在宅歯科診療推進施策に対応!訪問歯科診療の取り組みポイント

1.増加する要支援者・要介護者と高まる在宅ニーズ

1.増加する要支援者・要介護者数

平成25年版高齢社会白書(内閣府・平成24年10月1日)によると、日本の人口1億 2,752万人の内、高齢者人口は過去最高の3,079万人(前年2,975万人)で、総人口に占 める割合は24.1%(前年23.3%)となり、超高齢社会(※)となっています。
前年(2,975万人、23.3%)との比較では、104万人(0.8ポイント増)となり、人口・ 割合共に過去最高となりました。
65歳以上の人口は今後も増加傾向が続き,いわゆる「団塊の世代」(昭和22(1947)~ 24(1949)年に生まれた人)が65歳以上となる平成27(2015)年には3,395万人となり、平成54(2042)年に3,878万人でピークを迎え、その後は減少するものの、高齢化率は上昇すると予想されており、これに伴い要支援・要介護認定社数も増加しています。 (※)人口比率7%以上が高齢化社会、14%以上が高齢社会、21%以上を超高齢社会という。

要支援者・要介護者認定者数(平成22年 総務省統計局資料より)

訪問歯科診療を利用したことがある人は7%で、約60%の人が存在さえ知らないという結果が出ています。
口の機能障害が原因で高齢者の普段の生活に制限が出ているのであれば、障害を治療し、はつらつとした生活を送れるようにしてあげることが大切です。
また、 咀嚼障害を持っていたとしても、代わりになるような手法を提案し食生活の環境整備をし てあげることで、障害と共存し、満足する生活を送ってもらうことが可能になります。
「口腔機能を通じて生活復帰や生活機能の維持・向上を目指す」ことが重要です。

2.要介護者に対する歯科治療の実態

介護施設に入所した場合、歯磨きも介護の範囲内になります。
身体や精神的な能力が低下すると、口腔機能も落ちてきます。
そして、要介護のお年寄りには、摂食嚥下障害が多くみられます。
この状況を放置しておくと、誤嚥性肺炎を引き起こすことにもなりかねません。
これは、高齢者の死亡原因でも上位にあがる恐ろしい病気です。

要介護者とその介護者500 名に聞き取り調査

(2)院長・スタッフが一丸となれる院内ミーティング

院長自身がミーティングに対する期待度が低い為に、解決したい重要な課題がある場合でも、短い休憩時間を利用してしかミーティングを開かない場合がみられます。
効果的な ミーティング運営が、医院の繁栄の基礎が確立されるという意識を持ちましょう。

3.在宅歯科診療の充実

(1)在宅医療・歯科診療の充実

厚生労働省は、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアの実現を目指しています。
この実現により、重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるとしています。
そのためには在宅医療の充実がポイントとなります。
在宅療養支援病院、在宅療養支援診療所、在宅療養支援歯科診療所と他の医療機関が連携をしながら、在宅医療、在宅歯科診療の機能強化を目指しています。

(2)診療報酬における評価

厚生労働省は、在宅歯科診療をより一層推進する立場に立ち、居宅に対する歯科訪問診療を強化しています。
前回、平成24年度改定においては下記の項目が重要課題として議論され、方向性が示されました。

平成24年改定における論点と今後の検討事項
これらの方向性を受けて、歯科訪問診療料の評価、在宅患者等急性歯科疾患対応加算、歯科衛生士の歯科訪問診療の補助に関する評価、在宅療養支援歯科診療所の評価について、見直し及び新設がされました。
これらの在宅歯科診療に関する評価については、引き上げが続いており、今後もその傾向は続くと思われます。

2.訪問歯科診療の実態と取組みポイント

1.訪問歯科診療の実態

(1)在宅サービスを提供している歯科医院

厚生労働省が、実施している医療施設調査によりますと、在宅医療サービスを実施している歯科診療所は、全体の20%となっています。
また、居宅に対する訪問診療は、1ヶ月8.4件、施設に対する訪問診療は、1ヶ月26.2件と、施設に対する訪問診療の方が多い件数となっています。

在宅医療サービスの実施状況

(2)訪問歯科診療の所要時間

訪問歯科診療の1回当りの平均の診療人数の分布は、自宅では、1人以上および2人未満が90.0%、自宅以外では、同39.3%、2人以上および3人未満が11.1%、自宅以外では、6人未満までの割合の合計で70%を占めています。
平成21年医療課調査の結果では、下位25%を除く、訪問歯科診療における患者一人当たりの所要時間は全体で25分以上となっています。
内訳としては、「自宅」が30分以上と最も長く時間を要し、「居宅系施設」が25分以上で「介護関連施設」と「その他」が20分以上となっています。

2.訪問歯科診療の準備

訪問歯科診療を行うためには、院内の体制づくりからツールの整備、診療に必要な書類、医療器具、スタッフ育成等の準備をすることが必要です。
訪問歯科診療で忘れがちになるのが、患者の周りにいる家族や友人知人、施設であれば、ケアマネージャーや介護福祉士等の存在です。
訪問先での治療や接遇の結果、評判が上がり口コミ効果などで患者が増加することもあります。
訪問歯科診療は、始める前の入念な準備をすることが重要なポイントです。

(1)訪問歯科診療の案内資料の作成

患者に訪問歯科診療を知って頂くことが重要で、その為の案内資料を作成します。
初めて訪問歯科診療を検討した患者さんは、次のように考えます。

患者の考え、案内資料のポイント

(2)歯科医院、歯科医師、歯科衛生士の紹介資料の作成

患者は、少ない選択肢の中から歯科医院を選ばなければなりません。
また、嫌であっても簡単に医院を変えることはできません。
訪問歯科診療の場合、本人ではなく、その家族が歯科医院を決定していることが多く、自分のこと以上に慎重に検討することとなります。
患者に選択して頂く為に、歯科医師としての経歴や思いをつづった資料の提供もポイントとなります。
訪問歯科診療においては、医院の診療方針、治療にあたる歯科医師の考えがより重要となります。

 

3.治療計画書と医療器具

(1)関係書類

訪問歯科診療時には、在宅療養患者さん及び患家に関する情報の把握が必要です。
また、 他の医療機関との連携の為の書類、診療報酬請求の為の資料等を準備します。

関係書類等や状況把握項目

特に、治療計画書の作成がポイントとなります。
介護をされている家族や施設のスタッフは、忙しく、随時立ち会ってはいられません。
治療計画書により、誰でも現在の治療状況を理解できるようにすることが重要です。

治療計画書の内容、基本となる4種類の対外フォーム(制度によって提出が義務化)

(2)訪問歯科診療時の医療器具

訪問歯科診療を実施する際に必要な医療機器は、下記のとおりです。

訪問歯科診療用の医療機器

4.服薬指導と薬剤管理

高齢者は、薬に対する理解力の低下、服薬への不安や嚥下障害、服薬能力の低下により、指示通どおりに薬物を服用することをしなくなる傾向があります。
患者への薬剤管理や服薬指導をするために、事前に十分な知識を習得する必要があります。

服薬への意識低下、義歯装着者に対する服薬指導ポイント、嚥下障害患者に対する服薬指導ポイント

3.訪問歯科診療のマーケティング戦略

1.訪問歯科診療の認知活動

(1)既存患者への認知活動

訪問歯科診療の患者は、一般の歯科のように待っていても来院するわけではありません。
まずは、訪問歯科診療を始めたことを、知って頂くことが必要です。
通院中の患者さんに対しては院内にお知らせを掲示し、また潜在的患者に対してはホームページでのお知らせ、 お医者さんガイドのような雑誌へ掲載して、徐々に認知度を高めていきます。

既存患者への認知活動

(2)介護施設等への認知活動

ターゲットとなるのは、近隣にある介護施設等です。介護施設にいるケアマネージャーから紹介を頂き、増患につなげるのが成功のパターンですが、ケアマネージャー側にすれば、よく知らない相手に簡単に患者さんを紹介するようなことは決してありません。
既存の患者さんに、担当のケアマネージャーを紹介して頂き、アポイントを取り、紹介を依頼していく方法が、地道ですが最も効率が良いでしょう。
介護施設といっても、さまざまな施設があります。
サービスで分類すると、入所系、通所系、訪問系です。
それぞれの特徴を学び、それにあった方法を構築していくことが必要です。

介護施設等の種類

厚生労働省の医療施設調査において、訪問診療を実施している歯科医院の状況をみると、居宅・施設ともに毎年増加しています。
特に、施設に対する訪問診療件数は、大幅な伸びとなっており、居宅よりも効率的に訪問診療が提供できる施設へ積極的に展開していることがわかります。
地域によっては、介護施設への訪問診療が激戦区となっているところもあるため、訪問診療の認知活動と新規施設開設情報の入手が重要です。

訪問診療を実施している歯科医院の月間実施件数

開設情報や近隣の事業所の状況を知る方法の一つに、地域包括センターを利用する方法があります。地域包括センターとは、2005年の介護保険法で定められた施設で、地域全体の保健衛生、高齢者を中心とした介護、社会福祉全般をマネジメントしている施設です。
ここで、近隣事業所のリストを入手することが出来ます。

2.クレームをチャンスに変える

「クレームは、ラブコール。いち早く相手先を訪問し対応する。」
これは、どの業種であっても基本となる考え方です。
しかし、訪問歯科診療の場合、クレームが直接担当医師には届きません。
そのため、多くの患者は、不安や不満を抱きながら、 治療を続けることになります。

患者がクレームを言えない理由

歯科医院側が、クレームにいち早く対応するつもりでも、なかなか難しいのが現状です。
ポイントは、クレームを積極的に拾う姿勢です。
今までに、起きたクレームを院内で共有し、資料化します。
日々読み返し、頭に入れ、訪問時に「この患者なら、こんな不安や 不満を抱くのでは」と常に考え、患者や家族に接することが重要です。
治療が終わり、最後に「不安や疑問はありませんか?」と訊ね、「次回までに、何かあれば、治療計画書の記入欄に書いてください」と必ず言い添えます。

治療計画書、不満・質問・言い忘れ
この対策を確実に行っていても、日常は目の届かない場所でクレームが発生していることがあります。
担当しているケアマネージャーは日頃から、要介護者やそのご家族の相談 に対応していることから、訪問歯科診療に関するクレームが出ることがあります。
知り合 ってから日の浅い訪問歯科診療の医師やスタッフより、長くお世話になっているケアマネ ージャーに話をすることが多いのが実情です。
新規の患者を治療する場合は、担当のケアマネージャーを紹介して頂き、一度ご挨拶に伺う必要があります。
その際に、歯科治療の件でクレームに近い話があれば、すぐにご連絡を頂けるように、院長宛の封書と記入用紙、院長宛のFAX用紙等を手渡し、連絡を依頼します。

3.介護施設スタッフへの口腔ケア研修会

患者がある程度増えてきたら、複数の入所者がいる介護施設のケアマネージャー向けに、研修会を行うことも有効です。
介護施設には、「口腔ケアで苦労している介護スタッフが多くいます。
口腔内をきれいにしてあげたい」という思いがあっても、どのようにすればよいのかわからない、という意見が多く聞かれます。
研修会の主な目的は、口腔ケアの重要性を知って頂き、状況別の正しい口腔ケアを理解してもらうことです。
研修会の開催により、スタッフ全員の知識レベルを向上させ、訪問歯科診療に対する意欲を向上させることができます。
介護スタッフの負担を軽減させることを考えて、口腔ケアの方法を解説します。
口腔ケアのグッズを揃えて、その特徴や使い方を具体的にレクチャーすることが必要です。

口腔ケアグッズ
介護スタッフの方々ができるケアと、歯科医師や歯科衛生士が必要な状態の判断基準を詳しく説明することが重要です。
介護スタッフの方々が、治療もしくは専門家による口腔ケアが必要だと感じた時には、すぐに電話相談を頂ける関係を構築していきます。
介護スタッフの方々の負担を軽減することができれば、電話相談からのご紹介が増えてきます。
同じ施設内の歯科患者が増えていけば、移動の為の時間も節約する事ができ、治療の合間に他の方の簡単な相談を受けたりすることもできます。
近隣の施設との関係を強 化していくことは、訪問歯科診療に欠かせない重要なポイントです。

4.WEBの活用

ホームページ等のWEBコンテンツの活用も重要なポイントです。
訪問歯科診療の対象 患者は高齢者で、インターネットの活用はほとんどしないと思われがちですが、実際に訪問歯科診療を選択するのは患者さんの周りにいる方たちです。
家族や親族、ケアマネージャー等の方たちが、歯科医院の情報を集める方法として活用しているのがホームページです。
一度訪問診療先を決めると、なかなか入れ替えができないため、詳細な情報を集めようと熱心に探索します。
歯科医院のホームページは、いかに医院や歯科医師、歯科衛生士等の情報を盛り込み、アピールできるかが重要なカギになります。

■参考文献
『訪問歯科診療 こうすれば成功する(クインテッセンス出版)』前田 剛志 著
『歯科訪問診療・はじめの一歩から<2010年改定対応>(日本歯科新聞社)』 前田 実男 著
『在宅歯科診療実践マニュアル(厚有出版)』菊谷 武・贄川 勝吉 著
『増収・増患・増益を実現させる最新の歯科経営改善対策のすすめ方』講義録
株式会社MMP 代表取締役 鈴木 竹仁

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