ増加していることがわかります。
4.コロナ禍でも躍進する中小企業の取り組み事例
1.サブスクリプションを導入し新しい生活様式に対応させたA社の事例
A社は、保育所向け紙おむつの定額制サービス「手ぶら登園サービス」を提供しています。
「手ぶら登園サービス」では、紙おむつを保育所に直接届けるため、これまでのように保護者がおむつに名前を書いて持参する必要がなくなり、保育所にとっても保護者にとっても便利なサブスクリプションサービスです。
サブスクリプションサービスとは、「定額料金を支払うことで、一定期間のサービスが受けられることを保証するサービス」のことで、「定額制サービス」という意味で昨今、業種・業態を問わず急激に新商品として導入されつつあります。
「手ぶら登園サービス」は、全国約5,000施設、26の自治体で導入され、更なる拡大が見込めます。
またこのシステムでは、新型コロナウイルスをきっかけとした「新しい生活様式」に対応するため、口座引き落としやクレジットカード支払いとすべく現金決済を廃止し、お知らせや連絡帳のICT化、オンライン保育の活用といった、これまで以上の利便性を提供していることで急成長しています。
2019年度のサブスクリプションサービス国内市場規模(食品・化粧品類の定期宅配サービス分野等を含む)は消費者支払額ベースで、6,835億2,900万円でした。
2020年度は前年度比15.2%増の7,873億円となることが予測されており、これまでにない商品やサービスの利用形態であることから注目を集めており、市場全体は徐々に拡大しています。
2.自社オフィスの『体験見学会』で顧客を獲得し続けるB社の事例
B社は、ICTツールの導入支援及び事務機器の販売を行っている企業です。
以前は事務機器の販売が事業の中心でしたが、社内の業務改善による生産性向上に取り組んだ結果、テレワークの導入にあたってのポイントなど、自社での取り組みを通じて得られたノウハウを、テレワークに資するICTツールとその導入支援のサービスとのセットで提供することにより、他の中小企業の働き方改革の支援につなげることが実現しました。
自社のオフィスを一般に公開し、「体験見学会」を頻繁に開催しています。
顧客はオフィス内を見学することで、テレワークを活用する従業員の姿を始め、様々な働き方改革に関する取り組みを直接目にすることができます。
中でもターゲット顧客は「従業員50名以下の中小企業」に設定しており、ICTの専任担当者がいないなど、同社と共通の課題を抱えているケースも多く、体験見学会を通して『うちの会社でも同じことをしたい』と最も共感を得られる顧客層ということもあり、共感から受注につなげる新たな手法を開拓した例ともいえます。
新型コロナウイルスの感染拡大により、人々の働き方は大きな影響を受けています。
感染症対策や企業の事業継続力強化の観点から、今後、中小企業にとってもテレワークの必要性、効率性がテーマになってくることが考えられます。
3.キャリアマップを作成し能力開発を浸透させているC社の事例
C社は、情報通信技術を提供する電気通信会社です。
同社では、これまで社員の技術・技能を網羅的に把握する機会やツールがなく、技術・技能向上に向けた効果的な取り組み目標が立てにくい、という問題を抱えていました。
特に、若手社員の場合は業務経験が浅く、業務の全体像が本人に見えていないことが多いため、目の前の仕事に集中するあまり、ステップアップに向けた取り組みにまで手が回らないことが悩みの種でした。
そこで同社は、キャリアマップを作成し、職業能力評価シートを活用することで自己の成長度合をチェックし、目標設定できる前向きな社内風土を築き上げることができました。
結果、コロナ禍であっても自身の役割や目指すべきレベルが常に意識され、顧客満足度を維持しています。
■参考文献
『月例経済報告 2020年7月22日』内閣府
『景気ウォッチャー調査 2020年7月8日』内閣府政策統括官
『地域経済報告~さくらレポート~2020年7月9日』日本銀行
『地域経済動向 2020年5月29日』内閣府政策統括官
『労働力調査 2020年6月30日』総務省労働局
『総務省統計局ホームページ』総務省統計局
『プレスリリース2020年4月22日』矢野経済研究所
『令和元年通信利用動向調査 2020年5月29日』総務省情報流通行政局
『厚生労働省ホームページ(キャリアマップ)』厚生労働省