稲盛和夫の実践アメーバ経営 稲盛和夫 京セラコミュニケーションズ 著

経営者や一部の幹部、エリートだけで経営をしていくことには限界がある。
事業を伸ばすためには、すべての社員に経営に参加してもらい、全員の力を結集していくことが不可欠である。
「人の心」をベースとした経営するのは、京セラ創業の経緯が関係している。
人の心は移ろいやすいものだが、ひとたび強固な絆で結ばれれば、これほど頼りになるものはない。
仲間からは、心と心が結ばれた同志として支えてもらった。
資金も信用も実績もない京セラが成長発展を遂げることができたのは、そうした「人の心」をよりどころとしてきたからである。
会社とは経営者の個人的な夢を果たすためにあるのではなく、社員とその家族の生活を守り、皆の幸せを実現するために存在するのだという結論にいたった。
私は、技術者としての夢をあきらめ、社員の幸せのために会社を経営していこうときめたのである。
「全従業員の物心両面の幸福を追求する」という目的によって、すべての社員が京セラを「自分の会社」だと思い、自分の会社を立派にしていくために全力で仕事に打ち込んでくれるようになった。
「心をベースとした経営」と「経営理念」を実現するためにつくり出したのが、アメーバ経営である。
アメーバ経営を正常に機能させるためには、精緻な管理会計の仕組みだけでなく、その仕組みに合致した社内制度の構築も必要である。
何よりも経営哲学、フィロソフィを浸透させることが欠かせない。

第1章 哲学の共有が欠かせない

経営者と従業員が互いに相手のことをやさしく思いやる「家族のような関係」を会社のなかにつくれないかと考えた。
そうした労使関係を「大家族主義」と名づけて、それをベースに経営していこうと思った。
そのために、「企業経営者として、この会社をどのように経営していくのか」という考え方や哲学を確立し、それを共有することで同じ判断基準を持てるようにした。
経営者と従業員がお互いの気持ちを理解し、お互いがお互いのために尽くしてあげようと思う文化ができてくると、今度はさらに欲が出てくる。
自分と同じように経営責任を担ってくれる人(パートナー)がほしいと誰しも思うようになる。
会社の規模が拡大し、経営者や各部門の責任者が会社全体を管理することが不可能となったときでも、組織を小さなユニットに分けて独立採算にしておけば、そのリーダーが自分のユニットの状況を正しく把握できる。
小さなユニットでもその経営を任されることで、リーダーは「自分も経営者のひとりだ」という意識を持つようになる。
経営者としての責任感が生まれてくるので、業績を少しでもよくしようと努力する。
従業員として「してもらう」立場から、リーダーとして「してあげる」立場になる。この立場の変化こそ、経営者意識の始まりなのである。
会計の素養がない叩き上げの社員たちにも経営者として経営の一翼を担ってもらうために、私は誰にでもわかる損益計算書とつくりあげた。
それが「時間当り採算表」である。重要なことは、アメーバの経営を任されたリーダー、つまり経営責任を分担してくれるパートナーだけが採算表を見るわけではないということだ。
経営をガラス張りにして経営情報を包み隠さず知らせ、アメーバにいる従業員はもちろん、パート社員にまで現在の採算を理解してもらう。

第2章 日本航空を再建した全員参加経営
3つの大義-なぜ就任要請を受けたか

(1)日本経済への影響。
伸び悩む日本経済の象徴でもある日本航空が二次破綻すれば、経済に多大な影響を及ぼすだけでなく、日本国民までもが自信を失いかねない。
(2)日本航空に残された社員たちの雇用を守ること。

(3)国民、すなわち飛行機を利用する人たちの便宜をはかること。
日本航空が二次破綻すれば、国内の大手航空会社は1社だけになってしまう。
そうなれば、競争原理が働かなくなり運賃は高止まりし、サービスも悪化してしまう。
健全で構成な競争条件のもと複数の航空会社が切磋琢磨していくことで、利用者である国民に安価でよりよいサービスが提供できるはずだ。

5つの要因ーなぜ高収益企業に生まれ変われたか

(1)新たな経営理念の確立
「全従業員の物心両面の幸福を追求すること」を日本航空の企業としての目的(経営理念)を定め、社員に徹底して伝えていった。
この理念に対して、「社員の幸福を企業の第一の目的とするのは、公的支援を受けた企業にふさわしくない」という批判を受けたが、企業はそこに集う全社員の幸福のために存在するというのは私の揺るぎない信念である。
経営者が社員のことを何よりも大切に思い、全社員がやりがいと誇りを持って生き生きと働けるようにすれば、結果として実績もあがり、株主により多く報いることができるはずである。

(2)フィロソフィをベースとした意識改革
フィロソフィは表現ころ平易なものだが、物事の本質を射抜き、常に正しい判断に導くものであり、経営の在り方のみならず日常の仕事の進め方や人生全般に通じる「原理原則」と呼べるものである。

(3)アメーバ経営の導入
素地となる考え方が共有された後で私は、アメーバ経営を導入した。
路線・路便ごとにリアルタイムに採算がわかる仕組みをつくらなければ、全社全体の採算を向上させることはできないと考えた。
詳細な部門別の実績が翌月には出るようになり、全社員が自部門の実績を見て、少しでも採算をよくしようと懸命に取り組んでくれるようになった。
すべてのフライトの路線・路便ごろの採算が翌日にはわかるようになり、需要に応じて臨機応変に機材を変えたり、臨時便を飛ばしたりすることが現場の判断でできるようになっていった。

(4)「人のため、世のため」という思いの共有
「人のため、世のために役立つことをなすことが、人間として最高の行為である。」という私の人生観にもとづいて、第一に日本経済、第二に日本航空の社員の雇用、第三に日本国民の利便性のためという大義を掲げたことが、再建を成功に導いた。

(5)トップの無私の姿勢
再建にあたった私の姿勢が社員の心を揺り動かしたこともあった。
つまり、私が無給で会長職を引き受け、高齢でありながら全身全霊を傾けて再建に取り組む姿が有形無形の影響を社員に与えていった。
一般的に企業の盛衰を決めるのは、目に見える財務力や技術力、または経営者による企業戦略であると言われている。
それも大事なことだが、それ以上に大切なものは、目に見えない社員の意識であり、その集合体である組織風土や企業文化である。
ひとりひとりの社員の意識と心が変わり、その集合体としての組織風土が変わったことで業績が劇的に向上していった。

第3部 まつは機能ありき―組織づくりの要諦

1)アメーバ経営が目指す3つの目的
(1)全員参加経営の実現
(2)経営者意識を持つ人材の育成
(3)市場に直結した部門別採算制度の確立

2)4つの機能と役割
(1)営業……
「売上最大」を目指して受注・納品・代金回収までの一連の活動おこない、製造部門に生産案件をもたらし、事業を拡大する
(2)製造……
顧客が要求する品質と納期で製品やサービスを提供し、付加価値の最大化を目指す
(3)研究開発……
社会のニーズに合った新製品や新技術を開発し、新しい製品・サービス価値を製造部門に提供する。
また、新しい価値を創出して新市場をつくり出す
(4)管理……
経営理念や会社方針の浸透と管理ルールの設定・運用を通じて採算部門をサポートし、健全な企業経営を実現する。
なお、これら4つの機能はいずれも製造業の場合の表現なので、サービス業であれば、「製造」を「サービス」に、「研究開発」を「企画」に置き換えることができる。

第4章 採算管理でやる気を引き出す―運用ルールの構築 最も大きなねらいは、社員のやる気を引き出すことである。

会社組織とは突き詰めれば人の集まりであり、ひとりひとりの社員が自ら採算を意識して経営に参加すれば、より大きな組織力が発揮される。
そのためには、「売上最大、経費最小」に向けた取り組みの成果が各アメーバの実績としてタイムリーに反映されなければならない。
今日一日、一生懸命頑張った結果が次の日に分かれば、全社員が実績数字に関心を持つようになる。もうひとつ、重要なポイントは、社員の目標達成への思いだけを突出させてエゴや利己主義を増長させたり、特定の部門だけに都合のよい公正・公平さを欠いたりしたものであってはならないことである。

7つの会計原則
(1)一対一対応の原則
(2)ダブルチェックの原則
(3)完璧主義の原則
(4)筋肉質経営の原則
(5)採算向上の原則
(6)キャッシュベース経営の原則
(7)ガラス張り経営の原則
この7つの会計原則を徹底することで、社内の会計処理は公明正大かつ正確、迅速なものとなる。
現場の社員が「今日一日働いて、いくらの収入が得られたか」を把握できれば、「仕事には必ず対価として収入がある」という感覚を身につけ、常に採算を意識することが習慣化されていく。
そのためにもアメーバの採算は、わかりやすく、かつタイムリーに把握できるものでなければならない。
(1)受注生産方式
(2)在庫販売方式
(3)社内売買
(4)社内協力対価(社内売買の発展型) 経営を伸ばす。
であり経営の要諦である。
大事なことは経営者自身が繰り返し学ぶということである。
年度計画の策定:目標を達成するためのリーダーの5つの役割
(1)明確な目標を立て、達成できると心から信じる
経営はリーダーの意志で決まる。
(2)具体的・論理的な方法を検討し続ける
緻密なシミュレーションを何度も繰り返し、結果があたかも実際に起きたかのように鮮明にカラーで見えてくるまで考え抜くことが必要である。
(3)達成する方法を部下に示し、自信を持たせる
リーダーは、目標を達成するための方法を部下に示し、それができるという自信を部下たちに持たせなければならない。
(4)部下の意見を聞き、正しければ採用する
リーダーは、目標を達成するための方法について部下たちの意見を聞き、正しければそれを採用する。
こうして経営参画意識を持たせるのである。
(5)ど真剣に気を込めて日々採算をつくる
リーダーは、集団を目標達成に導くために日々採算をつくること、すなわち気を込めてど真剣に一日一日、採算を考えて実績を積み上げることに努めなければならない。
採算とは、リーダーの意志と行動の結果である。
リーダーには、日々損益を考えて経営にあたることが求められる。
トップダウンとボトムアップを調和させる。
各アメーバが「時間当り採算表」を用いて自部門のマスタープランをまとめ、それを順次、上位の組織に提出していくかたちをとる。最終的には経営トップと最上位組織のリーダーが各部門の目標の妥当性を検討するが、ここでも経営者が具体的な数値目標を一方的に指示することはない。
一度でも指示すれば、全員が納得できる目標にはならないからである。
人は与えられた目標より自ら立てた目標のほうを達成したいと強く思うものである。
アメーバ経営では、着実に目標を達成していくために「時間当り採算表」を用いた業績検討会(通称アメーバ経営会議)を開催する。
課題があれば出席者全員で徹底的に議論を重ね、その場で結論を出す。
自由闊達に議論できる場をつくり出し、会議での議論を通して部門を経営していくうえでの考え方や判断基準を全出席者が学べるようにしていくことが重要である。
そうすることで、マスタープランの達成につながるだけでなく、経営者意識を持つ人材が育つのである。
業績を伸ばすとどうしても油断や驕りが生じてしまう。
「リーダーが育ってきたら彼らに任せてもいいだろう」と思い、知らず知らずのうちに現場から遠ざかってしまったり、あるいは謙虚さを失い、心を高める努力を怠るようになってしまったりする。
経営者がそうした姿勢を取っていたら、社員をやる気にさせ続けることはできず、せっかく築き上げた全員参加の企業文化も崩れてしまう。
「謙虚にして驕らず、さらに努力をー現在は過去の努力の結果、将来は今後の努力で」と強く戒めている。
アメーバ経営の起点となるのは経営者自身の不断の哲学である。
これがアメーバ経営を正常に機能させ、ひいては企業を永続的に発展させていくのである。

稲盛和夫の実践アメーバ経営 稲盛和夫 京セラコミュニケーションズ 著 桐元が経営を学ぶために所属している盛和塾の稲盛和夫塾長とKCCSさんの最新の共著です。
アメーバ経営とは何か。
具体的な進め方について学べる入門的な1冊です。
また、もっと稲盛哲学を学びたいという方は、桐元までご連絡頂けると盛和塾・大阪で勉強会の体験受講も出来ますので、お気軽にお問い合わせください。

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