社員が辞めない魅力のある会社を作る中小企業の人材獲得・定着のポイント

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社員が辞めない魅力のある会社を作る中小企業の人材獲得・定着のポイント

  1. 人手不足が深刻化している背景
  2. 良い人材を獲得する効果的な採用方法
  3. 人材定着・育成のために取り組むべきポイント
  4. 人材獲得・定着に成功している企業の事例

 


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1.人手不足が深刻化している背景

我が国では、少子高齢化や労働人口の不足により、企業の人手不足が深刻な問題となっています。
人手不足が原因で企業が倒産してしまうことも珍しくありません。
「企業は人なり」と言われて久しいなかで、長く自社が成長するために、いかに良い人を採用し、やりがいを持って働いてもらうのかが喫緊の課題となります。
今回は、このような課題を解決するために、人材獲得策、および社員が定着する会社づくりに向けたポイントについて解説します。

労働人口の減少が企業に与える影響

国勢調査によると、我が国の人口は2008年の1億2,808万人をピークに2011年より減少が顕著となり、今後も大幅な減少が続くことが明らかとなっています。
色々な行政機関が人口推計を公表していますが、いずれもが2040年度には1億1千万人前後といった予測となっています。
また、2040年になると、労働人口即ち生産年齢人口(15歳~64歳)は現在の水準から21%も減少すると推計されています。
労働人口がこれから減少していきますと、人材不足によりこれまでの雇用が難しくなり、企業にとって経営上の大きな不安要素となります。
これから望まれることは、1日も早くこのような情勢を把握し、確固たる対策をとるということです。
即ち、小手先の対策などではなく、強い存続基盤をつくるために必要な手を打つことにほかなりません。

人手不足の深刻化

人材不足を助長させる離職問題

労働人口の減少と同様、個々の企業において人材不足に陥っている大きな原因として、離職問題があります。
苦労して費用をかけて採用したものの、1年も経たないうちに社員が辞めるという話は、残念ながら数多くあります。
特にそのような企業においては、人材獲得への対応に追われ、とても他の重要な経営課題に取り組むことができない状態になります。
人材が定着した企業になるためには、離職防止への取り組みを急がなければなりません。
離職を防ぐには、その要因を的確に把握することが大切です。
参考として下記の退職理由についてのアンケート調査を紹介します。

退職理由のホンネランキングベスト10

この調査結果から明らかになったことは、人間関係に対する不満が2つもランクインしていることです。
労働条件よりも人間関係の不満で仕事を辞める人が多いことがわかります。
職場の人間関係は改善されにくいと考えられるため、それを放置したままになると、人間関係を理由とした離職につながる可能性が高くなります。
2位には、「長時間勤務」や「休みが取れない」、4位には「給与が低い」などの労働時間・環境に対する不満も挙がっています。
「このまま頑張っても将来的に年収は上がらないのではないか」と感じることによって離職してしまう場合もあります。
他にも社風や会社の方針、会社に対して「正しく評価されていない」と感じる等、育成方針への不満から離職につながっていることもわかります。

離職理由からわかる取り組み課題

離職という現象の背後にどのような問題があるかを探ることができましたら、有効な対策を立てて実行に移す必要があります。
その際、重要なことは、離職者の視点に立って考えることです。
以下のような問題が自社にも当てはまると感じた場合には、早急に改善することが必要です。

離職理由からわかる取り組み課題

2.良い人材を獲得する効果的な採用方法

広い視点での採用方法

「人材の採用」は企業にとっての大きな問題です。「売り手市場」である状況の中では、人材の定着と同様、どのようにして人を採用するかは避けて通れない問題です。
採用業務は、形式で行うものではありません。たとえ新卒が採れなくても、自社で貢献できる人材を採用することが目的であれば、中途、正社員、非正規雇用などと枠を設けず広い視点で採用のあり方を考えることが大切です。

ケース別求職者の特徴

人材を募集する代表的な方法

採用活動をするにあたって、予算、採用ターゲットなどによって最適な募集方法は異なり、どのように求人募集をするかはとても大切です。
採用活動が上手く行っていないと感じられる時には、採用活動を見直して他の方法はないか検討する必要があります。

代表的な求人募集方法

他社にはない魅力を伝える募集広告のポイント

求職活動を行う中で、求職者は募集広告から自分自身の将来像をイメージします。
多くの企業の中から自社を選択するために、同業他社にはない魅力を打ち出すことが大切です。
募集広告を通じて人材の採用に成功した例を紹介します。

(1)仕事内容と契約実績を分かりやすく伝え、ガッツある人材を採用

仕事内容と契約実績を分かりやすく伝え、ガッツある人材を採用

ガス料金が高騰している中で、プロパンガスへの切り替えが優位になること、これまでの実績から比較的容易に契約が獲得できることを説明することにより、応募者が「営業」という職種に対して抱いている先入観を払拭しています。
また入社した人の経歴と契約実績を表示し、年齢や経験に関わらずやる気のあるスタッフが活躍していることを説明しています。

(2)働く環境の良さを写真で伝え、優秀な専門職3人を採用

働く環境の良さを写真で伝え、優秀な専門職3人を採用

必要とする職種が専門職のため、理想とする人数の採用が難しい現状の中、館内写真(吹抜けのメインロビー)を大きく掲載し、良好な労働環境をPRしています。
そのほか、待遇面での厚遇や通勤が可能かどうか判断するための地図なども掲載することにより、望んでいた優秀な人材の獲得に成功しています。

3.人材定着・育成のために取り組むべきポイント

離職を防止するための対策法

離職防止につなげるためには、その問題がどこにあるのかを探り、改善課題を設定して有効な対策を立てて実行していく必要があります。
先に挙げた主な退職理由をもとに対策を掘り下げると、以下のとおりとなります。

離職防止につながる4つの課題

企業理念を明確にし、魅力のある会社となる土台をつくる

離職理由は様々ありますが、「自社に魅力がない」というのが自社に対する総括した見方になっています。
魅力のある会社とは、人によって色々な見方や感じ方がありますが、その根底に会社の存在そのものが問われていると考えられます。
良い人材が集まる会社の多くは、何を目指して活動しているかがはっきりと見えています。
つまり、その会社の存在意義が企業理念として表されているということです。
会社を選択するとき、待遇さえ良ければいいという一部の人を除き、多くは自分が入ろうとする会社の将来に確固たる方向性や実現すべきビジョンが描かれているかどうかは大きな判断要素となります。
「企業理念」を構築するにあたっての要点は以下のとおりです。
既に企業理念を掲げている会社でも、以下の項目に合致しているかどうか再確認してください。

組織の魂である企業理念

魅力ある会社の多くには、社員自身が共感できる企業理念が設定され、その思いや考え方が組織の末端まで浸透して、日々の業務に反映されています。
別の言葉で言えば、夢のある会社、本気で未来を創ろうとしている会社、社会に貢献できることを喜びとしている会社という風にもいえます。
企業の存在意義がますます問われるようになってきている今の時代において、自分の人生の多くを捧げることになる会社を選ぶにあたり、魅力のある会社に応募したいと考えるのは、当然のことといえます。

人材育成を成功させる手法

人材の定着に成功している会社は、社員が自らの意志で学ぶだけでなく、企業や上司も人材育成へのサポートに注力しています。
主な人材育成の手法としてOJTとOff-JTがありますが、いずれも重要な育成手法です。
一方デメリットもあります。
それを踏まえた上で人材育成に取り組むことが大切です。

OJTとOff-JTのデメリット例

上記のようなデメリットとならず、人材育成で結果を出すためには育成の目的に見合った適切な育成手法を選択することが重要です。
成功させるポイントは次の通りです。

人材育成を成功させるポイント

4.人材獲得・定着に成功している企業の事例

人材の安定的な獲得及び生産性向上が実現

人材の安定的な獲得及び生産性向上が実現

【A社の取り組みと工夫した点】

(1) 個人の事情に配慮

定年退職後も雇用延長を図り、実質的な定年の上限を撤廃しました。
また、未経験者の積極採用も開始し、子育て中の女性や、シングルマザーの方も採用。
育児中の社員は子供の成長に合わせた出勤時間の変更や、学校行事への積極的参加を容認など柔軟に対応しました。

(2) 若手への技能継承と人材採用への取り組み

定年退職後の雇用延長の際には、人材育成への協力を条件としており、若手への技能継承を推進しています。
また若手人材の多能工化に向け、資格取得を手厚く支援しています。
さらにホームページをリニューアルし、働く人を中心に紹介する内容へ変更し、応募者へ仕事のやりがいを訴求しました。

(3) 作業環境の整備及びITの導入

食堂、男女ロッカー、女性専用トイレ、現場の空調など作業環境を整備しました。
また、女性社員の発案により納品書等のITツールを導入し、業務改善を図りました。

成果

社員満足主義を経営方針として掲げ、年次有給休暇100%消化、ノー残業を実践

社員満足主義を経営方針として掲げ、年次有給休暇100%消化、ノー残業を実践

【B社の取り組みと工夫した点】

(1) 企業の経営方針【社員満足主義】を社員に浸透させる

『一流の中小企業』を目指しており、社員満足主義を経営方針として掲げ、社内にトップからのメッセージを浸透させています。
中小企業はトップ自らが実践して周知することが重要であり、本気度を示さないと職場環境は変わりません。

(2) 顧客への「残業しない・休日は働かない」方針の説明

「残業はしない・休日は働かない」と取引先に繰り返し粘り強く説明し、お願いしました。
営業が板挟みにならないように、顧客への説明は営業以外の者が顧客の現場を訪ね、「当社は残業しないから早めに連絡を下さい」等の事項を伝え、依頼しました。

(3) ゆとりのある社員数の獲得とジョブローテーション

ゆとりある社員数を獲得することで労働の質が上がり、結果、会社に対する不満がある社員が多い会社に比べて生産性が上がります(利益率は上昇傾向)。
また特定の社員にしかできない仕事は、数年かけてその仕事ができる社員を増やし、誰かが休んでも交替できるようにしました。

(4) 年次有給休暇取得に継続して取り組む

有休消化100%に向けた取組として、1年目に朝礼で3ヶ月おきに、社員に有給休暇を消化するように呼びかけ、2年目から3ヶ月毎に社員毎の有休消化率を掲示し、取得率の低い社員の名前を読み上げて声かけを行いました。
それから20年以上たった今も4ヶ月毎に消化率を掲示し、継続的に取得促進を行っています。

成果

安心して働ける職場の実現により、スキル向上、業績拡大

安心して働ける職場の実現により、スキル向上、業績拡大 

【C社の取り組みと工夫した点】

(1) 社員課の設置

障がい者の人たちが力を発揮できるような仕組みを作りたいと『社員課』を設置し、社員の立場に立って経営者側に意見を述べたり、福利厚生の充実、手話通訳者・障がい者相談員の配置、職場の安全・環境への配慮などに取り組みました。
同時に生活面にわたる指導や支援を実施するなど、安心して働ける環境づくりに注力しました。

(2) 子会社の創設

子会社を創設して福祉サービス事業へ参入。
その際、働き方や働くことへの思いは多様だったため、両社の働き方を説明し、本人の希望を聞いたうえで、C社に残るか子会社で働くか面談を行いました。
さらに行政からの補助金で、会社と社員双方の負担を軽減しながら、職業訓練を通じて品質向上と技能向上を図りました。

 (3) 地域への貢献

地域全体の活性化を重要視し、地域でとれる素材や商品をお客様に提供しています。
また、祭りや伝統行事などへの参加を積極的にして、住民との交流を深めています。

成果

人材不足の解消というテーマは、人が辞めずに活き活きと働ける会社、人が集まってくる会社作りにつながります。
企業によって置かれている状況、抱えている課題は様々ですが、自社の人材獲得・定着につながりましたら幸いです。

 

■参考資料
『経営者のための人手不足解消戦略』大和 一雄著(税務経理協会)
『良い人材を確実に採用し定着させるポイント』谷所 健一郎著(経営書院)
『国立社会保障・人口問題研究所』 平成29年推計
『リクナビNEXT』(転職サイト)

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