1.提案型営業の必要性と進め方
1.提案型営業とは何か
この不況期でモノが売れない時代でも、売れる商品、売れる営業マンは存在します。
売れている営業マンには共通の営業スタイルがあります。
かつての「飛び込み営業」「売り込み営業」とは決別し、営業の本質である顧客の悩みや不満を解消する問題解決型の「提案型営業」にシフトしています。
売り込み型営業では、「自社商品の品質が高いから」「自社の売上になるから」「自分のノルマが達成できるから」といった「自分(自社)の都合」が発想の出発点です。
このような押し付けの姿勢では顧客の心はつかめません。
一方、提案型営業では、「顧客の抱える不安や不満は何か」「顧客の問題は解決できるか」「顧客の利便性は高まるか」といった「顧客の視点」から発想します。
顧客の視点で考え、親身になって問題解決策を探る姿勢を貫くことで顧客から信頼され、結果として自社商品が売れることを目指します。
自社の利益は単なる商品の対価としてではなく、顧客の問題解決の対価として得られるという考えに立つ必要があります。
提案型営業では顧客の欲求を満たし、売り込み型営業は営業マンの欲求を満たすのです。
提案型営業は顧客の欲求を満たすことが営業マンの欲求を満たすことにつながる、というWin-Win の関係でなければなりません。
営業会議の目的は、現在までの実績を把握・分析し、今後の業績向上と営業マンのリーダー育成の場として役立てることです。
具体的には、次のような4点が挙げられます。
2.営業の基本は提案である
営業の基本は全て提案型営業に網羅されています。
MBAの定義では、営業とは「継続的に利益が出るようにモノ・サービスを売る行為」とあります。
継続的に利益を生み出すためには、自社商品を売り込むだけでは実現しません。
顧客の抱えている問題を理解した上で、解決策を考え提案し、顧客が納得するために説得することが必要です。
(1)顧客の悩みや不満を理解する
まずは、顧客の悩みや不満を正しく理解することから営業は始まります。
理解をするためには、まず、顧客が抱える悩みや不満を引き出し、整理しなければなりません。
顧客は、必ずしも自分の問題に気付いているとは限りません。したがって、この 問題を顧客に代わって、引き出し、整理する必要があります。
(2)顧客の抱える問題の解決策を提案する
顧客の抱える問題に対して、最適な商品やサービスの組み合わせで解決策を提案することです。
商品によって手に入る付加価値がきちんと伝え、その商品によって顧客の問題を解決する方法を提案します。
提案の際に注意すべきは、顧客の利益を最大化する最適な商品やサービスの組み合わせをつくることです。
顧客は、決して自社の「売りたい商品」だけを買いたいわけではありません。
自社の売りたい商品以外でも、顧客の問題解決や、目標達成が出来るのであれば、なんでもすることです。
(3)顧客にわかりやすく提案内容を説明し、顧客を説得する
顧客にわかりやすく提案内容を説明し、顧客の納得と合意を得ることです。
説得とは、商品・サービスの価値をわかりやすく伝え、窓口になってくれている担当者や特定部門の合意から、会社としての意志決定に結びつけることです。
企業という組織は、 必ずしも一枚岩ではありません。
部門やそれぞれの役割に応じて、利害は異なり、意志決定の判断基準も違ってきます。
顧客の悩みや不満を解消する提案を行い、キーマンを説得することです。
3.提案型営業のステップ
提案型営業では、営業マンは自社商品を「売り込む」ためではなく、顧客とともに問題を解決していくためのステップを踏まなければなりません。
提案型営業は「企画・設計」「資料の作成」「提案の実施」の3つのステップで行ないます。
2.企画・設計、提案書作成のポイント
1.仮説を立てて企画・設計する
企画・設計で重要なことは、顧客が何を求めているのかを明確にすることです。
例えば 「安さ」なのか「品質」なのかということを探っておくことも重要です。
なぜなら、対象者の属性や人数、相手の求めるものによって、アプローチの仕方がまったく違ってくるからです。
企業が抱えている問題を想定して、自分のできることの仮説を立てて提案していくことが重要です。
(1)相手の担当者の人物像をつかむ
仮説を立てるには、相手の担当者のことを知ることが大切です 。
例えば、オーナー会社の二代目社長であれば新しいことをどんどん推進し、自分の実績を作りたいという気持ちが高く、独善的かつ斬新的な人であることが多い場合があります。
そこで、今までと(先代社長の時と)は違うコンセプトの提案をし、決断を迫れば、比較的早く受注になったりします。
逆に二代目であっても保守的であったり、対話的であるケースもあります。
そのような社長の場合は、「御社にとっていい話だと思いますので、社内の皆様とお考えいただいて、 判断していただけませんか」と社内検討用の資料を渡したりすれば良いのです。
(2)相手の担当者の「喜ぶこと」を考える
仮説を考える上で大切な視点が、「相手は何をしたら喜んでもらえるか(嬉しいか)」と考えることです。
嬉しいことをやってあげると話が進みやすくなります。
仮説の中で相手の担当者にとっての「嬉しいこと」は、3つのポイントで考えます。
これ以外のものは優先順位が下がります。
例えば、「そのシステムを導入しないとコンピュータネットワークが障害を起こして、御社は大変なことになりますよ」と言ったら、お客様は提案を前向きに検討するはずです。
逆にあまり関係ない提案だと、最初から採用される可能性が低いということになります。
もしくは、優先順位が低いので長い時間をかけて交渉を続けていくことになります。
(3)相手の担当者の「判断の軸」は何か
次に担当者の「判断の軸」は何かと考えることです。
例えば、予算が判断の軸である、上司の承認が判断の軸であるなど、様々な軸があります。
この担当者が何を軸に判断するかが分かれば、その会社の稟議の仕組みが分かります。
会社にも同じように判断の軸があります。会社としてどうしていきたいか、どんな問題があって、判断の軸はどこにあるかが分かると、提案するときのポイントが分かります。
さらに判断の軸に対して、インパクトが大きい提案をぶつけるようになれば商談のスピードは速くなります。
2.ひと目でわかる提案書を作成する
(1)提案書は1枚で作成する
近年、脚光を浴びているのが「1枚提案書」です。
A4またはA3用紙一枚で企画の全体を説明するというもので、時間のない経営者層やオーナー社長などに提案するときに効果的です。
何と言っても短時間で企画全体が俯瞰できることが大きなメリットです。
(2)1枚提案書は「問題+解決=問題解決」で示す
前述のとおり、営業とは顧客が抱える問題を整理し、解決策を示すことです。
つまり、提案書の基本は最低限「問題」を明確化し、「解決」する方法を明示することとなります。
顧客が問題を抱えていれば、解決策を探す。
これこそ営業の原点であり、新商品・サー ビス、さらには新事業にたどり着くこともできます。
(3)解決の方向性わかりやすくコンセプトにまとめる
「問題+解決」で提案書を作成しますが、顧客に解決の方向性を示し、イメージをしてもらうために、「コンセプト」をまとめます。“この提案をひと言で集約して述べる”ということです。
ひと言集約ができると1枚企画書の形にまとめることができます。
もしそれが言えなければ、それは企画として熟成されていないか、ポイントが定まっていない証拠です。
言葉として企画書の中に盛り込むかどうかは別として、提案とはコンセプトを見出す作業です。
いくつもの要素を積み上げ、最終的にそれらすべてを網羅しながら、無駄の一切を省いた表現で言い表すことがコンセプトです。
(4)人事制度に問題を抱える顧客の提案事例
組織としての停滞の原因はどこにあるのか、どうしたらそれを解決できるのか、という組織改革について考えた提案書の例です。
3.提案型営業の実践法
1.提案実施までの準備のポイント
(1)提案の目的を明確にし、顧客ニーズを再確認する
提案の目的、あるべき姿を立ておきます。例えば、商談をその場で成立させる、次の商談につなげる、新商品の紹介・認知活動をする、といったように何を目指して提案を行うのかを明確にすることです。
目的が明確であれば、何を準備したらよいか具体化します。
提案自体が顧客ニーズを踏まえたものである必要がありますが、その提案はあくまでも仮説に過ぎないため、様々な方面から情報を集め、社内で十分に議論することも忘れてはいけません。
また、提案を成功させるためには、周りを巻き込むことも必要です。
周りを巻き込むとは、社内、社外を問わず、関係者から情報を集めて、それをたたき台に提案の骨子を作り上げることです。
(2)進行表を作成し、リハーサルを行う
提案を円滑に進めるために進行表を作成します。進行表には時間、テーマ、担当者(誰が説明するか)、話す内容、使う資料・ツールなどの項目を表にして整理しておきます。
事前に担当者に進行表を配布し、流れをつかんでおいてもらいます。
そして、進行表をもとにリハーサルを行います。説明方法や話し方、説明態度などの点で、同僚の率直な感想を聞き、提案内容へ反映していきます。
リハーサルをするときは場所や人数など、なるべく 本番に近い状況を作ります。
練習相手を置いて聴衆がいる状況でリハーサルを行います。
(3)提案の出席者を確認する
決定権者やキーマンが出席しない提案は、何の意味もありません。
キーマンとは決定権者または決定権者の判断に重大な影響を及ぼす人物を指し、決定権者よりも重要であるケースも少なくありません。
したがって、決定権者やキーマンを事前に聞きだし、その方々に提案に出席してもらえるよう、根回しをしておく必要があります。
2.論理的に組み立てて顧客を説得する提案の進め方
提案の実行段階では、論理構成を組み立てて説明すると、相手に分かりやすく伝えることができます。
論理構成は、序論、本論、結論の順番で話をします。
(1)序論
(1)提案の目的、意義を話す
なぜ提案を行うのか、その目的と意義は最初に伝えます。
顧客がそれを理解している場合も考えられますが、確認の意味も込めて行います。
また、提案を通して顧客のメリットもさりげなく話をすることです。
メリットや利益があると、顧客は積極的に話を聞こうという気持ちになります。
(2)テーマと結論を明確にする
これができれば、序論においては成功したといえます。
テーマは言い換えれば何を話すかであり、結論は何を伝えたいのか、となります。
顧客はどんな話をどう展開するのかという心理的な不安を抱えています。
その不安を打ち消すためには、特に提案の中では結論を明らかにすることが重要です。
(3)タイム・スケジュールに触れる
タイム・スケジュールに触れることは顧客にとっても自分にとっても重要なことです。
顧客にとっては、どのくらいの時間がかかるのかが分かれば、進行状況が、心理的な不安は解消されます。
説明する自分にとっても、進む具合の確認ができるというメリットが あります。
(4)本論の予告をする
次につながる本編の予告として、どのような話をするのかは明らかにします。
これは、本編の全体像を説明することです。
全体像から個別の話を展開すれば、顧客に分かりやすく伝わります。
ポイントは、「結論を先に話す」ことです。
(2)本論
(1)理路整然と話をする
理路整然とは話の筋道が整っている状態のことです。
筋道が整っていると顧客の理解、納得を得やすいという効果があります。
具体的には、提案書の内容を、順を追って話を進めればよいのです。
提案書自体が論理構成で作成されていますので、最初から順番に説明すると、顧客に分かりやすくなります。
(2)重要なことは繰り返し話をする
繰り返し話をする理由は、顧客が自分の話を聞いていないからです。
顧客が相槌を打っているからといって「自分の話をきちんと聞いてもらえている」と断定してはいけません。
言い換えれば、顧客は話を聞いていないと思って話をすべきではないか、ということです。
人間は、メリットや関心、興味のあることしか、真剣に聞きません。
ドイツの心理学者エビングハウスが発表した「忘却曲線」によると、学習の記憶は時間とともに保持率が減少し、20分後に覚えている割合は58%となっています。
つまり、42%は忘れているということですので、重要なことは繰り返し話をしないと相手には伝わりません。
(3)比喩や事例で説明する
抽象論を展開すると、顧客は理解することができません。聞く気がなくなってしまうのです。
その対策として、比喩や事例を話の中に盛り込むのです。
そうすれば、顧客は具体的なイメージが頭に浮かびます。
特に成功事例や他社の導入事例は、顧客に興味や関心を抱かせるため、提案には欠かせないものです。
なぜ成功したのか、の要因を誰もが聞きたいという欲求を持ち合わせていますので、それを説明していきます。
(4)わかりやすく伝える
わかりやすく伝えるためには、話を具体化することです。
わかりやすくするには、一つのテーマを徹底的に掘り下げて考えてみることです。
それには、問題発見や問題解決の際に用いるロジックツリーなどを活用して、顧客に確認しながら解説すると、同意を得やすくなります。
もちろん、ロジックツリーを展開するための事前の情報収集を怠っては、返って墓穴を掘る(「当社のことを全くわかっていない」と判断される)ことになりかねませんので注意が必要です。
(3)結論
(1)「テーマと結論」「重要事項」を繰り返す
繰り返すことは、顧客の理解度を深めるために必要です。
また内容を記憶してもらうこ とにもつながります。
1回の説明で顧客に理解を求めるのは、簡単なことではありません。
同業者のようにテーマに関する知識を持っている人なら問題ありませんが、知識がなければ、理解不足に終わっている場合があるといっても過言ではありません。
(2)結びの言葉
結びでは、「今回のご提案内容についてご検討下さい」という姿勢をあらわすことが重要です。
検討していただくわけですので、謙虚な姿勢で終わることはもちろんのこと、「貴社にとって最善と思われるご提案をお持ちしたつもりですが、もし内容に誤りや不足等がございましたら、ご指摘いただけますでしょうか」と投げかけることも必要です。
また、その場で提案に対する結果、感想を教えてもらえない場合は、一定の期限を設けて、こちらから連絡することを約束します。
「いつごろまでに結論をいただけますでしょうか?」と問いかけた時に、「来週中には結論を出せると思うので、こちらから連絡しますよ」と言われるケースが数多くあります。
しかし、「こちらから連絡する」といった人から、その通りに連絡いただけるのはまれです。
営業マンの方から「先日のご提案についてはいかがでしょうか」と投げかけるべきです。
(3)感謝の気持ちを表す
話を聞くという行為は苦痛を伴うものです。顧客に最後まで聞いてもらったことに対して、感謝の気持ちを言葉にするのは当然です。
顧客は、忙しい時間を割いて提案の場を提供してくれたのですから、素直に「ありがとうございました」という気持ちを伝えること が重要です。
3.印刷会社の営業マンの提案型営業の事例
印刷会社Y社の営業マンAは、担当エリア内で会社案内の発注先となりそうな企業をリストアップし、順次訪問しました。
そのうち地元の日用品メーカーW社は、社長自らが面談に応じてくれました。
当初、会社案内はまだ残っていると断れましたが、幾度か面談を重ね、会話を進めていくなかで、W社が抱える問題が見えてきました。
営業マンAは、会社案内をリクルートメディアの中核に据え、イメージビデオとホームページを付帯提案しました。
提案を行った結果、W社の社長から「確かに君の言う通りだ。
ねらいが十分に絞り込まれていないかもしれない。」という返答でした。
見積書の金額は、会社案内の1,000万円に付帯提案と参考提案を合わせて2,500万円になりました。
結局、W社の社長は、自社の問題が確実に解決されると判断し、営業マンAの提案を受け入れることにしました。
■参考文献
『マッキンゼー流 プレゼンテーションの技術』 ジーン・ゼラズニー 著 東洋経済新報社 2004年
『PwerPoint でマスターする 勝ち抜く提案プレゼン 実践の極意』 住中光男 著 アスキー・メディアワークス 2006年
『【超】一枚 企画書の書き方』 高橋憲行 著 ダイヤモンド社 2013年