持ち直しの動きが続いている国内景気 統計データによる2021年経済特性

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持ち直しの動きが続いている国内景気 統計データによる2021年経済特性

  1. 2021年 日本経済の推移
  2. 「売り手」優勢と捉えるべき労働市場
  3. 景気回復を示す地域別の景況判断と雇用情勢
  4. コロナ禍でも躍進する中小企業の取り組み事例

 


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1.2021年 日本経済の推移

日本の景気は、コロナ禍による経済の減速感が底をつき、ワクチン接種が広がりつつあるため、年後半にかけて経済活動が正常化に向かい、緩やかに持ち直すことが期待されています。
今回は、2021年の地域別経済動向や企業の取り組み状況等をまとめていますので貴社の経営判断にお役立ていただければ幸いです。

1.政府発表は「厳しい状況にあるなか、持ち直しの動きが続いている」

本年7月19日に内閣府が発表した「月例経済報告」のなかで、経済の基調判断を以下のように述べています。

政府発表は「厳しい状況にあるなか、持ち直しの動きが続いている」 

また、同報告において、5月まで国内景気の先行きに対する懸念材料として挙げていた「感染拡大による下振れリスクの高まり」との表現を6月から3ヶ月ぶりに削除しており、先行きについては、「感染拡大の防止策を講じ、ワクチン接種を促進するなかで、各種政策の効果や海外経済の改善もあって、持ち直しの動きが続くことが期待される。
ただし、感染の動向が内外経済に与える影響に十分注意する必要がある。
また、金融資本市場の変動等の影響を注視する必要がある」としています。

2.政府施策の基本的な方向性

本年7月19日に内閣府が発表した「月例経済報告」において、今後の経済政策の基本的方向性を以下のように示し、コロナ禍における経済停滞からの脱却に向けての施策が重点項目として挙げられています。

政府施策の基本的な方向性

3.景気ウォッチャーから読み取れる景気の回復傾向

内閣府は、本年7月8日付で2021年6月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査(※)」の結果を発表しました。
その内容によれば現状判断DI(※)は、前回月比で上昇し、先行き判断DIも上昇しました。
結果報告書によると基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直している。先行きについては、感染症の動向を懸念しつつも、ワクチン接種の進展等によって持ち直しが続くとみている。」と示されました。

景気ウォッチャーから読み取れる景気の回復傾向

(1)景気の現状判断DI

本年6月の景気の現状に対する判断DIは、47.6ポイントで前年同月対比+8.8ポイントです。
大枠で家計動向関連、企業動向関連、雇用関連の全てのDIが上昇したことから、前月を9.5ポイント上回り、上昇トレンドにあります。

景気の現状判断DI

(2)景気の先行き判断DI

2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは、52.4ポイントで前年同月対比+8.4ポイントです。
中区分を含む家計動向関連、企業動向関連、雇用関連の全てのDIが上昇したことから前月を4.8ポイント上回りました。
現状判断DI同様、こちらも新型コロナウイルス流行前の水準にまで戻っているため、今後の動向に注視するとともに、意識はすでに前向きであることがうかがえます。

景気の先行き判断DI

2.「売り手」優勢と捉えるべき労働市場

本年6月29日に総務省統計局が発表した「労働力調査」のなかで、「雇用状況」、「求人倍率」、「完全失業率」に焦点をあて、以下のとおりまとめました。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けての緊急事態宣言に伴う休業要請、自粛ムードによって、特に都市部での飲食店、小売店、サービス業、それに付随する卸売業などが事業の縮小を余儀なくされた結果、有効求人倍率の減少を招きましたが、アフターコロナ時代に成長が見込まれている業務領域も多いことから、売り手優勢と捉え、従業員の確保・定着・育成に目を向けていかなければならない状況であると考えられます。

1.役員を除く雇用者数の増減推移

正規の職員・従業員数は3,556万人と前年同月対比で22万人増加し、12ヶ月連続の増加です。
また、非正規の職員・従業員数は2,061万人と同16万人増加し、2ヶ月連続の増加です。
一方、役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は36.7%と前年同月と比べ変化はありません。

役員を除く雇用者数の増減推移

また、主な産業別の就業者数を比較すると医療・福祉が大きく増加し、金融業・保険業、不動産業・物品賃貸業が大きく減少しています。
昨年、新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けた「宿泊業・飲食サービス業」に関しては、依然減少傾向にあります。

役員を除く雇用者数の増減推移

2.コロナ禍でも新規求人倍率が上昇基調に入る

厚生労働省による「一般職業紹介状況」によると5月の有効求人倍率は1.09倍で、前月と比べ同水準である一方、5月の新規求人倍率は2.09倍で、前月と比べて0.27ポイント上昇しました。
新規求人倍率とは、全国の公共職業安定所(ハローワーク)で、当月に受け付けられた新規求人数(a)と、同じく全国の公共職業安定所(ハローワーク)で当月に求職者登録を行った新規求職者数(b)から算出されます。【(a)/(b)】
5月の新規求人(原数値)は、前年同月と比較すると7.7%増となりました。
これを産業別にみると、製造業(30.3%増)、生活関連サービス業,娯楽業(21.7%増)、サービス業(他に分類されないもの)(15.8%)などで増加傾向にあります。

求人倍率等の推移

3.失業率の上昇が限定的にとどまる理由

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、雇用情勢が厳しくなったことは間違いありませんが、コロナ禍による経済活動の落ち込みを踏まえれば、失業率の上昇は限定的にとどまっている状況です。
本年5月の日本の完全失業率は、3.0%と他の先進国と比べ低い値を示しています。
その要因として下記の理由が挙げられます。

失業率の上昇が限定的にとどまる理由

非労働力人口とは、下図のとおり、その国の満15歳以上の人口のうち、病気などの理由で就業できない者と就業能力があるにも関わらず働く意思がない者を合計した人口です。
一方、労働力人口とは、仕事によって収入を得ている者、休業者、完全失業者を合計した人口です。
よって、失業率を算定するにあたり休業者の動向が大きく影響することになり、失業率の上昇が小幅にとどまっている一因は、仕事を失った人の多くが職探しを行わずに非労働力化したことにあります。
昨年4月には、労働力人口が、前月差マイナス94万人の大幅減少となり、就業者数が同様にマイナス108万人の大幅減少となったにもかかわらず、失業率の増加は極めて限定的な推移が続いています。
つまり、本来の労働力人口が、コロナ禍により非労働力人口に移行したことにより、企業活動を加速化させる際のマンパワー不足となる可能性もあり、継続して従業員の確保、定着に注力していく必要があるといえます。

失業率の上昇が限定的にとどまる理由

緊急事態宣言発令に伴う経済活動の停止によって仕事を失った人の多くが、雇用調整助成金の拡充を背景に、就業者の内訳である休業者にとどまったことも失業率の上昇を抑制しています。
また、雇用調整助成金の拡充を背景に、企業がなるべく雇用を維持したまま労働時間の大幅削減(休業も含む)によって需要の急減に対応したことも失業率の上昇が限定的にとどまっている一因と考えられます。

3.景気回復を示す地域別の景況判断と雇用情勢

地域別の経済動向は、内閣府が四半期毎に公表している日本の各地域の経済動向を調査した「地域経済動向」と日本銀行が四半期毎に公表している「地域経済報告」があります。
内閣府の「地域経済動向」は、概況、分野別の動き、地域別の動向、主要指標、参考資料から構成されており、日本銀行の「地域経済報告」は、各地域の景気判断の概要、地域別金融経済概況、参考計表から構成されています。
今回は、日本銀行の「地域経済報告」を中心にまとめました。
この「地域経済報告」では、日本全国を北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄の9地域に区分した上で地域毎の景況判断をしています。

1.先行きの期待感が示された各地域の需要項目別の判断

以下は、日本銀行が示す各地域の需要項目別の景況判断です。
新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるものの、多くの地域で「基調としては持ち直している」または「持ち直しつつある」と総括されています。
ワクチン接種の進展でサービス消費が持ち直すことへの期待感が企業の間で強まっています。

先行きの期待感が示された各地域の需要項目別の判断

2.景気回復が期待される地域別の雇用情勢と金融情勢の動き

地域別の有効求人倍率と金融情勢は、以下のとおりです。
5月の有効求人倍率は、北海道を除き、4月と比べ微増していることがわかります。

 

景気回復が期待される地域別の雇用情勢と金融情勢の動き

4.コロナ禍でも躍進する中小企業の取り組み事例

1.地域の事業者等と協力し、農家と消費者をつなぐA社の事例

A社は、コロナ禍におけるスーパーの三密や買い物弱者問題の解決、地産地消の推進、生産農家支援のため、一般消費者向けに路面店「ご近所八百屋」の取り組みを開始しました。
「ご近所八百屋」は、地域をよく知る建築会社、ガソリンスタンド等の事業者が運営しますが、仕入れや流通は、農産物の流通ノウハウを持つ同社が担当する仕組みです。
地域に「ご近所八百屋」が増えることで、地域の良質な生鮮品を良好な状態で流通でき、現在、県内外で10数店舗を展開しています。
鮮度を保ち迅速に届けるため、地域の共同配送システムの構築をしています。
直売所や道の駅、青果店、卸売業者の倉庫などを集出荷場であるバス停に設定し、「やさいバス」と名付けた冷蔵車が巡回しています。
農家が出荷した品物を、その日のうちに受け取れ、生産者及び購買者双方の利益向上つながっています。

やさいバスの仕組み

商品の受取り、出荷にはバス停を利用し、自社のトラックを使った共同配送でコストを削減しています。
また、生産者と購買者のメリットは下記のとおりです。

生産者と購買者のメリット

2.排水の98%を再利用できる手洗い機を開発したB社の事例

B社は、一度使った水の98%を再利用可能とする水循環技術を持っており、これまでに上下水道が使えない災害時等でもシャワーを浴びられる製品を提供してきました。
コロナ禍で手洗いの重要性が高まる中、「入店前に手を洗えないか」という相談に応えるため、電源さえあれば、水道不要でどこにでも設置できる水循環型手洗いスタンド「WOSH」(スマートフォン除菌機能搭載)を開発しました。
入店前に手洗いを可能にし、来店者に安心を提供できることから、小売店や商業施設等での導入が進んでおり、日本経済新聞やテレビ東京系列の「ガイアの夜明け」でも取り上げられました。

商品ラインナップ

コロナ禍で消費者は、スーパーや飲食店などに出入りする際、コロナ感染予防として当然のように消毒液を手につけています。
しかし、同社の代表はアルコール消毒には3つの問題点があるとし、その第1がアルコールでは除去できないウイルスがあること、次にコスト要因、そして3つ目が皮膚への負担が避けられないことだと指摘しています。
新型コロナウイルスが世界的に広がり始めた2020年2月、同社は、電源さえあれば水道などにつなげなくても、水で手を洗うことができる手洗い機「WOSH」の開発に着手し、7月には早くも製品発売にこぎ着くことができました。
水で手を洗うことができれば、アルコール消毒では行き届かない広範囲の除菌効果が期待でき、その上皮膚炎等のリスクも小さくなり、店側の費用負担や管理も大幅に軽くなることが期待できます。
同社は、水のコストを少しでも下げて、世界中で利用されるシステムづくりを目指しています。
そのための道筋は、いきなり大きな投資をするのでなく、小さく早く試すことを大事にしています。

3.ワーケーション需要の開拓を図るC社の事例

C社は、東京都渋谷にオフィスを構え、宿泊・観光業向けに外国人観光客誘致のマーケティングを提供していますが、コロナ禍において、「東京であることの必要性」に疑問を抱き、従来のオフィスを大幅に縮小しました。
そこで、岐阜県の奥飛騨温泉郷の空き家をリノベーションし、サテライトオフィスを開設するに至りました。
同社は、地域の観光業者や宿泊業界と連携し、ワーケーション(※)需要の開拓を図っています。
自社がまずワーケーションを導入し、地元の優秀な人材も採用しながら新たな営業拠点にする等、地方創生とコロナ禍に苦しむ観光業界への支援も目指しています。

ワーケーションとは

同社は、2004年の創業以来、ホテル、バス会社及び観光協会などを取引先に、タイや台湾からの観光客向けのインバウンドプロモーションや、ウェブサイト制作を主業務として順調に成長してきました。
しかし、コロナ禍によるインバウンド需要の激減の中で、企業体力の温存も大事だが、事態の収束を待つだけではポストコロナの時代の変化に出遅れてしまうとの思いが強くなったようです。
新規事業のコンセプトは〝地域と都市の接点・親睦〟です。
いずれは観光客向けのサービスも展開予定ですが、そのためにもまずは地元になじみ、受け入れてもらうことが先決と考え、本年1月にサテライトオフィス1階の土間を誰でも集える休憩スペース『Ikoi(憩い)』として先行オープンしています。
さらに1階にある3つの居室は、「奥飛騨ワーケーションスタンド」として、本年6月よりワーケーションやコワーキングスペース、会議室などとして貸し出されています。

ワーケーション

同社は、コロナ禍というピンチに立ち向かい、新たな事業に乗り出すことで、企業体制を大きく改善しました。
決断力と行動力、それを可能にする技術力の高さにコロナ禍明けの大きな飛躍が期待されています。

 

■参考資料
『月例経済報告 2021年7月19日』内閣府
『景気ウォッチャー調査 2021年7月8日』内閣府政策統括官
『地域経済報告~さくらレポート~2021年7月5日』日本銀行
『地域経済動向 2021年6月4日』内閣府政策統括官
『労働力調査 2021年6月29日』総務省労働局
『総務省統計局ホームページ』総務省統計局
『基礎研レポート 2021年5月12日』ニッセイ基礎研究所
『日本公庫つなぐVol.22 2021年4月16日』日本政策金融公庫

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