改定前に押さえておく診療所の機能強化と連携対応策

1.次期改定で迫られる機能強化と連携体制の構築

1.2014年度診療報酬改定の全体像とキーワード

2014年度診療報酬改定を本年4月に控え、去る1月15日に公表された次期改定基本方針に従い、重点化される項目や新設項目などが次第に明らかになってきています。
具体的な点数配分や施設基準等は個別改定項目に示されていますが、次期診療報酬改定の方向性は、「機能分化・強化と連携」と「在宅医療の充実」というキーワードで示されています。

2014年度診療報酬改定の基本方針

(1)ネットワーク化の推進

これら2つのキーワードは、病院と診療所、急性期・回復期(亜急性期)と長期療養、医療と介護の各機能を明確に分化させるとともに、それぞれ強化することを求めています。
背景に、これら各機能の円滑な連携によって、地域におけるネットワーク化を図る必要に迫られているということでもあります。
このうち診療所は、引き続きプライマリケアを担い、地域医療のゲートキーパーとしての役割を果たしていくことが求められていますが、2014年度改定では外来・かかりつけ医機能の充実を目的として「主治医機能」の評価が新設されるため、現在の自院の外来機能の再編検討が必要になるかもしれません。

(2)急性期医療の再編が診療所にも影響

また、今次改定の焦点のひとつは急性期医療の絞り込みです。
これにより、7:1入院基本料算定要件の厳格化と大病院の外来縮小が図られるため、診療所にとっても経営に影響する事態となっています。
診療報酬改定の直前は、点数の増減や、加算・減算項目、施設基準のみに関心が向きがちですが、この時期にこそ、改定の意図するものを早期に把握し、今後の診療所経営の方向性を明確化しておく必要があります。

2.キーワードから想定する具体的取り組みの方向性

改定の焦点は急性期医療の絞り込みですが、入院医療を提供する病院や有床診療所だけではなく、一般の診療所経営にとっても大きな影響があるととらえる必要があります。
後述のとおり、大病院の外来抑制推進が強化される方針が示されていますが、入院患者のルートは、(1)一般外来、(2)救急、(3)紹介、という3つに限られており、外来抑制が強化されることで、急性期医療を担う大病院は、救急強化と紹介増加を図るしかありません。
したがって、紹介患者増加に向けての取り組みは、診療所からの専門医療を必要とする入院患者紹介、退院後の外来フォローに集中することになります。
地域のプライマリケアを担う診療所は、「地域完結型医療」の確立を図るうえで、大きなカギを握っています。

(1)各機能の分化と強化

これまでの医療制度改革では「機能の分化」とされていた表現が、「機能分化・強化」と改められました。
受け入れる患者の医療必要度に応じて、プライマリケア、入院医療、在宅復帰・在宅支援の各機能を担当する医療機関を分化させ、それぞれの機能を強化し連携することで、地域包括ケアの実践を目指すという厚生労働省の意図が表れたものといえるでしょう。
最終的には、入院、在宅、かかりつけ医という機能に集約されるものと考えられます。

次期診療報酬改定における社会保障・税一体改革関連の基本的な考え方(抜粋)

(2)在宅医療の充実

次期改定では、医療機関の機能分化・強化と連携や医療・介護の連携がさらに推進されます。
そのため、入院医療、かかりつけ医、在宅医療、歯科医療、薬局、訪問看護、介護などのネットワークにおいて、患者を支えるこれらが協働して機能を発揮し、患者の状態に応じた質の高い医療を提供することや、病院から在宅への円滑な移行や、医療と介護の切れ目のない連携を図ることに対する評価の導入が予定されています。
診療所としては、主治医機能の発揮とかかりつけ医の役割を果たすことにより、在宅医療に関係する評価項目を算定することができるため、自院の在宅医療の質の向上と介護を含む多職種連携を強化することで、医療との両輪による真の地域包括ケアの担い手となることができるといえます。

3.認知症への対応

認知症患者数は、2011年に51.2万人が受診する状況となり、うち外来患者数の伸びが大きくなっています。

認知症患者数の年次推移(1996~2011年)~出典:患者調査
これを受けて認知症に関しては、厚生労働省・認知症施策検討プロジェクトチームによる「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」(2013年9月5日)が策定されており、その中で、「認知症医療支援診療所」の創設が方針として示されています。
さらに、診療所と中小病院を対象とした主治医機能の評価では、対象疾患に認知症が含まれることになりました。
これは、認知症は専門医が治療に当たる特別な病気ではなく、一般診療所で診ていくべきものと位置付けられたと理解できます。
厚生労働省としては、早期に診断・対応ができるのであれば、一般診療所であっても対応が可能であろうという意向があると思われます。
診療所のアプローチとして、創設が予定されている認知症疾患医療センター(仮称)の所在を把握し、連携に向けた準備を早期に取り組むことで、来る認知症ケア時代に対応できるようになります。

2.「主治医機能」評価の導入による外来の再編

1.診療所が担う「かかりつけ医」の機能

(1)「主治医機能」評価の導入

次期改定において注目される項目のひとつに、外来機能の一環として「主治医機能」の評価が設けられる点が挙げられます。
外来における、かかりつけ医機能を充実させる観点から、下記のような疾患を持つ患者に対して、服薬管理や健康管理、介護保険対応、および在宅・24時間対応を行った場合、新たな包括点数を算定できるようになります。

主治医機能の要件
ただし、この「主治医機能」の評価は、診療所だけではなく、200床未満の中小病院も対象となっており、厚生労働省は診療所と中小病院にプライマリケア医療機関としての役割を担わせたいという方向性が見て取れます。

(2)専門的診療への橋渡し

主治医機能では、「全人格的かつ継続的な診療」が求められています。
そのうえで、専門的な診療を受けてもらうために、地域の拠点病院等へ適切な紹介を行うことで、それぞれの機能を活かす仕組みの構築を目指しています。
よって、いわゆる総合医のようなスキルが求められるようになるほか、病院や介護だけでなく薬剤師、歯科診療所との連携強化も必要となってきます。

2.「かかりつけ医」に求められる地域での役割

これからの診療所や中小病院は、医療と介護を通じた包括的支援を提供する役割を、入院機能を強化する拠点病院・専門病院との間で、そのネットワークの要であるかかりつけ医として、地域レベルでの連携強化によって分担していくことが求められます。

(1)地域包括ケアのコーディネート機能

地域包括ケアは、急性期から回復期、慢性期から在宅への流れをネットワークとして確立し、住み慣れた地域で最後まで暮らせる支援を行う仕組みです。
診療所は、医療・介護の円滑な移行促進、相談業務などを通じて、かかりつけ医として地域包括ケアのコーディネーター的役割を果たしていくことが必要です。

(2)グループ化による負担軽減

主治医機能の評価は、中小病院にもその対象を拡大していることから、複数の医師による協働を前提としていると考えられます。
実際に、主治医機能要件の一つである24時間対応は、通常1名の常勤医で運営する診療所にとって重い負担となりますが、他の診療所や連携先の病院、介護事業者とのグループ化によって具体化できるようになります。

地域の「かかりつけ医」が担う機能

3.医療療養型病床の方向性

厚生労働省は、想定以上に増えすぎたことで医療費の膨張や看護師の偏在を招いたとされる、7:1入院基本料を算定する急性期病床について、2015年度末までに現在の約36万床から約9万床(4分の1に相当)を削減する方針を固めています。
一方、大病院を対象とする外来抑制策は、紹介状のない外来受診に対する定額自己負担の導入方針などが明らかとなっており、一層促進が図られます。
つまり外来機能でみると、急性期病院は専門性の高い外来に特化し、一方でプライマリケアを担う診療所と中小病院では、地域で受診する患者の診察を受け持ち、必要に応じて適切な医療機関に患者を送る役割が重要になるのです。

入院医療・外来医療の役割分担のイメージ
また、社会保障・税一体改革における外来医療の基本的考え方に示されているように、必要に応じ紹介した患者が専門病院での治療を終えた後は、再びかかりつけ医に逆紹介される体制の確立が必要です。
そのため、これまでと同様の受け身の病診連携だけでなく、急性期病院の地域連携室に自ら足を運んだり、退院後ケアが自院で可能な疾患の患者を積極的にアピールしたりするなど、急性期病院側のニーズを早目につかみ、これを取り込む外来機能へ展開を図っていくべきです。

診療所における今後の外来機能領域 質の重視に転換する在宅医療評価への対応

3.質の重視に転換する在宅医療評価への対応

1.在宅医療は実績と質を求める評価へ

(1)実績を重視する評価への転換

2012年度改定で新設された「機能強化型」在宅療養支援診療所・病院は、点数を高く設定したことから、報酬算定を目当てに在宅医療に参入し、不適切な医療提供を行っている一部の医療機関の問題が指摘されていました。
そのため、次期改定における在宅医療については、実績を求める評価方式に変更となっています。
具体的には、連携による機能強化型在宅療養支援診療所を届け出ていても、個別の医療機関で看取りや緊急往診の実績のないところは、算定が認められません。
一方で、在宅療養支援診療所の施設基準の届け出がなくても、在宅患者の緊急受入を行っている場合は評価することとされています。
現在自院が在宅医療を展開している場合は、まず、これらの評価に見合う看取りや緊急往診の実績があるかどうかを確認する必要があります。

(2)在宅医療分野内での効率化

患者が自ら医療機関を選択する権利を阻害しているという指摘があり、介護事業者が老人ホームなどの入居者を対象として、「同一建物複数人」の在宅時医学総合管理料を算定していたケースについては、減額される方針が示されています。
施設や高齢者住宅に特化して在宅展開を行ってきた医療機関であれば、そのマイナスの影響も大きいものになりますが、これらの見直しで実績に対する評価の厚みを増すことにもつながり、今後は在宅医療分野の中でも効率化を図るものが出てくると思われます。
在宅医療を展開する診療所としては、個人居宅患者を獲得する活動の推進も検討すべきでしょう。

在宅医療をめぐる診療所の今後の方向性

2.機能強化型訪問看護ステーションとの連携

在宅医療や訪問看護分野は、近年の改定で評価拡充の方向が維持されていますが、次期改定では「機能強化型訪問看護ステーション」の評価が創設されます。
訪問看護ステーションの利用者ニーズが24時間・重症者対応、頻回訪問などに拡大してきている現状を受けて、看護職員数や24時間対応、看取り実績などを要件とする大型の訪問看護ステーションを評価し、地域包括ケアにおいて中核的な役割を果たす存在となることが期待されています。

(1)機能強化型訪問看護ステーションの要件

規模や看取り実績を要件としたのは、在宅医療の質を高めるという厚生労働省の意向が現れたものだといえます。
つまり、現在運営されている訪問看護ステーションの規模が大きくなるほど収支が黒字になる傾向があり、かつ患者や家族が訪問看護に24時間の対応や重症化、頻回な訪問などを求めている現状を踏まえて、これらを要件として備えた場合は評価を手厚くしようというものです。

「機能強化型」訪問看護ステーションの要件(案)
診療所を運営する医療法人のなかには、訪問看護ステーションを併設しているケースもありますが、上記のように厳しい要件のため、自ら機能強化型を運営することは難しいかもしれません。
また、自院がある地域や診療圏に普及しないことも想定されますが、仮に連携先となれば、大きな力となるはずです。

(2)有力な連携先となる準備を進める

診療所としては、24時間対応の支援や、個人居宅患者を獲得し、ケアを行うにおいて、訪問看護ステーションは重要な連携先です。
今後、機能強化型訪問看護ステーションが機能するようになると、常に多くの看護職員が対応可能であることから、在宅患者からのファーストコールをステーションで受け、その内容によっては訪問看護師が対応するか、あるいは医師につなぐかという振り分けを行うことで、診療所医師の負担を軽減することも期待できます。
また、在宅医療を提供するうえでは、医療ではなく生活をベースに考える必要がありますが、その観点からも医師と訪問看護師の役割分担の推進役として、機能強化型訪問看護ステーションの存在が重要視されることになります。
地域のかかりつけ医である診療所は有力な連携先として、地域包括ケアに積極的に関わっていく活動を進めることが求められます。

今後予測される地域包括ケアにおける役割分担
尚、機能強化型訪問看護ステーションは、常勤スタッフ数が多いことで研修や育成に取り組みやすいと考えられ、小規模のステーションでは難しかった教育・研修機能を担うことも想定されています。
連携先として協働するにあたり、診療所からもこうしたステーションにおける専門研修に協力して、結果的に在宅医療全体の質の向上につなげることも可能です。

4.医療・介護の多職種協働ネットワークづくり

1.主治医機能が求める介護との円滑な連携

2014年度改定で導入される主治医機能の評価や、オレンジプランにおいては、介護との連携と協働が求められています。
主治医機能の評価に際しては、具体的に次のような3点が必要であると示されています。

主治医機能の評価
これらは、在宅医療支援や高齢者のケアを念頭に置いたものですが、対象となる患者のQOL向上を目的とする主治医機能には、医療だけではなく、介護や介護保険制度に関する理解と連携が必須であるといえます。
2012年度は、診療報酬と介護報酬の同時改定が行われ、医療・介護の連携は極めて重要な課題として捉えられていましたが、次期改定においても医療と介護が協働することによって地域包括ケアを実践するという方向性は変わりません。
地域のかかりつけ医として、受診した患者の生活に適応し、必要な治療とケアを受けながら希望に沿った暮らしを継続できる環境づくりには、介護を含む多職種が協働するネットワークの要として、診療所がその役割を担っていくことが求められています。

多職種協働ネットワーク構築を目指す診療所の対応策

2.多職種連携のために介護関連職種を理解する

主治医機能の評価においては、介護保険制度への理解と連携が主要機能として挙げられています。
診療所が介護と連携を図る上で、介護及び介護保険制度に関する理解は不可欠です。
地域包括ケアは、医療と介護に関わる多職種協働チームによって運営するものですから、相互理解が円滑な連携の基盤となるといえるでしょう。
地域のかかりつけ医として、また在宅医療を展開するうえでも、患者を取り巻く専門家との情報交換や信頼関係の構築は、全ての関係につながっていくととらえて、医療側から介護に近づいていくという意識が必要です。
多職種連携を成功させる前提として、介護サービスに対する理解を深めるため、診療所にとってカギとなる職種と機能を確認しましょう。

(1)介護支援専門員(ケアマネージャー)

ケアマネジャーは、要介護者などが自立した日常生活を送れるように介護サービス計画(ケアプラン)を作成し、自治体、居宅サービス事業者や施設などとの連絡・調整を行う職種で、医療側からみると「介護の調整・案内役」という存在です。
在宅医療患者は、要介護認定を受けているケースが多く、ケアマネジャーの情報は在宅医療の実践によって、判断の参考となるものも多くあります。
患者や家族の要望を聞いたうえでケアプランを作成しているため、ケアマネジャーは医療側が持っていない詳細な情報を入手しており、特に在宅患者に関わる専門職がそれぞれの視点からチェックした重要なポイントを把握することができます。

ケアマネジャーとの連携のポイント

多職種連携のなかでもケアマネジャーとの情報共有は、在宅医療の質向上に直結するものであり、それは地域における診療所に対する信頼を強くすることになります。

(2)医療ソーシャルワーカー(MSW)

医療ソーシャルワーカー(MSW)は、保健・医療分野の総合的な相談と援助を行う職種であり、主に病院で患者や家族が抱える心理的・社会的・経済的問題の相談に対応し、在宅や社会復帰の支援を行う機能を果たしています。
診療所と病院の間では、専門的治療や検査、入院患者の紹介や、退院患者の逆紹介などを日常的に行っていますが、患者の生活全体を見ているMSWは、ここで大きな役割を担っています。
特に、在宅医療を提供する診療所にとっては、入院患者が在宅に移行する際、MSWとの連絡・情報共有が重要です。
病院の担当医からは医学的な内容についての情報は得られますが、MSWを介することによって、在宅医療支援に必要な患者・家族の生活情報を把握することが可能になるからです。

MSWとの連携のポイント

診療所がかかりつけ医としての機能を果たすためには、日頃からMSWと情報を共有し、様々な判断を迫られる状況で、患者・家族の希望に沿った選択を可能にする関係を構築しておく必要があります。
さらに、自院に合致した患者を紹介してもらうためにも、MSWに対し、在宅医療をめぐる自らのスタンスや、「できること」と「できないこと」などを伝えておくことが重要です。

医療・介護の多職種種連携成功のポイント

■参考文献
●平成25年1月23日中医協総会資料「総-1 外来医療(その1)」
●平成25年10月9日中医協総会資料「総-1 外来医療(その3)<主治医機能について>」
●クリニックばんぶう(日本医療企画)2014年1月号

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