ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学…入山章栄 著

Part1 いま必要な世界最先端の経営学

長い間、進歩していないMBAの教科書。
経営戦略論といえば、ハーバード大学のマイケル・ポーターの「ファイブ・フォース分析」、「バリュー・チェーン」、ユタ大学の「VRIO分析」などありますが、内容は四半世紀近く、ほとんど変わっていません。
現在の経営学では、経営学者(ビジネススクールの教員)が授業で教えていることと、彼らがいま最前線の研究で得ている知見の間に、きわめて大きなギャップが存在しています。
その理由は、経営学が国際的に標準化しているから。
さらに経営学が科学化しているからです。
経営学は、科学として「経営の真理法則を科学的に探求すること」が目指されています。

Part2 競争戦略の誤解

ビジネスモデルとは、「事業機会を生かすことを通じて、価値を創造するためにデザインされた諸処の取引群についての内容・構造・ガバナンスの総体」である(アミット、ゾット)。
ビジネスモデルの5要素
《1》価値の創造、《2》社内外でどのような相手にどのような取引をするか選択し、《3》それらを構造的に結びつけ《4》その取引の担当主体(ガバナンス)を決める、《5》それた取引群の全体をまとめたデザインが「ビジネスモデル」となります。
優れたビジネスモデルの4条件
《1》効率性(Efficiency)
従来よりも取引上のコストを抑えられるビジネスモデル・デザインのことです。
《2》補完性(Complementarity)
シナジー効果のこと、複数の取引主体を結びつけることで、単体では得られなかった効果を得ること。
《3》囲い込み(Lock-in)
顧客を同業競合他社の製品・サービスに流出しにくくすること。
《4》新奇性(Novelty)
イノベーティブなビジネスモデル・デザインのことです。
技術的なイノベーションでなく、取引主体との関係性や構造に変革を起こすことです。

Part3 先端イノベーション理論と日本企業

世界の経営学で最も研究されているイノベーション理論の基礎は、「Ambidexterity」という概念で、「両利きの経営」というもの。
「知の探索」と「知の深化」について高い次元でバランスをとる経営を指します。
イノベーションの源泉の一つは、「既存の知と、別の既存の知の、新しい組み合わせ」にあります。

Part4 最先端の組織学習論

情報の共有化とは、「組織のメンバー全員が同じことを知っていること」ではありません。
全員が同じことを覚えていては、効率が悪いです。
組織本来の強みとは、メンバー一人ひとりが各分野の専門家であり、「Who knows what」が組織全体に浸透していることです。
司式学習を高める上で大事な「フェイス・トゥ・フェイス」を意図的に生み出す仕掛けが必要です。
シリコンバレーの某大手企業では、オフィスの真ん中にあえてコーヒー飲み場を置くことで、色々な案件をやっている社員が集まる機会を作っています。

Part5 グローバルという幻想

「企業がグローバル化する」とは「企業が自国以外の国でビジネスをする」という単純な概念ではない。
世界で通用する強みがあり、それを生かして世界中でまんべんなく商売ができていることです。
2001年時点での分析で世界を「北米地域」、「欧州地域」、「アジア太平洋地域」の三極にわけてまんべんなく売上をあげていたのは、世界中で9社しかなかった。
IBM、インテル、フィリップス、ノキア、コカ・コーラ、フレクストロニクス、モエ・ヘネシー、ルイ・ヴィトン、ソニー、キャノンです。
現在では変化しているでしょうが、優れた多国籍企業であっても、その優位性はホーム地域では威力を発揮するが、他地域では通用しない可能性を示しています。

Part6 働く女性の経営学

ダイバーシティーには2種類あります。
《1》タスク型の人材多様性
実際の業務に必要な能力・経験の多様性です。
イノベーションの源泉とは知と知の組み合わせであるから、組織の知が多様性に富んでいることが重要となり、「タスク型の人材多様性」は、組織が新しいアイディア、知を生み出すのに貢献します。
《2》デモグラフィー型の人材多様性
性別・国籍・年齢などその人の目に見える属性についての多様性です。
組織のメンバーにデモグラフィー上の違いがあると、同じデモグラフィーを持つ人との交流だけが深まり、組織内グループができがちになってしまいます。

Part7 科学的に見るリーダーシップ

優れたビジョンには、ビジョンの中身とビジョンの特性があります。
ビジョンの特性として、《1》簡潔であること、《2》明快であること、《3》ある程度抽象的であること、《4》チャレンジングなこと、《5》未来志向であること、《6》ぶれないことです。
人が自分の考えを伝えるときは、その中身だけではなく、言葉の選び方で効果が変わります。
言葉には2種類あって「イメージ型の言葉」と「コンセプト型の言葉」です。
例えば、「助ける」はコンセプト型で、「手を貸す」はイメージ型です。
後者の方が後継が頭に浮かびやすいのではないでしょうか?
カリスマリーダーは、相手の五感に訴えるイメージ型の言葉を使う傾向があります。

Part8 同族企業とCSRの功罪

同族企業は日本だけに多いのではない。同族企業は、業績も悪くない。
CSR活動は、周囲のステークホルダーからの評価を高め、それが好業績につながります。
さらに、CSR活動を通じて、多様なステークホルダーと交流できるので、従業員や管理職の知見が広がり、自社の人材強化につながります。
副次的効果として、SCR報告書を作れば、従来のIR活動よりも、会社の内部情報を公開することになり、結果として企業の透明性を高め、投資家の信頼も増し、資金調達しやすくなるといわれています。

Part9 起業活性化の経営理論

「事業のたたみやすさ」が起業を促します。
さらに、「キャリアのたたみやすさ」が起業に影響します。
労働市場が流動化され転職がもっと自由になれば、起業が進む可能性があります。

Part10 やはり不毛な経営学

経営学は、経営の実態に潜む「真理法則」を探求します。
そのためまず一部に焦点を定めて、その因果関係を丁寧に解きほぐし、分解します。
そこから導出された「経営の真理かもしれない」法則を統計手法などで検証していきます。
しかし、経営者は、複数からなるこれらの部分たちを足し合わせ、すり合わせ、最終的に一つだけの意思決定をしなければならない。
経営学と経営者のプロセスの違いがあります。
だからMBAでは、ケーススタディ分析が重要となります。

Part11 海外経営大学院の知られざる実態

ドラッカーを読まない米国の経営学者。
コリンズを知らなくてもビジネススクールの教授が務まるという事実。
「知の競争」をする経営学者は、ドラッカーを読むヒマはない。
ビジネススクールには、「研究者」と「教育者」がいるからこのような状況となっています。

ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学…入山章栄 著この本は、著者自身が「はじめに・第1章」で記載されていますが世界の経営学会がおかれている状況・課題が明確になっております。
この本を読んで、自社の経営が良くなるという保証はありません。
しかし、日々、経営の実践の場にいる方々にとって、自社が選択した方法があっているのか否か結果が出るまで不安になることがあります。
そんな場合に、選択した手段を見つめ直す視点を与えてくれます。
経営の最適な方法の答えだけを求めている方にはお勧めできません。
あくまで考え方・視点・思考の軸のヒントとして面白い本だと思います。

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