HARD THINGS ハード・シングス ベン・ホロウィッツ著

答えがない難問と困難に きみはどう立ち向かうか
イントロダクション

経営の自己啓発書は、そもそも対処法が存在しない問題に、対処法を教えようとするところに問題がある。
非常に複雑で流動的な問題には、決まった対処法はない。
私はこの本で難しい問題への対処法やマニュアルを提供するつもりはない。
その代わりに私がどんな困難(HARD THINGS)に直面したかを語ろうと思う。

第1章 妻のフェリシア、パートナーのマーク・アンドリーセンと出会う

コリン・パウエル元国務長官は「リーダーシップというのはたとえ好奇心からにせよ、人を自分の後に続かせる能力だ」と言った。
特に状況が悪化してあらゆる「事実」が恐ろしい結果を指し示していると思えるとき、まったく異なった立場に身を置いてみる能力は、状況の見方を根本的に変え、別の結果があり得ることを気づかせてくれた。
単に、物事の成り行きについて別の有効なシナリオがあることを示すだけで、わが社の社員の間に希望の火を灯せたことが何度もあった。
ありとあらゆる努力をしながら、私はもっとも大切なことを忘れていた。
自分がしたいことではなく、何が大切なのかという優先順位で、世界を見ることをこのときに初めて学んだ。

第2章 生き残ってやる

「もし資金が自由になったら?」という質問は、起業家に尋ねるには危険すぎる。
太った人に「もしアイスクリームの栄養価がブロッコリーと同じだったらどうする?」と聞くようなものだ。
この質問が引き起こす考えは、著しく危険なものになりかねない。
資金を個別調達する際のもっとも大切なルールを学んだ。
「ひとりの投資家を探せ」だ。
投資しようという投資家はひとりいればよい。
だから「ノー」と言う残り30人は無視したほうがよい。
どんな人間にとっても、人生で2種類の友達が必要だ。
ひとつは、何かいいことが起きたときにその人を呼べば自分のために感動してくれる人。
嫉妬を隠すための偽りの感動ではなく、本物の感動だ。
必要なのは、自分に起きたこと以上に、あなたのために感動してくれる人だ。
ふたつ目は、何か悲惨な状態になったとき、たとえば生死の境にいて、一度だけ電話がかけられるときに呼び出せる人。
われわれが何を言っても、いずれ死にます。
予測を下方修正した途端、投資家の信用を失うのですから、全部の痛みを今、受け入れるべきです。楽観的な予測など、どうせ誰も信じません。
くそを食らうときは一口でないと。
物事を進める方法、いや哲学と言ってもいい。
その哲学の中で、私には確固たる信念がいくつかある。
私は「恣意的に設定するデッドライン」の効果を信じている。
私は競り合わせ効果を信じているのだ。
契約のためなら、法や人の道に外れない限り、どんなことでもすべきだと私は信じている。

第3章 直観を信じる

私の経歴の中で早くに学んだ教訓は、大企業でプロジェクト全体が遅れる原因は、必ずひとりの人間に帰着するということだった。
小さな、一見些細なためらいが、致命的な遅れの原因になりかねない。
正しい製品を見極めるのはイノベーターの仕事であり、顧客のすることではない。
顧客にわかるのは、自分が現行製品の経験に基づいて欲しいと思っている機能だけだ。
イノベーターは、可能なことはすべて取り入れられるが、顧客が真実だと信じていることを無視しなければならないことも多い。
つまり、イノベーターには知識、スキル、そして勇気が必要になる。
競争力を取り戻したわれわれは、攻撃に転じた。
私が主催する週間ミーティングのアジェンダに、「われわれが、今やっていないことは何か?という項目を追加した。
時としてやっていないことこそ、本来集中すべきことである場合がある。
自分へのメモ「やっていないことは何か?」を聞くのは良いアイディアだ。

第4章 物事がうまくいかなくなるとき

スタートアップのCEOは確率を考えてはいけない。
会社の運営では、答えがあると信じなきゃいけない。
答えが見つかる確率を考えてはいけない。
とにかく見つけるしかない。
可能性が10に9つであろうと1000にひとつであろうと、する仕事は変わらない。
「成功するCEOの秘訣は何か?」際立ったスキルがひとつあるとすれば、良い手がないときに集中して最善の手を打つ能力だ。
逃げたり死んだりしてしまいたいと思う瞬間こそ、CEOとして最大の違いを見せられるときである。
私はあえて大失敗のあとの悪戦苦闘という課題を最初に持ってきた。
そうするために、私は「武士道」―-戦士のとるべき道――の第一原則に従う。
それは、「常に死を意識せよ」だた。
戦士が常に死を意識し、毎日が最後の日であるかのように生きていれば、自分のあらゆる行動を正しく実行できる。
つらいときに役にたつかもしれない知識
・ひとりで背負い込んではいけない。
・単純なゲームではない。
・長く戦っていれば、運をつかめるかもしれない。
・被害者意識を持つな。
・良い手がないときに最善の手を打つ。

第5章 人、製品、利益を大切にする -この順番で

幹部の採用で私が身をもって学んだ教訓は、コリン・パウエルの教えに従って、弱点のなさではなく、長所で選ぶべきだということだった。
かつてネットスケープのCEOとして私のボスだったジム・バークスデールがよくこう言っていた、「われわれは、人、製品、利益を大切にする。この順番に」。
単純だが、奥深い言葉だ。
「人を大切にする」ことは、3つの中でも頭抜けて難しいが、それができなければあとのふたつは意味を持たない。
人を大切にすることは、自分の会社を働きやすい場所にするという意味だ。
教育は、早い話が、マネジャーにできるもっとも効果的な作業のひとつだ。
社員が自分の仕事をするために必要な知識とスキルだ。
私はこれを、「機能教育」と呼んでいる。
機能教育には、新入社員に何を期待しているかを教えるという簡単なものから、数週間にわたるブートキャンプで会社の製品の歴史的なアーキテクチャの意味合いを叩き込む複雑なものまである。
企業教育プログラムにおけるもうひとつの柱が、マネジメント教育だ。マネジメント教育は、マネジメントチームに対する期待を設定する理想的な場だ。
良い製品マネジャーは目標の「What」(すなわち「何をすべきか」)を明確に定義し、「How」(すなわち「どうやったらできるか」)ではなく、その「What」が実現するまでを管理する。
悪い製品マネジャーは、「How」を思いついたときに、最高の気分に浸る。
経験を積めば積むほど、社員一人ひとりに何か重大な問題があることに気づく。
完全な人間などいない。
だから、弱みがないことではなく、強みが何かで人を選ぶことが絶対的に重要だ。
誰にでも弱点はある。人によってみつけられやすさに違いがあるというだけだ。
弱点のない人間を雇おうとすることは、心地よさを最優先することを意味している。
そうではなく、自分が必要としている強みを見つけ出し、その分野で世界レベルの人物を探すべきだ――ほかの重要度の低い領域に弱点をかかえていたとしても。
「技術的負債」とは、行き当たりばったりの汚いコードを書いて一時的に時間を借りることはできても、最終的には利子を付けて返済しなくてはならない。
あまり認知されていないが、これとよく似た概念がある。
私が「経営的負債」と呼ぶ概念だ。技術的負債と同じく、経営的負債は、一時しのびの短絡的な経営判断が、高くつく長期的災いを招く。
技術的負債と同じく、トレードオフは時として理にかなっているが、多くの場合そうではない。
さらに重要なのは、予期しないまま経営的負債を生じさせた場合、最終的に経営破綻を超すことだ。

第6章 事業継続に必須な要素

ここで強調したいのは、組織で問題が生じたときに、必ずしも解決策は必要なく、単に事柄を明確化するだけで良い場合もあるという点だ。
日常業務に関してCEOのなすべきもっとも重要な任務は、社内のコミュニケーションの仕組みをつくり、円滑に作動するよう維持することだろう。
コミュニケーションの仕組みには会社全体の組織づくり、会議の取り扱い、さまざまな部内事務の手続き、メールシステム、ヤマ―の利用、管理職と一般社員への個人面談などさまざまな要素が含まれる。
第7章 やるべきことに全力で集中する
私が起業家として学んだもっとも重要なことは、何を正しくやるべきかに全力を集中し、これまで何を間違えたか、今後何がうまくいかないかもしれないかについて無駄な心配をすることをやめるという点だろう。
臆病者は、直面すべきことに直面しようとしない。
英雄は自身をしっかり制御し、恐怖を跳ねのけてしなければならないことをする。
しかし、英雄も臆病者も感じる恐怖は同じなのだ。
他人がやったことを見て判断する観客は、彼がどう感じたかを知らない。
―-伝説的ボクシング・トレーナーのカス・ダマト
組織を運営するには2種類の本質的に重要なスキルが必要だ。
ひとつは、何をすべきかを知ることであり、もうひとつは、そのなすべきことを実際に会社に実行させることだ。
偉大なCEOとなるには、このスキルが両方とも必要だ。
「ワン」型CEOは、決断を下すことが好きだ。
完璧に情報を集めようとするが、必要とあらば、ほんのわずかしか情報が得られなかった場合でも、決断をためらわない。
「ツー」型CEOは、会社を能率的に運営するプロセスを完成することに喜びを見出す。
ツーにとって業務プロセスの改良、社員の責任分担の明確化、売り込みの電話などを一瞬の滞りもなく進めていくことが最優先で、じっと戦略を考えるなどは時間の無駄に思える。
組織を上下に階層構造として構築する主な目的は、意思決定の効率化だ。
その結果、CEOは通常ワンとしての役割を求められることになる。
組織のトップの人間が非常に複雑な問題に対して決断を下すことが苦手だったら、組織の動きは遅くなり、やがて身動きが取れなくなってしまうだろう。

第8章 起業家のための第一法則―困難な問題を解決する法則はない

正しく運営されている多くの企業では「約束したことは守られねばならない」という原則を厳しく貫いている。
社員が何かを約束し、その約束が守られなかったら、社員全員に迷惑をかけているのだ。
こうした無責任さは拡散しやすい。
物事を正しくやり遂げるには、全員に約束を守る責任を負わせることが必須だ。

第9章 わが人生の始まりの終わり

CEO特有のスキル 幹部社員の管理、会社の組織づくり、販売チャネルの構築と運営などは創業者CEOが欠きがちな能力だ。
CEOの人脈 プロのCEOは人脈が豊富だ。
思ったことを言うのを妨げる恐れと気兼ねこそ、会社を経営する上でもっとも困難な部分の鍵を握っている。
会社経営の本当の困難は、簡単な答えや処方箋が存在しない部分にある。
本当の困難は論理と感情が矛盾するところにある。
本当の困難は、どうしても答えが見つからず、しかも自分の弱みを見せずに助けを求められないところにある。

 

今月はこの本を選んだのは、中尾塾という勉強会の課題図書だったからです。
アメリカのベンチャー企業経営者だった著者の実体験に基づく様々なエピソード。
同じことが起こる可能性は低いですが、でも本書を読んで追体験したり、自分ならどうするか?と考えたりすることで、少しでも困難なことに対処できる術が学べると思ったからです。
ぜひ幹部の方々と輪読されては如何でしょうか?

お勧め度:☆☆☆☆ 星4つ

HARD THINGS ハード・シングス   ベン・ホロウィッツ著