発生メカニズムを知り組織で取組む患者トラブル対応ポイント

1.多様化・深刻化する院内暴力

1.院内暴力の発生状況

(1)トラブルを引き起こす要因

患者からの暴言や暴力が起こる背景にはさまざまな要因があります。
もともと悪意のない患者であっても、職員の対応への不満や待ち時間のストレスなどからいわゆる「怒り」という感情を引き起こし、暴言を吐くことがあります。
また、患者が急に亡くなり、家族・関係者が動揺したり、精神性疾患による症状として引き起こされる暴力など、医療機関側もある程度理解を示さなければならないケースもあります。
しかし、不当な嫌がらせや暴力、ストーカーやセクハラ行為は犯罪であり、毅然とした対応が医療機関には求められます。
そのためには、発生のメカニズムや引き金(トリガー)となる要因をよく知ることがポイントです。

トラブル発生に関する一般論 発生のトリガーポイント

トラブル発生に関する一般論 発生のトリガーポイント
ここで重要なのは、必ずしも患者側に問題があるケースばかりではなく、医療従事者側の問題が引き金になるケースもあるということを認識することです。

(2)トラブル発生の状況

東京都内の私大病院でつくる「私大病院医療安全推進連絡会議」が実施した調査によると、都内の私大病院の職員の4割が、患者やその家族から暴言や暴力、セクハラを受けるといった経験があり、それによると男性患者からの被害が多かったとの報告がなされています。
調査は、2011年12月、11病院の全職員2万9065人を対象に行われ、院内暴力を「暴言」「身体的暴力」「セクハラ」に3分類。
全職員の44.3%(約1万人)が、過去1年以内に 何らかの院内暴力を受けていました。
また、暴言は職員全体の41.5%、暴力は14.8%、セクハラは14.1%が経験していました。
暴言の被害は「医師」「看護師、准看護師、保健師、助産師」「事務員」が多く、それぞれ4割以上が経験。暴力、セクハラの被害は「看護師、准看護師、保健師、助産師」が多く、どちらも2割以上が経験していました。

調査結果の概要(暴言・身体的暴力・セクハラ)

「殴られた」と回答した中には、松葉づえで殴られた職員や、刃物で脅されたなど、その行為が過激化する傾向が見られるほか、女性の多い職場であり、電話・手紙・尾行などのストーカー行為も5.2%であることから、職員に関する個人情報の保護についても徹底が必要といえます。
特に若い看護師が暴力被害に遭いやすく、その後の不適切な対応が離職につながっている可能性もあるため、新人が安心して働ける環境づくりに向けて組織的取り組みが求められます。

2.報道に見る院内暴力の実態

前述のとおり、院内暴力は増加傾向とともに、過激化しているのが実情です。
最近では器物損壊や傷害致傷に留まらず、病院職員が死亡するといった事例も報告されています。
医療機関において患者が引き起こした事例を紹介します。

「待ち時間長い」と立腹 病院放火未遂で逮捕、患者刃物で病院職員刺傷、医療機関で発生した過去の事件

また、最近発生した北海道の市立三笠総合病院で起きた医師刺殺事件は、記憶に新しいところです。

北海道の市立三笠総合病院で起きた医師刺殺事件

一般診療科と違いリスクが高く、従って対応のノウハウがあるはずの精神神経科においてもこうした事件が発生している現実を十分に認識しなければなりません。

2.増加する医療に対する不満

1.医療・介護分野における改革の方向性

患者による暴力に至る過程においては、患者サイドの問題が大きく影響していますが、医療従事者側が気付かずに引き金を引いてしまうことも見逃せない事実として重く受け止 める必要があります。
日々の診療や看護、受付・会計での小さな不満の蓄積が、ある日の出来事をきっかけとして、一気に不満が爆発することを十分に認識することがキーポイントとなります。

(1)幸福の源は健康状態

内閣府による国民生活選好度調査によると、幸福感を判断する際に重視した事項として、家計の状況に次いで健康状態という回答が多くなっており、健康に対する国民の関心は高いことがうかがえます。

幸福感に影響する要素

(2)医療への満足度を知る

また、同調査によると、「適切な診断や治療が受けられている」と実感している患者は、年々減少しているといった実態が報告されています。
これは、「費用の心配をあまりせずに診療が受けられること」とほぼ比例して減少していることがわかります。
このように医療に対する不満は、全国レベルであり、なおかつ幅広い年齢層において存在していることを医療従事者は強く認識し、その対応を推進しなければなりません。

医療への満足度の年次推移

2.患者クレーム発生のプロセス

患者満足度の低下に反比例して増加していると思われる、いわゆるモンスターペイシェントに代表されるクレーマーについては、大きく以下の3つに分類されます。

トラブルを引き起こす患者の分類

(2)患者トラブル増加の背景

患者トラブルの増加の背景には、『社会情勢』、『患者を取り巻く外部環境』、『医療従事者の意識』、『患者の地域医療に対する意識』という4つの要因が考えられます。
それぞれの 変化が患者トラブルの増加をもたらしたのではないかと分析できます。

『社会情勢』、『患者を取り巻く外部環境』、『医療従事者の意識』、『患者の地域医療に対する意識』という4つの要因

3.患者満足度の継続的な把握

(1)継続的な実施が原則

前述のように、外部から提供されている患者情報を把握することももちろん大切ですが、院内での継続的な実施を基本として患者満足度を把握する仕組みが最も重要です。
前年、あるいは前々年に比較してどの領域の評価が上がったのか、あるいは下がったのかを把握することで、素早く、的確な改善に向けた取組みを進めることができるようにな ります。

外来患者満足度調査(例)

(2)重要な結果の分析・考察とフィードバック

患者満足度調査を実施するに当たっては、下記のような事前のスケジュールを決め、綿密に策定することが重要ですが、特に結果の分析及び考察に基づく課題抽出と調査結果の公表(院内・院外)のフェーズが重要となります。

重要な結果の分析・考察とフィードバック

また当然ですが、調査結果についは、評価の低かった部署だけでなく、すべての職員にフィードバックし、共有化を図ることが必要です。

3.求められる組織的対応

1.施設基準に見る患者対話体制整備の必要性

(1)患者サポート体制充実加算の新設

患者サポート体制充実加算は、医療従事者と患者との対話を促進することを目的として、平成24年の診療報酬改定時に新設された項目で、入院基本料の加算として有床診療所でも算定できる項目です。

施設基準

(2)運用事例

本体制構築にあたっては、相談体制の確立と院内の情報の共有がポイントです。
患者暴力の芽を未然に摘み取るとともに、日常的なクレームに耳を傾け、収集、分析を経て、広く職員に情報発信していくことがその役割になります。

「患者サポート体制」相談窓口運用マニュアル(例)

2.院内緊急体制整備のための具体的項目

(1)安全確保は医療機関の責務

日本看護協会の看護業務手順には、以下のように看護実践の管理者を中心とした組織的な対応に言及しています。

安全確保は医療機関の責務

このように、「職員の安全を守ることも患者の安全を守ることと同じくらい大切」であり、組織的取り組みが重要なカギとなります。
暴力の顕在化を契機に、「医療従事者として理不尽な暴力は容認しない」という方針を院内外にアピールし、診療録等への記載やマーキングによるリスクの共有、防犯カメラや時間外受付での監視システムの設置、警察OBの警備室部門等への採用などの対策を徹底する必要があります。
また、暴力発生時の対応として、緊急コール体制など報告・連絡ルートの整備し、いつでも速やかに対応できる環境整備が求められます。
さらに被害を受けた当事者については、事故後のメンタルヘルスケアも医療機関の責務として仕組みを確立しておく必要があります。

(2)基本的な対応 尾内康彦氏は患者

トラブル対応の基本として、以下の8項目をその著書のまとめとして掲載しています。

トラブル対応の基本

(3)その他整備すべき具体的項目

(1)暴力・セクハラ

医療従事者の就業時間に合わせて連絡体系を構築します。

セクハラ被害未然防止策、セクハラ被害にあった場合、凶器所持、怪文書・怪電話

■参考文献
『患者トラブルを解決する「技術」』(日経BP社)尾内 康彦 著

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