競争に勝つ歯科マーケティング 地域一番の歯科医院を目指す

1.競合が進む経営環境と求められる高品質サービス

1.歯科医院を取り巻く経営環境

いかに患者の心をつかみ、自院を選択してもらうか。競合が激化する歯科医院においてマーケティングは非常に重要なテーマです。歯科医院のマーケティング活動を理解するためには、外部環境の変化を知り、将来の方向性を明確にした上で、その地域と患者の特性を把握することがポイントとなります。

(1)患者数・診療所数・受療率の変化

(1)患者数と診療所数の変化

患者数は安定的に推移しています。
過去の推移をみると、平成8年(1996年)は130万人でしたが平成14年(2002年)には115万人に減少しました。
その後、平成17年(2005年)に128万人と増加に転じ、平成20年(2008年)には130万人まで回復しています。
それに対し、診療所数は増加し続けており、平成2年には5万2千件だったのが、平成20年には6万7千件にもなっています。
こうした状況から1件当たりの患者数が減っているのは明白です。

外来患者数と診療所数の推移

(2)受療率の変化

歯科疾患の受療率は、平成8年から平成14年にかけて減少しましたが、平成17年以降は回復しています。
疾患別では、う蝕は横ばい、歯肉炎・歯周疾患と歯の補てつが増加しています。
一方、歯および支持組織の障害は減少しています。

外来受療率

(2)予防歯科の普及

虫歯や歯周病で治療が終わった患者は、二度と虫歯や歯周病になりたくないと思っています。
そのため予防歯科の普及が進んでおり、治療が従で、予防が主となっている医院も増加しています。

ポイント

(3)滅菌、清潔管理が重要視

病院における院内感染などの報道や、一部の週刊誌などでの歯科医院での感染リスク記事などから、近年では歯科医院での滅菌清潔管理に対する患者の視線が厳しくなっています。
肝炎やHIVの交差感染リスクなど、歯科医療としての感染防止だけでなく、スリッパの消毒やエプロンのディスポ化などへの関心も高まっています。

ポイント

(4)価格競争の激化と矯正歯科の進出

歯科の自費治療では、激しい価格競争が起きています。
特にインプラントは急速に普及しましたが、価格低下が進み40万円~50万円だった価格が25万円から35万円が相場となってきました。
10万5千円という激安医院も出現しています。
また、一般歯科医院による矯正への進出も増加しており、その結果、矯正治療においても競争が激化し、価格破壊が進んでいます。
一般矯正は60万円~80万円が普通でしたが、 最近は35万円程度の医院も出てきました。

ポイント

2.歯科医院の二極化

(1)二極化を生む要因

歯科医院の二極化が進んでいます。
歯科医師を複数抱え、日曜診療や夜間診療を積極的に展開しながら、常に最新医療機器を導入している中規模歯科医院と、院長が一人で診療を行なっている医院に売上格差が生まれています。
集患力の高い中有規模医院は、建物のリニューアルや最新医療機器の導入を地域に先駆けて導入することにより、更に患者を集め売上を伸ばし、結果として、ますます格差が拡大するという状況を生み出しています。

(2)異なる装備や診療提供体制

中規模歯科医院との比較を下記に行いました。
中規模医院は、常に高度な診療体制が求められ、一方、小規模歯科医院では、戦略的な魅力のアップが必要となります。

異なる装備や診療提供体制

2.歯科医院に必要なマーケティング

1.医療サービス戦略のポイント

患者が歯科医院を敬遠する理由の一つに、過去に痛い、恐いなどの経験をしたことが挙げられます。
増患対策には、その潜在意識に埋もれた記憶を一新する必要があります。

ポイント

(1)患者離れの要因を理解する

医院での患者離れの要因を整理すると以下の要因が考えられます。
これらの要因に該当する項目がないかチェックを行うとともに、該当項目は早期に解決し、患者離反を止めなければいけません。さらに、患者満足度を向上させる取り組みを行う必要があります。

患者離れの要因を理解する

(2)患者満足度運動を展開する

一般的に20%の患者が、80%の利益をもたらすと言われています。
つまり、20%の再診 継続患者が「患者」と言えるのです。
この「患者」を以下に満足させるかがポイントとな ります。

本質機能と表層機能

3.増患対策の方向性

(1)年齢層を考える

不況の影響により、歯科医院では低所得層を中心にさらに患者が減少する可能性があります。
そのため、少しでも他の歯科医院より選ばれる工夫が重要です。
患者の年齢構成では50歳代、60歳代、70歳代が過半数を占めます。
つまり、中高年の利便性を高め、彼らに支持される医療サービスを提供する方向での増患対策が重要になると考えられます。

(2)予防歯科の充実

予防歯科は、患者の口腔内の状態を良好に保てるだけでなく、患者を継続的に来院させ、他の歯科医院に行く気持ちにさせない効果があります。また、技工料や材料費が不要なので、一定の収益安定効果があります。
不況により来院患者の減少が見込まれるなかで、継続的に来院していただける患者を確保することは重要です。そのために、患者に予防歯科の経済性や健康への効果を分かりやすく説明する工夫が必要です。
既に首都圏では、保険での検診に加えて、自費でのPMTCを行う歯科医院が増えており、今後地方でも広がっていくと考えられます。

(3)高齢化に向けた歯科医療への取り組み

高齢化の進行に向けた歯科医療への取り組みを強化する必要があります。
土足化や手すりの設置など、バリアフリー化、訪問歯科医療の開始、通院困難な高齢者の送迎サービスなど、初診患者を増やし、継続的に患者を診療できるように取り組みます。
※在宅療養支援歯科診療所の施設基準を満たしておく必要があります。

(4)医療サービスメニューの充実

インプラントや、ジルコニアなどを使った新しい審美歯科や、入れ歯であることが気づかれにくい義歯など、患者に選ばれやすいメニューをそろえ、多様化する患者選択肢に対応する必要があります。
インターネットで調査した時に、患者ニーズのあった診療メニューが無ければ、患者は別の歯科医院に行ってしまいます。
患者の目に留まるメニューの数と価格をそろえておきましょう。

3.医療サービス展開のポイント

1.本質機能の高さを訴求する

歯科医院において、医療サービスを始める前に、基本の経営理念と診療方針を明確にしなければいけません。
医院の経営理念・診療方針は、スタッフだけでなく患者にも明確にする必要があります。
「診療のしおり」「院内報」「ホームページ」「待合室」に表現することをお勧めします。

本質機能のアピール事例

2.診療メニューを充実させるポイント

保険治療に加えて、自費治療のメニューをそろえておきます。
歯科医院でも、インターネットで様々な歯科医療を比較してから来院する患者が増えています。
この時、希望する治療メニューが無ければ他医院へ行ってしまいます。
メニューが有れば来院してもらえ、自院が得意とする方法を選択してもらう事も可能となります。

(1)インプラントメニューの充実

インプラント市場は成熟化してきましたが、まだまだ市場開拓の余地はあります。
インプラントは隣在歯を削らないほか、荷重をインプラントで支えるため、ブリッジや部分義歯のように隣在歯が次々に抜けることはなく、結果的に最も多く自分の歯を残せる治療で あることをアピールすることが重要です。

インプラントメニューの充実

(2)審美歯科メニューの充実

審美歯科メニュー充実のポイントは下記のとおりです。
アピールポイントを整理して、患者に説明を行うことが必要です。

審美歯科メニューの充実

■矯正治療メニューの充実

患者の関心が高い下記の治療メニューを用意しておきます。
そして在来の矯正手法が得意であれば、下記の治療の価格を高めに設定し、在来手法を安価に設定するなどして患者に選ばせます。
そうすることで、患者自身が選択することができ、満足度も高まります。

矯正治療メニューの充実

4.新規患者獲得のポイント

1.チャネル戦略の構築

チャネルとは、マーケティング用語で商品が消費者に供給される場所を設定するための販売経路のことを言います。
歯科医院の場合は、来院するための道筋、つまり紹介先をいかに確保するかということになります。

(1)来院ルートを確保するポイント

患者を増やすためには、多くの紹介ルートを確保することです。
そのためには、下記の取り組みが必要です。

来院ルートを確保するポイント

2.関係性マーケティング戦略のポイント

(1)積極的理由を作り込む

女性は単に伸びた髪を切るだけでなく、気分を変えたり、おしゃれになるために美容院に行きます。これを積極的理由といいます。
これに対し、歯科医院への来院動機は、「歯が痛い」、「詰め物が取れた」など、やむを得ず行く場合が多く、これを消極的理由といいます。
患者に自院を好きになってもらい積極的に来院してもらうためには、患者とスタッフが直接接する、インタラクティブ・マーケティングを磨く必要があります。

インタラクティブ・マーケティング例

(2)気配りで患者を囲い込む

ちょっとした気配りで患者は医院を好きになってくれ、次回も自院を選んでくれます。
具体例を下記に整理しました。

(3)第一印象を磨く

第一印象は2秒で形成されます。
そして続く4分間で完全に評価が固まってしまいます。
これを心理学では、「初頭効果」といいます。
一度付いた第一印象を払しょくするのは、非常に大変な労力が必要です。
第一印象を良いものにするのが、その後のイメージを良くする重要なポイントです。

第一印象の構成比率(メラビアンの法則)
接遇研修で学ぶ項目は、この第一印象を良くするためにも重要な訓練です。

(4)スタッフの基礎能力向上

患者は、白衣を着ている人はみんなプロに見えています。
未経験や入職して3ヶ月目ということは、患者にとっては関係ないことです。
歯科医療の基本的な質問には、全員が応えられるようにしておくことが求められます。

基礎能力向上

歯科セミナー 「歯科医院成功の法則 最強のマーケティング」
<講師 株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村泰久>より 一部抜粋・編集

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