いかなる時代環境でも利益を出す仕組み 大山 健太郎 著

序章 効率偏重経営の終わり
CHOICE1「環境変化に対応する」か「環境を自ら変革する」か

「アイリスはいつも世の中がピンチのときに業績を伸ばしますね。
もともと作っていた製品が追い風を受けて儲かる。運がいい」。
危機のときに必ず業績を伸ばせる経営をしているからであり、戦略によるものです。
「ピンチをチャンスにする経営」ではなく、「ピンチが必ずチャンスになる経営」の結果です。

需要と供給のバランスで動く市場経済と一線を画すためには、自ら需要を生み出す市場創造型の製品が必要です。
それを「ユーザーイン」という言葉に昇華し、経営の軸に据えます。
その考え方の下、1980年代にはガーデニングブーム、ペットブームを仕掛け、会社は大きく息を吹き返します。
ただし、需要創造型の製品は過去の実績を示せないため、確実に売れるものを求めたがる問屋は取り扱いに難色を示しました。
そこで私は新興勢力のホームセンターとの直接取引を狙い、問屋機能を包含した「メーカーベンダー」という業態を確立します。

私に言わせれば社長の仕事は、長期視点に立った事業構想と、それを実現するための仕組みの確立・改善です。アイリスは「仕組み至上主義」の会社です。
仕組みをつくらない社長は、自分で何でも決めたいだけなのでしょう。
そんな会社は、社長が引退した途端、傾きます。

 

1章 製品開発力
CHOICE2 フォーカスするのは「買う人」か「使う人」か

顧客に必要とされる製品やサービスを継続的に送り出すことが、いかなる時代環境でも利益を出すための第一歩です。
「好況時だけ儲かるビジネス」ならプロダクトアウト型でも構いません。
しかし「不況時でも儲かるビジネス」をするには、常に顧客側に立脚しなければならない。
注意しなければならないのは、顧客は誰かということです。
アイリスでいえば、顧客は小売店なのか、それとも消費者なのか。

現代においてプロダクトアウト型が通用しなくなったわけではなく、製造業なら品質、価格、納期などを極めれば勝つことができます。
ただ、外的環境の変化や競争条件の変化で需要がなくなれば、せっかくの強みが帳消しになる危険性は常につきまといます。

次にマーケットインですが、これは業界や市場の需要に応える戦略と私は位置づけています。
価格競争に耐えるだけの資本力や営業力のあるメーカーは、マーケットイン型で戦うことができます。
ただし、市場の競争環境によって業績が上下するので、資本力に劣る中堅中小企業が利益を上げるには無理があります。
オイルショックで大赤字を出した、かつてのアイリスがその典型です。

アイリスのように生活者向けの製品を作っている場合、ユーザーとは「エンドユーザー(使う人)」のことです。
使う人が「これは役に立つ」「これは安くて使い勝手がいい」などと満足するかどうかを考えるのが
ユーザーインの思想です。

 

CHOICE3 KPIの目的は「業績向上」か「新陳代謝」か

人口が減り、消費が停滞しているといっても、ここしばらくの間、日本のGDP(国内総生産)はあまり変わっていません。
これは何を意味するのかというと「衰退している市場」と「成長している市場」があるということです。

もしあなたがいる市場が縮小しているなら、成長している市場に移らなくてはいけない。

利益率以外の理由からも新製品比率の重要性を感じていました。不毛な価格競争から一時避難するには、その時点で他の製品を展開していることが必要です。
アイリスでは、毎年、経常利益の50%を設備などの投資に回します。
アイリスでは中長期の計画は立てません。
今期の1年間はこれくらいの数字を目標にしようという方針は出しますが、中長期の計画は立てない。
その代わりに、売上高に占める新製品の売上高比率を数値目標に掲げます。
新製品は「発売して3年依頼の製品」と定義し、「新製品比率の目標は50%以上」です。
重要なのは、会社の新陳代謝を最もよく表す指標をKPI(重要業績評価指標)に据えるという視点です。

 

CHOICE4 開発は「リレー型」か「伴走型」か

たくさんの新製品を作り、しかも売れる製品にするためには、ユーザーインの思想を組織に落とし込む仕組みが必要です。
ポイントは伴走型の開発です。

イノベーティブな製品を作ろうとすれば、部門間で衝突が起きます。
一番の問題は、ユーザーのニーズから離れ、個々の部署の都合で動きかねないことです。

プレゼン会議での超スピード開発が、成長の原動力になりました。
最初は小さな種でも毎週、水をやっていれば、大きな木に育つのです。

プレゼン会議の特長
① 社長が決めるから速い
② その場で問題解決するから速い
③ 社長の考えが全員に伝わるから速い
④ 毎週実施するから速い

会議の雰囲気や熱気を全参加者に等しく感じてほしいからです。
同じタイミングで情報を共有できれば、入社年次や役職に関係なく、担当者が専務と直接コミュニケーションできる利点もあります。

 

2章 市場創造力
CHOICE5 「自社の強みに絞る」か「自社の強みをしぼらない」か

ユーザーインで需要創造型の製品を開発しても、特に新興メーカーが新しい製品を売ろうとするときには、2つの壁が立ちはだかります。
まず、問屋の壁。問屋にしてみれば、売れるか売れないか分からないものはできれば扱いたくない。
そこで最初のふるいにかけられます。

次に、小売店の壁。
自分の判断で仕入れた製品のせいで売上を落としたくない。
そのため、ヒットの可能性を秘めた製品より、確実に売れそうな製品を求めがちです。

経営において、何かに依存することは極めて危険であり、主導権を持つことの重要性を痛感しました。
消費者が求めるものを、流通の都合で欠品することはしたくない。
消費者が潜在的に欲しているものを開発して届けたい。
マーケティング重視の経営を貫くには、自らの業態を変えるしかないと判断したのです。

 

CHOICE6強みは「固有の技術」か「固有の仕組み」か

問屋のほうも探さなければならないのは、納入価格が安いメーカーではなく、売れる製品を作るメーカーです。
「この仕事は手離れがいい」という表現を使う人がいますが、手離れというのは、目先の効率を考えた言葉です。
本当の効率化はその先にあり、むしろ手離れが悪い仕事を志向したほうが、ユーザーインに近づけると思います。
どの次元で効率的かを再考する必要があるのです。

自社が位置する流通ポジションに永久にとどまるのではなく、上流か下流ににじみでることで、需要創造と市場創造を両立する業態が出来上がるのです。

経営者に必要なのは「多長根」の考え方。多面的、長期的、根本的(本質的)に物事を捉えることです。

 

3章 瞬発対応力
CHOICE7 上げたいのは「稼働率」か「瞬発力」か

多くの人は「見えている無駄」を省こうとします。
見えているとこののコストダウンばかりを意識する経営と、見えないところの付加価値を意識している経営。
見えない付加価値とは、視野を広げれば取り込めるビジネスチャンスです。
見えているものを合理化する究極が「ジャスト・イン・システム」です。在庫という「見えている無駄」を省くにはとても有効です。

 

CHOICE8 瞬発力があるのは「身軽な外注」か「柔軟な内製」か

できるだけ稼働率を上げたほうがよい局面は、ある条件下ではあり得ます。製品寿命が短く、設備の転用も利かない場合は、稼働率を上げる必要がある。
あるいは、製品が古くからあるもので利益率が低く、稼働率をできるだけ上げたいというケースもある。
実は、このような逡巡は、寿命が過ぎた製品の機械は使えなくなる、という前提に立っています。
そこに経営の盲点があります。

アイリスでは、設備機械の改造は内製化しています。機械メーカーから購入するのは、あくまで基本的な加工ができる汎用機。
機械メーカーから専用機を極力買わないのです。

1985年のプラザ合意で大幅な円高に振れると、日本の大手製造業は、部品製造や機械加工などをそれまで以上に外部に出しました。
理由の一つは、付加価値が低い工程は人件費の安い下請けに任せたほうがいいという考え方です。
もう一つは、部品製造や機械加工の専用設備を自社で持ってしまうと、一定以下に固定費を下げることが難しいという判断です。
それは目先の効率を考えれば正しいかもしれませんが、より安い部品や加工先を求めた結果、サプライチェーンがどんどん延びていったのです。

製品寿命が予想より短くても焦ることはない。
それを再び改造して、別のラインに転用すればいいだけです。
自前で作ると柔軟性があるため、稼働率を100%に近づけようと頑張らなくてもいい。

 

CHOICE9 「選択と集中」か「選択と分散」か

本業から縁遠い分野に多角化した会社が、利益の出ていない事業を切り捨てることは必要です。
ただ、特定の市場に集中しすぎると、不透明な時代環境では命取りになりかねない。
どんな市場が勃興するか、どんな市場が衰退するか、それらが読み切れない中では、強みを生かすことは必要ですが、過度の集中は逆効果に働きかねないのです。

アイリスは大震災やパンデミックを具体的に想定したわけではありませんが、オイルショックの経験から、本当の効率化とは拠点の集約、在庫の最小化ではないと判断しました。
各拠点の製造装置や生産管理システムは同じ。
また、現場から出てきた改善事例は全拠点で共有し、各工場が独自に進めないようにしています。
社内のノウハウを均一に保つため、工場長や現場責任者も頻繁にローテーションします。
各拠点の仕組みが同じなので、ほかの拠点から応援に駆けつけた作業員はすぐにラインに入れます。

 

CHOICE10 「短期の効率」か「中期の効率」か

ROEを指標にすることに意義があるとするなら、やはり市場が安定し、拡大を続けているときですが、これからの時代はROEが求める効率性を追求すると会社を傷めます。
本当の効率を追求しなければいけません。
ロングセラー商品に頼りすぎると会社を駄目にします。
真の効率とは何か。
そこを考えることが、本当の意味でのコロナ危機を乗り越えるということなのかもしれません。
「効率×効果」という計算式で考えてみましょうか。
「9×1」は9、「8×2」は16、「7×3」は21、「6×4」は24、「5×5」は25となって、最も積が大きいのは、効率と効果にリソースを半分ずつ振り分けることです。

 

4章 組織活性化
CHOICE11 社長にとって「いい会社」か社員にとって「いい会社」か

社長は自社のいい面をみてしまうので自己評価は高くなりがちですが、評価は本来、他人がするものです。
20の実力の会社には10の資質の社員が集まってくることを憂える必要はないのです。
むしろ、そのほうがいいのではないかと思うように至りました。
力のない社員を育て、レベルの高い仕事に挑戦させて成功すれば、本人はとても喜びます。
「俺も、やればできる」という気持ちが芽生え、仕事が面白くなる。
そうした一人ひとりが前向きな組織は力強くまとまります。
つまり、社長の高いビジョンに向けて社員を手取り足取り育て、目線を引き上げようとする。
その行為自体が重要なのです。
ギャップがあるからこそ育成が可能であり、結果としてベクトルがピタッとそろい、組織が機能する。

可愛がっていた社員に辞められても、情をかけることを諦めてはいけません。感謝の量が足りなかったと反省し、もっともっと社員のことを気遣っていくしか、社員の心をつなぎ止める方法はないのだと思います。
経営者を56年間も経験した今から振返っても、この「想像する」ということは、マネジメントの根幹をなすものだと断言できます。
社員の立場で納得できる評価方法とは何かと想像する。
顧客の立場で製品を見たらどうかと想像する。
これはまさにユーザーインの考え方です。

 

CHOICE12 経営情報を「独占する」か「共有する」か

「幹部が育たない」と多くの社長が嘆きますが、それは単に情報量の差によるものだということです。
社内の全情報を与えれば、その幹部たちも全体最適で判断します。
社長の目線が高いのは、社内の情報を独占しているからにすぎないのです。
幹部を育てるには情報を共有し、社長と幹部が共にレベルアップしていくことが大事です。

情報共有を目的とするICジャーナルの場合、事実の列挙は厳禁。
日々の仕事の中で得た情報を基に、各社員が自らの「意思」を伝えるように書く。新聞・雑誌記者と同じです。
知り得た情報を基に何を考えたか。
そこにどのような意味があるか。
それを経営者や全社員に向けて報道してもらうのです。
だから日報ではなく、ジャーナル(定期刊行物)と呼びます。
書いている内容の質が悪いと、「おまえのジャーナルはつまらん!」と本人に直接言います。
トップが細かく関わるから、仕組みが形骸化せずに習慣化するのです。

 

CHOICE13 組織内に「ヌシがいる」か「ヌシがいない」か

誰もが現業に携わるということは、誰もが会社を引っ張っているということです。
プレゼン会議でも開発部門内の会議でも、若手社員が直接、役員と話をすることで、案件を前に進めるのです。
自分が考えた製品を自分で作っていく。自分がコントロールしているという感覚があるはずです。

アイリスの管理者向けの業務マニュアルの中に、「管理者十訓」というものがあるのですが、「同じくことを繰り返すな~単調になると創造力が失われ鈍くなる。
感激と喜びのないところに人生はない」という言葉を掲げています。
それはまさしくヌシを排除するものです。

アイリスでは、誰でもできることを怠っていると徹底的に叱りますが、結果につながる正しいプロセスを歩いていれば、周囲がちゃんと頑張りを見ていて、サポートを受けられるようにしています。
一般に、社員が不満を持ちやすいのは、自分の頑張りを見てくれているという実感が得られないときです。

 

5章 利益管理力
CHOICE14 PDCAの要所は「PLAN」か「ACTION」か

各部署は毎月、損益を細かく分析します。
実際に走ってみて計画と実績の差異が目立つなら、四半期または半期ごとに、向こう1年間の計画を立て直します。
寝度の計画修正に加え、その時点からの向こう1年間の計画を作り直すのです。
事業活動は本質的には会計年度で動いているのではないと理解することが必要です。
常に1年先を見据えるのです。

社内の力をストレスなく需要創出・利益創出に連結させるには、開発担当者に利益管理をしてもらうのがベストです。
会社全体としてはプレゼン会議が開発のスピードを上げる動力になっていますが、開発現場では製品ごとの損益管理をすることで、開発のスピードアップが図れます。
自分自身で創意工夫したことが高い成果を出すとうれしいもの。
人は「やらされた仕事」は本気でやりません。
でも、自分が作った計画なら、やる。
それが評価されると、もっとやる。
それが人間の性です。
必要なのは正確な利益の把握。部門別・製品別などどこまで利益を細かく算出できるかです。
管理というのは能力や手法ではなく、それを徹底的にやりきる執念にかかっているのです。

 

6章 仕組みの横展開

「ホームソリューション」から、「ジャパンソリューション」へ――。
生活者の不満・不便の解決に加えて、日本の課題解決へと事業の幅を広げる方針を打ち出しました。
一般市民の生活水準は米国や欧州、中国より日本が一番高い。
だから日本で売れているものが、世界で売れます。
現地化は生産と販売だけで、日本で開発します。

 

7章 ニューノーマル時代の経営
CHOICE15 業界は「守るべきもの」か「壊すべきもの」か

リアル店舗にはエンターテインメント性などの強みがありますが、欲しい物が決まっている場合はエンタメ性は要りません。
製品点数の多さはアイリスにとっての永続戦略であるわけですが、これがネット通販事業ととても相性がいい。

 

今月はこの本を選んだのは、アイリスオーヤマさんの躍進されたノウハウが学べるからだと思ったからです。
大阪のプラスチック加工業だった大山ブロー工業所から園芸用品のみならず、生活用品や家電まで製造するメーカーへと変貌したアイリスオーヤマさんの実践から真似できること実践してもらえたらと思います。
お勧め度:☆☆☆☆ 星4つ
(桐元 久佳)

いかなる時代環境でも利益を出す仕組み