消費者とのトラブルから企業を守る!消費者法の理解と企業における対応策

1.規制強化が進む消費者保護法制

1.消費生活相談 年間90万件

全国の消費生活センターに寄せられる相談件数は、約90万件と依然として高い水準で推移しており、そのうち「取引」に関する相談(解約したいなどの「契約・解約」、商品やサービスの「販売方法」のいずれかが問題となっているもの)が70万件超(全体の約85%) に及び、消費生活相談の大部分を占めています。

消費生活相談 年間90万件
社会が高度に複雑化した現在では、消費者と事業者との間には情報量や交渉力において圧倒的な差異があります。
そこで国は、法律の制定や法改正を通じ、消費者の保護を強化してきました。
また、企業が直接消費者に対して商品やサービスを販売・提供する取引を、総じて消費者契約といいます。
企業としては、こうしたトラブルや損害賠償責任や行政処分などによる信用失墜を回避するために、消費者取引をめぐる法律とはどのようなものかを理解しておく必要があります。

2.消費者保護と法改正

(1)法改正で強化される消費者保護

消費者契約をめぐる取引全般に関わる「消費者法」とは、「消費者問題に対応するための規定を持つ」の法律の総称です。
今回は、この「消費者法」のなかから、近年トラブルが増加している「契約・解約」と「販売方法」に関連する「消費者契約法」「特定商取引法」「景品表示法(独占禁止法の特例法)」の3つの法律を中心に、消費者契約をめぐる問題とトラブル回避の留意点を整理しました。
上記の主要な3つの法令は、近年改正が行われています。

近年の主要法令の改正
これらの法改正は、消費者が適正に、かつ安全に商品やサービスを選択できる環境を整備する趣旨で行われたものです。
また、改正に伴い、行政監督庁の権限を強化し、処分内容も厳格化されています。

(2)消費者保護法制の全体像

消費者契約も私人間の取引であることから、企業間取引と同様に、原則として民法および商法が適用されます。
しかし、民法は対等な当事者関係を前提としており、企業に対しては「弱者」である消費者の利益を必ずしも十分に確保できない場合も多く、また消費者救済をするにしても当事者の負担が大きいなどの問題があることは事実です。
そこで、消費者契約においては、消費者保護のために、民法のルールを修正する民事特別法や各種業法または行政法規が制定されています。

(1)民事特別法

民事特別法とは、民法の原則を修正し、より一層の消費者保護を図るために特別の規則を定めた法律のことを指します。
消費者契約においては、消費者保護を重視するため、民法上の信義誠実の原則(信義則)や権利濫用の法理、公序良俗等の一般条項を活用するほか、様々な特別法を制定しています。

(2)各種業法と行政法規

宅建業に関する「宅建業法」や旅行業に関する「旅行業法」、金融商品取扱業に関する「金融商品取引法」など、業界の共通の規制を設ける法律の中で、消費者保護を図るものがあります。
また、それ以外にも、「独占禁止法」や「個人情報保護法」などにおいても、消費者保護の観点から規定が設けられています。

各種業法と行政法規

2.販売活動を規制する法令

企業が販売活動を行う際には、消費者との間では契約の締結や、営業等の行為は欠くことができません。
これらの活動に対して、前章で紹介した消費者法によってさまざまな規制が設けられています。

1.消費者契約法における禁止行為

消費者契約法は、消費者の擁護を図る目的で平成12年に成立した比較的新しい法律です。
制定以降、消費者契約法は、消費者契約における基本的な法律として重要な役割を果たしています。
消費者契約法は、労働契約を除くすべての消費者契約を対象とします。
主な内容としては、一定の条件のもと消費者契約自体を取り消すことができるとされているほか、消費者の利益を不当に害する契約条項を無効とすることができるとされています。
そこで、事業者としては、契約を取り消されたり、条項が無効とされたりしないように、消費者契約法に注意を払う必要があります。

消費者契約法における禁止行為

(1)断定的判断の提供禁止

事業者が消費者契約の締結をするにあたり、消費者に対し、将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供し、そのために消費者が確実であると誤認をしたために消費者契約が成立したときには、その消費者は契約を取り消すことができます。
逆に、事業者から見れば、消費者から契約を取り消されないように、不確実な事項を断定的に提供してはならないという義務が課されているものといえます。

(2)「出ていかない」等困惑行為の禁止

事業者が消費者契約を締結する際に一定の困惑行為をした結果、困惑した消費者との間で契約が成立したときは、その契約を取り消すことができます。
一定の困惑行為とは次のような場合をいいます。

「出ていかない」等困惑行為の禁止

(3)消費者に不利な契約の締結禁止

事業者側の問題によって消費者が損害を被った場合は、事業者が損害賠償責任を負うべきです。
ところが、事業者の損害賠償責任を免除する条項を盛り込んだ消費者契約が締結されるケースが散見されます。
しかし、そのような条項は一定の場合には無効とされ、消費者の保護が図られています。

具体例

2.特定商取引法による規制

特定商取引に関する法律(特商法)は、もともと訪問販売法という名称の法律を広げ、訪問販売や電話勧誘販売など6種類の販売類型およびネガティブ・オプションが対象としていた規制範囲を対象とし、クーリング・オフや広告規制、勧誘行為規制などを内容とした法律です。

(1)特商法における規制の対象

特商法では、訪問販売、電話勧誘販売、通信販売、連鎖販売(マルチ商法)、特定継続的役務提供(エステティックサロン等)、業務提供誘引販売取引(内職・モニター商法等)の6つの取引類型およびネガティブ・オプション(一方的に商品を送りつけて売買を申し込む商法)を規制対象として定めています。

特商法における規制の対象

(2)特に注意が必要な訪問販売への規制

訪問販売とは、営業所等以外の場所で契約を締結する商法を指します。
自宅にセールスマンが訪問し、商品等の購入を勧誘し、契約を結ぶものが代表的な例ですが、それ以外にも、「特定の誘引方法のよる顧客(特定顧客)については営業所等において」契約した場合を含むとされています。
ここでいう「特定顧客」とは、街頭で呼びとめて営業所等に同行するキャッチセールスや、販売目的を告げずにもしくは著しく有利な条件を告げて営業所等に呼び出すアポイントメントセールスによる顧客のことを指します。
これらの取引方法は契約する場所が営業所であっても、消費者にとっては不意に勧誘され、冷静な判断が困難な状態で契約を結ぶことになるため、「訪問販売」の一種として扱われています。

規制内容
また、契約に際しては書面の交付義務があります。
交付すべき書面の主な記載内容は、省令で指定された、事業者の名称、住所、代表者氏名、固定電話番号などの項目です。この記載に不備があると、消費者からいつまでもクーリング・オフが主張されてしまうなどの不利益があります。
その他、契約に際して重要な情報について嘘を述べて契約した場合や、わざと不利益な事実 を告知しなかった場合には、消費者に契約の取消権が認められてしまいますので注意が必要です。

3.商品表示を規制する法令

商品表示を規制する法律としては、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)が定められています。
景品表示法は、独占禁止法の特例法として制定されましたが、消費者による商品選択に悪影響を及ぼす不当な表示を規制している点で、消費者法として機能しているといえます。
平成21年には、所管も公正取引委員会から消費者庁とされています。

1.景品表示法による規制

実際より良く見せかける表示や、過大な景品付き販売が行われると、それらにつられて消費者が実際には質の良くない商品やサービスを買ってしまうことで、不利益を被るおそれがあります。
景品表示法は、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを厳しく規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限することにより、消費者がより良い商品やサービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守っています。

景品表示法の目的と禁止事項

(1)代表的な2種類の規制

景品表示法が商品等の表示に関して直接規制しているのは、次の2種類です。

代表的な2種類の規制
また、内閣総理大臣(政令により消費者庁長官に委任)が、それが優良誤認表示にあたるか否かの判断に必要であるとしたときに、事業者に表示の裏付けとなる資料の提出を求めることがあります。
この求めに応じないと、その表示が優良誤認表示にあたるとされる場合があります。

(2)その他の消費者保護を目的とした6つの規制

景品表示法は、前述の優良誤認表示と有利誤認表示のほか、取引に関する事項について、一般消費者を誤解させるおそれがある表示について、内閣総理大臣の指定により、次のように規制をしています。

(1)無果汁清涼飲料水等に関する不当表示

清涼飲料水、乳飲料、発酵乳、乳酸菌飲料、粉末飲料、アイスクリーム類または氷菓について、果実の名称や図柄が表示されていたり、着色、着香、味付けがされていながら、原材料に果実や果肉が使用されていなかったり、使用されていても量が僅少であった場合には、無果汁等の表示や使用されている果汁等の割合の表示をしなくてなりません。

(2)商品の原産国に関する不当表示

国内産の商品について外国の国名や地名、国旗等を表示したり、あるいは、外国産の商品についてその原産国以外の国の国名や地名、国旗等を表示したりするなどして、商品の原産国について誤認させるような表示を付してはいけません。

(3)消費者信用 融資費用の表示義務

消費者信用の融資費用額等を表示するにあたっては、実質年率を明瞭に記載しなければいけません。なお、利息が年建てによる率で記載され、かつ、利息以外のすべての融資費用の内容およびその額または率が明瞭に記載されている場合は、除かれます。

(4)不動産のおとり広告禁止

不動産業者は、実際には取引することができない不動産や、実際には取引する意思がない不動産について表示する広告をしてはいけません。

(5)おとり広告に関する表示禁止

事業者は、
イ取引を行うための準備がなされていない商品の広告、
ロ数量が著しく限定されている商品について、その限定量を明示しない広告、ハ供給期間、供給の相手方または顧客一人あたりの供給量が限定されているにも拘らず、その限定の内容を明示していない広告、ニ実際には取引する意思がない商品等についての広告はできません。

(6)有料老人ホームに関する制限事項記載義務

有料老人ホームに関しては、イ土地または建物、ロ施設または設備、ハ居室の利用方法、ニ医療機関との協力関係、ホ介護サービス、ヘ介護職員等、ト管理費等に関し、制限事項があるのにそれが記載されていない場合や、表示の内容が明らかにされていない場合について規制しています。

2.違反行為には措置命令

景品表示法に違反する行為が行われている疑いがある場合、消費者庁は、関連資料の収集、事業者への事情聴取などの調査を実施します。
調査の結果、違反行為が認められると、消費者庁は、事業者に弁明の機会を付与した上で、違反行為の差止めなど必要に応じた「措置命令」を行います。

一般からの情報提供・職権による探知

4.法令遵守で消費者の信頼を獲得

本章では、主要な3つの法律を適切に理解したうえで、消費者トラブルを回避するポイントについて解説します。
今後、法律の理解を深めることにとどまらず、これらの留意点から対策を打っておく必要があります。

3.販売活動に関する留意点

断定的な判断や困惑行為は、法律で禁止されています。
下記の該当行為があった場合には、たとえ契約が成立したとしても、誤認や困惑行為があった事実をもって、消費者はその契約を取り消すことができます。
よって、訪問販売者に対し、このような行為が禁止行為である点を十分に周知することが必要です。

(1)断定的な説明回避

断定的な説明回避

(2)顧客の意思表示を察知

顧客の意思表示を察知

(3)契約時には書面交付を義務化

契約時には書面交付を義務化

4.商品表示に関する留意点

景品表示法は、景品類や商品等を利用した不当な勧誘を防止する趣旨であると述べましたが、具体的には、下記の項目が不当であると判断されますので注意が必要です。

優良誤認表示の例と有利誤認表示の例

まとめ

企業規模の大小を問わず、消費者とのトラブルは後を絶ちません。
また、消費者擁護の動きが高まるにつれ、法の整備が進んできています。
企業としては、消費者法についての知識を身につけ、問題の発生を未然に防ぐとともに、規制の対象となっていることに気付かずに販売活動を行うことのないよう留意する必要があります。

■参考文献
「消費者法のしくみ」(中央経済社)草道 倫武・廣田 智也 著
「消費者契約紛争ハンドブック第3版」(弘文堂) 山本 豊 監修・村 千鶴子・角田 真理子・圓山 茂夫 著

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