働き方に見合った賃金制度を構築する! 職種別賃金制度構築のポイント

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働き方に見合った賃金制度を構築する! 職種別賃金制度構築のポイント

  1. 職種別賃金制度の概要
  2. 職種別賃金制度のメリットと導入ステップ
  3. 職種別賃金制度設計のポイント
  4. 職種別賃金制度の導入事例

 


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1.職種別賃金制度の概要

わが国では、多くの企業が年齢や勤続年数とともに右肩上がりで昇給する賃金カーブを描くいわゆる年功型賃金制度を採用し、長期雇用を支える役割を果たしてきました。
しかし、現在では働き方の多様化に伴い、日本型雇用システムを支えてきた年功型賃金制度への納得感・公正感は得られにくくなってきました。
また、企業競争力を維持・強化し、社員の雇用維持・創出につなげるという観点からも年功型賃金制度は変容を迫られています。
今回は、欧米諸国では一般的になっており、今後、我が国でも導入が進むと言われている職種別・職業別に異なる職種別賃金制度について解説します。

1.職種別賃金制度の概要

職種別賃金は、業種特性に応じ、職種別ならびに階層別に体系化された賃金制度です。
適用しやすい業種とは、物流会社のようにドライバーと営業所スタッフなどのように勤務時間や労働内容が大きく異なるようなケースや、保険会社のように営業社員の営業成績が給与に大きく左右されるような業種においても適合します。
職種別賃金といっても、1つのパターンということではなく、企業によりさまざまなパターンがあります。
年俸制と月給制というように支給形態まで分類しているケース、職務給と年功給というように給与の決定基準を変えるケース、決定基準は変えず、給与水準のみを変えるケース、および月額賃金は共通で、賞与のみ職種別に決定する方式もあります。

職種別賃金制度を導入している業種例、職種別賃金の例

2.職種別賃金制度が導入された背景

営業職のように個人業績が数値化できるような職種もあれば、間接部門のように個人業績が明確になりづらい職種もあります。
このようなケースにおいて、各人の成果に合わせた処遇をしようとすれば、自ずと職種別に成果を測る基準が必要となります。
また、大手企業でも人員削減や通年採用が日常化するようになったことも背景としてあげられます。
人材流動化時代を迎えると、職種・職業ごとの相場を反映した賃金体系への転換が必要となるからです。
さらに、IT化が進んだことで、業務の生産性が勤続年数に比例して上昇しない職種・職業が増えてきたことも一つの要因と考えられます。
日本企業の多くは、職種や業績によらず、一律の昇給額となる賃金制度を採用していますが、企業競争力が低下することを懸念する一部の企業が、この職種別賃金制度を導入しています。

3.職種別賃金制度の考え方と分類方法

(1)職種別賃金体系の考え方

職種別賃金体系の考え方は、職種の個別事情に沿った賃金体系を組み立てることにあります。
当然ながら賃金水準は、その職務価値の評価により職種ごとに異なると考えます。

職種ごとの体系と特長

(2)職種別賃金の分類方法

職種の区分とは、役割・仕事の違いによって分類し、人事管理の評価、処遇、育成・活用については異なる単位に分けることを言います。
具体的には次の要素で検討します。

職種区分の分類と要素

(3)部門別賃金制度を導入する企業も増える可能性がある

全社一律の賃金体系を採用している場合、共通の等級制度によって決定する基本給と、社員一人ひとりの実情によって決定する共通の手当によって賃金を決定します。
一方、部門別賃金を採用する場合には、営業部門では、営業成績がダイレクトに反映する業績給を取り入れたり、IT部門ではSEなどのスペシャリストに手当を導入するなど役割や貢献度によって異なる賃金体系を構築していきます。
つまり、異なる賃金体系が1つの会社の中に併存する形となりますので、部門別に賃金格差を設ける場合には、支給根拠を明確にする必要があります。

2.職種別賃金制度のメリットと導入ステップ

1.職種別賃金制度導入のメリット・デメリット

職種別賃金を導入すると、人事管理、賃金決定および人材育成を業務の特性に対応させることができるメリットがある一方、デメリットもあります。
職種別賃金制度のメリット・デメリットを整理すると、以下のようになります。

職種別賃金制度導入のメリット、職種別賃金制度のデメリット

2.職種別賃金の導入ステップ

職種別賃金制度の導入は、下記のステップを踏んで進めていきます。

 

職種別賃金制度 導入のステップ

●ステップ1:自社の人事制度における課題の整理

職種別賃金制度の導入において、まずは自社の人事制度の分析を行い、職種別の賃金支給実態、人員構成および時間外労働の実態を掴みます。
あわせて、社員が現在の支給金額や支給方法などの賃金制度に対して不平不満を持っているかどうかについて意識調査を行い、今後の制度設計の参考とする方法もあります。

自社の人事制度における課題の整理

●ステップ2:職種別賃金制度の導入方針の決定

制度導入の対象となる職種区分を明確にし、キャリアパス制度の設計を行うことで、職種区分別の昇進・昇格の方向性を打ち出していきます。
導入方針の決定において検討するべき項目は以下の通りです。

職種別賃金制度の導入方針の決定

●ステップ3:職種別賃金体系の構築

このステップでは、次の4つの段階を経て、賃金体系の構築を行います。
職種別賃金を導入する場合、月例賃金水準や年収水準の方針を決めます。
賃金水準を決定するにあたっては、厚生労働省の賃金構造基本統計調査や人事院から公表されている民間給与の実態のデータなどを参考にするとよいでしょう。

職種別賃金体系の構築

●ステップ4:職種別人事評価体系の構築

このステップでは、次の4つの段階を経て、人事評価体系の構築を行います。
職種別評価基準の作成にあたっては、成果・業績評価と職務評価を分けて作成することが望ましいです。
成果・業績評価は仕事の結果を評価するものであり、成果指標としては、売上高や利益という項目となります。
職務評価は、仕事の遂行状況や取り組み姿勢というプロセスが評価の対象となります。
これらの基準を職種別に作成することとなります。
また、制度設計後の運用方法についても検討を行います。

職種別人事評価体系の構築

3.職種別賃金制度設計のポイント

1.職種を区分する際のポイント

職種別賃金制度を導入する場合は、自社にどのような職種があるのかについて洗い出します。
営業職、技術職、生産管理職、ドライバー、および事務職など自社で行っている職種の洗い出しを行い、自社が採用するべき職種別賃金を分類します。
例えば、保険会社など営業系の業種については、営業成果で業績に大きく左右する企業は、インセンティブを賃金に大きく反映させる営業職とインセンティブの発生しない企画開発職、事務職および経理職に分類します。
運送業であれば、時間外労働の多いドライバー職と営業成果が求められる営業職、および時間外業務の少ない倉庫管理職や事務職に分類します。
製造業であれば、単純業務を行っている製造職、高い技術力が必要となる研究開発職、営業成果が求められる営業職、および間接部門にあたる事務職に区分するなどの検討を行います。

職種区分例

2.職種別賃金制度設計のポイント

(1)改定方針は具体的にする

職種別賃金制度の検討にあたっては、全社方針のみならず職種別に方針を決定することが必要となります。
最終的に出来上がった制度は、職種別の特性を反映することとなり、同じ支給基準とならない可能性があるため、制度設計において最初に立てた方針が制度設計の拠り所になります。
具体的な方針を例に挙げると以下のようになります。

職種別賃金制度導入する際の方針例

(2)職種別に選択するべき賃金の種類

次に、職種別の賃金格差をどの賃金項目に反映させていくかを検討します。
営業成績を給与に色濃く反映させたい業種の場合には、営業社員の基本給ベースは低めに設定して、営業成績によるインセンティブを高くします。
一方、個人成績を反映させにくい製造系や事務系部門の社員にはインセンティブが付かない代わりに、基本給のウエイトを高くするなどの検討を行います。
職種別の賃金水準を検討する際には、人事院や厚生労働省から発出されている職種別賃金データが参考となります。

職種別の賃金区分イメージ

(3)賃金表の作成におけるポイント

一定の等級に達するまでは、必要な賃金水準を保障するために全社員一律の基準で昇給し、その後、評価結果によって賃金を大きく左右させる営業職と、営業成果が表れない事務系職種に賃金表を分ける方法があります。
ただし、営業成果をいち早く賃金に反映させたい場合は、最初から賃金表を分けることも可能です。
以下のモデルは、G1~G3等級は全社員共通として、職種によらず一定水準まで賃金が上がる積み上げ方法を採用しています。
その後、昇格すると営業職はS等級となり、基本給は、毎年リセットされて、評価結果によって決定しますので、高業績を挙げた場合には、事務系職種(M1~M3等級)よりも高い基本給となります。

賃金表の作成におけるポイント

(4)インセンティブを反映させる賞与の支給方法

賞与に業績結果を反映させる場合、個人とチームそれぞれの業績に支給基準を設定し、支給額を決定するケースが一般的になってきています。
特に営業職は、モチベーションアップのためにも、業績が賞与に大きく反映できるような支給基準を設定することが望まれます。
またこのような基準を設定していれば、業績が芳しくない場合には支給率が下がるため、会社の負担リスクは少なくなります。

営業職の賞与支給例

4.職種別賃金制度の導入事例

1.製造業A社の導入事例

賃金制度を職種別という観点から部門ごとに処遇体系を検討した結果、1部門1制度の形で制度化できたA社の職種別賃金制度への取組みについて、ご紹介いたします。

制度概要、導入のポイント

2.ソフトウェア業B社の導入事例

ソフトウェア開発業のB社では、裁量労働制を活用して非管理職層の給与制度を策定しました。
B社では入社後、一定年数が経過すると裁量労働制に移行するルールとなっています。
新卒の場合、専門学校卒でG2、大卒や大学院卒でG1からスタートし、G1等級を3年経過すると、裁量労働制となるS1に昇格します。
基本給は人事評価によって決定し、G等級は資格手当(難易度によってランクが分かれている)のみ支給されているシンプルな手当体系です。
S等級に昇格すると、勤務時間の制約はなくなり、時間外手当は支給されませんが、基本給とは別に裁量手当(≒みなし残業代、基本給の20%)が支給されます。

基本給表、資格手当

3.プラスチック製品製造業C社の導入事例

C社では、職種別賃金制度の導入にあたり、基本給を職種別に設定し、職群・職種間で賃金水準に格差を付けています。
各部門の等級ごとの下限金額と上限金額は一律となっておらず、業界平均等を参考にしており、「事務部門」や「製造部門」の初任給は、他の職種よりも低く設定しています。
事務部門と営業部門は4等級まで昇格し、その後管理職になる社員は5等級以上に昇格します。
製造部門と研究・開発部門はスペシャリストとして最大5等級まで昇格可能となりますが、コース転換で管理職になることも可能です。
C社が職種別賃金制度を導入するにあたっては、職種および職務ごとの評価を適正に行うことが課題となっていましたが、国が定めた「職業能力評価基準」(※)を活用することによって処遇の公平性は保たれています。

C社における職種別賃金体系

今後は職種別賃金制度を導入する企業が増えてくると思われます。
自社での導入を検討の際には、参考となれば幸いです。

 

■参考資料
「職種別賃金入門」(山口 俊一 著、中央経済社)
人事戦略研究所ホームページ
「2019年職種別民間給与実態調査の結果」(人事院)

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