1.事業継続計画(BCP)の概要
1.売れない時代だからこそ顧客を見つめ直す
バブル経済の崩壊以来100 年に一度の大不況といわれています。
モノが売れないのであ りません。
本当は、100年に一度の大不況がマーケットを一層見えづらくしたために、売りにくいのです。
今重要なのは、売上に結びつく顧客を見つめ直して密接な関係を築く、すなわちCRM(顧客関係構築)の徹底です。
消費者の生活様式の変化やニーズの多様化によって、企業の商品開発が難しくなっていることや、不況もあいまって新しい顧客を獲得するのに大きなコストがかかるようになりました。
そこで、「ワン・トゥ・ワンマーケティング」のように企業と顧客が1対1の関係を築き、既存の顧客の満足度を向上し、売上を伸ばす方がコストも低く、収益性も高くなるという考え方からCRM(顧客関係構築)が見直されてきています。
このような考え方は、以前からありましたが、購買動向の収集などを手作業で行うことは不可能なことであり、近年のコンピュータの高速、低価格化やインターネットをはじめとしたIT技術の進歩によって可能になったといえます。
2.なぜ今CRM(顧客関係構築)なのか?
(1)デフレスパイラルによる価格競争の激化
単純な価格競争に陥って消耗していませんか。
製品やサービスが次から次へと生み出される中、そこで起こることは価格競争です。
価格競争は最終的には企業同士の消耗戦になってしまい、働けど利益は出ずという結果になります。
価格以外で勝負することから抜け出し、良い循環を作ることこそ、CRM(顧客関係構築)の担う役割になります。
(2)多様化する顧客ニーズへの対応
今までと同じ事さえしていれば安泰という企業はそう多くありません。
企業や事業の寿命は確実に短命化しており、そのような環境の中で、企業は何かしら手を打つ必要性を感じています。
また、その「何か」は、企業によって違うはずです。
ただ、顧客なくして企業なしと言われるように、顧客が変化し続けている限り、企業もそれに対する対応力を付けていかなければなりません。
それが顧客対応力であり、顧客の変化に対して企業も変化する、それを担うのがCRM(顧客関係構築)です。
(3)高まる顧客からの要求に応える
顧客満足を得るためには当然コストが発生します。
そのため、例え顧客満足を獲得できても、高コストが発生していればその事業は赤字になり、事業継続はできません。
CRM(顧客関係構築)は、顧客満足を獲得すると同時に、それを効率よく低コストで実現するという役割も担っています。
具体的には、無駄な仕事を無くすことによるコスト削減、効率アップ・スピードアップによるコスト削減だけでなく、営業やマーケティングが的確に動けるようになることによる費用対効果の向上など、そのまま経営体質強化に直結する内容ばかりです。
3.CRMを導入する目的
業の収益を上げるためには、商品やサービスを販売しなくてはなりません。
その商品やサービスを購入するのは顧客です。CRM(顧客関係構築)では従来の「開発した商品やサービスを顧客にどう売り込むか」というのではなく、「顧客の欲しい物(商品やサービス)をいかに提供するか」という顧客を中心したビジネスへの転換が必要となります。
顧客を中心に据えるという考え方は、企業と顧客双方にメリットをもたらします。
今回は、CRM(顧客関係構築)を導入するために自社にとって大切な顧客の順位付けをする方法や、その顧客グループに対してどのようなアクションを起こし、自社との信頼関係を構築するのかを解説します。
2.自社の顧客をグルーピングし、特性をつかむ
1.重要なのは現場のマーケティング
個別の付加価値を求める顧客ニーズに対して、企業が個別の対応をするためには、自社の特徴を明確にし、上位に位置づけられる顧客との関係を持続させることに重点を置くべきです。
上位顧客との信頼関係を持続できることは、競合他社との違いを維持して、さらに新規顧客の定着を容易にします。
このような顧客との関係維持をマネジメントする仕組みをつくることがCRM(顧客関係構築)に求められる役割です。
具体的には、顧客の育成段階に合わせて、顧客の心理状況を想像し、きめ細やかなマーケティング策を実践することです。
それにより、顧客を段階的に育成する仕組みを作り上げていきます。
2.CRM(顧客関係構築)導入の進め方
CRM(顧客関係構築)は現場でのアクションを含めた、マーケティング施策全体を網羅しなくてはいけません。CRM(顧客関係構築)を導入するためには、下記の手順で進めていきます。
3.顧客データの把握
現在の顧客データを整理して、自社の大切な顧客は誰なのか明確にしていきます。
顧客を分類する上で、購入金額や来店頻度、高額商品の購入など様々な見方が存在します。
金額の大小は別にしても、やはり長期にわたって来店頻度も高く、自社の商品・サービスを 購入してくれる顧客を大切にするのがよいでしょう。
例えば、貴金属店では高額商品を購入いただいた顧客、スーパーなどは毎日来店していただいた顧客、ファッションなどの専門店ではシーズンの初めに定期的に購入していただく顧客が大切です。
必要な顧客データは業種・業態によって様々ですが、基本的には下記の顧客データを収集する必要があります。
4.顧客のグルーピング
次に自社に取って意味のある、大切な顧客を独自に定義して、当てはまる顧客のグループをセグメントします。
まずは上位顧客から始めます。
上位顧客を中心に自社との関係を強化することや、上位顧客に支持される商品の品揃えをよくすることを通して、具体的な顧客関係構築の実践段階に入ることになります。
そのためには、自社の上位顧客とはどういう条件を満たす顧客なのかを明確にする必要があります。
自社の目指す顧客ターゲットグループのなかで大切にしなければならない順番を決めて、その順番に個別の対応をすることが重要です。
グルーピングする際には、様々な要素が考えられますが、ここでは来店頻度と購入金額の2つの要素を用いて、顧客をグルーピングする手法を紹介します。
まずは、下記のように来店頻度と購入金額で顧客をセグメントします。
次に来店頻度と購入金額に別々にウエイト付けをします。例えば、下記のA、B、Cのように上位、中位、下位顧客の3つの区分でウエイト付けすることとします。
そして、来店頻度と購入金額のセグメント表をひとつのマトリクスとして、上記のウエイトを用いて顧客のグルーピングを行います。
そして、前記の来店頻度と購入金額という2つの要素から上位、中位、下位顧客が自社にどの程度存在するのかを理解し、それぞれの顧客グループに対するアクションプランを作成し、実施します。
5.顧客グループに対するアクションプランの作成と実行
最後は上位、中位、下位の顧客グループに対して、どのような対応をするかをアクションプランに落とし込んで実行し、効果測定を行います。
例えば、それまでの上位顧客の来店頻度や購入金額が減少している、または顧客数自体が減少していると判断した場合には、その「店離れ顧客」を見つけて、何が問題なのかを知ることがアクションプランには必要です。
どうすれば再度、上位顧客に戻ってもらうことができるかを知ることが、課題に対する最初のアクションプランです。
また同様に大切なことは、新規顧客にその後何度か来店してもらい、自社の良い面を知ってもらうことや、販売員との信頼関係を築き馴染み客になってもらうことです。
新規顧客に対しては、そのためのアクションプランを設定する必要があります。
このように、それぞれの顧客グループに対するアクションプランを作成し、販売店の担当者がそれぞれに求められる行動を実行できるようにします。
3.顧客グループに対する働きかけ
1.顧客グループ別のリレーションづくりを検討する
顧客グループ別に分類した後に、それぞれの顧客グループが自社にとってどういう位置づけにするかを判断し、顧客グループ別に具体的なリレーションづくりに取り組みます。
顧客グループへの対応課題としては、次のよう観点で検討します。
2.上位顧客対応の経営上のメリット
まず、上位顧客を大切にする取り組みから始めます。上位顧客に焦点を当てるのは、このグループへの対応が費用対効果の面で成果、インパクトが大きいという点にあります。
上位顧客への対応には、次のようなメリットがあります。
(1)1回当たりの購入単価が高い
上位顧客の1 回当たりの購買単価は、他の顧客グループと比較して高いと言われています。専門店であれば高額商品を、量販店であれば購入点数が多いということです。
(2)顧客当たりの利益額が大きい
購入点数が多い上位顧客は、粗利益の低い商品も高い商品もミックスして購入しているので、平均すると利益率が高くなります。
また、購入単価が高い顧客は、高付加価値商品をより多く購入している傾向が強く、利益率が高くなる傾向にあります。
(3)長期の継続率が高い
上位顧客は、他の顧客グループと比較して店離れの確率が低く、企業は少ない経営努力で継続顧客の維持ができるといえます。
3.上位顧客への働きかけ
(1)上位顧客としての優遇
まず企業として、上位顧客として認知していることを顧客に伝えた上で、それにふさわしい接し方を実行します。
接客担当者とは顔見知りの親しい関係となって、それにふさわしいサービスをするとともに、情報提供やイベントプロモーション、ディスカウントなどの各種優遇プログラムの提供を行います。
(2)名前で呼び、顔を覚える
上位顧客は顔を覚えて親しい関係となり、接客の際は名前で呼ぶことでコミュニケーションを図るなど、より親密な関係を構築することが大切な働きかけになります。
上位顧客には、特別な配慮を提供するリレーションの継続維持に努力することが顧客関係構築の大きな課題として挙げられます。
(3)支持される商品強化と品揃え
上位顧客が継続して来店する動機付けにおいて、一番の要素である商品提案力に営業努力を払う必要があります。
自社が得意とする商品分野で特徴ある品揃えを上位顧客だけに的を絞って行い、支持商品の強化を図ります。
4.店離れした上位顧客への働きかけ
顧客分析の結果、上位顧客が店離れの傾向にある場合には、その原因を調査して、顧客とのリレーションを修復する働きかけが必要です。
例えば、店離れの顧客に対して電話やDM、はがきなどで何が課題かを教えてもらい、関係の改善にきちんとした対応をすれば、顧客の支持を再び取り戻すことが可能となります。
接客体制、品揃え、価格やライフスタイルの変化などの課題が明確になり、今後の顧客関係構築の有意義なヒントとなる可能性があります。
5.中位、下位顧客の上位へのランクアッププロモーション
上位顧客に対して優遇の仕組みを推進しても、継続率が上がる一方で一定の率で人数が減ることはやむを得ません。
減少した顧客を補填して、なおかつ増加させることがCRM(顧客関係構築)の成果として評価できることになります。
したがって、中位、下位からのランクアッププロモーションを絶えず行うことが求められます。
ランクアップのプロモーションは、上位顧客に対する働きかけと基本的には同じですが、中位、下位顧客は複数の競合店舗を利用している顧客であるケースが多いのが特徴です。
また、価格が安いときや特別の企画のあるときだけ購入する顧客も含まれています。
上位に対する取り組みより一層の工夫と考察、顧客の動機付けに対する分析と対応が求められます。
顧客のこだわりやライフスタイルなど詳細を分析し、より誘因力のある提案やプロモーションが必要です。
6.新規顧客への対応
新規顧客の固定化率の変化を見ることで、自社の顧客に対する魅力度がこれまで通りに維持できているかどうかを知ることができます。
新規顧客に対しては、一定期間で店舗との馴染み関係をつくることに主眼を置いた対応が必要です。
例えば、購入から一定期間は来店頻度が上がるようなプロモーションや、ポイントインセンティブが早く貯まるような働きかけをして、固定客への促進をするための施策を実践することが効果的です。
7.小売業A社のCRM(顧客関係構築)導入事例
長引くデフレスパイラルによって個人消費の低迷が小売業を直撃しています。
昔の中小商店は、優良顧客を完璧に把握し、ご用聞きなどを通じて、顧客との緊密な結びつきがありました。
しかし、いまや住民の流動性は高まり、しかも店舗の増加による「小商圏化」が進むことで、そんな古き良き時代のマーケティングは不可能になっています。
大手の競合他社と同様のマスマーケティングに資金を投入しても、対等に戦える見込みはないのが 現実です。
そこで、A社は昔の中小商店の優位性を取り戻すためにCRM(顧客関係構築)が導入を行いました。
(1)顧客データの収集とグルーピング
A社は、10 店舗を持つ中小小売チェーンです。
CRM(顧客関係構築)を導入するに当たって、データ分析に十分な情報を得るためにポイントカードを導入しました。
ポイントカードで得た情報で、購入金額と来店頻度により顧客をグルーピングすると、上位40%の顧客で売上の約30%を占めていたのです。
さらに、上位顧客は、購買頻度、客単価ともに高く、上位顧客にこれまでのマーケティングコストを集約すれば、費用対効果 の飛躍的な向上が見込めると確信しました。
(2)上位顧客への働きかけ
上位顧客に対する働きかけは、基本的に優遇です。
DMを活用して、ピンポイントに様々な優遇告知を行います。これは、特別なポイント付加などの特典を中心とました。
例えば、上位顧客に対して、ポイントを通常の数倍にするDMを出した結果、全顧客の平均買い上げ点数が約10%上がり、売上が10%増えました。
また、別のアプローチとして、上位10%の最優良顧客に対しては、各店舗で年に3、4回、20~30人を集めて食事会を行っています。
これは親睦会という意味もありますが、最優良顧客は、大体店長と顔見知りですから、店に対する忌憚のない意見が出てきます。
それをまた店舗オペレーションに活かしていくのです。
次に、店離れ客のフォローも重要です。
優良顧客が優良顧客であり続ける保証はどこにもありません。
ポイントを通常の数倍にするキャンペーンや反復購入商品の提案DMを出し、店離れ客の再来店を促しました。
(3)ライフステージ・スタイルの合わせたアプローチ
ここまでは、購入金額と来店頻度によるランクに基づいたマーケティングでした。さらに踏み込んで、顧客のライフステージ・スタイルに合わせて、商品カテゴリーや単品に落とし込んだ形でのアプローチを行いました。
ほとんどの商品には、特定のヘビーユーザーがいて、その層が全体を押し上げており、そこを重点的に攻めることで最小のコストで最大の効果を上げることができます。
つまり顧客グルーピングと同じ取り組みを、商品別にも実施するということです。
全体で見た上位顧客に手厚くサービスをするのと同時に、商品別の上位顧客にもアクションを起こして いくのです。
これまで述べてきたような、A社のCRM(顧客関係構築)は、ほぼDMを使って行われ、従来型のチラシは3分の1以下に減少しました。
また、DMもカード会員全員に出すのに比べ、3分の1のコストで済み、来店頻度も上位顧客では70%以上と向上しました。
さらにA社では、エリアごとの会員稼働状況を把握し、稼働率の低いエリアに関しては、継続的なアクションを行っています。
重点的にチラシやDMを配布し、個別訪問も行います。
地理や店舗との位置関係も勘案しながら、できる限り競合店からのスイッチを促すのです。
■参考文献
『新版 実践BCP策定マニュアル-事業継続マネジメントの基礎(オーム社)』 昆 正和 著
『CRM顧客はそこにいる(東洋経済新報社 2001年)』 村山 徹、三谷宏治、アクセンチュア、CRMグループ 著
『CRMの実際(日本経済新聞出版社 2003年)』古林 宏 著
『なぜCRMは現場の心に根付かないのか?(日刊工業新聞社 2011年)』齋藤孝太 著