- 医療機関における「働き方改革」の概要
- 自院の診療理念の周知と育成方法
- スタッフ視点から考える理想のリーダー像
- 組織の活性化と実現に向けた取組み
1.医療機関における「働き方改革」の概要
1.医療器官における「働き方改革」とは
(1)「働き方改革」のこれまでの経緯
2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」を受けて、2016年9月に「働き方改革実現会議」が発足しています。
同会議は2017年3月、「働き方改革の実行計画」を決定しています。
労働力不足を解消し、一億総活躍社会を実現させるため、実行計画のポイントとなるのが、(1) 同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善、(2) 長時間労働の是正、(3) 高齢者の就労促進の3つです。
(2)医療機関における「働き方改革」
医療分野においては、2017年4月に「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が報告書をまとめています。
この報告書では、今後の医療提供のあり方として、「働く人が疲弊しない、財政的にも持続可能なシステム」を確立することが必要であるとして、3つの根幹に添えるべき方向性と、それを実現するために4つのパラダイムの転換を図ることとしています。
(3)医師の働き方改革
働き方改革実行計画が決定し、医師についても長時間労働に対する見直しが求められるようになりました。
しかし、医師は医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要であり、規制の具体的なあり方や労働時間の短縮策等について検討が必要とされ、「医師の働き方改革に関する検討会」を開催し、結論を出すこととなっています。
2.働き方改革、医療機関の規模別の適用関係
厚生労働省は7月9日の「医師の働き方改革に関する検討会」で、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の概要を参考資料として示し、医療機関の規模別の適用関係をまとめています。
注目すべき点は、年次有給休暇と労働時間の状況の把握の規制が、企業規模に関わらず来年の4月から適用になることです。
これらの規制の適用までには既に1年を切っているので、規制の適用に不安を感じる場合は早急な対応策が求められます。
※医療業における“中小企業”の基準
⇒企業単位でみて i)資本金の額又は出資の総額が5千万円以下 又は ii)常時使用する労働者の数が100人以下(例えば社会福祉法人なら介護施設等との合算した金額や労働者数になる。なお持ち分なし医療法人の場合は出資金がゼロと見なされるため、中小企業に該当することになるので注意。)
2.「働き方改革」による影響と対応
1.労働時間の把握方法
厚生労働省より、平成29年1月20日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が公開されています。
来年4月から適用となる「労働時間の状況の把握」の具体的な方法については、上記のガイドラインが参考となります。
訪問事業や研修等で自院に戻らず、その日はそのまま帰宅するといったケースでは、労働時間の把握についてはこれまで以上に注意が必要となります。
例えば、自己申告した労働時間と実際の労働時間(PCの使用終了時間)に乖離がみられた場合は実態を調査し、労働時間の補正を行わなければなりません。
また、残業代抑制のために申告する労働者の労働時間の調整については、今まで以上に厳しくなり規制の対象となります。
対策としては、院内で労働時間の管理方法を徹底し、労働者に周知させることや、可能な限り、時間外労働を減らす取り組みを行うことです。
2.来年度から年次有給休暇取得の義務化へ
平成31年4月1日から、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、5日の有給休暇を時季の指定をして与えなければなりません(労働者が時季指定したり、計画的付与したものは除く)。
つまり、使用者は労働者から希望を聞いた上で、有給休暇日について時季を指定して付与することとなります。
ただし、以下のような場合については、使用者は時季を指定した有給休暇が不要、又は不足日数分のみの付与でよいとされています。
3.年次有給休暇の計画的付与制度の活用
(1)年次有給休暇の計画的付与制度の概要
年次有給休暇の計画的付与については、年次有給休暇の日数のうち5日は個人が自由に取得できる日数として残しておかなければなりません。
このため、計画的付与の対象となる日数は5日を超えた部分となります。
また、前年度に取得されずに次年度に繰り越された日数がある場合には、繰り越された年次有給休暇の日数を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができます。
この制度を活用して、比較的閑散な時季に年次有給休暇を計画的に付与することができ、業務への支障を最小限にとどめ、年次有給休暇の取得率を向上させることができます。
(2)年次有給休暇の計画的付与制度導入に必要な手続き
年次有給休暇の計画的付与制度の導入には、就業規則による規定と労使協定の締結が必要となります。
3.医療従事者の勤務環境改善に向けた取り組み
1.医療従事者の勤務環境改善の促進
(1)医療従事者の勤務環境改善に向けた政府の動き
医療従事者の勤務環境改善に向けては、平成26年の改正医療法により、医療機関の自主的な活動の下に、PDCAサイクルを活用して計画的に医療従事者の勤務環境改善に取り組む仕組みとして「勤務環境改善マネジメントシステム」を創設しています。
また、都道府県ごとに、勤務環境改善に取り組む医療機関を支援するための「医療勤務環境改善支援センター」を47都道府県全てに設置し、医療労務管理アドバイザー(社会保険労務士等)や医業経営アドバイザー(医業経営コンサルタント等)が専門的・総合的な支援を行っています。
(2)勤務環境改善の意義
厚生労働省は、医療従事者勤務環境を改善することにより、医療従事者にとって働きやすい医療機関となるだけではなく、医療の質が向上し、その結果、患者満足度のアップに資すると考えています。
2.勤務環境改善マネジメントシステムの概要
(1)勤務環境改善マネジメントシステムとは
勤務環境改善マネジメントシステムとは、各医療機関において、医師や看護職など、医療スタッフの協力の下、継続的に行う自主的な勤務改善活動の促進により、医療スタッフの健康と安全を確保し、医療の質を高め、患者の安全と健康の確保に資することを目的としています。
また、勤務環境改善の取組みは、医療機関全体で行うものや、職種単位で行うテーマがあり、自院にあった取組みを選択することができます。
(2)医療勤務環境改善マネジメントシステムの進め方
医療従事者の勤務環境改善に向けて、医療機関全体での継続的な取組として、現状分析から課題を明確にし、本格的に取組を進めます。
トップの方針表明から始まり、評価・改善に至る、7つのステップとなっています。
勤務環境改善の取組を一時的なものとして終わらせるのではなく、無理なく継続的な活動として取り組むことにより、実質的な成果を創り出すことができます。
そのためには、勤務環境改善のためのPDCAサイクルを確立し、継続的にサイクルを回していくことが重要です。
(3)医療勤務環境改善マネジメントシステム支援ツール
医療機関全体での継続的な取組を支援する、5つのツールがあります。
既に勤務環境改善の取組みを行っている医療機関も、現状の評価や新たな目標設定等に活用できます。
4.勤務環境改善の取組み内容と支援ツール
1.「雇用の質」向上の取組
医療勤務環境改善マネジメントシステムについては、「雇用の質」向上に向けた具体的な取組みが紹介されており、「雇用の質」向上は、4つの領域が想定されています。
医療機関等の特徴(規模や地域性、診療科等)や現在の状況(経営状況や職員数、職員構成等)によって、実行可能な取組みや有効な取組みは変わってきます。
具体的な対策を検討する際は、自院の特徴や状況に合わせて、できる取組みから始めたり、複数の取組みを組み合わせたりと、自院で可能な取組みを行います。
2.医療勤務環境改善支援センターの役割と活用
医療勤務環境改善支援センター(以下、センター)は、勤務環境改善マネジメントシステムの仕組みを活用し、勤務環境改善支援のために全都道府県に設置されています。
センターの活動は、(1) 医療勤務環境改善マネジメントシステム等に関する周知・啓発、(2) 医療機関の実態やニーズの把握、(3) 医療勤務環境改善マネジメントシステムの導入・定着等の支援が基本です。
また、センターでは運営協議会を設置し、医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会、病院団体、社会保険労務士会、医業経営コンサルタント協会など地域の実情に応じた団体や都道府県労働局との連携体制を構築しています。
自院における勤務環境改善に関する相談については、各都道府県のセンターが無料で受け付けています。
3.労務管理チェックリストの活用
医療分野における「雇用の質」向上のための勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引き(改訂版)(以下、手引き)では、医療従事者の勤務環境改善の支援ツールとして労務管理チェックリストを記載しています。
医療機関の人事労務を担当されている方が労務管理に関する法定事項をセルフチェックできるリストは、次のようなものです。
この他手引きでは、医療従事者の勤務環境改善に向けたセルフチェックリストも記載されています。
このリストは、自院の勤務環境に関する現状の確認や課題の所在を簡易的に把握するためのツールとして活用できます。
今後も続く政府主導の働き方改革に対応するため、自院では勤務環境の整備と、規制適用を意識した対策がなされているかを確認する必要があります。
また、自院では解決できない問題や隠れたリスクの把握については、センターの活用や専門家への相談等を行い、問題解決に向けた取組みが必要となります。