1.2014年診療報酬改定の視点と重点課題
1.改定率と答申内容について
(1)過去改定率の推移
2014年(平成26年)診療報酬改定に関する改定率が昨年12 月に発表され、全体の改定率はプラス0.1%となりました。
平成14年から平成18年にかけて続いた史上最悪のマイナス改定時代後の全体改定率の推移を見ますと、前回、前々回に続いて、かろうじてプラス改定を維持した形となりました。
(2)名目プラス、実質マイナス改定
全体改定率はプラス0.1%となりましたが、この4月から消費税が5%から8%と引き上げられるため、実際には増税分仕入コストが増加します。
そのため、本改定では医療機関への消費税補てん分(計1.36%)がプラスされました。このプラス分を除いた実質改定率ではマイナス1.26%となります。
実質プラス改定を求めてきた厚労省、日本医師会と総額での削減を主張していた財務省との間を取った首相官邸が痛み分けを演出した形となりました。
2.改定の重点課題とその対応
(1)機能分化・強化と連携、在宅医療の充実
改定の重点課題については、入院医療における病床機能を再評価のうえ、細分化を進める一方、一部の機能強化を行うとしています。
そして、病院完結型の医療から地域完結型の医療へのシフトを目指し、外来・在宅医療の充実、介護施設とのシームレスな連携を構築し、2025年モデルを実現するとしています。
(2)急性期に相応しい病床機能の推進
2025年モデルでは、高度急性期の担い手として位置づけられた病床は18万床ですが、現在の7対1一般病床は35万床と、約2倍となっていることが大きな問題となっています。
また、急性期医療を掲げながら、その実は慢性期患者(90日超の入院患者)が相当数存在していることも厚労省の調査で明らかになってきました。
こうした背景をもとに、今次改定では7対1病床の絞り込みを進め、急性期に相応しい病床機能の明確化と役割分担を推進する内容となっています。
詳細については入院医療の項目で触れますが、今後自院がどの方向に舵をきるのか(あるいはきらないのか)大きな決断を迫られる改定内容であるといえます。
(3)地域包括ケアの実現に向けた導入ステップ
今回の改定は、病院完結型から地域完結型への移行の基礎作りと言えます。
それは、今後増え続ける高齢者が、住み慣れた地域の中で、健康で活力ある暮らしが継続できるように、地域全体で支えていくというコンセプト実現への第一ステップです。
2.入院は急性期病床の機能の明確化と受け皿整備
1.厳格化される急性期病院の要件
急性期病院においては、機能の明確化が重点課題とされました。
今回の改定は、35万7千床にまで増加した、特に7対1一般病棟基本料を算定している医療機関に対して厳しい内容となっています。
(1)特定除外制度の見直しによる平均在院日数の長期化
平均在院日数自体の短縮(7対1で18日以内等)は見送られましたが、90日超の入院患者に係る特定除外制度が以下のとおり見直されることになりました。
こうした特定除外患者を除くと、7対1病院の14.8%、10対1病院の18.4%が平均在院日数の要件をクリアできなくなるといわれています。
また、平均在院日数の短縮に大きく寄与する内視鏡下手術などの「短期滞在手術等基本料(手術・検査19項目)」についても見直しが行われ、4泊5日までの場合は平均在院日数の計算対象から除外し、6日以降の入院については同日数の対象に含むこととなり、平均在院日数の要件を満たすためには、院内での管理体制をさらに徹底しなければならない改定内容となっています。
(2)厳格化される重症度、医療・看護必要度測定
現行の「重症度・看護必要度」が名称変更となり、A・B項目のうち、前者の見直しが行われました。
7対1病院においては、重症度の基準は入院基本料の施設基準となっているため、この基準を満たす患者を15%以上入院させることが必要です(10対1病院は入院基本料の加算として取り扱われる)。
これにより、現行のA項目のうち、2)血圧測定や3)時間尿測定の患者が加点対象から削除され、さらに4)呼吸ケアの患者から喀痰吸引のみの場合が除外されました。
このように平均在院日数と重症度・看護必要度の両面において、7対1病院にとって、非常に厳しい改定となっていることがわかります。
2.急性期後の受け皿となる病床整備
(1)亜急性期と回復期の入院
2025年モデルで一般病棟を支える位置に存在するのが、回復期病棟を含む亜急性期病棟であり、今次改定で評価を充実させる方向性が示されています。
現行の亜急性期病棟管理料からは、病棟単位で算定が可能な「地域包括ケア病棟入院料」、また中小病院が現行どおり病室ごとに算定できる「地域包括ケア病棟入院医療管理料」の2つに分類するという変更が行われています。
主な施設基準としては、(1)二次救急医療施設や救急告示病院、在宅療養支援病院、在宅療養後方支援病院(今回新設)の届出病院、(2)リハビリ職員の配置(PT,OT,STのうち1名専従)、(3)重症者割合(A項目1点以上患者が10%以上)、(4)データ提出加算届出病院となっています。
また在宅復帰率は、現行の60%から70%へ引き上げられました。
(2)療養病棟は新たな加算項目が追加
現行の療養病棟入院基本料について大きな変更点はありませんが、消費税引き上げに伴い、基本料が13点から41点アップしているほか、以下の加算が新設されました。
なお、地域包括ケア病棟入院料については、療養病床についても1病棟に限り届出が可能とされています。
3.外来は主治医機能の評価と在宅医療の充実
1.外来診療の評価
(1)新設された主治医機能の評価
地域包括ケアを強力に推進していく上において、診療所におけるかかりつけ医機能の充実は、これまでも重要課題として掲げられてきました。
この方向性を受けた今次改定において、外来におけるキーポイントは主治医機能に関する評価の新設です。
主治医機能については、新設された「地域包括診療料」の要件に詳しく定められていますが、「患者の受診歴や服薬情報などを一元的に把握して、継続的な指導管理を進めるとともに、適宜健康診断・検診の受診勧奨を行う」など、日常的な管理体制を構築する必要があります。
(2)主治医機能の評価と地域包括診療
新設された「地域包括診療料」のコンセプトは、「外来の機能分化の更なる推進の観点から、主治医機能を持った中小病院及び診療所の医師が、複数の慢性疾患を有する患者に対し、患者の同意を得た上で、継続的かつ全人的な医療を行うことについて評価を行う」であり、その担い手は診療所と200 床未満の病院に限定されます。
主な要件は、以下のとおりです。
尚、診療所の主治医機能についてのみ評価するとし、出来高算定可能な「地域包括診療加算(20点/1回)」も新設されていますが、算定要件が若干異なるため、注意が必要です。
2.実績重視の在宅医療
(1)徹底したアウトカム評価型へ
在宅医療支援機能の充実を図るため、手厚い評価がなされてきたことを背景として、在宅療養支援診療所(在支診)・同病院(在支病)などの届出数は増加した一方、緊急往診や看取りといった実績がほとんどない医療機関も存在していました。
今次改定では、これら評価の適正化を目的とし、実績要件が引き上げられています。
上記要件に挙げた緊急往診実績や看取り実績を有する在支診及び在支病については、「在宅療養実績加算」の算定を認めるなど、評価が重点化されています。
(2)同一建物への訪問系医療の厳格化
今次改定では、訪問診療や在総管、特医総管などの訪問系医療について、不適切事例への対策推進を目的に掲げ、同一建物への訪問及び同一建物における同一日の複数訪問時の再評価を行い点数の大幅引き下げを行うとともに、「保険医療機関が高齢者住宅等からの経済的誘因による患者紹介を受けることを禁止する」と明示しています。
(3)後方支援の評価
現在連携型在支診及び在支病に付与されている「在宅患者緊急入院診療加算(入院初日2,500点)」が、新設される「在宅療養後方支援病院」にも適用されることとなりました。
施設基準としては、(1)200床以上の病院、(2)入院希望患者について緊急時にいつでも対応し、必要があれば入院を受け入れること、(3)入院希望患者に対して在宅医療を提供している医療機関と連携し、3月に1回以上、診療情報の交換をしていること、となっています。
4.有床診の評価と基本診療料の引き上げ
1.有床診療所入院基本料
(1)機能に応じて細分化された評価
有床診療所をめぐる評価については、地域包括ケアシステムにおいて、診療所が主治医機能を持ちながら、病院等からの退院患者のフォローや急変時の受入れなどの在宅医療やターミナルケア、介護保険サービスなど多様な機能を担うポジションにあるため、入院基本料評価が細分化されています。
現行の看護職員の配置に応じた区分は、一定の実績要件(急変時受入れ実績等)を満たす場合の上位ランク3種類を設定し、合計6種類の体系に改定されました。
今後は時間外対応加算1や夜間看護配置加算1・2などの届出のほか、自院の入院患者に占める他の医療機関の一般病床からの患者受入実績、看取り件数などの実績管理を徹底し、ランクアップを進めることが重要テーマとなります。
また、看護補助配置加算(5~10 点/1 日)の取得も看護師不足の診療所においては積極的に検討すべき項目といえるでしょう。
(2)管理栄養への取り組み評価
すでに入院基本料に包括された栄養管理実施加算(12点/1日)ですが、管理栄養士の確保が厳しい実情を踏まえ、入院基本料から引き去り措置を行った一方、管理栄養士を配置している診療所については、加算として今回評価が復活しました。
なお、管理栄養士がいない診療所において、他の医療機関や栄養ケアステーション等の管理栄養士が医師の指示に基づき対面で指導をした場合には、今次改定で新設された入院時栄養食事指導料2(125点)が算定可能です。
2.リハビリテーションの評価・再評価
(1)維持期リハビリテーションをめぐる評価
介護保険への移行促進の観点から、標準算定日数を超えた患者で、その状態の改善が期待できると判断されない場合、脳血管疾患等リハビリテーションのうち廃用症候群の評価を見直すとして引き下げが行われました。
(2)疾患別リハビリテーションに関する評価
維持期リハビリテーションに関する各点数が引き下げられた一方で、疾患別リハビリテーションをめぐる評価は充実し、点数の引き上げが行われています。
また、地域連携パスの主要疾患である脳卒中及び大腿骨頚部骨折については、(1)脳血管 疾患等リハビリテーション料及び運動器リハビリテーションの初期加算、(2)退院後に外来でリハビリテーションを行った場合の早期リハビリテーション加算、について算定が可能となりました。
3.その他の改定項目
(1)基本診療料
4月からの消費税3%アップに伴う措置は、入院基本料だけではなく、初診料等の基本診療料にも講じられます。
(2)その他の評価項目
その他よく算定される項目のうち要件・点数等が変わった項目を以下に列挙しました。