思考をみがく経済学…飯田泰之 著

第1講 何のために「経済学」を学ぶのか

「型」としての経済学を学ぶ際に重要なのは、問題のどの部分に注目するのかという着眼点、そのようなロジックで結論を導いているかという考える筋道の部分です。
経済学をベースとする思考の「型」を身につけていくには、「人々は損得を比べて行動している、と想定する」という割り切りに慣れることが大切です。

第2講 「MECE」「利益の基本方程式」

世界はわけなきゃわからない!「MECE」というコツ。
MECEとは、「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の略で、「ミーシー」「ミッシー」と読むことが多い。
「重なりがないように、もれがないように」という意味。
属性かプロセスで分けると便利ですが、その際に「その他」というカテゴリーを使うと便利です。

利益とは、「収入―費用」です。
飲食店の場合、(客単価×来客数)―(固定費+変動費)と分割することができます。
魅力ある商品・サービスの魅力とは何かを知るためには「自分が何を売っているのか」把握する必要があります。
重要なのは、自分(自社・自店)がお客様に提供している価値は何かという問題です。

第3講 「競争」「主観価値」

経済学は「競争がいかにすばらしいか」について
経営学は「競争がいかに悪いか」について、それぞれ説明しようとしています。
経済学と経営学は、対立し合う兄弟のようなもの。
経済学は、「より良く、より安く、より多く」、企業間の競争が盛んに行われて、より良いものが、より安く、十分に供給される社会が、経済学が目指す良い社会。
経営学は、「より高く、より易く、より多く」、つまり利潤の最大化と企業の存続です。

価値というものを何らかの客観的な尺度によって計ることができると考えるのが「客観価値説」です。
これに対して、「価値は人間の主観によって決まる」と考えたのが主観価値説です。
人々は損得を比べて行動しているという経済学の想定に基づいて言えば、双方にとって得ではない交換は、そもそも行われないはずです。

価値というのは、人それぞれの主観、あるいは国や組織の事情で決まっているものであり、商品が売れないのは、相手のニーズに応えていないからなのです。

第4講 「機会費用」「サンクコスト」

「機会費用」とは、決して見逃してはいけないのに、多くの人が見逃しがちなコスト、「埋没費用・サンクコスト」とは、多くの人が気にするけれど、じつは気にする必要がないコストです。
仮に飲み会に参加する費用が3,000円として、飲み会に行かずに残業したら4,000円手に入るとします。
経済学的なコストは、参加費の3,000円ともらえない残業代4,000円の合計7,000円です。
「何かをする」ということは、「何かをしない」という選択であるということを明確に意識する必要があります。

あるダムの建設に既に20億円かかっています。
ところが、そのダム建設の意義に疑問が持たれ、ストップがかかった。
今後追加でかかる建設費用と、そのダムによって得られる便益だけを見て、意思決定しなければなりません。
この20億円が、「埋没費用・サンクコスト」です。
損得を比べるときには、サンクコストを積極的に無視するようにしてください。

第5講 「競争の素晴らしさ」「成熟社会の競争」

今もなお、競争=悪いことと捉えられがちですが、経済学的に考えると競争は経済を活性化し、私たちの生活を便利にするという大きな機能を果たしています。
競争の中で、需要側と供給側、それぞれのインセンティブにしたがって価格が変動し、需要と供給がバランスをとるのです。
このような状態を受給均衡、競争均衡といいます。
経済学ではこの競争均衡を高く評価し、その達成を目指します。
その理由は、①取引の最大化、②取引の公平性です。

特定の“好み“を大切にする「成熟社会の競争」、現在の日本のように成熟した社会においては、大量生産と環境破壊がセットでイメージされるタイプの経済成長は、そもそも「できない」「起こり得ない」のです。
人間は物質的に満たされると、「物質以外のもの」を求めたくなるようです。
豊かな社会でのビジネスを考える際に重要になってくるのが、「差別化」というタームです。
価値というのは主観的なものですが、生きるか死ぬかのレベルでは、人々の価値観はよく似ています。
とにかく生きるために食べ物が欲しい、次は生活必需品が欲しい。
ところが、その欲求が満たされて、本能的なレベルから遠ざかるほど、人々が欲しいと思うものはバラバラになってきます。
現代の商品・サービスには、「自分だけの○○」「自分の好みぴったり合う○○」が求められるようになっているのです。
個々人の好みにぴったりあうものをつくろうとするタイプの競争になります。
差別化競争において大切なのは、まず自社が独占力を行使できるクラスター(特定の好みを持つ人々の集合)を見つけ、それをつかむこと。
そして、クラスターをつかんだら、その囲い込みをできるだけ解かず、少しずつ拡大することです。失敗例になりつつあるのが、一部のファストフード店です。
ハンバーガーをひとたび100円に値下げしてしまったら、「××社のハンバーガーは100円」というイメージが出来上がってしまいます。
その結果、値下げによって瞬発的な集客はできても、「100円で利益が得られるような安物」というイメージにその後長く悩まされることになるのです。

成熟社会における差別化競争では、価格は十分に働かなくなります。

第6講 「費用逓減産業」「自然独占」

生産するほどコストが減っていく「費用逓減」といいます。
電力会社を興すときには莫大な費用がかかります。
しかしひとたびダムと送電線網が出来上がったら、その後にかかる維持費用は初期費用に比べたらわずかなものです。
商品を作れば作るほど、1単位あたりのコストは安くなっていく産業が、費用逓減産業です。

第7講 「情報の非対称性」「失敗の本質」

情報の非対称性の問題は、経験を通して取捨選択することができない場合――個人にとっては一生に何度しか経験しないような大きな買い物の場合や、一度契約を交わすと長期にわたって拘束されるような場合――例えば保険や雇用の際に大きな問題となります。

第8講 「ゲーム理論」「価格差別」

ナッシュ均衡の定義は、「相手が戦略(行動)を変えない限り、自分だけが戦略を変えても得をしない状態――が全員について成り立っている戦略の組み合わせ」です。
良いフリーマーケットは、参加者が多く、お店がたくさん出ているフリーマーケットですよね。
逆に誰も出店していないフリーマーケットに自分だけ出したら露店になります。
ということは、参加を考えている全員が、「出店する人がたくさんいるなら、自分も出店しよう」「出店する人があまりいないなら、自分も出店しない」という戦略をとりたいはずです。

第9講 「論理的思考」「統計的検証」

経済学では、問題を考えるにあたっては、「データで始まり。データで終わっている」ことが重視されます。

ビッグデータの利点は、サンプル数の多さではなく、「ランダムネス」=作為や偏りなくまんべんなくデータが集められているという点にあります。

あることを主張したいとき、その主張に合う結果がでそうなサンプルを抽出し(あるいは、方法によってわざと偏りを生じさせ)、欲しいデータを得るというのは簡単なことです。
だからこそ、統計やデータ収集ではランダムネスが再重要視されています。

思考をみがく経済学…飯田泰之 著一見すると関係がありそうな2つの現象が、実は共通の要因によってもたらされる別々の現象だったというとき、この一見すると関係ありそうな関係を「擬似相関」といいます。
擬似相関の例としてわかりやすいのは、ナマズと地震の関係です。
擬似相関ではないか、という疑いを持ってデータをコントロールしていくことが、経済学ではもちろん、ビジネスでもとても重要なポイントになると思います。

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(桐元 久佳)