業績回復に向け難局を乗り切る! コロナ禍における 中小企業の対応策

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業績回復に向け難局を乗り切る! コロナ禍における 中小企業の対応策

  1. 新型コロナウィルスが企業にもたらした影響
  2. コロナ禍における取り組みテーマと対応策
  3. テレワークに対応するための人事労務管理のポイント
  4. コロナ禍において業績回復を実現した企業事例

 


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目次

1.新型コロナウィルスが企業にもたらした影響

コロナショックによってさまざまな影響が生じている状況の中、業績低迷への対応や、テレワークなど大きく変わってきた働き方への対応など、中小企業がこれらの難局を乗り越えるためには、将来を見据えた経営戦略を立てることが必要です。
「ウィズコロナ」を制するための戦略が自社の経営を左右するといっても過言ではありません。
今回は、中小企業が「ウィズコロナ」を見据えて何に取り組むべきか、また勝ち抜くためにはどのような戦略が必要となっているのかについて解説します。

1.予断は許さないと判断している2021年2月の月例報告

2021年2月19日に内閣府が発表した月例経済報告によると、「景気は、新型コロナウィルス感染症の影響により、依然として厳しい状況にあるなか、持ち直しの動きが続いているものの、一部に弱さがみられる。
先行きについては、緊急事態宣言の解除後も感染拡大の防止策を講じつつ、社会経済活動のレベルを引き上げていくなかで、各種政策の効果や海外経済の改善もあって、持ち直していくことが期待される。
ただし、内外の感染拡大による下振れリスクの高まりに十分注意する必要がある。また、金融資本市場の変動等の影響を注視する必要がある」と述べており、10都府県への緊急事態宣言下で、感染者数が減少傾向にあり、持ち直しの兆しも見られますが、まだ予断を許さない状況が続いています。

2021年2月の月例経済報告内容

2.持ち直してきた企業活動と雇用情勢

(1)製造業は回復基調となっている企業活動

上場企業の2020年10-12月期の決算をみると、経常利益においては、製造業は前年比で増益、非製造業は前年比で減益となっており、企業収益においては、感染症の影響により、非製造業での弱さがみられるものの、総じてみれば持ち直しています。
製造工業生産予測調査によると1月は同8.9%増、2月は同0.3%減となることが見込まれています。
業種別にみると、輸送機械は横ばいですが、生産用機械は持ち直し、電子部品・デバイスは緩やかに増加してきました。
ただし、個人向けサービス業を中心に弱さがみられ、持ち直しの動きに足踏みがみられます。

(2)まだ弱い雇用情勢

労働力人口及び就業者数は減少し、完全失業者数は増加しています。
完全失業率は、12 月は前月と同水準の 2.9%となっていますが、新規求人数や雇用者数は持ち直しの動きがみられ、有効求人倍率は横ばいとなっています。
「日銀短観」(12 月調査)によると、企業の雇用人員判断は、引き続き全産業で不足超となっている一方で、製造業では過剰超と判断していますが、雇用情勢は、雇用者数等の動きに底堅さもみられます。先行きについては、底堅く推移することが期待されますが、雇用調整の動き如何によっては弱さが増す恐れもあり、感染症の影響には十分注意する必要な状況です。

3.コロナ禍で導入が増加しているテレワーク

(1)テレワークの普及

テレワークを導入している企業は増加傾向にあります。
テレワークの主な導入目的は「業務の効率性(生産性)の向上」の割合が68.3%と最も高く、次いで「勤労者のワーク・ライフ・バランスの向上」(46.9%)、「勤労者の移動時間の短縮・混雑回避」(46.8%)となっています。

テレワークの普及

(2)コロナ禍におけるテレワークの形態別勤務状況

内閣府による2020年6月21日「新型コロナウィルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」をしたところ、ほぼ100%テレワークを行っていた労働者の割合が10.5%、テレワーク中心(50%以上)が11%を含め、テレワークを行っている労働者は全体の34.6%まで増加してきています。
今後、中小企業においても、テレワーク導入を視野に入れた対応策の検討も急務となっているといえます。

コロナ禍におけるテレワークの形態別勤務状況

4.ウィズコロナ禍において中小企業に求められる対応

逆境下において、中小企業はまず「ウィズコロナ」を乗り切ることが必要です。これは緊急的な対応策ともいえます。
ウィズコロナ禍では、自社の事業を絞り込み、そこに集中して経営資源を投資するということが必要です。
多角的な事業展開を行っている企業や複数拠点を有している企業では、限られた資金を安定している事業に集中的に投資することです。
一方、不採算事業については、事業からの撤退という判断も必要といえます。
これは、あくまで緊急的な対応であり、ウィズコロナを勝ち抜くためには、自社がどのような事業によって成長させていくのかを明確にするための、先を見据えた経営戦略を立てる必要があるといえます。

2.コロナ禍における取り組みテーマと対応策

1.コロナ禍で浮き彫りになった中小企業の新たな経営課題

コロナ禍で中小企業が取り組むべき新たな経営課題が浮き彫りになりました。
それぞれの課題への対応策を取らなければなりません。
十分な対応が図られれば、自社の業績回復にもつながることが期待されます。

コロナ禍で中小企業が対応するべき3つのテーマ

(1)新しい働き方への対応

多くの中小企業では、柔軟かつ多様な働き方への対応がまだ不十分といわれています。
その結果、在宅勤務の導入や業務の効率化・生産性向上に繋がる対応は遅れ、コロナウィルスの感染拡大を機に、硬直化した企業体制が表面化した問題となりました。ウィズコロナでは、これまでのような働き方やマネジメント方法は通用しなくなる可能性もあります。
これまでの経営方針や労働環境の在り方を一から是正し、従業員にとって柔軟かつ多様な働き方ができる施策や制度を導入することが必要になります。
詳細については、第3章で解説します。

(2)中核業務の見直しを含めた経営戦略の見直し

これまで最適と思われてきた自社の経営資源や中核を担う事業の強み等について、再確認しておく必要があります。
すでに、一部大手企業では、事業構造を変革し業績回復につなげた事例も見られます。
これまで通用していた手法も通用しなくなることも考えられますので、これからの時代に則した経営体制を構築するために、既存の経営資源を最大限活用できるよう中核業務の見直しを含めた経営戦略を立案することが重要です。
昨今のコロナウィルスの感染拡大は一時的な要素であり、「不確実性」の一環であるといえます。
そのため、経営者は、現在の状況に対応するための緊急対応策だけでなく、ウィズコロナへの対応も視野に入れて経営戦略を考えることが重要です。
自社が有する経営資源によって、どの市場をターゲットとするのか、自社の事業がどのように地域社会に貢献ができるかを見直し、自社が抱えている課題がコロナ禍によって顕在化したことを契機と捉えて、経営を抜本的に改革していくことが求められます。
コロナ禍によって、ESG(環境、社会、企業統治)への取り組みも今後、重視されると思われます。
コロナ禍を機に、投資家はESGの中でも、とりわけ「S(社会)」への関心が高まっているといわれます。
感染拡大や収益力低下の局面において、投資家の判断軸になっているのが、社員の働き方に配慮したか、従業員の雇用を維持への対応です。
これらの人材戦略も合わせて検討しておく必要があるといえます。

(3)DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応

近年、よく目にするようになったデジタルトランスフォーメーションは、「Dijital Transformaition」からきており、略称である「DX」は、TransをXと省略する英語圏の慣例によるものです。
「Dijital Transformaition」を直訳すると「デジタル変換」という意味です。
経済産業省の『「DX 推進指標」とそのガイダンス』では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を以下のとおり定義づけています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
多くの専門家がDX革命を予測しており、第4次産業革命が起きるとも言われていますので、中小企業にもこの波が確実に押し寄せてきていると言っても過言ではありません。
DX導入によるメリットとしては、以下のようなものが考えられます。

DX導入によるメリット

①企業の生産性が向上

DXを導入すると業務の生産性が向上します。
また、ビジネスの利益率の向上にも期待できます。
これは、生産規模が倍増すれば生産効率性が向上して生産量も倍増するという、収益増加の法則があるからです。
過去においても、収益増加を実現してきたのは進化した技術と、それに伴う産業革命であったということを考慮すると、昨今のDXもこれに当てはまるといえます。

②消費行動の変化に対応したビジネスが創出

環境変化がもたらした消費行動の変化に対応した新しいビジネスが創出されてきたという過去の流れからもDXがこれに当てはまります。
つまり、今後消費者ニーズに対応した新商品やサービスを開発するにはDXへの対応が欠かせないといえます。
DXで活用するAIや5Gなどの技術は消費行動を大きく変える力を持っています。
変わっていく消費行動に対応するためには、DXに対応した商品やサービスが必要となります。顧客ニーズを満たす商品やサービスを提供できれば、収益拡大につながるチャンスが広がります。

③BCP(事業継続計画)への対応も可能

コロナ禍でもBCPを実行に移して増益となった企業はあります。
DXに取り組んでいたかが明暗を分けたとメディアでも報道されています。
例えば、ニトリや日本マクドナルドは、ネット販売システムの強化で、多くの企業がダメージを受けたコロナ禍においても最高益を更新しています。
また、巣ごもり需要を掴んだソニーもゲーム事業によって全体のマイナスをカバーするに至っています。
今後もBCPが必要になる大規模自然災害などは確実に到来しますので、事業継続を可能にして、生き残るためにもDXへの対応が必要であるといえます。

2.営業スタイルの変化への対応

新型コロナウィルス感染拡大によって営業活動にも大きな影響を与えています。
ウィズコロナに向けて、営業スタイルを変えていく必要があります。
顧客への訪問ができなくなったことにより収益に大きなダメージをもたらした企業はありますが、Webを活用した営業スタイルを既に確立していた企業は、そのダメージを抑えられました。
ウィズコロナにおいては、以前にように、足で稼ぐような対面営業に依存せずに、訪問しなくとも売上増加につながるような、新たな営業スタイルを確立することが求められます。
Webを活用した営業方法がうまくいくと、以下のようなメリットもあります。

Webを活用した営業メリット

3.テレワークに対応するための人事労務管理のポイント

1.勤務時間管理への対応

(1)テレワーク運用における時間管理

リモートワークを活用した在宅勤務は、労使双方にメリットのある制度ですが、時間管理についてはいくつかの留意点があります。
在宅勤務の場合、自宅での勤務であるため、どうしても労働時間とプライベートの時間が混在するという問題が発生してきます。
在宅で勤務させる場合は、まず、労働時間についてしっかりと分けて勤務させるのか、勤務時間とプライベートを混在させたまま労働時間を「みなす」ことにするのかについて検討する必要があります。

リモートワーク運用における時間管理の留意点

(2)休憩時間の取り扱い

在宅勤務の場合、「仕事中に手を休めている・ちょっとした家事・雑用をしているかもしれないので、休憩を与えているとしていいのではないか。」などと考えるかもしれません。
しかし、事実上労働からの離脱がしやすい環境に置くことと、労働から離れることを権利として補償していることとは異なります。
リモートワークを行う労働者に対しても、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、労働時間が8時間を超える場合は60分以上の休憩を与えなければなりません。

(3)時間外・休日労働の労働時間管理について

労働基準法では次の通りになっています。

時間外・休日労働の労働時間管理について

このようなことから、テレワークを行う労働者は、業務に従事した時間を日報等において記録し、使用者は労働者の労働時間の状況を適切に把握し、必要に応じて労働時間や業務内容等について見直す必要があります。

(4)長時間労働対策について

リモートワークについては、業務の効率化に伴い、時間外労働の削減につながるというメリットが期待される一方で、労働者が使用者と離れた場所で勤務をするため相対的に使用者の管理の程度が弱くなる可能性があり、長時間労働を招く恐れも指摘されています。

長時間労働対策について

2.アウトプットの管理

テレワークはオフィス勤務に比べて、上司は部下がどのような働き方をしているかを把握しづらいという特有の課題があります。
このテレワーク特有の課題を解決するためにも、以下のポイントに対応する必要があります。

アウトプットの管理

部下にタスクを割り振るときは、明確に期限を設定し、アウトプットをもってタスクの完了とすることで、タスク完了を可視化することができます。
また、テレワークでの朝礼、夕礼を導入することで、その日1日どのような仕事をする予定で、その結果がどうであったのかをチームで共有することができます。
これには、在宅勤務でどうしても減ってしまう社員同士のコミュニケーションにもつながりますので、一石二鳥の対策と言えます。

3.テレワークに対する環境整備

テレワークにおける最大の課題とも言われているのが、「ネットワーク環境の設備」です。

ネットワーク環境の設備

テレワークへの移行において、Wi-Fiの設置、仕事スペース(デスク・チェア)の確保など、環境を整える初期投資が必要です。
また、在宅時間が長くなると光熱費や通信費も増えます。こうした初期投資と維持費をまかなうため、在宅手当の導入が増えています。

4.社員への助成・補助

前項でテレワークにおける環境整備の必要性に触れましたが、社員への助成・補助は義務ではありません。
ただし、勤務において必要経費をきちんと支給することは、社員にとってモチベーションを維持する最低限必要な処遇となります。
また、長期的なテレワークへの移行となれば、毎月支給する交通費を削減することが可能で、在宅勤務に関する手当と交通費の差額分が経費削減につながります。
交通費で1~2万円前後支給しているケースは多いと思います。
在宅勤務手当は、3,000~5,000円/月程度を支給している企業が散見されますので、課税・非課税に留意する必要はありますが、それらを考慮した差額分が経費削減となります。

4.コロナ禍において業績回復を実現した企業事例

1.A社:巣ごもり需要への対応した事例

(1)概要

巣ごもり需要への対応した事例

(2)巣ごもり需要への対応に向けた取り組み

全国の様々な生花店から花が届く形をとり、全国配送を可能にしました。
サブスクリプション型のビジネスは飽きられやすいという問題点がありますが、安い・便利以上の付加価値をつけるために、ランダムで送られる花で顧客の嗜好を把握できるよう、顧客データの管理も行っています。

(3)A社における成功要因

①サステナブルな取り組みで良い印象を与えることができた

花の廃棄を減らすことで、環境に配慮できるビジネスとなり、顧客・生花店・取引先・投資家の全員で業界を応援する構図ができました。

②タイプに合わせて複数プランを用意

入門者向けから本格派向けまでプランを分けて用意することで、料金体系も分かれており、初めて花を扱う方でも始めやすくなっています。

③ポストに届くので受け取りが手軽

宅配需要が増えるなか、不在の問題は拡大していますが、そのような中でも、不在でもポストに届くようにしたため、受け取りできないという問題を解決しました。

2.B社:テイクアウト導入で回復した事例

(1)概要

テイクアウト導入で回復した事例

(2)テイクアウト需要獲得に向けた具体的な取組・サービス

テイクアウト対象先には、所得水準の高いエリア顧客、イベントを行うカップルおよび卒業式や入学式などお祝い事をターゲットにし、オードブルや弁当のテイクアウトを開始しました。
よって、価格設定も高くし、オードブルは5,000~10,000円・弁当は2,500円程度としましたが、うまくニーズを取り込むことに成功しました。

(3)成功の要因

①スピード感のある対応

有事において柔軟な対応が求められましたが、いち早くテイクアウトに転換したB社は他社に先駆けることでテイクアウトの需要を取り込むことができました。

②専門商品の開発

オードブルや高級弁当とイベントに注目した商品開発で、日常の弁当とは差別化でき、プチ贅沢やご褒美といった需要を獲得できました。

③SNSの活用

写真を投稿できるSNSを活用し情報発信することで、豪華な料理や高級弁当のイメージを伝えることができ、人気を集めることができました。
また、SNSを活用したことにより、口コミの拡散にも寄与しました。

3.C社:クラウドファウンディングの活用で業績回復した事例

(1)概要

クラウドファウンディングの活用で業績回復した事例

(2)資金確保のためにクラウドファウンディングを活用

C社は、アルコールを活用した除菌剤の開発で実績を積み上げてきています。
よって、県内でアルコール消毒液の入手が困難になり県民生活に支障を来たし始めていた状況となっても、原材料のアルコールは確保できており、県民の感染防止に貢献すべきとの考えから、月桃エキスを配合した高濃度エタノール消毒液の生産に着手。
販路を卸売主体から一般顧客に変更し、ネット販売とSNSを積極的に活用して、一般向けの販促に努めましたが、広告費が十分に賄えないという厳しい状況に陥り、窮状を打開するためクラウドファンディングを2回実施し、2回とも成功しました。

(3)成功の要因

①経営者自ら情報発信

経営者の想いが直接と伝わる形で情報を発信し続けた結果、共感した支援者や消費者を増やすことに成功しました。

②社会の必要性にマッチ

消毒、衛生管理の徹底などで品薄となっていた原材料のアルコールは確保できており、アルコール商品を提供していることで注目を集めたことも功を奏しました。

③事業内容に共感を得ることができ、資金調達を実現

C社の取り組みが関心・共感を集めることができ、クラウドファンディングにより資金調達することができました。

コロナ禍で業績が低迷している中小企業は依然として多い状況ですが、事例からもわかるように、新たな事業開始や資金源の確保などにより業績が回復をしたケースもあります。
顧客ニーズを捉え、知恵と工夫で今後の難局を乗り切るための参考にしていただければ幸いです。

 

■参考文献
内閣府:月例報告(令和3年2月)
総務省:通信利用動向調査
「アフターコロナの経営戦略」(森 泰一郎 著 翔泳社)
「コロナ氷河期」(前川 孝雄 著 扶桑社)
「社長!コロナを生き残るにはこの3つをやりなさい」(松本 光輝 著 あさ出版)
「企業の人事・労務管理」
(川崎 秀明、樋口 治朗、平澤 貞三、滝口 修一、亀谷 康弘 著 清文社)

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