最高の結果を出す KPIマネジメント…中尾 隆一郎 著

はじめに

著者の中尾隆一郎氏は、人材輩出企業として有名なリクルートグループにおいて、10年以上にわたって「KPI講座」の社内講師をされていました。
使える・参考になる実践的なノウハウがつまっている集大成が本書です。

第1章 KPIの基礎知識

誤って理解されがちな「KPIの定義」として、「事業を数字で見ること」や「たくさんの数字を管理すること」はKPIマネジメントではなく、単に数値でマネジメントしているわけですから、Indicatorマネジメントです。
KPIの「K」と「P」つまり、Key Performanceの部分がすっぽり抜け落ちているのです。
Key Performanceは、「事業成功の鍵」で、Indicatorは、「指標・数値目標」なので、KPIとは、「事業成功」の「鍵」を「数値目標」で表したものです。
事業をただ「数字」で見るだけではなく、事業成功の鍵を数値目標として見ることです。
(1) KGI:Key Goal Indicator 最終的な目標数値
(2) CSF:Critical Success Factor 最重要プロセス →KSF:Key Success Factor としている場合もあります。
(3) KPI:Key Performance Indicator 最重要プロセスの目標数値
KGIは、期末終了時に到達したいゴール数値のことです。
しばしば関係者間でこのゴールの認識がずれていることがあります。
理由は、(1) そもそもゴールそのものがずれている場合。
ビジネスのゴールは、関係者間で確認していないケースが少なくありません。
(2) 数値がずれるケースがあります。
いずれも事前に関係者間で確認が必要となります。

ゴールの次は、CSFです。
Critical Success Factor 直訳すると「重要成功要因」。
事業成功のポイントです。
KGIを達成するために、やらなければならないプロセスがたくさんあります。
その中で、最も重要なプロセスのことです。
プロセスなので、結果であるゴールでなく事前に実施する内容のことです。
例えば、営業組織であれば、売上というゴールの前に、その売上を上げるために行う顧客訪問や提案活動などのプロセスをさします。
CSFをきちんと実行すれば、結果としてゴールにたどり着けるプロセスがCSFです。
プロセスなので、現場がコントロールできるものであり、現場の努力で変化するプロセスであることは必須です。

KPIは、CSFを数値で表現したものです。
最も重要なCSFをどの程度実施すれば、期末にKGIを達成できるのかを表す数値がKPIです。

KPIマネジメントで間違えやすいポイント
(1) たくさんの数値目標を設定しているケース。
これは、KPIのキー(Key)ではなく、単純に数値マネジメントです。
(2) 現場でコントロールできない指標をKPIとして設定しているケースです。
例えば、GDPです。
GDPという統計数字で、国全体を表している数値が悪化しても、一民間企業では具体的な打ち手はありませんので。
(3) 先行指標ではなく、遅行指標を選択しているケースです。
KPIを設定するために、「売上を上げる場合に、どうするのか?」つまり、自社のビジネスがどのような数式として表現できるのかモデル化します。

利益=売上-費用
売上=販売数量×平均単価
販売数量=アプローチ量×歩留まり(CVR)

このように要素に分解していくことで自社のビジネスで成功要因を探って気行きます。
本書では、因数分解という言葉がよく出てきますが、同じ意味と受け止めています。
ステップ1 定数と変数を分ける
数式の中でどれが定数で、どれが変数なのか分離し、定数は変化しないわけですから、CSF候補から除きます。
ステップ2 残ったものからCSFを選択する
著者の事例では、量(利用者)×CVR(歩留まり率)×平均単価(価格)のうち、価格を定数とおきました。
残りは、量とCVRですが、アプローチ量を増やすには、集客費用の投資など新たなリソースが必要になることが多い。
CVRを向上させるステップを因数分解すると認知 → 利用 → 企業紹介 に分かれたので、企業紹介を増加させることにCSFと決めることが出来ました。

第2章 KPIマネジメントを実践するコツ

KPIマネジメントは、最も重要な数値だけに焦点を絞ってマネジメントしようということなのです。
たくさんの数値を管理しているだけでなKPIマネジメントではない。1つであることが重要で、先行指標の「先行」も、事前に分かるということで重要です。
KPIは誰のものか?この点は、絶対的な答えはないです。
ただ理想的には、全従業員のものであることが望ましい。
全従業員がKPIに興味を持って、それが悪化した場合に、各現場で打ち手を打ち始めているのがかなりイケている組織です。
そのため、(1) KPI数値のもととなる事業成功の鍵であるCSFが分かりやすく説明できることが重要です。
(2) KPIの数値が覚えやすいことも重要です。
KPIが複数あることの弊害は、現場は独自に取捨選択します。
つまり5つ要望を受けても、そのうち2~3個しかやらないのです。
現場が5つの要望から2~3を取捨選択すると何が問題なのかというと、正しく振り返ることができなくなる。
例えば、施策Aの結果がうまくいかなかたことを振り返る場合、施策Aは5つの指示のうちの1つに過ぎません。
現場は施策Aを取捨選択しています。
すると、施策Aがうまくいかなかったことを振り返る際に、施策Aを「実行したけれどうまくいかなかった」場合と施策Aを「実行しなかったからうまくいかなかった」場合が混在します。
そのため、施策Aの成果を振り返ることができません。
正確に振り返りができなければ、次のサイクルのプランに活用することができません。
P:PLAN よく考えて
D:Decide すばやく絞りこみ
D:Do 徹底的に実行して
S:See きちんと振り返る
本来Pの中に含まれるDecideをあえて区別することで、より意識してDecideさせる点に著者のノウハウがあるように思えます。

第3章 KPIマネジメントを実践する前に知っておいてほしい3つのこと

著者は、何か物事を考える際に、「構造」と「水準」 に分解して理解する習慣があります。
「構造」とは全体像、メカニズムがどうなっているのかを明らかにすることです。
そして、「水準」とは、それがどの程度なのか、つまり数値で把握することです。
KPIを考える際にも、この考え方が有効です。
ゴーイングコンサーン(Going Concern)とは、無期限に事業を継続し、廃業や事業整理などをしないことを前提にする考え方です。
つまり、事業をずっと続くように運営しなさいということです。
私たちがビジネスを開始します。
その商品やサービスをお客様が購入、利用してくださいます。
商品やサービスがよいものであれば、私たちにはずっと継続的に商品、サービスを提供・改善し続ける責任があります。
そのため、KGIは究極的には利益です。
それも継続的に利益を上げ続けることがKGIの本質です。

第4章 さまざまなケースから学ぶKPI事例集 (事例1)売上を拡大したい場合

営業組織での事例で考えると、主な営業プロセスは、(1) 営業先リストアップ → (2) アプローチ → (3) ヒアリング → (4) プレゼンテーション → (5) クロージング → (6) 納品の6つとなります。
売上=営業活動量×受注率×平均単価(正価-値引き)という図式で表現することができます。
売上を向上させるための選択肢は、次の3つです。
A 営業活動量を増やす
一般的に、営業の行動量を増やすには、営業工数(時間)を増やすことが必要です。
現在の営業担当に頑張ってもらい1.2倍活動してもらうというのは、都合よすぎます。
実際の選択肢は、新規に採用を行う、営業代行会社にアウトソーシングするなどが考えられます。
あるいは、現在の営業活動、非営業活動(会議や資料作成など)のムダを見直して工数を生み出すことがポイントです。
B 受注率を向上させる
受注率は、例えば「(5) クロージング ÷ (2) アプローチ」という分数で表現されます。
(5) クロージング量を増やすには、(3) ヒアリングを強化し、(4) プレゼンテーション時の企画提案内容を向上させることなどが想定できます。
また、(2) アプローチ量を減らすには、(1) 営業先リストアップの品質を向上さえることで実現できます。
C 平均単価を上げる
値引きを改善する、複数商品の販売をする、高額商品を販売するなどが考えられます。
(事例2)商品特性から特定ユーザ数をKPIに設定する
売上上位顧客の特性に共通点がないかを把握します。
例えば特定業界、特定エリア、特定企業規模(売上や利益あるいは従業員数)などです。
高取引企業の共通点は、「理由が明確なターゲット企業に、自社独自の提案を準備」して、「その価値が分かり、決断できる人に提案ができている」という2つのことを同時に実行していること。
(事例3)採用活動におけるKPI
採用活動の式
採用数 = 応募数 × 通過率
複数の面接を行う場合の式
採用数 =  応募数 × 一次面接通過率 ×〇面接通過率
→ 応募数を増やす場合
自社が必要とする職種の紹介が得意な人材紹介会社の開拓→ これがCSF
増やしたい採用数10人・通過率50%の場合
10人÷50%=20人の応募が必要
これがKPI
→ 紹介会社1社あたり4人紹介してもらえるとすると新たに紹介会社5社の開拓が必要

第5章 KPIを作ってみよう

KPIの10のステップ
KPIマネジメントと始めるための事前準備として、ワークシートに「KPI設計書」のタイトルとつけて、「対象」「目的」「期間」を明記します。
目的と期間を明確にしておくことで、関係者間での検討の範囲を明確にできます。
次にジョブ・アサイン、つまり、誰が最終的に決めるのか、だれが議論途中の承認をするのか、そして誰が事務局となって汗をかくのかを関係者間で明らかにしておくことです。
日本企業では、これを曖昧にするので、無駄な工数が増え、結果として業務が増えてしまうことがあります。
(1) KGIの確認
(例)利益〇億円がKGI
今回検討している「対象」が、この「期間」に、この「目的」を達成した場合の数値目標です。
(2) ギャップの確認
「現在」と「KGI」のギャップ
(3) プロセスの確認
モデル化
ステップ(2) で確認したギャップをどうやって補てんするのかがここでの課題です。
何をするのかを明確にします。
この際に、現場が実際にオペレーションできるのかを加味して検討することが重要です。
著者の経験則だが、営業量を増やすのではなく、成約率など内部のプロセスを変えることを先に検討することをお勧めする。
これに成功すれば、その後営業人員を増加するにしても、その量を最小限にできるからです。
(4) 絞り込み
CSF(最重要プロセス)の設定
(5) 目標設定
KPIの目標数値は〇〇
最も重要なCSF(Critical Success Factor)を発見し、数値に落とし込みKPIを設定します。
(6) 運用性の確認
整合性・安定性・単純性の確認  整合性は、KPIを達成した際にKGIは達成するのか確認します。
安定性はKPIの数値が安定的にリアルタイムに取得できか。
単純性は、KPIの説明をしたときに関係者が理解できるほど単純化です。
(7) 対策の事前検討
KPI悪化時の対策と有効性の事前検討
このままではKPIが達成しない場合にどうするか。
これを先に決めておくステップ。
(8)コンセンサス
関係者との合意
何をKPIに設定するのか、数値の設定と、リスク対策の承認です。
事前に、どの時点で、どの程度数値が悪化したときに、何をするのかコンセンサスを得ておきます。
(9) 運用
(10) 継続的に改善
KPIマネジメントの究極は、すべての判断をKPIに紐づけられるかどうかにかかっています。
変化が激しい時代、一部の本部人材が判断するよりも、現場で最適な判断ができた方が圧倒的に強い組織になります。
その意味でも、KPIマネジメントを全従業員に展開し、これをすべての判断基準にするのがお勧めです。

最高の結果を出す KPIマネジメント…中尾 隆一郎 著今月はこの本を選んだのは、最近いろいろな機会にKPIの話をしていて、KPIそのものの定義が人それぞれ異なっているように感じ違和感を覚えたからです。
事業の目的を達成するために、結果が出るまでのプロセスを管理するためにKPIがあると受け止めていた私、つまり車を運転している時の速度メーターのようなものだと。
ただそのことを論理的に上手く相手に伝わるように説明出来ない私に気づいた時に、私自身もよく理解しきれていないのではと気付きました。
その時に、ちょうどこの本と出合えました。
プロセス管理をしていく上で様々な事例も紹介されており、理解・実践しやすいと思ったので紹介させて頂きました。
特に印象的だったのは、著者の目的志向性が高いのと因数分解です。
SCFを分析する上でも、業務プロセスを要素で分解(因数分解)することで改善も図れると思いました。
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