医療法人の透明性確保とガバナンス強化 医療法改正の概要

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医療法人の透明性確保とガバナンス強化 医療法改正の概要

  1. 平成27年医療法改正のねらいとその概要
  2. 全ての医療法人を対象とするガバナンスの強化
  3. 医療法人に求められる経営の透明性の確保
  4. 地域包括ケアを充実推進する新法人制度の創設


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1.平成27年医療法改正のねらいとその概要

1.改正医療法が順次施行へ

改正医療法が昨年9月16日の参院本会議で可決・成立し、同9月28日付で公布されました。
前回の医療法改正は平成26年10月に施行され、病床機能報告制度と地域医療構想の策定を重点とし、これに続く今回の改正は、「医療法人制度の見直し」と「地域医療連携推進法人制度の創設」の2つを柱とするものです。
診療所に関係するものとしては、医療法人の経営の透明性の確保とガバナンスに関する事項の一部が該当します。

医療法改正の2つの柱

施行期日等については、「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行」(一部を除く)と定められており、平成28年度から順次施行されます。

2.医療法人制度改革のねらいと主要改正項目

今回の改正では、医療法人のガバナンスの強化及び経営の透明性の確保に関する事項が盛り込まれました。
医療は、非営利性を保ちつつも、極めて公益性の高い業種とされています。過去にも株式会社参入の議論の中で、当時の経済財政諮問会議において、医療法人の非営利性は形骸化しているとの指摘を受けています。
これを受けて、第5次医療法改正において非営利性を強化する目的で、新規の医療法人の設立は「持分なし」に限定され、既存の持分のある医療法人は「経過措置型医療法人」と位置付けられました。
今回の改正は、さらなる非営利性強化のために、医療法人の会計基準や役員と特殊の関係がある事業者との取引の状況に関する報告書の作成、理事の忠実義務、任務懈怠時の損害賠償責任等、医療法人の経営にかなり踏み込んだ項目となっています。

(1)医療法人のガバナンスの強化

医療法人のガバナンス強化については、平成28年9月1日より、関連する改正医療法の一部が施行されています。
主な改正項目は下記のとおりです。

医療法人のガバナンスの強化に関する事項

(2)医療法人の経営の透明性の確保

医療法人の経営の透明性の確保については、関連する改正医療法の一部が平成29年4月2日より施行されます。
外部監査に関しては、負債額が50億円以上または収益額が70億円以上の医療法人に義務付けられるため、多くの診療所は該当しませんが、いわゆるMS法人との取引に関する報告義務については、来年4月以降に決算期を迎える医療法人から、随時報告書の提出が必須となるため注意が必要です。

医療法人の経営の透明性の確保に関する事項

3.地域医療連携推進法人制度創設の狙い

地域医療連携推進法人は、平成29年4月2日に施行となります。制度創設について、厚生労働省は、「医療機関相互間の機能の分担及び業務の連携を推進する」ことを目的として掲げています。

地域医療連携推進法人関連の条文(医療法第70条)

地域医療連携推進法人は、各都道府県に設置されている医療審議会の意見聴取を経て、都道府県知事の認定により設立が可能になります。
設立までの流れは下記のとおりです。

地域医療連携推進法人設立までの手続き・スケジュール

4.今後のスケジュール

改正医療法は、平成28年9月1日と平成29年4月2日の2段階で施行されます。
その第1段階は医療法人のガバナンス強化に関連する項目、そして第2段階として、経営の透明性の確保、地域医療連携推進法人に関連する項目となっています。

今後のスケジュール

2.全ての医療法人を対象とするガバナンスの強化

1.医療法人のガバナンスの強化

平成28年9月1日より、医療法人のガバナンス強化を図ることを目的とする医療法人制度の見直しに関連する改正医療法の一部が施行されます。
新たに実施義務が規定された項目は、医療法人の役員報酬の決定手続、監事選任時の監事の同意、理事長の業務状況報告等であり、これらを医療法に規定して明確化するものです。
また、医療法人の業務執行を担っている理事長及び理事の責任の大きさを勘案して、一般社団法人等と同様に、理事長及び理事の忠実義務、任務懈怠時の損害賠償責任等が規定されました。

(1)役員報酬の決定手続

理事の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、社員総会の決議によって定めると規定されました。
すでに定時社員総会で役員報酬の支給限度額を決定する旨を定め、これを実施している医療法人もあると思いますが、今回はすべての医療法人に社員総会での決議が義務付けられます。

改正される医療法の条文

今後、議事録の提出が求められる可能性がありますので、定款の定めに従って社員総会の開催を確実に行い、かつ上記の決議事項を明記した議事録の作成を徹底する取り組みが必須となります。

(2)監事選任時の監事の同意及び監事報酬の決議

医療法人の監事の選任及び監事報酬の決議に関する改正項目は下記のとおりです。
監事は、本社団の業務又は財産の状況について、毎会計年度、監査報告書を作成し、当該会計年度終了後3月以内に社員総会及び理事会に提出することが義務付けられています。
これらの職務執行が可能なのかを事前に説明し同意を得る必要があるというねらいがあります。
また、理事報酬と同様に、監事報酬についても社員総会による決議が義務付けられました。

改正される医療法の条文

(3)理事長の業務状況報告

医療法人の理事長は、3か月以内に1回以上、自己の職務の執行の状況について理事会に対する報告義務が課されました。
報告する内容としては、下記の項目が想定されます。

想定される報告内容の例

ただし、定款(寄付行為)において、毎事業年度に4か月を超える間隔で2回以上その報告をしなければならない旨を定めることで、3ヶ月に1回以上という回数が緩和されます。
医療法人としては新たに定款(寄付行為)にこれら内容追加の検討が求められます。

改正される医療法の条文

(4)役員が負う損害賠償責任

医療法人の理事会の位置づけ及び理事会の職務について、下記のとおり規定されました。
また、役員等の損害賠償責任についても新たに定められました。

改正される医療法の条文

2.定款変更例

今回の改正に伴い、厚生労働省より新しいモデル定款が示されています。
実際に定款を変更するか否かは任意とされており、役員報酬については社員総会の決議、理事長報告は3ヶ月に1回以上行うことと定められたため、定款上に定めを置くかについては任意に選択できます。

社団医療法人の定款例(「医療法人制度について」(平成19年医政発第0330049号)別添1)の一部改正

3.医療法人に求められる経営の透明性の確保

1.医療法人経営の透明性の確保

医療法人の経営の透明性の確保については、以下の3点が改正されます。
対象となる規模については、現段階ではまだ明確になっておらず、今後の検討課題となっています。

(1)会計基準の適用・外部監査の義務付け

医療法人の経営の透明性を確保するために、一定規模以上の医療法人に会計基準の適用を義務づけるとともに公認会計士等による外部監査が義務付けられます。

改正される医療法の条文

具体的な会計基準としては、平成26年に四病院団体協議会(*)が作成した「医療法人会計基準」の適用が義務付けられました。
(*)四病院団体協議会:一般社団法人日本医療法人協会、公益社団法人日本精神科病院協会、一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会で構成される民間病院を中心とした病院団体の協議会。
また、外部監査が義務付けられる一定規模以上の基準は、以下のとおりであり、大規模病院や複数の分院を展開している医療法人等が該当します。

外部監査が義務付けられる医療法人の基準

また、上記の医療法人は、貸借対照表・損益計算書をホームページ、官報又は日刊新聞紙で公告しなければなりません。

(2)メディカルサービス法人との関係の報告

本改正においては、医療法人といわゆるMS(メディカルサービス)法人を含む関係事業者との関係の透明化・適性化が必要かつ重要との観点から、毎年度、医療法人とMS法人との関係を都道府県知事への届出が義務付けられました。
関係事業者の取引としては、医療法人の役員・近親者(配偶者又は二親等内の親族)やその支配する法人(社員総会等の議決権の過半数を占めている法人)との一定の取引が該当します。
なお、一定の取引については、下記のとおり規定されました。

関係事業者の取引基準

上記に該当する取引について報告する様式は、下記のとおりで、該当する項目について記載する必要があります。

関係事業者との取引状況に関する報告様式

2.定款変更例

今回の改正では、医療法人関係事業者との関係を報告することが義務付けられました。
これに関連して、医療法人に影響を与える理事が行う取引については、理事会の承認を得ること、また、事業報告書等を社員及び債権者に閲覧させることに関する定款記載例が示されました。

社団医療法人の定款例(「医療法人制度について」(平成19年医政発第0330049号)別添1)の一部改正

4.地域包括ケアを充実推進する新法人制度の創設

1.地域医療連携を推進する新たな法人制度の創設

今回の医療法改正において創設された「地域医療連携推進法人制度」は、首相の諮問機関である産業競争力会議において、これまで「非営利ホールディングカンパニー型法人制度」として議論されてきました。
この法人制度が、「地域医療連携推進法人制度」と名称を変えて、改正医療法に折り込まれたものです。
この制度は、平成29年4月2日に施行となります。

(1)地域医療連携推進法人の概要

地域医療連携推進法人とは、複数の参加法人(非営利法人に限る)が参画し、統一的に地域医療を推進する法人をいいます。
具体的には、下図のとおり、非営利法人がそれぞれ社員を参画させ、最高議決機関である社員総会を運営します。
また、その社員総会に意見具申する地域医療連携推進評議会を別に組織することが必要となります。

地域医療連携推進法人の概要

(2)地域医療連携推進法人の認定基準

地域医療連携推進法人は、都道府県知事の認定により設立が可能となります。
具体的認定要件は下記のとおりです。
この法人の社員となれるのは、医療法人等の非営利法人となっており、個人開設の病院・診療所は参加できません。

都道府県知事の認定及び認定基準

2.設立の効果及びメリット

地域医療連携推進法人を設立するメリットは、複数の病院や診療所をグループ化し、一体的な経営を行うことにより、地域包括ケアの充実推進が期待できる点にあります。
そして最大のメリットに挙げられるのは、病院等の機能の分担・業務の連携に必要と認められるときは、地域医療構想の推進に必要である病院間の病床の融通を許可することができる点です。
これにより、グループ間の病床の適正配置が可能となります。
そのほかには、グループ内の病床機能の適正化や医師をはじめとする人員の適正配置、患者・要介護者情報の一元管理による重複検査の簡略化などが挙げられます。

地域医療連携推進法人設立の効果・メリット(イメージ)、地域医療連携推進法人制度活用による医療連携検討事例

 

■参考文献
「医療法の一部を改正する法律について」平成27年度改正(厚生労働省医政局医療経営支援課)

 

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