最強企業のメカニズム キーエンス解剖 西岡 杏 著

はじめに

キーエンスが経営理念のトップに掲げるのは「会社を永続させる」。
本社ビルのモチーフを「千年」の鶴にしたのと同じように、永続企業でありたいという決意を、ビルの内部からも発信し続けているわけだ。
経営理念のもう一つである「最小の資本と人で最大の付加価値を上げる」を地でいっている。

 

第1章 顧客を驚かせる会社

「他にお困りの方はいませんか?」いつもの習慣で去り際に尋ねる。

「ウェブサイトから商品カタログをダウンロードした1時間後に、突然電話がかかってきた」と打ち明ける。
キーエンスに「待ち」の姿勢はない。顧客の興味の兆しが見えた途端にアプローチし自らのペースに巻き込んでいく。
何気なく人事異動や投資計画を聞き出そうとするその様子を、ライバルは嫉妬心も込めて「産業スパイのようだ」と表現する。購買や投資判断に関わるキーパーソンの動向を把握することだ。

キーエンスでは、情報を可視化して共有するのが当り前。
顧客に「依存心」すら抱かせてしまうキーエンスは、じわりじわりと勢力を拡大している。

多くの製造現場では、複雑な装置を作業者が使いこなせず、宝の持ち腐れになっている。
「調整が難しい器械は、次第に敬遠されるようになる。」米アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏が「人は形にしてみせてもらうまで自分は何が欲しいか分からない」と喝破したのと通じる。

キーエンスは仕組みとそれをやり切る風土がすごい。属人的な意欲や能力に頼ることなく顧客に与える価値を最大化できるように仕組みを整備し、社員はその仕組みに合わせて正しい行動をやり切る。それがキーエンスの強さの根源であり、人材育成の要諦でもある。

 

第2章 営業部隊が「先回り」できるわけ

キーエンスは、商品の知識を持った自社の営業担当者が自ら顧客に売り込む“直販”型で販売する。
ロープレを実施するのは、新製品発表前などの特別なタイミングだけではない。
10~15分ほどで手短に、だが毎日のように繰り返すのが、キーエンス流。
まるで歯を磨くように、当たり前にやる。
ここで重要なのが「デモ」だ。兼田氏はコンタクトレンズケースなど身近なものを使いながら、レーザーセンサーの特徴を一目で分かるように解説していく。
百聞は一見にしかず。カタログスペックを解説するよりも、直接見せてしまった方が話は早い。
キーエンスは顧客の前でどれだけデモを見せたかの回数もKPI(重要業績評価指標)として記録している。

キーエンスのロープレには「台本」がある。こういう風にしゃべったらいい、と示したシナリオだ。
つくるのは販売促進部門。それを基に、営業担当者はまず「型」を学ぶ。
そのうえで、相手の属性や人によって内容を変える応用編も覚えていくという。

営業担当者は商談の前と後に、必ず外報を記入する。
どんな準備をしたか。
どこを訪問して誰と会ったのか。
そして、反応はどうだったか。
「商談から5分以内に書く」のがルールだ。時間がたつと、主観が強まったり、細かいことを書くのがおっくうになったりする。
1日の最後には、外報を使いながら、商談の状況と今後の方針について上司と擦り合わせる。
当日の成果だけではなく、あらかじめ書き込んでおいた翌日以降のミッションや訪問先についても打合せておく。
「行動していたとしても、書かなければやっていないのと同じ」という発想だ。
人に依存することなく、会社として効率的な営業活動を続けられるというわけだ。

明確な指標を設け、その実績を可視化して担当者にさらなる行動を促す。
キーエンスの仕組みは明瞭で、言い訳を許さない。

営業担当者でもちょっとしたソフトを組める(=プログラミングできる)ことに驚いた。
キーエンスは営業担当者がなるべく個人で、現場で解決することを強く意識づけられていると感じる。

何事も理詰めのキーエンスの営業担当者に任された重大な役割が、顧客の真のニーズを聞き出すことだ。
それは顧客への提案を練るのにも使えるし、新しい商品へのヒントが詰まっている可能性もある。

 

第3章 期待を超え続ける商品部隊

原価(の削減)も頑張るが、基本的には付加価値を上げることに重点を置いている。
顧客の作業時間をどれだけ短縮できるか、工数をどれだけ減らせるかなどの価値を伸ばすのが先決だ。
キーエンスが付加価値を高めるポイントになっているのが「意味的価値」だ。
機能と機能の組み合わせ、機能と使いやすさの組み合わせなどによって、「他社製品よりもはるかに使い勝手がいい」という価値を生み出すのが勝ちパターンの一つになっているようだ。

従来の蛍光顕微鏡は、暗室で使うのが常識だった。
背景に無駄な明るさがあると、正確に観察できないからだ。
キーエンスはここに鉱脈を見つけた。「なぜ部屋全体を暗くしなければいけないのか」。
試料と対物レンズがあるエリアだけを筐体で囲んで周囲の光を遮断すれば、わざわざ暗室で観察しなくてもいいと考えたのだ。
「測定作業にかかる時間全体」という多面的な捉え方をすれば、そもそも暗室での作業が分析全体の効率を落としているという切り口が見つかるかもしれない。
これが、キーエンスがこだわる「潜在ニーズ」だ。
何十年も暗室での作業を続けてきた顧客は、それが当り前になってしまい、問題に気づかないのだ。

実は、キーエンスには「工場」がある。
100%子会社のキーエンスエンジニアリングだ。
主にキーエンスの商品の修理や解析、製造装置の設計などを手掛ける企業だが、開発した商品の試作や初期量産も担っている。

 

第4章 「理詰め」を貫く社風と規律

2182万7204円。
2022年3月期のキーエンス(単体)の平均年収だ。
業績賞与の支給は年に4回。
会社の業績リアルタイムに感じやすくなるようにしている。
業績賞与のおおよそ半分ずつが、アクションで評価される金額と、成果で評価される金額になっているようだ。

出ていくお金をすごく意識して切り詰めようとする会社はたくさんある。
もちろんそれも大事だが、まさに今過ごしているこの時間も大事な資本だ。
無駄に時間を垂れ流していては、経営理念にある「最小の資本で最大の付加価値」が実現できないと意識させる狙いだ。
「この1時間で生み出せたはずの付加価値」を知っているからこそ、利益に結びつく行動を優先するようになるわけだ。
キーエンスは大きな利益が上がったから今のような制度に変えていったのではなく、利益が上がるように会社がうまく回る仕組みを早くから整えていたということだ。

目的、つまり付加価値の創造を常に意識する――。
キーエンスの「価値観・仕事観」には「目的意識を伴った行動が成果を挙げる」という項目がある。

自主的な行動を促す風土のリクルートと、定義された行動を仕組みで徹底させる風土のキーエンス。毛色は違うが、共有をよしとする文化は似通っている。

キーエンスは全ての行動データを基に個人の施策や事業部の施策、全社の施策を決める。
もし虚偽の報告があれば誤った経営判断をしてしまうことになるため、ありのままの報告をすることが重要だった。効果がないと判断したら、きちんとやめる文化がある。

 

第5章 仕組みの源流に「人」あり

目標意識、目的意識、問題意識を持って、常に前向きに行動するという行動指針が、キーエンス社内で常々飛び交う。

事業家の第一の条件は、総資産をうまく使って高い利益を上げることです。
利益が上がらない、すなわち社員に対して付加価値の低い仕事しか与えられないのは、事業家としては最悪です。
創業者の言葉や社是・社訓を掲げる会社もあるが、大事なのは分かりやすい文章にすること。
そのうえで、それを実践できているかどうかをきちんとモニターして経営に生かし、ステークホルダーに見てもらう。

付加価値を生み出すのは技術やサイエンス。
過去ではありません。
キーエンスは不要です。
誰が言ったかではなく、何を言ったかという社風。

 

第6章 海外と新規で次の成長へ

日本人同士なら感覚で伝えられるかもしれないが、海外ではそうはいかない。
目的を明確に伝え、「これをすればこうした効果がある」と納得してもらうのが大事だ。
場合によっては自分が先に動いてやって見せるなど、現地の社員に一番しっくりくるやり方を模索するという。
その点では、行動を可視化してフィードバックするキーエンスの手法は、海外の社員にとっても納得しやすそうだ。

優れたホームランバッターがいるというよりは、どちらかというとアベレージヒッターをしっかりそろえて、平均値を上げながら強化をしていく。
それがキーエンスの営業チームの基本的な思想ではないか。

 

第7章 「キーエンスイムズ」の伝道師たち

キーエンスによる出資後、ジャストシステムにどんな変化が起きたのか。
第一の変化は、商品企画の方法だ。「インサイト(洞察)」と呼ぶニーズや課題の掘り起こしに大きく時間を割くように切り替えることだった。
日本のソフトウエア会社に多い受託開発では、顧客の要望通りのシステムをつくるための解決方法を探す部分に時間をかける。
それよりも、そもそものニーズを掘り起こす部分を重視しようと考えたのだ。
そうしてたどり着いたインサイトが、タブレットだった。
起動さえすれば「今日のミッション」を提示し、分からない問題に直面しても、子どもにヒントを出して学習を継続させられる。
きちんと勉強したら30分間アプリで遊べるというご褒美もつく。どこで間違ったか、どこに時間がかかったというプロセスもデータとして活用し、学習プランに反映する。当時の汎用タブレットでは、漢字を書いているときに触れる手に反応してしまう問題があった。
ジャストシステムはニーズに応えることを最優先し、独自の学習用タブレットを開発。

第二の変化は、「直販」と「サブスクリプション」の強化だ。スマイルゼミをはじめとするサブスクリプション(定額課金)方式の商品群を開発し、成長させられたことが大きい。

第三の変化が、10年度以降の人事報酬制度の変更だ。「社員一人ひとりが変化し成長し続ける環境、制度整備が重要だ」として、営業利益の一定割合を賞与で還元する制度に切り替えた。
人事評価に「ストックモデル」の概念を取り入れた。
事業がサブスクリプション中心になったことを踏まえたものだ。

自ら起案して改善するという風土づくりだ。「誰かの言いなりでは、仮にうまくいっても何のためにそれをするのか、どういう目的かを忘れてしまう」。
常に「起案・提案をしなければならない」と発信し続けたという。

仕組みをつくったら、その仕組みが役立つように本気で運用を徹底するという、「最後の数センチメートル」の差だ。
一言でいえば、手を抜かないのだ。
「当たり前のことを当たり前にやる」。
この「当たり前」の設定値と徹底度が高い。
キーエンスの仕組みは、「人は油断することもあるし、ラクをしたいと考えるものだ」という“性弱説”に基づいている。
なぜそうしなければならないかという理屈を、透明性と納得感のあるものにしているからだろう。
いい結果につながると納得すれば、多くの人はそのための行動を自然に増やすはずだ。

 

今月はこの本を選んだのは、タイトルに惹かれたからです。
大阪が誇る高収益企業・キーエンスさん。
その実態の少しでも垣間見れて、参考になる点ないかと思って手に取りました。
このまとめを各前に、数名の方と感想をシェアすると、人それぞれ興味ある点が異なり、面白かったです。
具体的なノウハウよりも、考え方や目的がとても参考になると思いました。
ぜひご一読お勧め致します。
お勧め度:☆☆☆☆☆ 星5つ
(桐元 久佳)

最強企業のメカニズム キーエンス解剖 西岡 杏 著