中小企業の採用力を強化する! 通年採用とリファラル採用のポイント

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中小企業の採用力を強化する! 通年採用とリファラル採用のポイント

  1. 中小企業における通年採用の必要性
  2. 良質な人材確保が期待できるリファラル採用
  3. リファラル制度導入時の留意点
  4. 採用活動を成功させた企業の取り組み事例

 


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1.中小企業における通年採用の必要性

長年叫ばれてきた、少子高齢化や労働人口の減少が遂に表面化し、多くの企業が人手不足の深刻さを実感している中で、2022年新卒の採用活動が始まっていますが、6月1日より面接が解禁となりました。
しかし、面接解禁を待たずに就活生の約7割が内定獲得済みであるというニュースも流れています。
さらに、経団連による「採用に関する指針」の廃止が決定し、従来の春の一括採用偏重を改め、通年採用が一般化する見込みとなり、ますます大手企業に人材が集中することで、中小企業の人材確保がさらに困難になる危機的な状況が生まれています。
今回は、この厳しい採用環境下で費用も人手も大手企業よりかけられない中小企業が、新卒通年採用時代の人材獲得競争に生き残るための適切な採用活動=最適な通年採用活動とリファラル採用のポイントについて解説します。

1.採用活動に危機的な状況をもたらしている労働人口の減少

日本の人口推計では、2013年の1億2,730万人が、今から27年後の2048年に人口が1億人に、2110年には半数以下に減少します。
また、労働人口は、2010年には約6,730万人いたものが、2030年には約6,170万人と約560万人減少する見込みであり、危機的な状況であることが実感できます。

採用活動に危機的な状況をもたらしている労働人口の減少

2.採用ルールの変遷

2018年に経団連が2021年春入社の学生から『就活ルール』を廃止すると表明し、2019年には春の一括採用偏重型から、通年採用枠を拡大することで大学側と合意にいたっています。
それ以降は政府主導となりますが、採用環境は大きく変化しようとしています。

採用ルール変遷のポイント、採用ルールの変遷

3.通年採用の重要性

大手企業の通年採用開始≒選考入口・受験可能回数が増加しているということは、学生が大手企業の選考に落選しても、何回でも再挑戦できるところまで門戸を広げていることになりますので、中小企業は大手企業の選考から漏れた、いわゆる「優秀層のおこぼれ」の恩恵すら受けることが難しい状況となっています。
こうした採用環境を踏まえ、自社にあった採用策=通年採用における最適なマッチングが中小企業の喫緊の課題と言えます。

4.中小企業の採用力強化につながる 通年採用対応のポイント

(1)新卒採用における通年採用の動向予測 学生の動き

従来の一括採用では、水面下の動きは別として、一斉に就職活動・採用活動が開始となる目安がありました。
一方、通年採用の場合、大学や就職情報社が行う就職活動ガイダンス、合同説明会などが一定の期間にまとまって行われることもなく、いつ、自分がどのタイミングで参加すべきかを見つけ出すことが難しくなります。
こうした中で、学生の動向は次の通り予測されます。

新卒採用における通年採用の動向予測 学生の動き

上述の学生動向予測の内、①~④の中から優秀層を獲得することは必須ですが、中小企業にとってこの優秀層から採用予定人数を確保することは、新卒人口の減少、学生の超大手志向型就職活動の観点から、非常に困難だと言えます。
そうした中、中小企業が採用予定数を確保するためには、①~④に加え、⑤の主体性に欠ける層にもアプローチをしなければなりません。
ただし、ただ採用基準を下げて採用人数を確保し続けても、企業力が弱まっていくことは必至です。
そこで、⑤の層については、通年採用を通し、インターンシップ・説明会・選考の中で企業が学生を育成することで優秀層に引き上げることができる学生がいます。
そうすることで、学生側の自社に対する企業研究が進み企業理解度が上がり、成長を実感した学生は企業への志望度も高まる可能性が高いため、適切なマッチングにもつながります。
まとめると、大手企業より人手も労力もかけられない中小企業は、少なくとも年に3回は選考の入口を確保することが必須となります。

(2)新卒採用における通年採用対応のポイント

通年採用における、企業と学生の動向予測を勘案し、通年採用に取り組む際のポイントは次の通りとなります。

新卒採用における通年採用対応のポイント

2.良質な人材確保が期待できるリファラル採用

1.自社を良く知る社員からの紹介によるリファラル採用

1章で解説した通り、現在、少子化による有効求人倍率の高まりと、大企業志向を受けて採用活動が難航する中、応募を待っていても採用要件に合う人材がなかなか見つからない、出会えない状況が続いています。
こうした背景から、企業は応募を待つ姿勢から採用候補者を自ら探しにいく姿勢が求められるようになり、リファラル採用が注目されるようになりました。
リファラル(referral)とは、英語で紹介・推薦という意味で、リファラル採用とは、社員を通して人材の紹介・推薦を受け、採用選考を行う手法のことです。
リファラル採用は、人材紹介会社や求人サイトなどといった既存の採用手法に頼らず、人と人との個人的な繋がりを活用します。
この方法によって採用候補者の質や信頼性を確保し、採用のマッチング精度を高めることが期待できます。
更に、リファラル採用は、社員が自ら企業理念を友人や知人に伝えることで、社員の採用に対する貢献度を高める動きにつながるとしても注目されています。

自社を良く知る社員からの紹介によるリファラル採用

従来の採用方法は、候補者が応募をし、書類審査等で選考を行い、人事部が面接を行って採用するという一過性のものでした。
リファラル採用は、社員、元社員、友人全員を自社のファンにして、持続可能な採用を実現します。

2.増加するリファラル採用の実態

(株)MyReferが公開した「リファラル採用の実施状況に関する企業規模・業界別 統計レポート」によると、対象506社のうち、リファラル採用を実施している、または導入予定と回答した企業が、全体の8割に上っています。

増加するリファラル採用の実態

実際に導入している企業では、社員の帰属意識が高まり、自社のブランディングが向上したなどの効果が見られたと回答しています。
これは、採用チャンネルが、社員の友人知人、顧客やビジネス上の知人に広がるためです。

3.リファラル採用のメリット

リファラル採用のメリットは、下記のとおりです。
採用のミスマッチを防ぐ、採用コストを抑制する、社員の帰属意識を高めるなどのメリットがあります。

リファラル採用のメリット

4.導入を成功させるポイント

リファラル採用を導入するにあたり、成功のポイントとなるのは、制度に関する社員の理解と、社員へのインセンティブを明確にすることです。

導入を成功させるポイント

3.リファラル制度導入時の留意点

1.法的リスクに関する理解

労働基準法には、「何人も法律にもとづいて許される場合のほか、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」という規程があり、いわゆる職業紹介事業者として法律にもとづく許可を得ていない場合には「業として」、簡単にいえばビジネスとして職業紹介をすることは禁止されています。
この「業として」ということの判断基準としては、「反復して継続的に行なっている場合」が問題となります。
「ある1人の社員が、大量に毎月のように誰かを紹介してくれる」というような実態になっていると、その人は「業として」、つまりビジネスで職業紹介をしているのではないか、とみなされるリスクが高まります。

労働基準法 第6条

職業安定法には、「労働者の募集を行なう者は、その被用者で当該労働者の募集に従事する者または募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合または第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない」という規程があります。
この規程を要約すると、労働者の募集に従事する社員に対して「報酬を与えること」は原則として禁止されているのですが、「賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合」には例外として禁止ではないという解釈になります。

職業安定法 第40条

2.違法にならないための留意ポイント

違法にならないためのポイントは2点です。
一つは、就業規則や賃金規程に記載すること、もう一つはインセンティブを高額にしないという点です。

就業規則・賃金規程に記載する際のポイント、支給金額に関するポイント

3.規程改定のポイント

社員に社員紹介料という形で支払うのではなく、「会社に必要な人材を紹介したこと=会社の必要な業務遂行に貢献したこと」に対して支払う手当という意味合いで、「社員紹介手当」のようにして、賃金規程に明記することで報酬という意味合いが薄れ、逆に賃金性が増します。
社員紹介制度でお金を渡したいとなった場合には、必ず賃金規程に明記して明確化しましょう。
また、賃金規程に規程する際の「支給要件」には、「社員紹介手当を支給するのは3人までの紹介に限る」といったように紹介人数に上限を設けると、業として行なっているとみなされるリスクは減るので、こうした定めを賃金規程に織り込むことも一案です。
賃金規程の記載例を下記に示しましたので、参考にしてください。

リファラル採用における賃金規程の例、賃金規程 社員紹介手当の例

この他、「紹介手当」名目以外に、リファラル採用のための交通費や飲食費について、実費を支給する制度も有効です。
また、こうしたリファラル採用の社員紹介手当は、社会保険上も税法上も賃金に該当します。
そのため所得税の課税対象となりますし、社会保険の標準報酬月額にも加味する必要があり、所得税・社会保険料の金額が上がることにもなるので、その点も注意が必要です。

4.紹介者への報酬金額

ご紹介した規程例では、手当の上限を10万円に設定しました。
紹介者への紹介料の給付金額が、一般的な相場に比べ高額の場合は、報酬としてみなされやすくなります。
明確な基準はありませんが、インセンティブ(紹介手当)の支給額は、「3万円から10万円程度」が一般的で、この程度であれば、問題となるリスクは少ないと考えます。
たとえば、紹介報酬を100万円などとした場合、転職エージェントに支払う金額に近くなるため、違法な報酬として判断される可能性が高まりますので注意が必要です。

4.採用活動を成功させた企業の取り組み事例

1.通年採用導入企業事例

近年、新卒採用において通年採用が拡大しつつありますが、その成功事例(成果)はまだはっきりとは見えてきていません。
ただし、通年採用の導入が進む大手企業や学生の動きを知ることは、中小企業が適切なタイミング、回数で通年採用に取り組むためには非常に重要です。
ここで、新卒の通年採用を導入している企業事例を紹介します。

通年採用導入企業事例

2.リファラル採用に成功したA社の事例

厚生労働省「多様な人材活用で輝く企業応援サイト」などから事例を紹介します。

A社の導入ポイント~若手社員の求人から全求人へ拡大

A社は、長期ビジョン「E-Vision2030」における人材戦略として多様な人材の活躍促進を掲げています。
多様な社員が働き甲斐と働きやすさを感じ活躍できる企業になるために、2019年9月からリファラル採用を実施しています。
近年、新卒・キャリア採用は競争が激化しており、特に若年層は少子高齢化の影響もあって、採用が難しい世代となっています。
リファラル採用を実施することで、会社と社員のミスマッチを低減させ、入社後の定着率向上が期待できるほか、転職市場に出ていない人材にもアプローチすることが可能となり、多様な人材が採用できる効果に期待しています。

●取組の内容①(社員説明会の実施)

A社は、リファラル採用を導入するにあたり、入社1~5年目の社員を対象に説明会を開きました。
「リファラル採用は若手人材を集めるのに向いている」として、今後5年間で中途採用の3割をリファラル採用にしたい考えを説明しました。

●取組の内容②(クラウドサービス「Refcome(リフカム)」の導入)

募集職種への理解を促し、さらに「A社らしさ」に共感した人材の確保を推し進めるため、株式会社リフカムが提供しているリファラル採用支援の「Refcome」導入に至りました。
「Refcome」は、リファラル採用の知見があるコンサルタントと並走してリファラルを推進していけることや、きちんとリファラルの成果を数値で可視化できること、効率的に社員に周知が出来るシステムに魅力を感じ導入するに至りました。
同社では、多様な人材の獲得チャンスを広げるとともに、社員がモチベーション高く働ける職場環境の実現を目指しています。
現在は、若手社員を中心とした一部の求人でリファラル採用を導入していますが、今後はA社の全求人での導入を予定しています。

通年採用・リファラル採用のどちらも、人材の採用にとって大切なのは、自社と競合する企業がいつ・どのように・どのような人材をターゲットに活動しているかを捉えること、また、自社がかけられる労力を鑑み、自社に必要な人材を獲得するには何を行うべきかを具体的に企画し、実行することです。

中小企業の皆様の採用活動の成功=適切なマッチングの一助となりましたら幸いです。

 

■参考資料
『なぜ、あの中小企業ばかりに優秀な人材が集まるのか?』 日刊工業新聞社
『売り手市場時代の人材獲得競争を生き残る!』 つた書房
『知らない人を採ってはいけない―新しい世界基準「リファラル採用」の教科書』 KADOKAWA
『後継社長のための会社を変える「新卒採用」』株式会社クロスメディア・パブリッシング
『日本一学生が集まる中小企業の秘密』株式会社徳間書店

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