1.雇用関係助成金の利用要件
1.キーワードは「雇用の確保」および「雇用の安定」
近年は、学校を卒業したのに仕事に就かなかったり、就職してもパート、アルバイト、および派遣業務などいわゆる非正規社員として働く労働者が増えています。
また、せっかく正社員として就職しても3年以内に退職する率が中卒は7割、高卒は5 割、大卒は3割というデータもあります。
非正規雇用者比率をみると、下記表のとおり1990年の20.0%から2013年の36.2%へと大きく上昇しており、いまや3人に1人以上は非正規雇用者となっています。
正社員になりたくてもなれない非正規社員の多くは、雇用が不安定な状況に対して、不安を抱えているといえます。
今後の日本において、人口減少に伴い労働者人口がますます減少していく中で、このよ うな労働環境を国は問題視しており、雇用の安定を重点施策に掲げています。
厚生労働省における平成26年度の雇用政策は、「若者」「高齢者」「女性」「障害者」の4分野に焦点を当てており、雇用の確保、および雇用の安定を実現するために、企業に対する助成金制度を拡充しています。
本レポートでは、各種助成金制度を「非正規労働者のキャリアアップに関する助成金」、「仕事と家庭の両立支援に関する助成金」、「新規雇用に関する助成金」、「その他有効に活用できる助成金」に分けて、それぞれの概要についてポイントを解説しています。
自社の雇用の確保、および雇用の安定につなげるために、利用可能な助成金制度の積極 的な活用を推奨します。
2.雇用関係助成金を活用するための共通要件
(1)受給できる事業主
助成金を利用するためには、下記要件を満たす必要があります。
(2)受給できない事業主
下記の主な要件に該当する場合には、助成金を利用することができません。
(3)中小企業の範囲
雇用関係助成金は、助成内容が中小企業と大企業では異なるものがあります。
本助成金 制度における中小企業の範囲は次のとおりとなっています。
(4)不正受給の場合の措置
もし、不正受給が発覚した場合には、以下のような厳しい措置が講じられることになります。
支給前の場合は不支給となります
2.平成26年度の雇用関係助成金制度の概要
1非正規労働者キャリアアップに関する助成金
有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用の労働者の 企業内でのキャリアアップ等を促進するため、正規雇用への転換、人材育成、処遇改善などの取組を実施した事業主に対して助成する制度です。
平成26年3月1日より一部のコースの助成額が拡充されており、労働者の意欲、能力を向上させ、事業の生産性の向上、優秀な人材を確保するためには有効な助成金です。
2.仕事と家庭の両立支援に関する助成金
従業員の職業生活と家庭生活の両立を支援するための制度を導入し、制度の利用を促進 した事業主または事業主団体に対して支給する助成金で、次の3種類があります。
3.新規雇用に関する助成金
職業経験、技能、知識の不足などにより就職が困難な求職者や、65歳以上の高年齢者を雇い入れるための制度を確立することを目的として以下の助成金が拡充されています。
4.その他有効に活用できる助成金
老朽化設備を更新、増強したい中小企業・小規模事業者に対し、その設備投資を補助す る補助金、指定場所以外での喫煙を禁止するために喫煙室を設置する取組みを助成する制度や、その他労働環境を向上させる目的で以下の補助金が拡充されました。
3.非正規労働者のキャリアアップに関する助成金
非正規雇用の労働者(正社員待遇を受けていない無期雇用労働者を含む。
以下「有期契 約労働者等」という)の企業内でのキャリアアップ等を促進するため、これらの取組みを実施した事業主に対して助成するものです。
以下に利用メリットの大きい2つのコースの概要を紹介します。
1.正規雇用等転換コース
(1)制度の概要
有期契約労働者等の正規雇用等への転換、または派遣労働者の直接雇用化を行った事業 主に対して助成するものであり、有期契約労働者等のより安定度の高い雇用形態への転換を通じたキャリアアップを目的としています。
(2)対象労働者
本コースにおける「対象労働者」は、申請事業主が雇用する次の(1)、(2)または(4)に該当する労働者、あるいは申請事業主がその事業所で受け入れている(3)の派遣労働者です。
なお、短時間労働者または申請事業主が派遣元事業主である場合の派遣労働者は、その 雇用契約期間に応じて(1)または(2)として取り扱われます。
(3)キャリアアップ管理者の配置・キャリアアップ計画の認定
ガイドラインに沿って、事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置するとともに、 「キャリアアップ計画」を作成して、それについて管轄の労働局長の認定を受けなければなりません。
(4)正規雇用者等への転換等の実施
「キャリアアップ計画」に基づき、対象労働者に対する次の(1)~(5)のすべてを満たす措置を実施しなければなりません。
(5)受給金額
ただし、平成26年3月1日から平成28年3月31日までの間に転換等した場合は、次表の額が支給されます。
対象労働者の合計人数は、1年度1事業所あたり10人までを上限とします。
ただし、平成26年3月1日から平成28年3月31日までの間は、1年度1事業所15人まで(無期雇用への転換等は10人まで)となります。
2.人材育成コース
(1)制度の概要
有期契約労働者等に対して職業訓練を行う事業主に対して助成するものであり、有期契 約労働者等の職業能力開発を通じたキャリアアップを目的としています。
(2)対象労働者
本コースにおける「対象労働者」は、次の(1)または(2)に該当する労働者です。
(3)キャリアアップ管理者の配置・キャリアアップ計画の認定
正規雇用等転換コースと同様、ガイドラインに沿って、事業所ごとに「キャリアアップ 管理者」を配置するとともに、「キャリアアップ計画」を作成して、それについて管轄の労働局長の認定を受けなければなりません。
(4)職業訓練計画の認定
キャリアアップ計画の認定後(または同時)に、対象労働者に対して次の(1)~(3)の要件に該当する職業訓練を実施するための「職業訓練計画」を作成して、管轄の労働局長の認定を受けなければなりません。
(5)受給金額
本助成金(コース)は、職業訓練の種類に応じて1訓練コース支給対象者1人あたり下 表の支給額の合計がまとめて支給されます。
4.仕事と家庭の両立支援に関する助成金
1.子育て期短時間勤務支援助成金
(1)制度の概要
就業規則等により子育て期の労働者が利用できる短時間勤務制度を設け、労働者に利用 させた事業主に対して助成するものであり、労働者が育児のために必要な時間を確保しやすい短時間勤務制度の普及促進を図ることを目的としています。
(2)対象事業主
本助成金を受給する事業主は、次の要件のすべてを満たしていることが必要です。
(3)受給金額
(4)受給手続
本助成金を受給しようとする申請事業主は、支給対象者の「発生日」から起算して2か 月以内に、「両立支援等助成金(子育て期短時間勤務支援助成金)支給申請書」に必要な書類を添えて、管轄の労働局雇用均等室へ支給申請する必要があります。
2.中小企業両立支援助成金
中小企業両立支援助成金の4つのコースのうち、特に有効活用できそうな「期間雇用者 継続就業支援コース」を紹介します。
(1)制度の概要
有期契約労働者(期間雇用者)について、通常の労働者と同等の要件で育児休業を取得 させて、育児休業終了後に原職復帰させ、併せて職業生活と家庭生活との両立を支援するための研修等を実施する事業主に対して助成する制度です。
この制度は、平成28年3月31日までに育児休業を終了し、原職等に復帰した者を対象とする時限的な制度です。
(2)対象事業主
本助成金を受給する事業主は、次の要件のすべてを満たしていることが必要です。
(3)受給金額
(4)受給手続
支給対象者の育児休業終了日の翌日から起算して6か月を経過する日の翌日から2か月 以内に、「中小企業両立支援助成金(期間雇用者継続就業支援コース)支給申請書」に必要な書類を添えて、管轄の労働局雇用均等室へ支給申請する必要があります。
5.新規雇用に関する助成金とその他の助成金
1.トライアル雇用奨励金
(1)制度の概要
業務遂行に当たっての適性や能力などを見極め、その後の常用雇用への移行や雇用のき っかけとするため、経験不足等により就職が困難な求職者を試行的に短期間雇用(原則3か月)する場合に奨励金が支給されます。
(2)対象者
(3)受給金額
(4)トライアル雇用のイメージ
2.障害者トライアル雇用奨励金
(1)制度の概要
障害者の雇い入れ経験がない事業主等が、就職が困難な障害者を、ハローワークの紹介 により一定期間試行雇用を行う場合に助成するものであり、障害者の雇用に対する不安感等を軽減し、以後の障害者雇用に取り組むきっかけ作りや就職を促進することを目的としています。
(2)対象者
次の(1)と(2)の両方に該当する者が対象者となります。
(3)受給金額
(4)奨励金の計算式
3.新陳代謝型ものづくり補助金
(1)制度の概要
中小企業・小規模事業者の方が保有する老朽化設備の新陳代謝を図るために金融機関か ら借入を行い、耐用年数を超過した設備を入れ替える大規模投資(総資産の15%を超える設備投資)を行う場合に、借入額の1%相当額を上限に補助されます。
(2)対象条件
(3)受給金額
(4)補助金の申請から支払いまでの流れ
4.中小企業労働者環境向上助成金
(1)制度の概要
労働環境向上のための措置を講じた中小企業事業主や事業協同組合等に対して助成する ものであり、雇用管理の改善を推進し、魅力ある雇用創出を図ることを目的としています。
(2)対象条件
健康・環境・農林漁業・介護関連事業の分野等の事業を営む中小企業が、以下の措置を 実施した場合に受給することができます。
(3)受給金額
(4)受給手続
雇用管理制度または介護福祉機器等の導入に係る計画を作成し、必要な書類を添えて計 画開始6か月前から1か月前までに管轄の労働局に認定申請する必要があります。
■参考文献
平成26年度雇用関係助成金のご案内(詳細版)「厚生労働省発行」