1.「経済指標」とは?
普段新聞やニュースを見ていると、「円安の影響で、日経平均株価は年初来高値を更新しました…」「GDPは年率換算で○○%増となり、3四半期ぶりのプラス成長となりました…」という言葉をよく耳にすると思います。
景気の善し悪しや、その内容に関しては「何となく」わかるものの、それがどういう意味なのか、どう利用すべきものなのかまでわかる方は少ないのではないでしょうか?
「経済指標」は多種多様なものが存在し、慣れない人にとっては取りくみ難く、わかりにくいものだと思います。
そこで本稿では、特に重要な「経済指標」をピックアップし、日々の会社経営に活かしていただけるよう、その内容と活用方法をわかりやすく解説いたしました。
「経済指標」を理解する事で、経済の現状と先行き、そして自社が今後取るべき方向性が見えてくるものと思います。
1.「経済指標」の見方
「経済指標」は、実にたくさんのものが存在するため、全部見ることは到底不可能です。
そこで、自社にとってどんな情報が必要なのかを見極め、各経済指標の特性を理解した上で、経済指標を取捨選択し、利用していくことが重要になります。
まずは、経済指標を見る上で押さえておきたい注意点をまとめました。
2.主な経済指標の発表カレンダー
「経済指標」は、日本国内のみならず、世界に目を向けると、主なものだけでも次ページのようにほぼ毎日発表されています。
株価や金利といった先行指標は、経済指標の発表後のみならず、アナリスト等の予想をもとに、発表前においてもその善し悪しを予測し、変動します。
経済指標は、このように一覧にしておくと、自社で必要な指標をチェックする日が一目でわかり便利です。
主な経済指標は、発表日の翌日に新聞やニュース等でも確認できますが、より早く正確な情報を得るためには、ロイターやブルームバーグといった金融サイトで確認できますので、参考にしてください。
経済指標と同等に影響を与える「キーパーソン」の発言
「経済指標」と同様か、それ以上に注目されているものが「キーパーソン」の発言です。
ここでいう「キーパーソン」とは、各国中央銀行総裁、FOMC(連邦公開市場委員会)メンバー等を指します。
主なキーパーソンは以下のとおりです。
キーパーソンの発言は、経済指標では見えてこない経済の実態や、今後の金融政策の行方を占う上でも注目すべきものです。
報道等で、よく耳にする「ハト派」「タカ派」とは、ハト派=緩やかな経済政策をとる人、タカ派=経済政策をしなくても自立的に回復する、もしくは強硬手段をとっていく、という考え方のグループを指します。
2.経済の現状と見通しを知る
2章からは、目的別に経済指標を区分し、特に重要なものについて概略と活用方法を解説していきます。
1.日銀短期経済観測調査
正式名称は「全国企業短期経済観測調査」で、日本銀行調査統計局経済統計課で発表していることから、通称「日銀短観」と呼ばれています。
総務省の事業所・企業統計調査をベースに、常用雇用者数50人以上の民間企業約8,300社を対象とし、総売上高、経常利益、人件費、設備投資額等について、実績値と今後の見込み(予定)をアンケート調査し、年4回公表しているものです。
中でも、「大企業製造業の業況判断D.I.」は特に注目されています。
シャドー部分は景気後退期を表していますが、業況判断D.I.と概ね同じ動きをしており、整合性が高いことがわかります。
直近アベノミクスの一服感と、消費増税の影響から、中小企業で「悪い」に傾いていることが上のグラフから見て取れます。
「日銀短観」は、調査対象社数が多いこと、回答率が高いこと、速報性が高いことから、景気の転換点に気付く材料として。
また、景況感、企業の設備投資・在庫投資の予測をする材料として非常に重要な経済指標といえます。
2.金利
「金利」には大きく分けて(1) 短期金利、(2) 長期金利の二つがあります。
(1) 短期金利の基本は、銀行間で1日だけ資金の貸借をする際に適用される、「無担保コールレート(オーバーナイト物)」と呼ばれるものです。
以前は、金融政策の中心は「公定歩合」と習いましたが、現在では「基準貸付利率」と名前を変え、ほとんど注目されなくなっています。
銀行の定期預金金利や短期貸出金利などは、この「無担保コールレート」をもとに決められています。
一方、(2) 長期金利の基本は、新発10年物国債利回りです。
国債などの公社債は、株式や為替などが取引所による市場取引が一般的なのに対し、投資家同士が直接取引する相対取引(業者間取引)が一般的です。
利回りは、この流通市場で取引される金利といえます。
一般的に、景気の上昇局面では金利が上がり、景気の悪化局面では金利は下がります。
また、国債の発行量が増えれば、需給の関係から債券価格は下がり金利は上昇、発行量が減ればその逆の動きとなります。
下図を見ていただくと、アベノミクスで景気は良くなってきていると報道されているのに、金利が下がっているということは景気は悪化局面なのか?とも見えますが、現在2013年4月に日銀が打ち出した、「量的・質的金融緩和」により、大量の国債を購入することで市場に資金を供給している、という背景もあります。
いずれにしても、金利は景気や金融政策に敏感に反応しますので、要注目の経済指標です。
3.GDP(国内総生産)
GDP(国内総生産)とは、国内で1年間に新しく生み出されたモノやサービスの合計額です。
“国内”なので、企業が海外支店等で生産したモノやサービスは含みません。
GDPには(1) 名目GDPと(2) 実質GDPがあります。
その関係性を示すと、以下のようになります。
この実質GDPの上昇率を「経済成長率」と呼び、この増加率が高い時は、モノがよく売れ、生産が増え、企業の設備投資が増え、雇用が増え、給料が上がり、という好循環になっているといえます。
特にGDPの需要項目で重要なのが、日本で6割、アメリカでは7割を占めると言われる個人消費です。
GDPは、日本のみならず、世界各国が四半期ごとに発表していることが多く、その国が現在どのような経済状態にあるのかを測るモノサシとなっています。
下のグラフを見ると、日本は1980~1992のGDPの伸び率に比べると、最近は緩やかな伸びに止まっていることがわかります。
また、アメリカと比べても、伸び率が緩やかなことがわかります。
4.ISM製造業景況指数(PMI)
アメリカは、世界の名目GDPのおよそ23%を占める世界最大の経済大国であり、日本を含む世界経済に大きな影響を及ぼすという意味では、常に注視しておかなければならない国です。
「ISM製造業景況指数(PMI)」は、アメリカの民間団体「ISM(供給管理協会)」が、製造業約350社の仕入担当役員へのアンケート調査結果を、毎月第一営業日に発表する製造業における景気転換を表す先行指標で、主要経済指標で最も発表されることからも大変注目されています。
指数「50」が景気動向の善し悪しを測る分岐点であり、50を超えていれば景気回復・拡大を、50を下回れば景気後退・縮小を表します。
世界一の経済大国アメリカで最も早く発表される先行指標であることから、世界経済の先行きを占い、自社の今後の経営戦略立案のためには、はずす事の出来ない経済指標であると言えます。
また、FRBは50を下回った際には過去一度も政策金利の利上げを行っていないことから、FRBの利上げスタンスを見極める意味でも注目されています。
毎月第三営業日には「ISM非製造業景況指数(NMI)」も発表され、こちらも同様に注目の経済指標です。
下のグラフを見ていただくと、2013年5月に50を割る局面がありましたが、その後は50以上を保ち、昨年末には60に迫っていたことが見て取れます。
金融緩和を続けている日本に対し、アメリカが利上げ(金融引き締め)のタイミングを 計っている理由が、この指標でもわかります。
自分の意思を論理的に相手に伝えることなしには、相手からの信頼を得られないばかりではなく、実際の社内業務にも支障をきたす恐れがあります。
つまり論理的に何を伝えたいのかを常に整理する必要があります。
また、相手に話が上手く伝わらない場合は、その原因を探り、論理的に話すための対策を練る必要があります。
3.雇用環境の実態と先行きを知る
1.完全失業率
「完全失業率」は、労働力人口に占める完全失業者の割合のことで、全国から約4万世帯を抽出して実施する標本調査で、調査員が戸別訪問して調査票をまとめ、総務省が集計・発表しています。
一般的には、景気が悪くなれば完全失業率は上がり、良くなれば下がります。
また、景気が好転すれば労働市場へ職を求める人が流入しますので、労働力人口が増えます。
就業者を上回る勢いで労働力人口が増えれば、完全失業率は上がります。
今年2月27日に発表された1月の完全失業率は3.6%と、昨年の年平均から変化がありません。
アベノミクスにより、上場企業等一部のサラリーマンには賃上げの動きもあり、一見景気回復の雰囲気はありますが、末端の市民にまではその恩恵が及ばず、雇用環境の改善までには至っていない、とも読むことができます。
雇用環境の現状を知る有益な経済指標ですが、一口に失業者といっても、置かれている状況に違いがあるため、景気動向との関連を見るには、若干注意が必要です。
2.購買意欲をかきたてる他社事例紹介話法
「有効求人倍率」は、全国の公共職業安定所が取り扱った求人、求職件数を集計し、求職者数に対する求人数の割合を算出する事で、労働市場の需給動向、就職難易度を示すものです。
有効求人倍率が低いことは、求職者数の割には求人数が少ないことを示し、仕事に就くのが難しいことを意味しています。
逆に、高いことは雇用情勢が良いことを示しています。
また、新規求人数は景気に敏感に反応し、景気の上昇局面では増加し、後退局面では減少します。
これは、企業が求人を抑制し、人件費の削減を進めるためです。景気の山(ピーク)には、はっきり先行して減り始めますので、先行指標としても活用できます。
今年2月27日に発表された1月の有効求人倍率は1.14倍となっており、2014年より改善しているものの前月比横ばいとなりました。
建設業界では、震災からの復興事業、2020年に開催が決まった東京オリンピック特需などが景気回復による不動産需要と重なり、慢性的な人手不足に陥っていることから、ある程度求人数を押し上げていると考えられます。
ただ、近年は公共職業安定所を利用せずに職に就く人が増えていますので、必ずしも労働全体の動向を示すものでないことには注意が必要です。
3.雇用統計(非農業部門雇用者数、失業率)
「雇用統計」は、アメリカ労働省が毎月第一金曜日に公表していますが、前月のデータが翌月上旬に発表されるというタイミングの早さ、金融政策の判断に重要視されているという理由などから、市場の注目度が最も高い経済指標です。
特に、非農業部門雇用者数の前月比増減と、失業率は注目されていますが、景気の遅行指標であることには注意が必要です。
4.物価の動向を知る
1.全国消費者物価指数(CPI)
物価関連の指標で最も注目されるのが、この「全国消費者物価指数」です。
「全国消費者物価指数(CPI)」は、消費者が購入する商品を約600品目に分けて調査し、物価がどのように変化しているかを指数で表します。
指数は、ある時点でウェイトを固定し、その時点に比べて価格がどう動いたかを調べるラスパイレス型を採用しています。
実態に合わせるため、ウェイトは5年に一度見直しを行います。
年金の物価スライドの基準になるなど、政策決定にも利用されており、総務省から毎月26日を含む週の金曜日に発表されています。
生鮮食品は、天候などの要因によって価格が変動しやすく、他の商品やサービスの価格変動を見えにくくしてしまうため、「生鮮食品を除く総合」で物価の趨勢を見るのが一般的です。
アメリカの消費者物価指数でも同じ考え方から「食糧、エネルギーを除く「コア消費者物価指数」」で見るのが一般的になっています。
最近のCPIの下落は、昨年1バレル(160ℓ弱)100ドルを超えていた原油価格の代表的な国際指標であるW.T.I(ウェスト・テキサス・インターミディエート)が、再度40ドル台まで下落した影響が大きかったと思われます。
2.CRB指数
アメリカの調査・出版会社コモディティ・リサーチ・ビューロー社が発表している、最も代表的な国際商品指数です。アメリカ国内の商品取引所に上場するエネルギー、産業素材、貴金属、農産物、畜産物、食品の17種類の先物価格を指数の形で算出し、発表しています。
その他ロイター指数、DJ・AIG先物指数などの国際商品指数と比べると、穀物や加工食品のウェイトが高いのが特徴です。
商品価格は需給要因、産出国の地政学・政治要因の他、近年は投機筋の動きもあり、非常に変動しやすくなっています。
様々な原料を輸入に頼っている日本にとって、原料価格の動きを押さえておくことは、経営上非常に重要であると言えます。
これまで、特に押さえていただきたい経済指標について、その概要と活用方法、注意点等を解説してきました。
経済がグローバル化している現代においては、自社の営業エリア内の情報だけに目を向けている様では、施策が後手になってしまい、経営上大きなハンデを負う事になってしまいます。
そうならないためにも、マクロ的な視点で、日本、そして日本を取り巻く世界経済がどのような状況にあり、どのように動いていくかをある程度押さえていくことが、今後益々重要になってくると考えます。
本稿が、その一助となれれば幸いです。
■参考文献
経済指標の読み方 上・下(日本経済新聞社 編)
初心者のための経済指標の見方・読み方(塚崎公義 著、東洋経済新報社)
日本銀行 ホームページ
日本相互証券株式会社 ホームページ
総務省統計局 ホームページ
Bloomberg ホームページ