65歳までの再雇用義務化 高年齢者雇用安定法改正への対応策

1.企業における定年制度と高年齢者雇用の実態

高年齢者雇用安定法改正の概要

厚生労働省は、労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)の部会の報告書を受け、平成25年4月からの施行を目指し、高年齢者雇用安定法の改正案を通常国会に提出する見込みです。
大きな改正ポイントは、希望者全員の65歳までの再雇用義務化が盛り込まれている点です。
本レポートでは、高年齢雇用確保措置の現状分析と、雇用義務化となった場合の企業への影響を確認し、その実務対応について検討していきます。

現行と改正後の雇用確保措置の違い

企業における定年制度の実態

(1)定年年齢の設定について

厚生労働省発表の平成23年就労条件総合調査(調査対象数6,145件、有効回答数4,269件)によると、定年を定めている企業の割合は4,269件中92.9%(約3,966社)であり、このうち一律定年制を定めている企業数割合は約3,966件中98.9%(約3,922社)となってい ます。

企業規模から見た定年年齢の状況
企業規模が大きくなるにつれて定年を60歳とする割合が高くなり、企業規模が小さい程、定年年齢を63歳以上又は65歳以上とする割合が高くなっています。
また、企業規模が小さくなる程、定年の定めをしていない企業の割合が高い傾向にあります。

主な産業別に見る定年年齢
産業別に見ると、定年年齢が63歳以上又は65歳以上のいずれについても、医療・福祉が最も高く、電気・ガス・熱供給・水道業が最も低いことが分かります。

高年齢雇用確保措置の実施状況

平成18年4月に施行された改正高年齢雇用安定法では、高年齢者の安定した雇用等を確保するために、事業主は(1)定年の引上げ、(2)継続雇用制度の導入、(3)定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じて、事業主は65 歳まで労働者の雇用を確保するよう義務付けられるようになりました。
ただし、定年年齢を直ちに65歳までとするのではなく、老齢厚生年金(定額部分)の支給開始年齢の引き上げに合わせ、平成25年4月以降に65歳までの雇用確保措置が義務づけられるという条件付きになっていました。
また、希望者全員ではなく、一定条件を付けてその条件をクリアした社員だけを対象とすることができました。
では、実際に雇用確保措置の実施状況がどうなっているのか見てみましょう。

(1)雇用確保措置の内訳

厚生労働省発表の平成23 年高年齢者の雇用状況(約13万8,000社の状況)によると、高年齢雇用確保措置を実施済の企業の割合は95.7%、未実施の企業の割合は4.3%となっています。
雇用確保措置の実施済の企業の対応方法の内訳は以下のようになっています。
雇用確保措置の内訳以上のことから、継続雇用により雇用確保措置を講じる企業の比率が高いことが分かります。

雇用確保措置の内訳

(2)継続雇用制度の内訳

継続雇用制度の導入により雇用確保措置を講じている企業(109,334社)の対応方法の内訳は、下記の通りとなっています。

継続雇用制度の内訳

(3)高年齢者雇用の実態

4年に一度、厚生労働省から発表される高年齢者雇用実態調査(平成20年度版)では、下記のような調査結果が出ています。
再雇用については、雇用契約期間は1 年が多く、賃金は定年到達時より下がっている事ことが分かります。

継続雇用した労働者の雇用形態

2.再雇用義務化に影響を与えた年金制度改正

現在の年金制度の検証

なぜ65歳までの再雇用義務化が必要であるかの背景を見るにあたり、現行の年金保険制度を検証してみる必要があります。
本レポートは、65歳までの再雇用義務化に焦点を当てているため、厚生年金保険の第1種(男子)、第2種(女子)被保険者を検証の対象とします。
昭和61年4月施行の新法から老齢厚生年金は、原則として65歳からの支給になりまた。
しかし、昭和61年4月以前の旧法では60歳(坑内員、女子は55歳)から老齢年金を受給することが出来ました。
このため、被保険者にとって大変不利益となることから、当分の間、60歳(坑内員・ 船員及び女子については支給開始年齢の特例があり)から65歳までの間について、老齢厚生年金が特例的に支給されることとなっています。
この仕組みにより支給される年金を特別支給の老齢厚生年金といいます。

老齢厚生年金のイメージ
その後、平成6年及び12年の2回、法律改正があり現在の年金制度となっています。

(1)平成6年の法律改正

特別支給の老齢厚生年金のあり方を見直し、65歳以降の年金とは別の給付として構成し、一般男子については平成13年度から平成25年度(女子については平成18年度から平成30年度)にかけて、3年ごとに1歳ずつ定額部分の支給開始年齢を段階的に引き上げることになりました。
このため、60歳から支給開始年齢に達するまでの間は、報酬比例部分相当の老齢厚生年金のみが支給され、その後は定額部分相当と報酬比例部分相当を合算した特別支給の老齢厚生年金が支給されることとなりました。

平成6年の法律改正のイメージ(定額部分の引上げ)

(2)平成12 年の法律改正

現在の2階建ての公的年金制度の枠を維持しつつ、将来にわたって長期的に安定した制度を構築するという考え方のもと、平成6年改正と同様な仕組みによって、一般男子については平成25年度から平成37年度(女子については平成30 年度から平成42年度)にかけて、3年ごとに1歳ずつ報酬比例分の支給開始年齢を段階的に引き上げることとし、特別支給の老齢厚生年金は廃止されることとなりました。

平成12年
一方、海外の年金制度に目を向けますと、欧米ではすでに、年金の支給開始年齢が段階
的に引き上げられています。アメリカでは2027 年には67 歳、イギリスは2020 年までにの法律改正の完成イメージ(報酬比例部分の引上げ)
一方、海外の年金制度に目を向けますと、欧米ではすでに、年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられています。
アメリカでは2027年には67歳、イギリスは2020年までに6歳、2028年までに67歳、ドイツでは2012年~2029年にかけて現行の65歳から67歳に引き上げられることになっており、先進各国は支給開始年齢を遅らせていく傾向にあります。

年金支給年齢と連動する定年の年齢

現行の制度では、企業の約8割以上が継続雇用制度の導入をしていますが、企業側は定年を迎えた高齢者を再雇用する際に、労使協定で定めた基準に沿って再雇用する対象者を選ぶことができるため、希望者全員の再雇用の確保はされていません。
平成23年高年齢者の雇用状況(約13万8,000社)を見ると、全企業で希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は47.8%(66,240社)であり、過去1年間に定年を迎えた43万4,831人について、継続雇用された人は32万71人(73.6%)、継続雇用を希望しなかった人は10万7,137人(24.6%)、基準に該当せず離職した人は7,623(1.8%)人でした。

希望者全員が65歳以上まで働ける企業
今後、このような状況の中で、厚生年金の支給開始年齢(60歳、報酬比例部分)は平成25年に61歳へ引き上げられ段階的に支給開始年齢が遅くなる一方、60歳の定年後、希望者全員を再雇用している企業は半数も無く、このままの状況だと賃金も年金も貰えない空白期間が生じてしまう者が出てくる可能性があります。
現行の雇用確保措置では、この問題に対処することができないため、希望者全員を65歳まで働けるように制度化して、無年金、無収入となる者が生じないようにするための施策を講じることが急務となっており、厚生労働省は高年齢者雇用安定法改正案を通常国会に提出し、希望者全員の65歳までの再雇用の義務化の実現を図ることにしました。
ただし、労働政策審議会の部会では定年後の希望者全員の再雇用について、平成25年度の施行段階では全面導入は行わず、2~5年程度の猶予期間を設ける考えを明らかにしています。
よって、平成2年度は6歳までの希望者を再雇用すれば良いこととし、65歳までの雇用確保を義務化するのは平成27年度以降とする方針を示しております。
日本経済団体連合会からは「希望者の増加を考えると雇用確保に限界があり、新卒採用1にも影響が出るかもしれない」と反対する意見が出ています。
日本労働組合総連合会からは「年金の支給年齢が引き上がれば生活できなくなる」とした上で「希望すれば誰もが65歳まで働く環境が必要だ」と賛成の意見は真っ向から対立しており、高年齢者雇用安定法の改正法案成立の行方は予断を許さない状況となっています。
一方、海外の高年齢者雇用対策の現状を見てみますと、法律により定年となる年齢の引上げと年金の支給開始年齢は連動しています。

主な先進国の高年齢者雇用対策制度
さらに、平成23年10月に開催された社会保障審議会の部会の中で、中長期的な課題として厚生年金(報酬比例部分)について現在の65歳への引き上げスケジュールの終了後、さらに同じペースで68歳まで老齢基礎年金、老齢厚生年金を引き上げることも検討されています。
平成37年には65歳以上人口が全人口の3割を超えると見込まれる中で、今後の国の施策としては、意欲と能力のある高年齢者が可能な限り社会の支え手として活躍でき、年齢にかかわらず働ける生涯現役社会の実現を目指して環境整備を行っていくものと考えられます。

3.高年齢者雇用への対応事例

事例に見る高年齢者雇用対策

最後に、65歳までの希望者全員の再雇用の義務化は企業側に対してどのような影響を与えるかを考え、雇用確保措置が成功している企業の実例を紹介します。
制度の導入は、現状の長引く不況により失業率が悪化する中、今後は新卒採用にも影響が出ることが予想されます。
高齢者の雇用確保は企業側にとっては、人件費の負担増を生み出し、新卒者の採用を控える企業が増える可能性が出てきます。
しかし、日本の公的年金は世代間扶養であるため、若年層採用が滞ると公的年金原資である税や保険料の支え手の数が減り、それによる収入減は年金制度自体の根幹を揺るがすものとなってしまいます。
一方で高齢化社会を見据え、年金支給の負担増を軽減するのも責務であると同時に、高齢者の雇用が確保される必要もあり、板ばさみ状態に陥ることは否めません。
幸い、日本の高齢者の就業意欲は非常に高く、企業としては知識・技術・経験が豊富な高齢者を戦力としてどのように活かせば良いか制度面の整備を図るべきタイミングとなっています。

高齢者の地域社会への参加に関する意識調査
有用な人材を年齢問わず積極的に活かしていくことが、これからの経営戦略上、ますます重要性を増してゆくものと考えられます。
ここからは、高年齢者の雇用確保措置が成功している企業の実例を見てみます。
高年齢者の果たす役割としては、主に(1)熟練技術を後進に伝える、(2)熟練技能の活用、(3)専門知識の活用が、考えられます。
成功している企業は、定年後の高年齢者を労働力の 担い手として知識と経験を活かして活躍出来るような仕組みを作っています。

希望者全員70歳まで勤務延長

企業の概要

希望者全員70 歳まで再雇用、生涯現役を目指す

企業概要

エイジフリー制度を導入、生涯現役で勤務

企業概要

■ 参考文献
『高年齢社会白書(内閣府)』
『平成23年高年齢者の雇用状況(厚生労働省)』
『今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書 (厚生労働省 職業安定局 今後の高年齢雇用に関する研究会)』
『支給開始年齢について(厚生労働省 社会保障審議会年金部会)』
『平成20年高年齢者雇用実態調査(厚生労働省)』
『70歳いきいき企業100選(独立行政法人高齢・障害、求職者雇用支援機構)』

この記事をPDFファイルでダウンロードする