1.人材募集・選考・採用のポイント
人手不足による企業経営の危機が各情報誌で取り上げられています。
人手不足を理由とした企業倒産は、バブル崩壊後の景気停滞期にはほとんど見られませんでしたが、昨年くらいから目立ち始め、今年の上半期ですでに昨年の件数に迫る勢いだと報じられています。
また、賃上げによる人材獲得競争は、中小企業の経営を圧迫させる要因にもなっています。
そこで、本レポートでは、人手不足と採用難の悪循環から脱却するための「良い人材採用のポイント」について解説いたします。
1.募集広告作成時の留意点
求人は、一昔前はハローワーク(公共職業安定所)で募集するという方法が主流でしたが、今は様々な方法があります。
どんな人材を求めるかによって、媒体も選ぶ必要があります。
ここを間違えると、経費ばかりかかって効果が期待できません。
その一つひとつについて、特徴をまとめると下記のとおりです。
(1)応募者がイメージできるような広告を心掛ける
就職希望者が募集広告から知りたい情報は、「どんな会社か」「仕事は自分に合っているだろうか」「給与は」「勤務時間は」などです。
つまり、これらがイメージできるような広告でなければ、募集広告の効果が薄いということになります。
給与は、ある程度具体的な数字がないと説得性に欠けます。
また、経営者からのメッセージや経営理念などがあれば、イメージも良くなります。
社内の教育研修制度などの記載も大切です。向上心がある人材ほど自分が成長できる企業を求めます。
そして、勤務時間や休日・休暇制度などは明確に記載することも重要です。
特に残業時間数の虚偽の記載は、会社への信頼感をなくします。それを理由に早期退職するケースは 意外に多いという事実があります。
(2)募集したい人材像を具体的に記述する
会社として、実際に求める人物像を記すことになりますが、この記載は同時に、応募者にとって「この会社は自分たちにどの程度、期待しているか」を知る手がかりになります。
これは、やる気に大きな影響を与える「承認欲求」を刺激される部分です。
「やる気のある人材」などと安直な表現は望ましくはありません。
たとえば、住宅設計会社における募集の場合、少なくとも「住宅設計を通じて社会に貢献したいという夢を持ち、当社の仕事を通じてそれを実現したいと思う人」といった具体的で興奮を覚える内容にするべきです。
(3)募集広告で成功する秘訣
求人情報誌などの募集要項を見ると、「元気のある人を」「明るい職場です」「楽しい仲間が待っています」といった決まり文句の広告が多いことに気付きます。
これは、担当営業マンのアドバイスに任せた結果でもあります。
募集広告で成功するには、自分でいろいろ広告を見て、自身が心動かされる広告とはどんなものかを学習することです。
募集広告も相手の身になって考えたものでなければ、相手の心は動きません。
自社の身になって自社が伝えたいことだけを伝えていたのでは、敬遠されるだけです。
2.採用面接の事前準備
次は採用面接の事前準備を進めます。
事前準備の流れと留意点は以下のとおりです。
(1)面接メンバーと役割分担
中小企業では、何よりも経営者と社員一人ひとりとの人間関係が最重要課題になります。
よって、中小企業の人材採用面接は経営者が関わる必要があります。
したがって、面接メンバーも役割分担も、経営者を中心にして考えることです。
中堅企業であれば、総務や人事担当者もサブとして同席し、経営者の補佐を務めます。
サブメンバーの主たる役目は、経営者と応募者とのやり取りから、応募者の人物像について経営者 とは異なる目で判断することです。
(2)新卒・中途採用は状況に応じて判断する
新卒採用、中途採用どちらにするかのポイントは、募集する時の社内事情とそれぞれのメリットに応じてということになります。
一般的には、新卒採用のメリットは変に色が付いていないため教育指導がしやすいことです。
その反面、デメリットはその教育指導に多大な時間と費用がかかることです。
よって、時間も費用もかけられない中小企業では、新卒採用を敬遠しがちです。
一方、中途採用のメリットは教育・経験済みのため即戦力となりますが、デメリットは他社での経験・固定概念で自社に合わない考え方、価値観を持ち込まれることです。
以上のメリット・デメリットを踏まえて、中途採用を中心にとらえながら、可能な範囲で新卒採用にも範囲を広げていくことが最良の考え方といえます。
特に、他企業で相当な費用を使って教育してもらった人材を、その出費なしで雇えるメリットは大きなものです。
しかし、ある程度企業規模が大きくなり、新卒を雇える状況であれば、新卒の採用も開始することをお勧めします。
白紙の段階から自社オリジナルの人材に育て、育成する土壌をつくることは、既存社員にとっても大きなメリットがあります。
(3)求める資格や専門能力の基準を設ける
必要資格保有の有無は、しばしば議論の的になります。
人物を優先させるべきで、資格は採用後に当人にチャレンジさせれば良いという考えもあります。
いずれにせよこのような扱いをどうするかは、事前の意思統一課題です。
資格までに至らない専門能力についても同様です。
これは、資格の有無以上に複雑で、その種類も各人のレベルも様々、その必要性も議論が別れるところです。
事前に議論して、経営者の意志を反映した一定の基準を決めておく必要があります。
2.採用面接の留意点と人材評価の仕方
1.履歴・職務経歴書のチェックポイント
履歴書や職務経歴書は、原則として面接時の参考資料として位置づけます。
履歴書・職務経歴書のチェックポイントをまとめると以下のとおりです。
2.社会人としてのベースを判断する
面接時における遅刻や服装、態度、立ち居振る舞いも重要な判断尺度となります。
評価のポイントは以下のとおりです。
3.志望の真剣さを評価する
第一に肝心なことは、原則として面接担当者は応募者を迎え入れてあげることです。
これは、応募者の緊張をほぐしてやり、ありのままの自分を出してもらうためには、笑顔の応対が良いとされています。
また、面接担当者が経営者である場合には、経営者自身もありのままでの応対が望ましいです。
理由は、経営者との良い人間関係が築けるか否かを判断するためには、双方ともありのままを表面に出すことが望ましいからです。
いくつかの例外を前提とした上で、原則は優しい笑顔で語りかけ、相手がリラックスして話し、質問にも答えられる雰囲気を醸し出してあげることが大切です。
アイスブレイクの言葉をいくつか用意しておくと良いでしょう。
4.志望の真剣さを評価する
(1)関心度を知る
志望動機の質問は、自社への関心の度合いを知る上で最も大切です。
どんなに良い人材でも、この志望動機がいい加減では、採用しても仕事に身が入らず長続きしません。
また反対に、あまりにもこの動機が強い場合も要注意です。
その理由は、どうしても入社したいという思い込みが強い場合、わずかなイメージの違いを知っただけで幻滅を感じ、早期退職してしまいがちになるからです。
(2)認識・興味を知る
わが社の仕事内容やその大変さ、面白さ、業界の知識、扱う商品の知識について質問します。
ただし、深い具体的知識は必要ありません。
具体的に色々知っていたとしても、それは面接用に仕入れた知識であって意味がないものがほとんどです。
(3)志望の真剣さを見るチェックポイント
5..知識・経験を評価する
(1)知識・仕事への興味を知る
今回の募集要項と応募者の知識や経験、興味の方向が一致しているかどうか、一致していないとしても関連性くらいはあるかなど、採用者を絞り込んでいくための情報を仕入れます。
ポイントは、自分の得意なことを認識できていることが最低条件となります。
応募職種と関連性があれば尚良いといえます。
どのようなものであれ、日々、自己向上のための努力をしている姿勢が見えると良いです。
それらが業務に関連する事柄であればさらに有望です。
反対に自己啓発力もなく、取りたい資格もなく、向上心が感じられない者は中途採用者としては適当でありません。
(2)信憑性をチェックする
履歴書や中途採用者の職務経歴書は、応募者の知識と経験が記載されている情報源です。
学歴、特に大学で何を学んだかは興味の方向、知識の方向を示しています。
職歴は経験と実績を示しています。
特に職務経歴書は、そのための情報書だといって良いでしょう。
もちろん、全てを鵜呑みにすることはできません。
全体の経歴を把握したら、そのいくつかについて突っ込んで質問してみます。
疑問点や特に関心を引いた点なども掘り下げて聞いてみると良いでしょう。
尋問にならないように注意しながらも深く掘り下げて確認します。
6.面接の後にイメージを評価する
応答内容からの評価では非の打ち所のない人物でも、本人の全体像からのイメージが悪ければ、取引先や顧客への影響を考えたとき、採用には躊躇せざるを得ないでしょう。
反対に、内容評価はあまり芳しくないがイメージが良く、採用してみたら取引先の評判も上々ということも、実際にあります。
イメージとは、内容以上に重要な本人への評価事項です。特に小人数の組織のため、一人ひとりが会社の顔として活動せざるを得ない中小企業にあっては、より大切なことです。
採否判定にあたって、この評価にどの程度の重要度を付与するかは、各業種業態によって、あるいは経営者の価値観によって定めて良いでしょう。
3.採用面接時の質問・評価シートの事例集
1.仕事や生き方に対する姿勢を判断する質問例
2.人物を見るための質問例
3.正社員版 評価シート例
4.パート・アルバイト版 評価シート例
パート・アルバイト採用の際の判断基準は、基本的に正社員と同一が望ましいです。
「正社員の補助」という意識だけではなく、将来的に正社員に登用ができる人材を選ぶ意識が必要です。
ポイントは、基準行動を順守できるかどうかを見極めることです。
パート・アルバイト採用の評価シート例は、下記のとおりです。
5.まとめ
採用面接は、経営資源である「人・物・金・情報」の中の、最も重要な「人」を選ぶことです。
これからの企業経営が繁栄するかどうかの鍵を握るということです。
よって、人材採用活動は、安易に合間で済ませるものではありません。
本レポートで紹介した手法を活用して、良い人材確保に活用いただければ幸いです。