強くて元気な営業組織のつくりかた グロービス経営大学院 著

はじめに

営業とは顧客に価値を提供する重要な存在・機能です。
顧客と企業の接点に位置し、顧客との関係構築、顧客からの情報収集などを行った上で、製品・サービスを提供し、顧客が抱える顕在的・潜在的なニーズに応えていくことを日々実践しています。
営業プロセスが属人化してしまっている、ナレッジなど社内の情報共有がうまくいっていない、マーケティング部署から提言される施策に現場感がないなど、多くの課題を抱えていることがわかりました。
「生産性・働きがい・顧客満足を実現する好循環」、すなわちセールス・サクセス・チェーンの構築です。
この好循環を構築し、回転させることが、営業生産性を高める取り組みとして、最も費用対効果が高く、持続性も高いのです。

1 「生産性×働きがい×顧客満足」の3つの相乗的に高める

営業現場においては、複雑な意思決定や相手の感情への配慮など、人間にしかできない仕事は必須です。
「ヒト」の存在なくして営業は成り立ちません。
強さの秘訣は、頭も心も体も元気なセールスパーソンにあるのです。
「強くて元気な営業組織」とは、投入リソースに対しての利益が高い状態(営業生産性が高い状態)を持続しているということです。
何より社員が働きがいを感じながらイキイキと働いている企業ほど、売上や営業利益、売上高成長率が高いことも知られています。
従業員に長く勤務してもらうことで、高品質のサービスを安定的に提供することができるのです。
会社が仕事をやりやすくする仕組みや仕事に対するモチベーションアップの仕掛けを作るなど、従業員が「この会社は自分の人生を豊かにしてくれる」と感じられるきっかけを与えられれば、従業員を引き付けられます。
また、従業員に会社の理念や方針に賛同してもらい、会社や仕事に対する満足感を高めることが、顧客に高い価値のサービスを提供する原動力になるでしょう。
①好循環の要となる「セールスコンセプト」≒明確な営業組織の方針
②セールスパーソンを育て、励まし、支える「仕組み・仕掛け」
③仕組み・仕掛けの運用・活用の肝となるセールスマネジャー
④営業生産性と働きがいは互いに高め合う。両者の高まりから組織貢献意欲向上へ
⑤顧客への高い価値提供から顧客満足、そして顧客との長く強いつながりを形成
⑥利益を社内へ還元し、さらにパワーアップした営業組織へ
以上の好循環が構築され、回り続ければ、組織はどんどん強く元気になっていきます。
【リクルートの事例】
(1)リクルートのセールスコンセプト
顧客に対し、単なるマッチングの場の提供にとどまらない経営支援を実現するため、圧倒的No.1のマッチングの場を作ることを目指しています。
(2)リクルートの仕組み・仕掛け
若手が早期に成果を生み出せる仕組みは、全国で標準化された営業プロセスがあり、成功した手法や話法などはしっかりそのナレッジがシェアされるシステムが構築されている。
「TTPS徹底的にパクって進化させる」。
まずは成功者のやり方を真似して、成果を出すことが第一段階、その上で自分なりの工夫を行い(進化)、さらに大きな成果につなげるというものです。
(3)リクルートのセールスマネジャー
目標に対する行動結果、それに対する修正計画を発表し、他者からフィードバックを得ます。
ただの報告会ではなく、全員が目標達成に貪欲であるがために意見交換が活発であり、そこで得られた気付きや示唆、応援が次の1週間に向かう原動力となるのです。
(4)リクルートの営業生産性と働きがい
顧客本位のリクルートでは、顧客の成果への貢献を感じる瞬間も多く、これも働きがいを高めている一つの要素となっています。

(5)「顧客への価値提供→顧客満足→顧客との長く強いつながり」という連鎖
リクルートの広告サービスを利用したことによる費用対効果を把握し、次のアクションにつなげていきます。
サービスの売り手と買い手という関係ではなく、一緒に成果を追求する「同志」のような関係性構築を理想としているのです。
(6)利益が社内へ還元される流れ
リクルートの近年の売上高の年平均成長率はおよそ10%となっています。
圧倒的なメディア力を持ち、セールスパーソンが顧客に寄り添って高価値を創造しているからこそ得られている利益です。
ビジネスパーソン育成の仕組みや仕掛けがより磨き上げられ、ますます良質な営業活動につながるという好循環が生まれています。

2 「生産性×働きがい×顧客満足」の要石「コンセプト」の力

強い営業組織にはその活動において「どのような価値を顧客に提供するのか」「自社ならではの戦い方とは何か」「営業現場で何を重視するか」といったことについて明確な方針、つまりセールスコンセプトがあることが分かりました。
キーエンスが考える付加価値は、顧客や競合が気付いていない潜在的かつ本質的な課題をいち早くつかんで解決することです。
「顧客が欲しがっているもの」ではなく、その一歩先を行く提案・開発をすることで、高付加価値の実現、競合との差別化を行っているのです。
セールスコンセプトでは、「顧客満足を追求する」だけではなく、どのようなやり方で顧客満足を追求するのかを明確にする必要があるのです。
セールスコンセプトの3要素
①顧客提供価値とは?
自社の活動を通じて顧客にどのような価値を提供するのかということです。
顧客提供価値は、自社製品・サービスの提供によって顧客ニーズを叶えることで生み出されるものです。
②自社ならではの戦い方
具体的に何を強みとして他社と差別化するのか、あるいは自分たちの優れた営業力を発揮する方法論を示していくものです。
つまり、自社ならではの戦い方とは、「自社の志向する勝ち筋」と言ってもよいでしょう。
③営業現場での重視ポイント
・標準品orテイラーメイド
・量or質
・安易な安売りの抑制

3 営業の標準化の実践と進化

一定レベル以上の質と量を提供するために重要なのが「標準化」の発想です。
「標準化」とは、最終的に目指すべきアウトプットを明確にした上で、その成果物に至るまでのプロセスを統一して共有し、さらにより良いものを目指して日々改善を行う取り組みのことです。
つまり、マニュアル化は静的ですが、標準化は動的なものなのです。
営業プロセスの標準化3ステップ
①営業プロセスを明確にして、各プロセスでのチェックポイントや行うべき行動などのアウトプットを決定する。
②KPIを明確にして数値管理を行う。
③営業活動の実態をタイムリーに把握し、組織として対応する。
営業プロセス標準化のメリット
①営業組織のマネジメントが効率的・効果的になる。
②顧客への提供価値の質を一定化できる。
③エリア拡大による営業組織構築にスムーズに対応できる。
キーエンスでは、営業活動についての質と量を明確に定義しています。
特に見本としたいのは、営業行動の質と量を上げるための仕組みが営業プロセスに存在している点です。
・外報:外出報告書のこと。
・外出計画:事前に1日の訪問計画を立て、誰にどのような商談をするのか、具体的な目的やシナリオを報告する必要があります。
・ロープレ
セールス・イネーブルメントとは、営業組織を強化・改善するための取り組みです。
1.「営業成果・行動・知識やスキル」を一気通貫でつなげる
2.顧客視点での営業プロセスを整備する
3.セールス・イネーブルメントの仕組みを整備する
イネーブルメントは、これまで分断されがちだった「成果」「行動」「知識/スキル」がプログラムレベル、システムレベル、組織機能レベルでつながっていることが特徴です。
実践するに際し、どのようなゴールを目指すのか、そのためには何をするべきなのか、その結果どうなったのか、結果によって次はどのような手を打つのかといったことを、データを用いて明確に検討していきます。

4 マインドの方向付け・動機付け~士気高く、共通のゴールに向かう組織へ~

人的資本経営とは、人材を「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげるという経営の在り方です。
企業は、従業員=資本という考えのもと、従業員に給与や賞与だけでなく、快適に働く環境の整備や人材育成なども含めた多様な投資を行います。
従業員エンゲージメントが高い状態とは、企業と従業員が対等な関係性を持って、企業の成長に十分コミットできている状態です。
従業員エンゲージメントが高い営業組織に必要な2つの要素。一つ目は、セールスパーソンがモチベーション高く働いていること、2つ目は、組織全体が共通のゴールに向かっていることです。
動機付けに関わる基礎的な3つの理論
①ハーズバーグの動機付け・衛生要因
動機付け要因:仕事に対して満足をもたらす要因と衛生要因:仕事に対して不満をもたらす要因は、別であると定義しています。
リクルートでは、週1回の活動報告会議において、行動結果と修正計画の発表をする機会があります。
「君はどうしたいんだ?」という言葉が飛び交う会議を経て、その言葉を胸に懸命に考えた計画をもとに、現場で実践し、結果を出すという営みが日常的に行われています。
セールスパーソンは「チャレンジングな仕事」を通して、自分で出した答えをもとに成果が出るという経験をし、「個人的な成長」を実感することができます。
②マズローの欲求5段階説
1.生理的欲求:生命維持に不可欠な欲求で、食欲や睡眠欲などが含まれます。
2.安全欲求:経済的な安定や健康の維持、治安の良さなど安全で豊かな生活を求める欲求です。
3.所属と愛の欲求:社会的欲求とも呼ばれ、社会に求められていると感じること、良い組織に属し、他者とつながることで、孤独感を回避して心の安定を得たいという欲求です。
4.承認欲求:他人から尊敬されたいという欲求で、名声や注目という表面的なものより、自己肯定感・自律性・自分自身の評価の高さが重要とされています。
5.自己実現欲求:自己の存在意義を実現する欲求で、自身の能力や可能性を最大限発揮し、成果を出したいという欲求です。
この理論では、人間は、下位の欲求が満たされれば、その上の欲求を満たそうと行動するとされています。
営業組織においては、自己実現欲求の一つ下位の商人欲求を満たすことを目指すことをおすすめします。
③自己決定理論
心理学者であるエドワード・デシらが提唱したのが自己決定理論です。
この理論は、自己決定の度合いが増すほど人間の内部から出てくる好奇心や探求心といった内発的動機が生まれ、高い成果につながるとしています。
人間が自然に持つ3つの欲求に注目します。
1.自身の「有能さ」を証明したいという欲求
2.周囲との良い関係性を築きたいという欲求
3.自身の行動は自律性を持って自身で決めたいという欲求
以下の段階を経て、最終的に5段階目の内発的動機付けにつながり、人は活発に行動できるようになります。
1.外的調整:「指示」やそれに伴う報奨や罰によって動く
2.取り入れ:「義務感」によって動く
3.同一化:自身で感じる「必要性」によって動く
4.統合:「積極的に」動く
5.内発的動機付け:やりがいを感じ、「楽しんで」動く
賞賛制度(表彰制度)
表彰による感謝や承認を伝えることは、「動機付け・衛生要因理論」における動機付け要因となります。
また、承認を伝えることは欲求5段階理論の上位欲求である承認欲求を満たすことにつながります。
権限移譲(エンパワーメント)
企業に貢献するために何をすべきなのかを自分で考えて行動し、さらに、自律的に高い目標設定や迅速な判断のできる人材が増えるのは組織として喜ばしいことです。
理念体系の浸透に必要なポイント2つ
①継続したコミュニケーション:理念を語り続け、社内に共鳴を起こす
リクルートであれば、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」「チャンスの女神は前髪しかない」「倒れるときは前向きに」といった共通言語があります。
日々このような言葉が営業組織内で語られることで、セールスパーソンは営業活動において大切にすべきことを常に意識できます。
②仕組み化:理念を浸透させる仕組みを作り、モニタリングする
セールスフォースは、5つのコアバリュー(価値観)である信頼・カスタマーサクセス・イノベーション・平等・サステナビリティを浸透させるために、V2MOMという管理手法を活用しています。
これは、Vision(ビション)、Values(価値)、Methods(メソッド)、Obstacles(障害)、Measures(基準)の頭文字を取ったもので、これらをベースに各人が目指す目的地にたどり着く方法を考えます。

5 営業組織改善実践のヒント

ケース:ユニ・チャームペットケア
市場縮小や競争の激化もあり、同社の売上は減少傾向でした。
セールスパーソンは「個人商店化」しており、それぞれのマンパワー頼みでした。
営業は商品のコモディティ化により他社より低価格であることだけが武器と認識している状況で、利益率は年々、低下していました。
同社は、販売ノルマではなく行動を管理し、結果(数字)ではなくプロセスを重視する手法「SAPSマネジメント・モデル」を取り入れました。
・「S」Schedule:「思考」と「行動」のスケジュールを立てること
・「A」Action:計画通りに実行すること
・「P」Performance:効果を測定し、反省点・改善点を抽出すること
・「S」Schedule:今週の反省を活かして次週の計画をたてること
つまり、SAPSは、行動計画を立てて、実行し、効果を測定して、その反省を活かして次の週の計画を立てるという、週次マネジメントの仕組みです。
より具体的な行動管理にあたっては4つの独自ツールを導入しました。
詳しい内容は、「ユニ・チャームSAPS経営の原点」(ダイヤモンド社)でご確認ください。
同社は、セールスパーソンに対して「商品のコモディティ化はこの業界に限ったことではなく他の業界でも起こっていることである」、「企業間の競争力の差は組織能力の差である」という認識を周知しました。
意識から行動を変えるのではなく、行動を変えることで意識も変えるアプローチです。
その行動のもととなる営業プロセスは、標準化された営業プロセスを「定石」とし、浸透させることに集中したのです。
取り組みの成果は、従来の結果重視および詰め込み型営業スタイルから、営業プロセス重視型に変わることによって、セールスパーソンの意識も徐々に変わっていきました。
丁寧なコミュニケーションやニーズの深掘りの対話などが促され、顧客とのコミュニケーションも深くなりました。

ケース:サイバーエージェント
当時の課題は?
現在では営業の分業制で知られる同社ですが、当時はそのような仕組みがなく、セールスパーソンが報告書作成や広告運用といったすべての業務を担っており、組織全体では生産性が高くない状況でした。
従業員エンゲージメントにも問題があり、社員が離職するケースが少なくありませんでした。
営業プロセスの標準化を推進
セールスパーソンの業務は、見込み客の掘り起こしから企画書作成、契約、継続的な関係構築によるアドオン/クロスセル提案まで多岐にわたります。
これらを1人の人間に求めてしまうとセールスパーソンとして戦力化するまでに時間がかかってしまいます。
そこで、サイバーエージェントでは、資料作成・共有と手がけるコンテンツ担当、育成を担うトレーニング担当、業績管理・分析を行うオペレーション担当など、専門スタッフを営業部門内に配置し、効果的な分業を行うことにしたのです。
そして営業プロセスの分業化をより効果的にするため、最新の情報やノウハウを共有するシステムを導入しました。
また、本部メンバーをサポートするためのプラットフォームも提供しました。
分業化に加えて、さまざまな場面で役立つ思考のフォーマットを導入しました。
たとえばさまざまな職種ごとに必要な思考のフレームワークを準備し、該当者は手順通りに入力していけば仕事ができるようにしました。
具体的には、顧客へのヒアリング方法やクリエイティブのオリエンガイドラインなどが提供されています。
「これを埋めていくと仕事ができる」というフォーマットになっている点がユニークです。
そして、入力されたものを、2つ程度上の階層の上長がチェックしてフィードバックします。
こうしたやり方を採用することで、コンスタントに成果につながる思考方法が全社に共有されました。
サイバーエージェントの営業は、かつては成果主義で数字によって評価され、昇格が決められていましたが、数字を評価するだけでは人がついてきませんでした。
そのため同社はその失敗から学んで、やりがいによるマネジメントや、メンバーの新しい成長機会を作ることを意識するようになりました。
例えば、プロジェクトレポート、略して「プロレポ」という仕組みを導入しています。
プロレポとは会社の方針発表のある半年に1回のタイミングでチーム全員が集まってチームの目標を考え、全体に発表する仕組みです。
つまり、数値目標の先にある定性的な意義や目標を大事にしているのです。
サイバーエージェントも多くの企業と同様に3ヵ月に1回、顧客にアンケートをお願いしています。
設問はシンプルで1つ目は広告効果、2つ目は提案の量、3つ目は営業の満足度となっています。
この3つの項目を点数化し、すべての顧客からそれぞれ12点以上獲得できるようにしようと目標を掲げています。
見えにくい情報をしっかり定量化して自分たちの定性的な営業活動の指針に取り入れていくという、当たり前の活動をやり切ることで、成果を出すコンピテンシーとして定着させています。
若い社員に早くからセールスマネジャーなど責任ある業務を任せ、そこでさらに実績を上げたメンバーには20代からグループ会社の役員や社長に就任させます。
成長率が高く変化の激しい業界だからこそ、ビジョンに共感するメンバーを採用し、管理職に引き上げていくことで動機付けを行うとともに素早い対応を実現しているのです。

今月はこの本を選んだのは、営業力強化を悩んでいらっしゃるお客様にご紹介されたからです。
グロービス経営大学院の方々が執筆されているだけあって、伝えたいことが、わかりやすく整理されていました。
営業力を強化するために、まずは自社の課題を論理的に把握して、改善すべき点を把握するという使い方もできそうです。
「伸びしろのある日本の営業組織」を如何にして伸ばすのか?
この本のテーマと思います。
紹介しきれていないマトリックス、表や付録だけでなく、紹介しきれていない事例の紹介もあるので、このサマリーで興味わけば、ぜひご一読をお勧めします!
お勧め度:☆☆☆☆ 星4つ
(桐元 久佳)

強くて元気な営業組織のつくりかた グロービス経営大学院 著