顧客の信頼度をアップさせる ワンランク上の 顧客対応術

1.顧客対応力で商品価値を高める

消費マインドが長期低迷し、更には商品の成熟化が進んでいるここ最近において、他社との差別化を図り、業績を挙げていくためには「顧客対応力」の強化が重要な意味を持ちます。
顧客への対応が良ければ、顧客が自社のファンになってくれたり、更には営業マンになってくれることもあります。
逆に顧客への対応が悪ければ、リピート率が下がるだけでなく、クレームにつながったり、最悪の場合は業界内で悪評が広がるなどの事態になりかねません。
特に現在のようなネット社会においては、口コミが大きな影響力を持ちますので、その重要性は高まるばかりです。
今回は、ワンランク上の顧客対応力を身につけることに主眼を置き、場面ごとに事例を交えてまとめました。

顧客が求める価値とは

顧客が求めるサービスのクオリティには4つの段階があるとされます。
これに基づくと顧客満足も4段階に分類されます。

顧客が求める価値とは
基本価値と期待価値は顧客が取引を通しての対価の代償として当然手に入れられると信じているレベルの価値です。
市場で活動していける最低条件がこのレベルです。
願望価値、予想外価値を提供できてこそ、はじめて競争上の優位を確保できるのです。
既存顧客の解約防止をするだけではなく、既存顧客からより多くの商品・サービスを買って頂くには、少なくとも願望価値の提供が必要です。
理想としては、予想外価値の提供を行い、より多くの商品やサービスを買って頂くだけではなく、新たな顧客を紹介して頂けるようになることです。
このように、基本価値・期待価値を満たす商品を、願望価値・予想外価値を満たす商品に引き上げるための必要な要素の一つに、「顧客対応力」が挙げられます。

さまざまな場面で求められる顧客対応力

一言で顧客対応といっても場面はさまざまです。
社内であれば、電話対応、来客対応、メール対応、文書対応などが挙げられます。
また、一歩外へ出ると、営業先での顧客対応だけではなく、取引先や他事業所の社員への対応、さらに枠を広げると官公庁、研究機関、金融機関、自社の近隣住民への対応にいたるまで、自社に関わる全ての人たち(ステークホ ルダー)に配慮しなくてはなりません。
加えて、あまり喜ばしいことではありませんが、内外問わず発生するクレームへの対応というのもあります。

さまざまな場面で求められる顧客対応力
次章からは、会社の顔ともいえる事務スタッフの「電話対応」と、直接業績に影響を及ぼす営業スタッフの「営業訪問時の対応」、それに全社一丸となって取り組むべきテーマである「クレーム対応」の3点について解説します。

2.電話対応力アップのための取り組み

本章では、主に事務スタッフ向けに電話での顧客対応について述べます。
電話対応のレベルアップのためには、部署によらず社内全体での横断的な取り組みが不可欠です。

電話でのマナー

電話で顧客対応するときにはマナーを守ったうえで行わなくてはなりません。
以下に示すようなマナーをマニュアル化し社内で共有することがスキルアップの第一歩です。

(1)肯定的に話す

電話応対では、会話の印象をよくするために、できるだけ肯定的に話すのがよいと言われています。

電話でのマナー

(2)曖昧な表現は避ける

自分にとっての日常語や当たり前の表現が相手に必ず通用するとは限りません。
相手を惑わすような略語や表現は極力使わず、明確に伝えるようにすることが重要なのです。

電話でのマナー

(3)同じことを何度も言わせない

取り次ぐときは相手の名前も必ず伝えるのが基本中の基本ですが、相手が用件も言ったならば用件を簡単に伝えながら取り次ぐのが最善です。
このように、同じことを言わせずにすぐに本題に入って頂くようにするのが相手の立場に立った対応であるといえます。

電話でのマナー

(4)外出先や帰社時間を社内で共有する

外出先や出張スケジュールを社内で共有し、帰社時間もはっきりさせておくなど、電話がつながらない状態を極力なくす社内体制をつくることも重要です。

電話でのマナー

マニュアルだけでは不十分

20年前と比べて電話対応は大きく変わりました。
少し前までは、簡単な用件は電話で問い合わせていましたが、今は電子メールなど、他の新しい手段があります。
そのため、電話ではクレームや難しい問い合わせが多くなっています。
つまり、電話対応の中身が高度になってしまったのです。
画一的な電話対応ではなく、思いやりを持って相手のことを考えた電話対応が、顧客の満足度を向上させるのです。
マニュアル通りにやっているつもりでも、気づかないうちに相手を怒らせてしまったという経験はないでしょうか。
電話対応はなかなかマニュアル通りにはいかないものです。

企業内でのレベルアップへの取り組み方

電話を使わないビジネスは皆無といっても過言ではありません。
CS(顧客満足)向上が叫ばれている中、顧客との最初の接点である電話応対は益々その重要性を増しております。
そこで近年、自社の事務スタッフに「電話オペレータ技能検定資格」や「電話応対技能検定(もしもし検定)」の取得を奨励したり、社内で「電話応対研修」などを開催したりと、電話応対教育に力を入れる企業が増えています。
電話を受けるスタッフはいわば会社の顔ともいえる存在ですから、社内では応対品質を図る基準や仕組み、また、教育体系を整える必要があります。
しかし、それが顧客満足ではなく、自己満足で終わっていないか、世間の当たり前と社内の当たり前にずれがないかなどを客観的に評価するため、検定や外部講師による研修制度を活用することが有効であるといえます。

●内部での取り組み(絶対基準) 電話応対マニュアルの作成・ロールプレイング
●外部機関による評価(相対評価) 検定受験・資格取得奨励・外部講師による研修

電話応対コンクールでの出題例

ここで、(財)日本電信電話ユーザ協会主催の電話応対コンクールにて過去に出題された問題をご紹介します。

あなたは、愛知トラベルの高橋社員です。
愛知トラベルは、国内・海外の個人旅行・ パッケージツアーを企画、提供している企業です。
今週、愛知トラベルから送った旅行 のパンフレットを受け取ったお客様より、以下のような苦情の電話が入ります。
次ページのスクリプトに沿って電話での応対を考えてみて下さい。

電話応対コンクールでの出題例
次に解答例を示します。
自社の商品・サービスに合わせスクリプトを作り変えて実践してみて下さい。
重要なことは、このような事例を用いた研修を半年もしくは一年に一度、定期的に実施し、事務スタッフのスキルアップに向けて継続的に取り組んでいくことです。

電話応対コンクールでの出題例

3.顧客の心をつかむ営業訪問時の対応

本章では、主に営業スタッフ向けに、顧客訪問時における留意点をまとめました。

身だしなみはすべての基本

日本ヒューレットパッカード元社長、樋口泰行氏の著書の中で、自分が45歳の若さで従業員6,000人の企業の社長に選ばれたときのことについて次のように記述しています。

「まず外見から変えよう、と私は思いついた。」
「企業の情報システムを預かる会社の社長としては、顧客から信頼して頂けるような落ち着いた風貌 が必要だ。」

著者は分刻みのスケジュールの合間を縫って百貨店に入り、社長就任会見の前に服装と装飾品をあつらえたそうです。
著者は次のように続けます。

「要は、自分の好みはどうでもいいのである。服装や装飾品を気にする人がどれだけいるかは分からない。しかし、私が社長として接する人たちの中には、外見で人を判断する人もいるかも知れない。(中略)もし1万人に1人でもそういう人がいて、少しでも信頼感を損ねる可能性があるのであれば、そのリスクは回避しておきたかった。」

この言葉に顧客と相対する際のポイントが凝縮されているといえます。
「自分が着たいものを着る」のではなく、「相手にどう見られるのか」を意識することが重要です。
ちなみに高価なスーツやネクタイを身につけたところで、体にフィットしていなかったり、型が古く生地が傷んでいたりしては台無しです。
値段ではなく、清潔で自分に合ったアイテムを選ぶよう心がけましょう。
また、顧客訪問の直前に鏡で全身をチェックし、ネクタイは曲がっていないか、靴が汚れていないかなどと気を配ることも大切です。

「話し上手」よりも「聞き上手」を目指す

「流暢な語り口調で、商品知識が豊富で、しかもやる気のある営業マン」が必ずしも「顧 客から信頼される営業マン」というわけではありません。
むしろ、どの業界においても、トップセールスといわれる人は、意外と朴訥な感じのする話し下手な人であったりします。
「営業に来たのだから話さなくては」という意識で顧客に対峙している人が多いかも知れませんが、これは顧客志向の考え方とはいえません。
「信頼される営業マン」に共通していることは皆「聞き上手」であるということです。

では、なぜ話しても話しても顧客の心をつかむことができないのでしょうか。
それは、一言でいうと「顧客は営業マンの商品説明など聞きたくないから」です。
顧客は現状のど こに問題があり、どうすることで解決できるかを知りたいのです。
顧客のニーズには大きく分けて二種類あります。
それは「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」 です。
潜在ニーズとは、弱くてはっきりしない段階のニーズ、つまり愚痴、不平、不満、将来に対する漠然とした不安の類です。
「信頼される営業マン」はこの潜在ニーズを丁寧に育てています。
つまり、弱くて不明瞭な潜在ニーズをヒアリングによって深掘りするのです。
具体的には、いくつかの質問を通じて、今問題と感じていることをこのまま放置していくと他にどのような影響を与えることになるのか、それを解決することで何が可能になるのか、顧客自身の口から話してもらうのです。
そして「解決するためには○○が必要だ」と顧客が口にしたとき、初めてニーズが顕在化した状態となります。
自社の商品説明はこの後でよいのです。

「話し上手」よりも「聞き上手」を目指す

人をひきつける話し方

「話し方」の印象は次の4つの要素の組み合わせで決まると言われています。

人をひきつける話し方

基本的に4つともレベルを上げれば快活なイメージを与えたりモチベーションをアップさせたりする効果がありますが、この効果をさらに加速させたい場合は、擬態語・擬音語を取り入れるとよいでしょう。

「このドリンクはスッキリとした飲み口で、ゴクゴクと飲めますし、飲めば体がカーッ と温まり、目がバッチリ覚めるんです。」

反対にすべてのレベルを下げる(落とす)と、落ち着いた冷静な印象を与えます。
さらに、数値や具体的な名称を入れることで、より論理的で説得力のある説明となります。

「このドリンクはグレープフルーツの果汁100%で、200ml 飲めば1日に必要なビタミン Cの8割を摂取することができます。」

ソリューション営業を実行する

近年、ソリューション営業という言葉がよく聞かれます。
ソリューション営業とは、一 言でいえば「問題解決型営業」です。
しかし、実際は、自分の売りたい商品で、どこの顧客にも同じ提案書を持っていき、さも困っているでしょう?
という感じで売り込みに回る、到底ソリューション営業とは呼べない「押しつけ型の営業スタイル」が実に多いと思います。
顧客の「現状」と、顧客が理想と考える「あるべき姿」とのギャップを「問題」とするならば、その問題を解決したいという欲求が「顧客ニーズ」です。
ソリューションとは、この「顧客ニーズ」を満たすための「解決手段」なのです。
ソリューション営業の重要な役割は、「顧客ニーズ」の本質、つまり現状と理想のギャップを的確に整理・把握し、最適な解決手段を選定して提案することです。
そもそも顧客は的確に「問題」を特定できているとは限りませんし、「あるべき姿」を描けていないことも多いようです。
そこで、「顧客の現状」をヒアリングし、そこから「相手の問題点と解決策」を提案することが求められるわけですが、そのために必要なスキルは次の2つです。

(1)インタビュースキル ~顧客の現状とあるべき姿を聞き出す質問を行う力
【ポイント】…顧客の立場で考え、仮説を立ててインタビューに臨むこと
(2)論理構築力 ~顧客から得た情報をもとにソリューションを考える力
【ポイント】…「正しいか」ということではなく「説得力を持っているか」

しっかり事前情報をキャッチして、そこから仮説を立て、的確なインタビューを通じて、ソリューションを論理的に組み立てれば、その提案は顧客の心を掴むパワーを持っているのです。

4.ピンチをチャンスに変えるクレーム対応

本章では、対応の良し悪しで顧客のリピート率に大きく影響を及ぼすといわれるクレーム対応のポイントについてまとめました。

クレームは「新規顧客をリピーターにする機会」と捉える

アメリカのジョン・グッドマン氏が、苦情処理と再購入決定率の相関関係を計量化した結果をもとに、佐藤知恭氏(NPO法人「顧客ロイヤリティ協会」前理事長)がまとめた「グッドマンの法則」というものがあります。
この法則によると「不満を持った顧客のうち、クレームを申し立て、その解決に満足した顧客の該当商品・サービスの再購入決定率は、不満を持ちながらクレームを申し立てない顧客のそれに対して極めて高い」とされています。

クレームは「新規顧客をリピーターにする機会」と捉える
つまり、クレームに対して正しく対応することによって、顧客を維持することができるばかりか、リピーターになってもらうことが可能であるということです。
なかなか新規顧客を獲得できない現在の市場において、顧客離れは極力避けなくてはなりません。
クレームを自社の商品・サービスへの期待の声としてとらえ、クレーム客は今後自社のファンになってもらえるかもしれないということを肝に銘じてクレーム対応をするべきです。

まずは謝罪し相手の話をすべて聞く

クレームを伝えてきた人は、受け取った商品やサービスが支払った対価に見合っていないと感じ、期待を裏切られたという気持ちでいるものです。
そしてほとんどの人が、まず怒りをぶつけたくて仕方がない人なのです。
よって、クレームを受けたらまずは相手の感情を和らげるために、責任の範囲を限定して謝罪しましょう。

まずは謝罪し相手の話をすべて聞く
上の例のように「不快な思いをさせた」「お時間を取らせた」ことについて謝罪します。
よく状況を把握しないうちから全面的な謝罪をすると、後でトラブルになる可能性が大きいので、謝罪の言葉には注意が必要です。
そして、謝罪したあとは途中で口を挟まず、相手が言いたいことをとにかく全部聞くことが肝要です。
相手が話の腰を折られずに十分に話すことで、不満が解消されたり、自然に問題点が整理されたりして冷静になることも多いのです。
それに、クレームは自社の評判をダイレクトに聞ける貴重な機会でもあります。
言いたいことはグッとこらえて、とにかく最後まで話を聞くようにしましょう。

顧客に共感する

相手の話をよく聞くと「ごもっともな貴重な意見」もあれば、「常識的に考えるとおかしい意見」もあります。
また「心情的に考えればその気持ちはわかる」という部分もあるこ とでしょう。
こんな時には、相手の言い分を自分なりにまとめて、その中で共感できるところはないか探してみることがクレーム対応においては重要となります。
どのフレーズでも「この人は共感してくれた」というところが「ある」と「ない」とではその後の相手の行動がかなり変わってきます。
一般常識的な回答のみで「正しいことのみを話して対応」するのではなく「相手の心情を読み取り共感しつつ、言うべきことはきちんと伝える」というスタイルでクレーム対応を試みて下さい。
理屈で勝っても問題の解決にはなりません。
議論するのではなく、速やかに相手の不満を解消して自社の信頼回復につなげる意識を持つことがポイントです。

事実関係と顧客の要望を聞き出す

相手がある程度冷静になったら、こちらが知りたいことを質問し、事実の確認や状況の把握を進めます。
質問によっては前段階で相手が話した内容の繰り返しになるため、きちんと聞いていたことを相手に伝えるような言葉遣いを心がけることも忘れてはなりません。
問題解決に必要な情報は主に次の3つです。

事実関係と顧客の要望を聞き出す
特に3つ目の要望について、謝罪、商品の交換・修理、返金、治療費の支払いなど、何を求めているかをしっかりと聞き出すことがポイントです。

具体的な解決策を伝える

クレームが相手の勘違いや間違いの場合は、状況を説明し、納得してもらいます。
こちらから指摘するのでなく、自分で自然に気づいてもらうのが理想的です。
逆に、自社に落ち度がある場合は謝罪し、解決策を探ることになりますが、解決策は具体的に伝えることが重要です。
もし相手との電話を一度切る場合は「今日の○時までに、途中経過のご報告になるかもしれませんがご連絡させて頂きます」と、いつまでに連絡するかを明確に伝える必要があります。
相手にとっては重大な事件だけに、電話を切った後、すぐに会社が対応を始めて、数分後には電話があるはず、と期待しているからです。

クレームに対して感謝する

最後に「私どもが気づかなかったところをご指摘頂きありがとうございました」と明るい声で感謝することです。
具体的な対応が決まっていれば「店長に申し伝え、このようなことが二度と起きないよう従業員に周知徹底致します」などと付け加えるとよいでしょう。
相手はなんとなく後ろめたさを感じながらクレームを伝えていることも多いので、感謝の気持ちを伝えて、その 感情を打ち消してもらうのが目的です。
最後の印象がよくなれば、「感じがよかったからもう一度買って(利用して)みようかな」という気にもなります。
リピートを誘うためのクレーム対応であることを肝に銘じる必要があります。

■参考文献
『ビジネスマナー社会常識の正解』サンクチュアリ出版 尾形圭子 監修
『顧客対応力経営』幻冬舎 桐山秀樹 著
『電話の受け方・かけ方』日本経済新聞出版社 吉川理恵子 著

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