超高齢化社会に対応!在宅歯科の導入ポイント

1.高齢化による医療の変化と在宅診療への移行

1.診療報酬改定の流れと重点配分

厚生労働省の「平成23年度医療費の動向」によれば、国民医療費の総額は、30.4兆円から37.8兆円までの7.4兆円の増加になりました。
特に平成18年以降は毎年1兆円増加しています。
その内の医科医療費は4兆円の増加に対し、歯科医療費は2.6兆円で、ここ10年間変化はしていません。

国民医療費に対して占める歯科医療比率の推移
平成24年度の診療報酬改定では、歯科はプラス1.55%、歯科は1.70%、調剤は0.46%とのプラス改定でした。
ですが、その配分もチーム医療の推進や在宅歯科医療の充実にほぼ充てられています。
平成24年度の診療報酬改定の概要また、社会保障に係る費用の将来の見通しは、医療費の伸びが年金の伸びより大きくなっています。

社会保障に係る費用の将来推計について、要支援者・要介護者認定者数 (平成22年総務省統計局資料より)また、社会保障に係る費用の将来の見通しは、医療費の伸びが年金の伸びより大きくなっています。

社会保障に係る費用の将来推計について、要支援者・要介護者認定者数 (平成22年総務省統計局資料より)
高齢化にともない、在宅で医療を受ける患者の増大も見込まれています。
当然、訪問歯科診療のニーズも高まっていくことは必至です。
訪問歯科診療の根底には、咀嚼、嚥下・ 発音等を守ることを通して、在宅高齢者の生活を支えていくということが、歯科医院の使命になります。

2.高齢者患者の歯科治療の変化予想

従来の歯科治療は、う蝕から修復治療、2次う蝕、抜髄、クラウン等冠治療、抜歯、ブリッジ等の設置、部分義歯、総義歯という流れが出来ていました。
ですが、今後、より良い治療方法の確立や歯の形態の回復、修復材料の進化などにより、歯科治療の流れが良い方向に変わってくると予想されます。
また、逆に、歯喪失のリスク増大、合併症・副作用等の全身的な疾患の発生、自立度の低下(在宅医療へ)等という原因から、治療の難度・リスクの増加による悪い変化も考えられます。

歯科治療の需要の将来予想(イメージ)

3.在宅歯科診療へのシフト

在宅歯科は、以前は自治体から地域の歯科医師会への委託事業でした。
当番制であったため利便性に問題がありました。
診療報酬本体のマイナス改定を背景として、診療報酬が伸び悩み、重点配分された在宅歯科への参入を検討する歯科医院が増えてきました。
患者からの依頼による往診や介護施設からも在宅診療をするよう歯科医院に求められるようになったことで、在宅歯科診療へのシフトが進んでいます。

主な要因

2.今後の歯科医院経営の方向性

1.今後の増患対策の方向性

景気回復傾向により、受療率も増加すると考えられます。
その増加する患者層の獲得が重要となります。
患者の年齢構成では、50歳代、60歳代、70歳代が過半数を占めます。
国民歯科医療費は70歳代以上が増大しています。
また、金融資産は60歳代、70歳代に偏重しています。
これからの歯科医院経営は、中高年の利便性を高め、この年代に支持される医療サービスを提供する方向での増患対策が重要になります。
そのために、高齢者を含めた一部の初診患者を定期予防にシフトすることができれば、手持ち患者(かかりつけの患者)の増加につながります。

高齢化を視野に入れた増患対策

2.高齢化を視野に入れた増患対策

今後の増患対策は、いかに高齢者を取り込むかがポイントです。
ただしベースとなる患者は保険患者ですから、保険患者を軽視しないことが自費率向上につながります。
建物のリニューアルから、治療内容の見直しなど、アメニティと診療の両面から対策を行います。
ポイントは、高齢者から小児までの対応が可能かどうかを検討し、自院の地域性と照らし合わせて、診療メニューを整備します。

(1)保険患者の重視

自費を増やしたくても、インプラントを入れたくても患者が来なければすべて始まりません。
どのように患者を増やすかがポイントです。
来院する患者数の比率で考えると、やはり保険対象の患者数が大きく占めます。
自費による医療収入の割合ではなく、患者数が重要です。

患者の来院阻害要因

(2)高齢者向けリニューアル

高齢者を視野に入れたハード面やソフト面のリニューアルを行います。
バリアフリー化はもちろん、院内土足化や送迎バスの運行等を検討してみましょう。

ハード面とソフト面での高齢者対策

(3)歯周病治療を重点に

高齢化の進行とともに歯周病患者が増加しています。
しかし、多数の歯科医院がう蝕治療を重点として取り組んでいます。
歯周病は多数の歯が脱落するため、大きな補綴治療になるケースがあるほか、補綴物管理の為、定期的通院につながり、予防管理に導入しやすい、歯科衛生士の対応で診療が済むといった医院側のメリットが大きく有ります。

歯周病治療の対応項目

(4)自費率を高める

今後の保険診療報酬は長期的にはマイナスになると考えられます。その為、患者数ではなく診療報酬額で考えると、自費率を高め、保険診療に依存しない経営を目指す必要があります。
自費診療の営業利益率は保険診療の約2倍あり、自費率30%にもなれば利益では約50%になり、診療報酬改定や景気変動の影響を受けにくくなります。
その為に、自費メニューをそろえ、説明ツールの整備やスタッフ教育の拡充を進める必要があります。

自費診療の取組重要項目と最低限必須項目(自費診療につながる項目)

(5)在宅歯科診療へ参入

高齢化にともない、在宅で医療を受ける患者の増大が見込まれています。
また、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホーム等の高齢者施設も全国で建設が進んでいます。
個人宅の訪問と並行して、これらの施設と提携し、訪問先を確保することがポイントとなります。

介護施設の対象先

3.在宅歯科診療のメリット・デメリットと開始準備

1.在宅歯科診療のメリットとデメリット

在宅歯科診療を行うためには、院内の体制づくりからツールの用意、診療に必要な書類、医療器具、スタッフ育成等の準備をすることが必要です。
訪問歯科診療で忘れがちなのが、患者の周りにいる家族や友人知人、施設であれば、ケアマネージャーや介護福祉士等の存在です。
訪問先での治療や接遇の結果、評判が上がり口コミ効果などで患者が増加することもあります。
訪問歯科診療は、始める前に入念な準備をすることが重要なポイントです。

(1)在宅歯科診療の歯科医院のメリットとデメリット

在宅歯科診療を行うにあたり、メリットとデメリットを明確に把握しましょう。
デメリットに対しては対策を講じなければいけません。

歯科医院のメリット・デメリット

(2)在宅歯科診療の患者のメリットとデメリット

在宅歯科診療は、歯科医院側だけの都合でできる物ではありません。
患者側のニーズに応える事で医院として選定されるということを自覚しましょう。
メリットを訴え、デメリットに対する対応策が有って初めて実現します。

患者のメリットとデメリット

2.在宅歯科診療の開始準備

在宅歯科診療を開始するためには機器の準備から、スタッフの診療体制、在宅歯科診療特有の知識を身につけるなど、以下の準備が必要です。

(1)在宅歯科診療に必要な機器の準備

在宅歯科診療には特別な医療機器等の準備が必要です。

在宅歯科診療用の医療機器

(2)歯科衛生士との役割分担

歯科衛生士は、その専門性を大いに発揮することになります。
口腔内の清掃や入れ歯の点検、また、かんだり飲み込んだりする機能を訓練するためのトレーニングを行います。
高齢者や障害を持っている方、寝たきりの方のように、歯磨きを十分に行えない場合は、患者本人だけではなく、家族や介護者の方々に口腔衛生指導を行います。

訪問歯科衛生指導

(3)服薬指導の知識習得

高齢者は、薬への理解力の低下、服薬への不安や嚥下障害、服薬能力の低下により、指示通りに薬物を服用することをしなくなる傾向があります。
患者への薬剤管理や服薬指導をするために、事前に十分な知識を習得する必要があります。

服薬への意識低下、義歯装着者に対する服薬指導ポイント、嚥下障害患者に対する服薬指導ポイント

(2)閲覧数が多いホームページとは

ホームページで閲覧数が1番多いページは「スタッフ紹介」で、そこには院長の情報、専門分野は何か、人柄はどうなのかそこに働いているスタッフはどんな人がいるのかなど が掲載されています。

4.在宅歯科診療の体制づくり

1.在宅歯科診療のパターン

在宅歯科診療を実施するにあたって、いくつかの巡回チームのパターンがあります。
実際に実施している歯科医院の事例を基に、どのような巡回チームによる訪問形態があるのかを整理します。

(1)週何回かの巡回曜日だけの訪問形態

一般的な歯科医院で提供している訪問のパターンです。
毎週2から3ルートの巡回曜日を決めて訪問します。

一般的な歯科医院での形態

(2)毎日時間を決めての訪問形態

毎日訪問時間を設定し数軒を定期的に訪問するパターンです。
高齢者を対象とする場合、スケジュールを合わせやすいというメリットがあります。

毎日時間を決めて数軒を定期訪問する形態

(3)訪問専門部隊による訪問形態

訪問専門部隊を編成して訪問する形態です。効率よく、多くの件数を訪問することが可能ですが、医療スタッフの採用と確保がポイントとなります。

訪問専門部隊を編成して訪問する形態

2.訪問歯科成功のポイント

(1)訪問歯科コーディネーターの配置

在宅歯科診療を行うに際し、全体のコーディネイトをする歯科助手を配置させます。
在宅歯科診療は、準備や書類の作成、家族への説明等診療以外の行為が多く有ります。
役割分担をすることで診療の効率化を図ります。

コーディネーターの役割

(2)営業担当者の配置

在宅歯科診療を拡大していくためにも、広報担当者の配置が必要です。
介護施設や訪問看護ステーション、ケアマネージャーへの訪問営業が必要です。
また、営業に際し、診療所や診療への取り組みを説明するツールとしてパンフ等の作成も必要です。

(3)居宅療養管理指導を行う歯科衛生士の配置

介護保険では月4 回まで、歯科衛生士による居宅療養管理指導が認められています。
歯科医師の訪問診療日から3 か月以内に管理指導計画を作成し、後日歯科衛生士が単独で訪問し、管理指導を行う事ができます。
単独訪問が出来るので、経験値の高いパートの歯科衛生士の雇用で対応できます。
子育て中の歯科衛生士での勤務も可能です。

在宅歯科診療における歯科衛生士の役割

3.患者紹介業者について

在宅歯科診療で患者紹介業者が問題になっています。
介護施設や在宅患者の紹介を行い、診療報酬の20~30%の報酬を要求してきます。
診療報酬は患者と医療機関の間での診療行為に対して支払われるものであり、間に入る業者に支払われるものではありません。
紹介業者として、介護施設自体が行う事も有れば、業者が在宅営業の代行や書類作成の代行、在宅歯科診療のノウハウを供与する場合があります。

注意ポイント
■参考文献
『訪問歯科診療 こうすれば成功する』前田 剛志 著(クインテッセンス出版)

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