永守流 経営とお金の原則 永守 重信 著

まえがき

他にはない技術や高い志、それを実現するためのハードワークなどが必要なのはもちろんだが、何よりお金まわりの戦略、財務の戦略が不可欠である。
その核心は「絶対に会社をつぶさないための財務戦略」であり、「会社を成長に導く土台となる財務戦略」である。
緻密で揺るぎない財務の戦略、原則があってこそ、企業は成長できる。

 

序 章 お金の戦略が必要だ

創業5年~10年くらいまでの間は、何よりバランスシートの数字をソラで言えることが大切だ。
「最後にカギを握るのはキャッシュ(現金)」というのが財務の原則である。
ベンチャー企業にとっての最大の落とし穴は「技術過信」である。
銀行は技術に対してお金を貸すのではない。
その技術によって生み出す商品の可能性に対して貸すのだ。
市場に受け入れられない技術、商品には価値はないのである。
最初のうちは新たな開発よりも販売に重点をおくのが望ましいだろう。
マーケティングには資金の回収まで含まれている。
絶対に数字の裏付けがなければ通用しないのである。
計数感覚を発揮して将来ビジョンをはっきり描けなければいけない。
物事をすべて計数でとらえる、あるいは表していくことが大切である。
説得というのは、相手の立場に立って、相手の理解できる方法でしなければいけない。
いくら意欲があても、製品がよくてもきちんとした財務戦略がなければ会社はつぶれるのである。
私の言葉でいうならば「そろばんを持たない経営者」にはなってはいけない。

 

第1章 キャッシュこそ企業価値の源泉

売り上げより利益、利益よりキャッシュというのが財務の基本であり、経営の原点である。
もちろん売り上げがなければ、利益もキャッシュもないわけであるが、売上高を増やすことばかり考えていると、成長ではなく膨張になってしまう。
原価は自分たちの努力によって下げられる。
自分たちだけで決められる原価をいかに安くするか。
これが利益を出し、キャッシュを確保するためのカギになる。
「赤字は罪」成功導く永守3大経営手法
①井戸掘り経営 たくさん掘るほど、新しいアイディアが出てくる。
②家計簿経営
③千切り経営 人間の知恵は無限大だ。千切りのように小さく刻んでいけば、必ず解決策が見つかるだろう。

 

第2章 会社を成功へ導く財務戦略

創業期は自己資本比率にこだわるな。
ベンチャー企業の優先命題はなんといっても「成長すること」である。
成長を目指すには将来への布石を先手、先手で打っていかねばならない。
創業5年間くらいは財務の健全性を示す指標にこだわるより、成長を優先する構えが大切だろう。
創業後は5年おきぐらいに、どの財務指標を重視していくか基本方針を決めておくのが望ましいだろう。

【会社を強く健全にするための永守流の3つの極意】
①「ハンズオン」は、経営者や管理職層が実際に現場に行ってやってみせることである。
②「マイクロマネジメント」徹底して細かいチェックをすること。
M&Aで傘下に収めた赤字企業を再建する際の「1円稟議」などもこれにあたる。
③「任せて任さず」は、現場や部下に権限を持たせても、完全に任せきりにはせず、きちんと管理するということ。
極端なことを言えば、経営者はキャッシュだけをしっかり見ておけばよい。
キャッシュの動きを見ながらマイクロマネジメントをする。
細かい事業単位ごとに管理をするわけだ。その仕組みを早いうちに構築することである。

【CFOの役割】
①リスクを事前に把握し、その対応に知恵を出す。
そして結果に対して、CEOとともに数値責任を負う。
②売り上げに対して健全な利益がついてくるかどうかの検証や、CCCの改善のための具体的な行動を主導する。
③M&Aをはじめとする将来の中長期戦略を厳しく見据えた全社行動指針をCEOとともに立案し、実行していく。
④持ち得る資金を有効に活用し、健全な成長が加速できるように主導していく。
⑤投資家や銀行、格付け機関などに対して説明責任を果たす。

 

第3章 創業期の資金の集め方

創業してまもない企業が、まとまった資金を借り入れるのは簡単ではない。
創業期に直面する資金面での苦労をどう乗り越えていくか。
これが成功の最初のカギになる。
「借りにくいところから借りろ」というのが鉄則である。
何より借りにくいところほどコスト、つまり金利が安いからである。
借りにくいところからお金を借りるには、きちんと相手を説得する材料が不可欠である。
「今お金を貸せば、将来、大変な収益になる」と納得してもらわなければならない。

 

第4章 金融機関とどう付き合うか

金融パーソンの5つのタイプを知る。
① 「金貸しタイプ」
② 「失敗恐怖症タイプ」
③ 「サラリーマンタイプ」
④ 「ギブ&テイク型」
⑤ 「使命感型」
ベンチャー企業の経営者にとって理想の金融パーソン像は使命感型。
残念なことにこうした人は極めて少なく、第4の「ギブ&テイク型」で、わずかなりとも使命感を持っているような金融パーソンと付き合っていくことが理想ということになろう。

 

第5章 取引先を見極める方法

何事も先手必勝、である。特に朝のスタートが早く、「朝勝ち」ができるかどうかは、会社の競争力、信用力を左右すると私は考えている。
相手の会社がどういう売り先に商品をうっているのか。
それをチェックすることも重要である。いくら商品が多く売れていても、その売り先がつぶれてしまえば、こちらにまでその余波が及んでくる。
連鎖的な倒産ということがあり得ると念頭におく必要がある。
つぶれた企業を見て、なぜその企業が敗退したのかを研究することの方が、より大切なのではなかろうか。
なぜその企業がつぶれたのかをじっくり考えてみると、個々のケースによって直接的な原因は異なるだろうが、共通した症状があることが分かる。

 

第6章 チャレンジと財務バランス

会社経営は何より「原理原則」が大事なのである。
一方で成長を続けるためには、変化を恐れないことだ。
どんな事業にもピークアウトがある。
これを最大のリスクと考える嗅覚が経営者には欠かせない。
創業以来ずっと「足元悲観、将来楽観」という考え方を基本にしてきた。
これは「このままだったら危ない。えらいことになるぞ」と今を悲観している限り将来は明るい、という考え方だ。
「今は調子がいいから、このままで行こう」と思っていたら、決して明るい未来は訪れないだろう。市場はさらによいものを求め、技術はどんどん向上する。
競合他社に勝つためにすべきとは顧客志向の徹底、具体的には「絶対にノーと言わないこと」「可能な限り納期を短縮すること」「得意先を頻繁に訪問すること」の3つ。
これを徹底することで突破口を開いていった。

 

第7章 いざ株式上場 規律の中で鍛える

決算説明会で「先行きは不透明」という言葉を使って説明することを禁じてきた。
確かに先行きは誰にも分らない。常に不透明なのである。
その中でもきちんとした見通しを持ち、戦略を立てなければならない。
それが経営者の役割である。経営者は世の中の大きな流れをくみとり、それを経営に生かしていくことが求められる。
幅広い視野と長期の視点。
それに基づいて的確な決断ができるかどうか。

 

第8章 M&Aをどう活用するか

M&Aほどリスクが高い投資はない。
成功の3条件
① 高い価格で買わない。絶対に高い価格で買ってはいけない。
重視するのはEBITDA倍率という指標だ。
買収額がEBITDAの10倍を超えるものには手を出さないと決めている。
②会社のポリシー。
日本電産のポリシーに合わない会社を買ってもうまくいかない。
③シナジー。
技術や顧客網などが相乗効果を示して収益を高められるかどうか。
この3つがそろわないと成功は難しいだろう。
我が社のM&Aは城の石垣に例えられる。
大きな石を積み上げるだけでなく、間に詰める小さな石も大事にしているのである。
詰め物に相当する企業を買わずに、大きな石を載せるだけだと、収益はなかなか上がらない。
小規模ながら得意な技術やマーケットを持った会社を買うことで、将来はシナジー効果を発揮して、グループの収益に大きな貢献をしてくれる。
経営者がM&Aを手掛けようと考えるなら、それによってどういう企業グループにしたいか、まずそれを思い描くことだ。
ジグソーパズルでいうなら完成図が頭の中にないといけない。
不要なピースを買っても意味はない。

 

第9章 海外展開は飛躍のチャンス

為替の予約はいっさいしない。
円高への対応が社内に緊張感をもたらすという効用もある。
我が社の場合も、円高のたびにコスト削減を徹底し、収益体質を強くしてきた。
予約をしていると社員が危機感を抱かず、真剣に原価改善などに取り組まなくなる可能性もある。
私が今最も警戒しているのは、やはり政治のリスクである。
2021年現在、アジアの主要国・地域で進出していないのはミャンマー、ラオス、北朝鮮の3か国だ。
そして海外進出に伴うリスクを避ける有効な方法は、やはり地域の分散である。
決して生産拠点を1か所に集中させたりしないことだ。
日本電産が世界中に拠点をおいているのも、そうした狙いが大きい。
分散というのは平時には効率が悪いが、いざというときに助けになる。
海外展開でも同様である。
リスク対応についてさらに見直す必要もある。
2020年春、世界的に新型コロナウィルスの感染症が拡がり、国境をまたいだ部品のサプライチェーン(供給網)が分断された。
グローバル化の限界という声もあったが、むしろ逆だろう。
部品の供給体制も含めて、さらなるリスク分散を考えるべきである。

 

第10章 波乱の時代をどう乗り切るか

会社が成長するカギを握るのは、一人の天才ではなく、凡才たちの絆だと考えている。
例えば100人の社員がいたとする。
そのうちの一人が非常に優れていても、みんなとの絆を乱す社員であれば、一人で仕事をする職場に行ってもらうだろう。
一人ひとりが危機感と緊張感をもって自らの能力を磨き、そのうえで全社員が一致団結できたとき、その組織は勝てる集団になる。
そして、荒波を乗り越えていくにはグループ一体となった経営がますます重要になる。
個別最適な連邦経営ではなく、グループの全体最適を徹底しなければならない。

 

経営者のための10カ条
① ベンチャー経営者の資質と鍛えよう
② 何でもするという覚悟を
③ スペシャルマーケットを狙え
④ 技術だけで会社は伸びない
⑤ 基本方針は常に反芻・確認する
⑥ 創業後5年間の財務戦略は安全第一
⑦ 社員に数字感覚を植え付ける
⑧ よきハンターはよき調教師たれ
⑨ コスト意識を社内に徹底させる
⑩ 経営者としての倫理を守る

 

今月この本を選んだのは、私が永守重信さんが好きだからです。
1代で日本電産をここまで大きく育てられた永守さんの経営者として学んでおくべき項目が整理されているのでお勧めします。
私自身も外部CFOとして如何にお客様に貢献すべきかという点でとても参考になりました。
また政治リスクを今年の1月の時点で指摘されている点も凄いと思いました。
ウクライナ進行というピンポイントではなくても、政治リスクを感じる嗅覚が凄いと思いました。
お勧め度:☆☆☆☆ 星4つ
(桐元 久佳)

永守流 経営とお金の原則 永守 重信 著