1.リニューアル戦略の立案と施設の再整備
歯科医院は、開業後10年以上経過すると建物の外観、内装、看板等も古くなり、患者に古いイメージを与えたり、また、備え付けた医療機器も不具合が出てきたりします。
汚れている所や物を交換する、不具合のある医療機器や設備を取り換える、今風なデザインに改修するだけでは患者に受け入れられるリニューアルとは言えません。
環境変化を把握し、院長先生の診療方針を時代に合わせて見直しした後に、外観や内装と設備、医療機器等のハード面の他、医院の診療体制も含めたソフト面でのリニューアル、組織・人事に関する規定等の見直しという現在から未来に向けた戦略立案が必要です。
1.リニューアル戦略の立案ポイント
(1)基本方針の確立
どのような患者を対象にし、どのような患者ニーズに対応し、どのような治療サービスを提供するのかといった診療方針・経営理念を確立することが基本方針の確率です。
診療圏がどのような地域なのか、患者層はどうなっているのか(性別・年齢・職業別)、患者ニーズはどうなっているか、という患者側の情報と、院長先生が提供したい歯科医療と得意な治療分野、スタッフ体制、医療機器等を具体的に抽出し、リンクさせることがポイントです。
(2)ポジショニングの確立
基本方針と競合医院から自医院のポジショニングを考えます。
流行を追い求めすぎると患者さんに飽きられるようになりリニューアルを行う意味がありません。
どのエリアで、どの患者層をターゲットにするのか再度方向性を固めます。
2.建物等ハード面のリニューアルポイント
(1)リニューアル計画の策定
ハード面のリニューアルとは、建物、看板、設備などのリニューアルを指します。
基本方針(コンセプト)に沿った計画立案が重要です。
外部デザインは形状や外壁の種類・色といった見栄え(対象患者層を意識)を、看板等も形状や字体、ロゴマーク、表示内容といったデザインの部分と視認性(目立ち方)と医院への誘導性を考えます。
駐車場や待合室、バリアフリーを考えたユーティリティ、最新の医療機器、清潔な衛生部分(トイレ、洗面、消毒コーナー等)、癒し効果を考えた付属設備等、細かな気配りが必要です。
3.建物内部リニューアルのポイント
(1)内装仕上げ等の軽微なリニューアル
壁紙や床材の変更であれば、材料と色合いによって患者さんに与えるイメージが変わります。
その場合、家具の変更も合わせる事でも大きく変わります。
玄関、待合室、診察室、化粧室等で対象とする患者さんがどういう気持ちでいるかを考え、選定します。
照明についても検討事項です。
維持費や導入時の費用を考え、LED照明も検討します。
また、照度によっては患者さんに与えるイメージが違います。
直接照明だけでなく間接照明の利用でムードや清潔感を強く与える事も出来ます。
照明計画も検討しましょう。
(2)間取り変更のリニューアル
バリアフリーから個室化もしくは間仕切りの設置、カウンセリングルームやキッズコーナーの設置、トイレの洋式化等、変えたい場所は様々です。
何を優先させ、どこにお金をかけるかを考えないと莫大な投資計画になってしまいます。
対象患者に合わせ、競合医院との差別化を図る計画にしなければいけません。
(3)バックヤードのリニューアル
歯科医院の3Sとは、整理、整頓、清掃です。
リニューアルするのであれば、この3Sを考えたバックヤードも検討しましょう。
必要な棚を考え、患者さんから見える場所であれば、整理整頓された見栄えのする形状で制作しましょう。
使用頻度によって棚の配置や場所が決定されます。
片づけやすく利用しやすい配置計画が重要です。
(4)スケジュール管理
設計事務所や施工店からの工程に合わせ、スケジュールの管理が重要です。
大きな投資であれば、事業計画立案から融資、事前認知活動、工程、資金支払計画、完成後の諸手続き、リニューアル開業と進んでいきます。
スタッフの増員計画も必要になる事も有ります。
また、保健所等の手続きが発生する可能性があります。
医療法により、間取りの変更や増築、建替え、スタッフ等の定員、診療科目、診療時間、診療日の変更等の場合、届出や許可が必要になります。
計画の方針が決まった際、一度保健所に事前相談をした方が良いでしょう。
2.医院運営体制のリニューアルポイント
1.医院運営体制におけるリニューアルの項目
医院運営体制のリニューアルは、医院の運営体制・管理体制を一新するリニューアルです。
診療体制から、広報活動、コンピューター管理等多岐にわたります。
2.広報活動のリニューアル
広報活動のリニューアルは、特に重要です。
広告・営業が必要ということではなく、医院が変わったということを患者さんに知ってもらう一番の認知活動ということです。
ホームページの変更やその他広報活動の変更もリニューアルは常に検討しなければいけません。
漫然とした広報活動では、患者さんに飽きられ、経費だけがかさむことにもな りかねません。
常に新しい情報提供を心がけた広報活動が、増患対策となりえます。
特にホームページのリニューアルは重要です。
ホームページ作成時に重視すべき項目は、下記のとおりです。
何よりも優先すべきは院長、スタッフの情報を提供することです。
3.マーケティング活動のリニューアル
(1)これからのマーケティング活動 3つのサイクル
歯科医院における業績格差がますます広がっている現状から、勝ち組医院にみられるマーケティング戦略には、新規患者の確保だけでないいくつかの特徴がみられます。
そのポイントは、「既存患者の満足度向上活動」「新規患者の獲得活動」「自費率向上の取組み」といった3つのサイクルをまわすことにあります。
(2)既存患者の満足度向上への取組
患者満足度を向上させるためには、より良い医療技術・医療サービス提供はもちろんのことですが、医療行為プラスアルファのサービスの充実が求められています。
院長先生・スタッフの接遇サービス、院内安全対策、アメニティーの充実、広報活動など総合的な取組が必要です。
(3)リコール対策の目的と実情
リコール患者対策のねらいは、単に患者数アップだけでなく、予防に来て頂くことにより患者さんのデンタルIQ(歯に対する知識、価値観)を高め、歯科医院が働きかけることによって、ファン患者になってもらうことにあります。
(4)中断患者への取組
中断患者(キャンセル)への対策も徹底します。
この取組みを怠ると、既存患者を失うだけでなく、通常の診療に大きな支障をきたすこととなります。
徹底した対策が必要です。
3.リニューアルを機に組織・人事を見直す
1.組織力の強化が業績向上に繋がる
スタッフが院長の経営方針や診療理念を理解した上で最大の能力を発揮し、院長が、個人能力を発揮出来る仕組みを作り、医院全体という組織でチームワーク良く診療することが業績向上の基本となります。
そのためには、院内組織力の強化、つまり「院長」や「スタッフ」の役割分担や能力の向上と各人の力の結集が重要です。
このことが「クリニック力」(組織力)の強化へとつながります。
リニューアルを機に、組織・人事を見直すことで組織力の強化を図ります。
2.組織・人事の見直しポイント
組織・人事に関する規定を含めて見直しを図ります。
見直しの狙いは、スタッフの満足度向上です。
患者満足度を高めることは重要ですが、スタッフ自身の満足度を向上させなければ、患者サービスは向上しません。
組織を活性化し、増収につなげるのはスタッフのモチベーションを高めるシステムの構築と育成、労働条件になります。
また、ミーティング等により常に目標を共有かすることもポイントです。
目標の重なる部分が多くなるほど意識の共有化も図れ、行動も同期しやすくなります。
ミーティングを開き、共有化するようコミュニケーションを取りましょう。
3.組織力の向上
(1)組織力の向上は価値観の共有から
仕事を行う上で重要なのは、個人の目標と医院の目標が同じ方向を向いている事です。
仕事を行っている時や患者さんの反応等から感じ取る価値観が同じである事、仕事中や経営上に予想されるリスクを感じる危機感が共有でき、仕事上で任されるスタッフには自信と能力があり、経営者から言葉や態度で信頼されているのがわかる関係が構築されている事です。
この事が仕事の仕組み作りの上での基本原則となります。
(2)目指すべき目標を設定する
仕事行う上で、目標設定が重要です。仕事をこなすのではなく、目標・目的を持ち、達成するために仕事を行うという意識を持たせる事です。
目標の設定は、抽象的ではなく、次に挙げるような具体的目標設定が必要です。
(3)目標達成への動機づけ
何故その仕事をするのかという「動機づけ」が必要になります。
人は、つらい仕事でも何かしら理由があると頑張れるという習慣があります。
なんとなく仕事をしているのではなく、明確な目標があり、仕事の結果次第でこうなるという動機付けを行います。
この動機が頑張れる理由にもなります。
(4)人材評価の仕組みづくり
スタッフが仕事の結果を出した時に、物理的な成果の他、達成感や成長を実感できる心理的報酬が欠かせません。
必ず評価をして、スタッフに伝えて下さい。達成賞とか報酬とかの物理的評価の他、ねぎらいの言葉や、誉める事という心理的評価を相手に伝えるという事が絶対に必要です。
また、その評価に合わせた給与規定の策定も必須でしょう。
給与規定は、スタッフと雇用関係の中で、相互理解を得ることが出来るか出来ないかによって、プラス要因にもマイナス要因にも働きます。
4.歯科医院 リニューアル事例
1.待合室・受付のリニューアル
待合室の椅子を多人数用の椅子から一人用の椅子にリニューアルした事例です。
予約制ではなかった時代に購入した多人数用椅子ですが、予約制を導入し、隣を気にせずゆったりと座れるように1人掛けの椅子を用意しました。
それに合わせて内装や照明も清潔感と雰囲気(癒しの空間)を作り出すようにデザインされ、色合いも白を基調にリニューアルした事例です。
2.診察室のリニューアル
フロアにユニットが並んでいる診療室が多くありますが、プライバシー保護の為、パーテーションの設置で個室風にするのがトレンドになっています。
また、窓に面してユニットが設置されているケースが多くありますが、診療中はブラインド等で閉めることが多いため、窓を重要視せず、照明で明るさを確保するようになっています。
事例のとおり、パーテーションとライティングを変更することで、大きくイメージが変わります。
3.外観と看板のリニューアル
商店街の一角で開業している歯科医院の事例です。リニューアル前は、看板も目立たなく通行人からも視界に入りづらい色使いでした。
看板の色を黄色主体にし、視認性を高め、かつ袖看板と、置看板を設置することにより、通行人の視界に入りやすい工夫をしたリニューアルです。
4.運営体制・組織人事の見直し
ハード面のリニューアルを機会として、院内の運営体制や就業規則等の規定関係、コミュニケーションの改善、人事評価制度の導入など、運営体制や組織人事制度を見直します。
これらの見直しを実施したクリニックは、事前にスタッフ意識調査を行い、抽出した問題点を改善に活かしています。
具体的に実施した項目は下記のとおりです。