院内マーケティング力向上 患者さんに支持される院内活動

1.業績向上につながる院内組織力の強化

医院の業績向上を考えた場合、まず初めに広報活動や認知活動といった外部に向けての宣伝・広告に目が行きがちです。もちろん、これらの取組みも大切ですが、同様に重要なことは、院内において、患者さんから支持されるような仕事の仕組み作りをおこなうこと、つまり院内組織力の向上が重要です。
そのためには、経営者としての「経営理念」「診療方針」といったビジョンを明確に持ち、スタッフに浸透させ、仕事を行う仕組みを作る事です。
また、作った仕組みがうまく運営できるような手法構築と結果を検証するマネジメントも必要です。
この仕組みが作られ、運用出来ている事が成長する医院となるカギとなります。

1.デフレ経済と共存の時代

医院経営者は常に業績向上を目指しています。業績向上のためには、患者さんから指 される院内の仕組みが必要です。
そのためには、院内組織力の強化、つまり「院長」や「スタッフ」の役割分担や能力の向上と各人の力の結集が重要です。
このことが「クリニック力」(組織力)の強化へとつながります。
スタッフが院長の経営方針や診療理念を理解した上で最大の能力を発揮し、院長が、個人能力を発揮出来る仕組みを作り、医院全体という組織でチームワーク良く診療することが業績向上の基本となります。

組織力強化の方程式

(1)院長

経営者・院長は、特殊な医療という分野で医院運営をしている為、社会貢献が求められています。
社会に影響を与える人間である事、スタッフの人生を預っているという事を自覚し、自分の事だけでなく、他者の幸せを考え、実行する責任があります。
スタッフ個人の能力を把握し、教育し最大限の力を発揮させる体制(システム)を作り、業績向上を図る事です。
業績向上がまた、患者さんやスタッフに還元され、関連する人たちに幸せを提供できるのです。

(2)スタッフ

スタッフ個人には、様々な能力があります。過去の経験値や資格、コミュニケーション力や洞察力、事務能力等、諸々です。
医院運営において、接遇から始まり、医療事務、受付会計、経理事務、助手業務、衛生士業務、技工士業務、清掃・雑用等まで、多種多様な仕事があります。
スタッフは、院長の経営理念や診療方針に乗っ取って、各個人がその業務や分担部所で最大限の能力を発揮する事です。

(3)組織力

組織力とは、個々の能力を集めた仕組みを作り、全体の能力を結集し高めた力の事です。
個々人が勝手に仕事をするのではなく、体系的に適材適所で各部所に分担され、組織全体で応対する事で、能力が倍増する体制から発揮される力が組織力です。

(4)業績向上

医療といえども経営を行うのですから、経営者として業績を向上し、医院の継続とスタッフの繁栄を図らなければいけません。
ですが、その経営の根底には経営者のビジョンがなければいけません。
これからの医院経営には、利益重視の数字を追い求める経営ではなく、ともに働く仲間が幸せになるという思いが必要とされています。
適切な治療提供と適正な報酬が得られ、またその利益から働く仲間や患者さんへ還元される好循環の輪が業績向上へと結びつきます。

2.ビジョンと目標の共有化

(1)目標の共有化を図る

各人が勝手に目標を持って仕事をしても、医院の組織力は上がりません。重要なのは、目標を全体で共有化し、ビジョンに合わせ同じ方向に向かって行動する事です。
人は言葉でのコミュニケ-ションを取らないと、お互いの考えている事は理解出来ません。
各人の目標、経営者・院長の「経営理念」「診療方針」を話し合うミーティングの機会を多数取る 必要があります。

医療と介護が円滑に連携していないケース
目標の重なる部分が多くなるほど意識の共有化も図れ、行動も同期しやすくなります。
ミーティングを開き、共有化するようコミュニケーションを取りましょう。

(2)経営理念とは

経営理念とは、事業を行うに当たって「基本的価値観+目的意識」を持ち、経営者・院長の「何のために集まっているのか」という事を「見える化」したものです。

患者さんに支持される仕事の仕組み作り

2.患者さんに支持される仕事の仕組み作り

強い組織には、目的、目標、ルーツ、役割、序列、段取り等が明確にあります。
組織として、仕事の仕組みが明確化しています。
歯科医院でも、目標設定、目標達成のための行動と動機づけ、各人の役割と仕事の段取り(体制やマニュアル作成)、評価、を明確にしなければいけません。
患者さんに支持される組織としての仕組み作りが必要です。

1.仕事の仕組み作り

(1)仕組み作りの基本原則(スタッフと経営者)

仕事を行う上で重要なのは、経営者とスタッフの感じ方・受け取り方が同様であるというのが理想です。
個人の目標と医院の目標が同じ方向を向いている事。仕事を行っている時や患者さんの反応等から感じ取る価値観が同じである事。
仕事中や経営上に予想されるリスクを感じる危機感が共有できる事。
仕事上で任されるスタッフには自信と能力があり、経営者から言葉や態度で信頼されているのがわかる関係が構築されている事。
この事が仕事の仕組み作りの上での基本原則となります。

(2)目標の設定

仕事行う上で、目標設定が重要です。仕事をこなすのではなく、目標・目的を持ち、達成するために仕事を行うという意識を持たせる事です。
目標の設定は、抽象的ではなく、次に挙げるような具体的目標設定が必要です。

目標

(3)目標達成への動機づけ

何故その仕事をするのかという「動機づけ」が必要になります。
人は、つらい仕事でも何かしら理由があると頑張れるという習慣があります。
なんとなく仕事をしているのではなく、明確な目標があり、仕事の結果次第でこうなるという動機付けを行います。
この動機が頑張れる理由にもなりえます。
動機付け

(4)評価

スタッフが仕事の結果を出した時に、物理的な成果の他、達成感や成長を実感できる心理的報酬が欠かせません。
必ず評価をして、スタッフに伝えて下さい。達成賞とか報酬とかの物理的評価の他、ねぎらいの言葉や、誉める事という心理的評価を相手に伝えるという事が絶対に必要です。

2.マニュアル整備

仕事を行う仕組み作りには、マニュアル整備が欠かせられません。
基本業務をマニュアルに合わせて取り組んでいき、スタッフは目標達成を、経営者は評価をします。

(1)マニュアルとは

「マニュアルがあると仕事が覚えやすい」「判らない事もすぐ確認できるし、いちいち聞かなくても良い」等、マニュアルが無い事に批判はあっても、有ることに批判はありません。
ですが、マニュアルは「最低限のサービスレベルをそろえる」ためにあるのであって、「マニュアル通りに仕事をしていれば問題無い」のではありません。
マニュアルとは、経営者の経営理念を見える化した基本的な最低限のものです。

マニュアルからの組織力強化
仕事は「こんな感じで」「こんな位な事を」という『暗黙知』で行うのではなく、マニュアルによって明確にされた仕事=『形式知』を行うことが必要です。
『形式知』が認知される事で、スタッフが仕事の結果を反省したり、経営者の評価を受け入れる事ができます。

(2)マニュアルの作成法

すべての仕事を詳細にマニュアル化するのは難しいですが、経営者の理念は統一し、入れ込む必要があります。
「医療は安全を売っている」は、根本です。
最初は院長先生が大枠を作り、その後をスタッフに任せます。
日々行う仕事の洗い出し、週では、月では、3カ月・6カ月では、1年間を通じての仕事は、というようにその場面毎を想定して仕事を整理させ聞き取りましょう。
医療法の改正で、院内安全管理マニュアル、院内感染防止マニュアル、個人情報保護に関してのマニュアル等、法律でもマニュアル作成が義務付けられてきています。
業務マニュアルの作成は、患者さんの為にも自分たちの業務のレベル維持もしくは向上の為にも必要です。
経営者として、ただ作成しなさいではなく、きちんと作成する目的と意義を伝え、自分たちの仕事のレベルを向上させ、愉しむ事につながるという意識を持たせることが肝要です。
「受付」「会計」「医療事務」「一般事務」「歯科助手」「歯科衛生士」「技工士」等という職種別に作成する方法も有るでしょうし、日々、週、月、半年、年間といった時系列での仕事に合わせる作成方法、「待合室」「診察室」「消毒・印象コーナー」等の場所別での作成方法も有るでしょう。
覚えやすく、指導しやすい方法を選択すると良いです。

(3)マニュアルの活用法

クリニックの魅力向上のバランス
マニュアルの目的を理解し、作成した物を活用しなければ何にもなりません。
医院経営者としては、スタッフの価値判断や行動基準が共有化されているのか、サービスの水準が経営者の望むレベルまでいっているのか、モチベーションは上がっているのか、スキルアップになっているのか、を意識して確認しなければいけません。
ミーティングを開き、マニュアルの読み合わせや内容の改正のチェックを行う必要があります。
マニュアルの基準に到達していない人や部署が有れば研修会の開催も行わなければいけないでしょう。
スタッフにマニュアルの説明をする時も、ただ説明するのではなく、「目的」「経過」「予 測結果」「実際の結果」「原因」「改善」といった各経緯も併せ説明しなければいけません。
常に「何故行うのか、何故しなければいけないのか、こういう結果を求めるために行う」という前段までスタッフに理解させ、自身が他人に説明出来るようになる必要があります。
納得して初めて自身の中で生きてきます。

3.院内マネジメント:目標管理とミーティング手法

前章までで、組織力の向上にはビジョンを明確にし、共有化を図り実行しましょうといってきました。
ですが、スタッフには求められている能力に満たない人もいます。
その人を育成するスタッフマネジメントも必要です。
また、組織力強化の手法として「目標管理」と「スタッフミーティング」があります。

1.院内マネジメント

(1)マネジメントスタイル

目標を設定し、その目標達成に努力する事が仕事の基本です。
ところがやらされていると感じたり、院長がやれと言うから仕方なしにやっているでは、何にもなりません。
自発的に一生懸命本気で取り組むと「知恵」が出ます。改善や新テーマの発掘、新たなサービス等への提案や取り組む姿勢が出てきます。
ところが、中途半端に取り組んだり、いい加減に取り組むと「愚痴」が出たり、「出来ない(しない)言い訳」が出たりします。
出来ないもしくは目標が達成しないのであれば、教育・研修を行わなければいけません。
その研修も画一的に行うのではなく、その人にあった教育・研修プログラムが必要です。

(2)院内マネジメントの種類

求められるスタッフ像とマネジメントスタイル
全額自己負担の介護保険外サービスは、患家の経済的事情と関わる選択肢ではありますが、介護で体力的、精神的疲労を抱えている患者の家族にとってのレスパイトケアに対するニーズは高まりをみせています。
ケアを必要とする患者だけではなく、患者の家族の支援も担う「かかりつけ医」であれば、当然押さえておくべきサービスのひとつです。

マネジメント
実際にうまくいっている歯科医院では、(3)参画型マネジメントを行っています。
スタッフ自身で考え、知恵を出し、目標を設定し、実行する、という循環システムを構築・運営出来ています。
(1)の経営者が出す指示さえ守っていれば良いといった医院も、(2)の出来るスタッフだけ集め、ただ治療を行っている医院もあります。
ですが、競合が激しくなり、情報過多な状況では、(1)(2)の医院は患者さんに支持されない可能性が高いでしょう。

スタッフ別マネジメント法
スタッフもスキル別に教育・研修をし、人罪から人財に育てなければいけません。
能力だけを上げるのではなく、医療従事者としての意識や知識、自医院のビジョンを理解するように育成するのも医院経営者の責任です。

2.目標管理

(1)プロセス管理

人を使い、人を相手にする歯科医院では、従来型の成果主義である結果管理を活用しても、うまくいかなくなってきています。
どういう目標を立て、達成する為の計画と実行具合を管理する、「プロセス管理」が重要になってきています。
しっかりした具体的目標があり、医院のビジョンが浸透したスタッフを、目標達成のためにプロセスを管理すると、ほとんどが目標達成へとつながるはずです。
教員・研修に関しても同様です。
医院が望む姿になるようプロセス管理を徹底しましょう。

(2)目標管理手法

スタッフに1年間の目標を立ててもらい、それを各月に落とし込みます。
そして2週間に一度は面談を行い、達成度合いについて話し合いをします。
その目標が医院の方針や理念に合っているかもチェックします。

目標管理
目標管理では、過程・仮説を立て、実行計画を立案し、実行するというところから管理を行います。
そして成果に対して必ず評価を行い、評価を相手方に伝える事です。
目標を100%達成していても改善点を探し、次につなげる事が重要です。

3.スタッフミーティング

(1)スタッフを理解する

スタッフが仕事に対して何を考え、仕事を通じて自分の人生をどうしていきたいかまで理解してあげなければ、「仕事の仕組み作り・組織力向上」は成り立ちません。
スタッフの考えに迎合するのではなく、考え方を知った上で経営者のビジョンに合わせるように指導していくのです。
女性スタッフを理解するには、意識してコミュニケーションを取る必要があります。
コミュニケーション方法として、(1)個別面談で相談に乗る、(2)院内ミーティングを開く(意見交換やビジョンの確認・共有化)、(3)スモールトークによる何気ない会話、(4)ランチミーティングを開く(雑談から本音や心理を引き出す)があります。

(2)スタッフミーティングの目的(意義)

夜間診療や土日診療が増えてきた実態を考えるとミーティングを開くのが難しいのが現状です。
が、スタッフにとっても患者さんにとっても、より良い医院(職場)にする為には、絶対に必要なのです。
ただ惰性で行うのではなく、しっかりと目的を持ち、その目的を参加者全員が理解した上で行わなければいけません。

ミーティングの目的

(3)スタッフミーティングの手法

ミーティングの手法ですが、通常であれば、経営者(院長)が司会をし、進めていく事がほとんどです。
経営者・院長が通達事項を述べ、一方的に注意事項等を叱って終わりというような形まであります。
意見交換どころか発言すら全くできない雰囲気で終わってしまう医院もあります。

良いミーティング事例

(4)組織成熟度に合せたミーティング

(1)ボス・マネジメントスタイル ⇒ 組織の成熟度の低い段階(初期段階)

この段階は、組織風土や医院文化といった、目に見えない医院の土台を固めていく時期です。
院長が積極的に医院全体をリード・指導していく必要がある段階です。
目的に応じて、ロールプレイングに取り入れる事で、頭だけで理解するミーティングから実際に体を動かしながら取り組む事の出来るミーティングに変化していきます。

(2)インタラクティブ・マネジメントスタイル(双方向)⇒ 組織が成長し、業績にも反映されている段階(成長段階)

この段階は、医院をさらに成長・発展させていく時期です。
院長とスタッフが、目指すべき方向性を共有していく必要性が高まる段階です。
医院の全般的な運営にスタッフを巻き込んでいく事です。
院長の目指すビジョンをスタッフに浸透させ、そのビジョンを日常のオペレーションレベルで具現化していく為の取り組みを、院長・スタッフがともに考え、実践していく事が欠かせません。
この場合に重要なのは、院長が答えや考えを伝えるのではなく、院長が求める回答をスタッフから引き出し、スタッフの意見の肉付けに重点を置く事です。

(3)エンパワーメント・マネジメントスタイル(権限委譲)⇒ 組織力が高まり、円熟した段階(成熟段階)

この段階は、スタッフが主体的に医院運営を担っていく時期です。
院長は、医院の目指すべき方向・ビジョンをスタッフに浸透させ、それが現場レベルで遂行されているかを確認する事が大きな役割になります。
院内改善を自発的に提案・実行できる権限をスタッフに移譲する為、細かい事の指示ばかりではなく、主体的に行動する事の重要性(先にある目的に合致)を伝える点にウエイトを置く必要があります。
信頼できる事務長的な存在のスタッフの育成も大きな課題です。
ミーティングの進行や院長の考え方や経営数値はリーダーを通してスタッフへ浸透させていくと効果的です。

■本稿は、
2011年7月16日(土)に開催した歯科セミナー 「勝ち組歯科医院経営マーケティングのポイント」(講師:株式会社デンタルマーケティング 代表取締役 寶谷光教氏) における講演内容および配布レジュメ資料を加筆・再構成して作成したものです。

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