はじめに
「誤解1」クリエイティブな一部の“天才”が、素晴らしいひらめきで名案を出し、それをやりぬいている。
→リクルートは、天才ではない多くの「普通の社員」からの必ずしも名案ではないアイデアを集め、それを「名案」に磨き上げるための手法としつこさを持っているのにすぎない。
「誤解2」消費者マーケティングや派手なプロモーション、圧倒的な営業力によって、新規事業を成長させている。
→すべての部署やプロセスにおいて、緻密に練り上げられた手法によって、総合的かつスピード感を持って事業を育てているのがわかる。
「誤解3」新規事業すべてが、確実に成功している
→リクルートは数多くの新規事業を世に出している一方で、実は失敗も多数ある。
「これは失敗である」と判断する基準を明確に持っている。
生まれた事業をスケールさせる「1→10」の段階にある。
つまり多くの企業とは違い、0から1を生み出すことだけに価値を見出していないのだ。
そもそも事業の目的を、単に自社の売上や利益を追求するためのものにとどめないところにある。
リクルートにとっての「事業」とは、リクルートを取り巻くさまざまなステークホルダーが抱える不満や不安を解消するためのもの。
リボンモデルは、その全体像を捉えて、時には業界構造を変えながら人々の不満や不安を解消し、継続的な成長を実現するためのフレームワークだ。
序章 なぜ、あなたの会社の新規事業はうまくいかないのか
企業を悩ます「5の症状」
【症状1】PDSサイクルの「P」に時間をかけすぎる
新規事業については、時間をかけすぎることの弊害は大きい。新規事業の成功には「数」と「スピード」が不可欠だからだ。
乾坤一擲で数少ない案件について時間をかけて立案するのではなく、できるだけ多くのアイデアを市場に出し、トライ&エラーで磨き込み、その中から選別するというやり方を取らないと、あっという間にビジネスとしての成長のタイミングを逃してしまう。
【症状2】計画が変えられない
テストマーケティングは、何が事業化の壁になるかを探し出し、どのように変えればその壁が克服できるかをテストし、試す機会だ。
新規事業開発において、計画を柔軟に軌道修正できないことは、時に致命的だ。
【症状3】時間をかけて計画を立てる割に、ツメが甘い
誰もがうまくいっていないことを認めながら惰性で続くことがある。ビジネス上の損失を生むだけでなく、携わる社員のモチベーションもそぐことになる。
【症状4】当事者も、経営陣も本気でない
上がったアイデアをブラッシュアップする、新規事業を創出できる人材を育てる、という発想がないのだ。
一番試されるのは、経営陣や当事者の「本気度」である。
【症状5】うまくいかなくなったとき、撤退の決断ができない
どのように状態になったときに撤退するのか、誰がその判断をするのか、あらかじめ決めておかないと、うまくいっていない事業をずるずると続けてさらに傷を大きくしてしまいかねない。

第1章 ステージ1「0→1」―-「不」を発見し、事業性を見極める
リクルートにおける「不」とは、「不便」「不満」「不安」など、あらゆるネガティブな概念の象徴。
消費者、企業・事業者、産業や社会などに、大きな「不」が存在するのれあれば、それを解消するためのイノベーションが求められ、その実現にはビジネスチャンスがあるという発想だ。
ニーズは、言葉通り、お客様が求めているもの。一方の「不」には、それだけでなく、リクルートが考える、あるべき社会の姿が反映されている。
「不」を見極める3つの条件
1)見過ごしがちだが誰も目をつけていなかった「不」かどうか
2)その「不」は、本当に世の中が解決を求めているものなのか。既存の産業構造を変えるほどの、大きな可能性を秘めているのか。
3)その「不」を解消することが、収益につながるかどうか。
メソッド① 「不の発見」
・あるべき社会の実現につながる、潜在的な「不」を探す
・「不」を生んでいる産業構造の暗黙のルールを突きとめる
・「不」を解決するための、新たなお金の流れを見つけ出す
メソッド② 「テストマーケティング」
・本当に人の心を動かす事業アイデアなのか検証する
・顧客がお金を払ってでも解決したい課題なのかを検証する
・検証を段階的に設計し、規模を拡大しながら次へ進める
メソッド③ New RING(インキュベーション)
・ボトムアップによる新規事業の起案を称賛する
・アイデアを事業へとブラッシュアップし、軌道に乗せる
・起案者の「志」を尊重し、実現への覚悟を問い続ける
New RINGの最初の審査で問われるのは、おおまかに「市場規模」「ユニークかどうか」「志」の3点だ。
第2章 ステージ2「1→10」その①―-勝ち筋を見つける
メソッド④ マネタイズ設計
・誰が、なぜ、いくらで、どの予算で、買ってくれるかを突きとめる
・ユーザーの行動、顧客の売上、自社の活動を方程式でつなぎ込む
・市場を継続的に成長させることができる、お金の流れを作り出す
マネタイズ設計の3つのポイント
1)クライアントが明確であること
「そのサービスに対して誰がお金を払ってくれるのかが、明確であることだ。
2)「お財布」までが見えていること
「誰がお金を出すか」だけでなく、「誰が、どのお財布からお金を出すか」まで突き詰める。
リクルートの場合は、フィジビリの段階で、こうした条件についても詳細に探索する。
つまり、営業担当者は企業に対し、社内の予算の組み方や意思決定の方法まで、じっくりとヒアリングを行う。
3)利益を生むオペレーションモデルが確立できること
コスト優位性のあるオペレーションを継続的に行える仕組みができることだ。
「コスト優位性」と「継続性」がポイントだ。
売上だけでなく、コストも細かく詰めるし、組織体制や人繰りの回し方なども含めて検証する。
メソッド⑤ 価値KPI
・事業の価値を上げるカギとなる指標を、顧客の評価から探し出す
・価値KPIへの因果関係の高い、実際の行動を探り出す
・全員での高速なPDSによって、指標と行動の仮説を変更し続ける
本格的な事業化を行う前に、限定的な市場・規模にサービスを出し、実際の顧客から評価を受けながらサービスの内容やオペレーションをブラッシュアップしていく。
価値KPIを探し出せない限りは、フィジビリを完了できないとされている。
何を磨けば、リボンの左右両端から中央の結び目に向かってステークホルダーが動くのかを見定めるものだ。
メソッド⑥ ぐるぐる図
・現場からの市場変化の兆しを経営へとつなぎ、縦の知恵を回す
・異なる役割の人材が並行して洞察を加え合い、横の知恵を回す
・現場に勝ち筋への兆しがなければ、潔く撤退の決断を下す
リクルートでは、0から1になったところで売却するという選択はない。
「社会を変え、不を解決する」という社員の大きな志に基づいて、中長期的に事業として実現することが基本だからだ。
だからこそ、「勝ち筋」が見つかるまで、しつこくフィジビリを行うし、勝ち筋が見つかりそうな兆しがなければ、遠慮なく見切る。
リクルートでは、数多くの新規事業が立ち上がるが、数多くが撤退する。多くの撤退事例については、撤退後もその過程が詳細に記録され、一部は事例化されて研修の教材に使われたりしえいるほどだ。
「転んでもタダでは起きない」
第3章 ステージ3「1→10」その②―-爆発的な拡大再生産
メソッド⑦ 価値マネ
・KPIによって目標の優先順位を絞り込み、意識と行動を集中させる
・PDSを日常の活動に組み込み、「なぜ」をマネジメントする
・価値マネの結果を、現場の「型化」と、サービスの「改善」に活かす
価値は、自然に「生まれる」ものではなく、意識的に「生み出す」ものだという信念の表れだ。
価値を能動的かつ積極的にマネージし、最大化、最適化を図るという強い意識が根底にある。
メソッド⑧ 型化とナレッジ共有
・成功事例を生み出した行動を分析し、「型化」して組織へ横展開する
・「型」は活用例を共有することで理解を深め、一気に全体展開する
・「型」は均一化が目的ではなく、「型」を超えた次への挑戦につなぐ
メソッド⑨ 小さなS字を積み重ねる
・現場の情報からいち早く、成長の減速を捉え、次の一手へ進める
・改善をスピーディーに試し続け、大きな変革の「てこ」をみつける
・できない理由を突き詰めることから、できるための資源を考える
ビジネスの成長は、まっすぐな線を描いて伸びていくわけではない。
アルファベットの「S」を斜めに倒したような「S字カーブ」を複数重ねないと、成長は続かない。S字が1つであれば、そこで成長は止まってしまう。S字を次々と生み出し続ける必要があるのだ。S字カーブは、すべて過ぎ去ってから過去を振り返り、初めて「S字だった」とわかるものなので、その渦中にあると今がどの状態にあるかはわからない。
一番危険なのは、S字カーブの最終段階、伸びがゆるやかになって限界点に達しようとしているときだ。伸びが減速している予兆を素早くつかみ、次の一手を打って新たなS字を生み出さないと、下降の一途をたどってしまう。
アクセルを踏み込んでいるのに成長スピードが上がらない、その兆しをつかむうえでも、縦ぐるぐると横ぐるぐるが威力を発揮する。
第4章 10を超えて、さらに飛躍するために
成功した事業であればあるほど、慢心の罠に陥りやすいし、減衰の兆しをつかむことを怠りがちだ・。事業立ち上げや成長期と同じ緻密さや情熱を持って、成長を維持し、さらなる成長を目指すことが難しいことは、過去に多くの企業が証明している。
コストや品質を犠牲にせず、むしろ向上させながら、いかにスピードを上げるかが、競争優位性の源泉となっている。
時間的な優位性によりビジネスの優位性を獲得しようとする、タイムベース競争だ。タイムベース競争とは、コストと品質という2軸の競争の世界に、「時間」すなわちスピードという3軸目を加える考え方だ。
「他を圧倒するスピード」という組織能力における優位性を築くことで、企業の競争力を各段に引き上げるという視点だ。
顧客企業のビジネスプロセスに深く入り込み、ビジネスモデルを進化させるところにまで、提供価値を大きく広げていると言える。
第5章 経営陣の役割――「リクルートモデル」を活かすために
1)人を活かす――リボンモデルを刷り込み、自主性を解放させる仕組み
アジャイルな組織を実現するためには、
①Alignment(一致団結)・・・目指す方向性や働き方が明確になっている。
②Autonomy(自律)・・・従業員が高い自由度を持つ
の2つのマネジメントが欠かせない。
リクルートにおいて、①のAlignmentのベースとなるのが、「リボンモデル」だ。
すべてのビジネスモデルは、この「リボンモデル」をベースに議論されていると言っても過言ではない。
このリボンモデルは、会議のとき、日常のちょっとした議論においてもホワイトボードに描かれるぐらい、思考のベースとして浸透している。
個の尊重=自由放任とは違う
「お前はどうしたい?」―-リクルート社内で非常によく耳にするのがこの質問だ。
悩んでいても迷っていても、ひたすら「お前はどうしたい?」に答えることを求められる。
この問いかけの背景には、「個の尊重」という文化がある。
アジャイル組織を実現するための要素その②「Autonomy(自律)」が、文化として定着しているのだ。
そして、「お前はどうしたい?」という投げかけに答え続けるうち、ある瞬間にすっと本質が見えてきて、思考のレベルが上がり、視野が一段高くなったような感覚を得る。
「抑圧からの解放」である。
また、「お前はどうしたい?」に答え続けることで、社員の誰もが今抱えている仕事に対する強烈な愛着や、「社会の不を解消する」というミッションに対する強い使命感を抱くようになる。
2)若さを保つ――ナレッジを生み出し、競わせ、称賛する
成功事例から抽出したエッセンスを伝播する文化と仕組みがあるからこそ、短期間のフィジビリの中でも、PDSがスピーディーに回せるし、素早く型化が行える。
3)器をそろえる――将来必要な組織能力を先読みし、内に取り込む
事業環境を詳細に分析し、将来必要になると予想される組織的ケイパビリティをブラッシュアップし、組織的な器をそろえるということである。
終章 新規事業を育てる企業風土
挑戦を称え、変革を尊ぶ人材が本当に必要だ、そういう組織をつくるのだと皆が腹の底から思わない限り、実現はしない。
「リクルートはコミュニケーションに膨大なコストをかける会社です」と、リクルートホールディングス峰岸真澄社長は語っている(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー2015年5月号より)。
「何が自分たちの強みであり、目指すものなのか」を、手間を惜しまず常に共有しておくことが、変化の時代に迷わないための道しるべになってくれるのだ。
今月はこの本を選んだのは、中尾塾という勉強会の推薦書だったからです。
中尾隆一郎さんは、スーモカウンター推進室室長時代に6年間で売り上げを30倍、店舗数12倍、従業員数を5倍にした立役者の方なのです。
その事例も本書では、紹介されています。
また40代以上の方には、ご記憶にあるホットペッパーの事例もこの9メソッドにそって紹介されています。
リクルートの規模ではなくても、事業を伸ばすヒントが盛りだくさんと思います。
ご一読お勧めします!
お勧め度:☆☆☆☆☆ 星5つ
(桐元 久佳)



