1. 概要
インボイス制度(適格請求書保存方式)とは、令和5年10月1日から導入される仕入税額控除の方式で、インボイス制度が導入されると、売手側と買手側は新たな義務を負うことになります。
<売手側>
買手である取引相手(課税事業者)から求められたときはインボイスを交付し、交付したインボイスの写しを保存しなければなりません。
<買手側>
仕入税額控除の適用を受けるため、売手(登録事業者)から交付を受けたインボイスの保存等をしなければなりません。
尚、簡易課税制度を選択している場合、インボイスの保存は仕入税額控除の要件となりません。
2. 売手側
自社が発行している書類の様式をインボイスに対応させる必要があります。
インボイスには次の事項を記載しなければなりませんが、1つの書類のみで全ての記載要件を満たす必要はなく、複数の書類を合わせて1つのインボイスとすることも可能です。
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象であるときはその旨)
④ 税率ごとに区分して合計した金額(税抜き又は税込み)及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
尚、小売業・飲食店業など不特定多数の者を相手に事業を行う事業者は、インボイスに代えて記載項目が簡略化されたレシートなどの簡易インボイス(適格簡易請求書)を交付することができます。
簡易インボイスはインボイスの記載事項と比べると、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載が不要である点、「税率ごとに区分した消費税額等」又は「適用税率」のいずれか一方の記載で足りる点が異なります。
3. 買手側
仕入税額控除の適用を受けるには、法定事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が要件とされていますが、取引先から受け取った請求書や納品書などの書類がインボイスの要件を満たしているかどうか、確認する必要があります。
インボイスを受け取ったら、次の3つのことを行ってください。
① 国税庁の「インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」で取引先が適格請求書発行事業者であることを確認する。
② 受け取った書類に上記2の事項が記載されていることを確認する。
③ 仕入税額控除を受けるにはインボイスの保存が要件となるため、インボイスを適切に保存します。
また、仕入税額控除の要件となる帳簿への記載事項は、次のとおりです。
① 課税仕入れの相手方の氏名または名称
② 課税仕入れを行った年月日
③ 課税仕入れに係る資産または役務の内容
④ 課税仕入れに係る支払対価の額
4. こんなケースは?
① インボイスの記載事項に誤りがあった場合
現行の請求書等では、買手が追記して保存することが認められていますが、インボイス制度後は受け取ったインボイスに誤りがあったとき、買手が追記・修正等を行うことは認められません。
売手に修正したインボイスを再発行してもらい保存する必要があります。
尚、買手はインボイスの交付を受けることに代えて、インボイスの記載事項を満たした仕入明細書等を作成し、売手の確認を受けた上で保存することもできます。
誤りがあった場合は、買手が仕入明細書等を修正し、売手の確認を受けた上で保存することもできます。
② クレジットカード取引の場合
クレジットカード会社が発行する請求明細書等は消費税法上インボイスとしては認められません。
カードを利用した場合は、利用した店舗が発行するインボイスの要件を満たすレシート・領収書等を保存する必要があります。
③ ETCを利用した場合
ETCカードで高速道路を利用した場合は、高速道路会社が運営するWeb上の「ETC利用照会サービス」から「利用証明書」をダウンロードして電子簡易インボイスとして保存します。
④ インボイスの交付を受けることが困難な取引の場合
売手からインボイスを受けることが困難な以下の取引について、買手は一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。
a)3万円未満の公共交通機関の運賃
b)3万円未満の自動販売機での購入
c)郵便切手を対価とする郵便サービス(ポストに投函されたものに限る)
d)従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費・宿泊費・日当及び通勤手当等
e)簡易インボイスの記載事項を満たす入場券等が使用の際に回収される取引
f)古物営業・質屋・宅地建物取引を営む事業者が適格請求書発行事業者でない者から古物・質物または建物をその事業者の棚卸資産として取得する取引
g)適格請求書発行事業者でない者から再生資源または再生部品を棚卸資産として購入する取引
⑤ コインパーキング利用の場合
コインパーキングについては、上記④の対象にはならないため、コインパーキングで発行されるレシートの保存が必要となります。
⑥ 口座振替払いの場合
家賃の支払いなど請求書の発行されない口座振替払いについては、インボイスの記載事項の一部が記載された不動産賃貸借契約書とともに、通帳や銀行が発行した振込明細書等を保存します。
また、登録番号・適用税率・消費税額等の不足情報については貸主から別途通知を受けて保存します。
尚、貸主が発行するインボイスの交付を受けることができるときは、それを保存します。
5. 経過措置
① 免税事業者からの課税仕入れ
インボイス制度開始から6年間は、免税事業者との取引であっても仕入税額相当額の一定割合(当初3年は80%、その後3年は50%)の仕入税額控除が認められる経過措置があります。
この場合であっても、免税事業者から受領する区分記載請求書と同様の事項が記載された請求書等の保存と一定の事項を記載した帳簿の保存が必要です。
② 少額特例
基準期間における課税売上高が1億円以下である事業者については、インボイス制度開始から令和11年9/30までの6年間、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能となります。
また、その金額の判定単位は、1商品ごとの金額により判定するのではなく、一回の取引の課税仕入れに係る金額が1万円未満であるかどうかにより判定することとなります。
これは取引先がインボイス発行事業者であるかどうかは関係なく、免税事業者であっても同様です。
ただし、少額特例は税込1万円未満の少額の課税仕入れについて、インボイスの保存を不要とするものであり、インボイス発行事業者の交付義務が免除されているわけではありませんので、インボイス発行事業者は課税事業者からインボイスを求められた場合には交付する必要があります。
③ 返還インボイスの交付義務免除(恒久措置)
令和5年10/1以後の課税資産の譲渡等につき返品や値引き等を行った場合に、その金額が税込1万円未満である場合には、返還インボイスの交付義務が免除されます。
売上代金回収時の振込手数料を売手が負担した場合、税込1万円未満であれば返還インボイスの交付義務が免除されることとなりました。
会計上は支払手数料として処理し消費税法上は売上げに係る対価の返還等とすることも可能ですが、その場合、帳簿に売上げに係る対価の返還等に係る事項を記載する必要があります。
支払手数料のコードを売上げに係る対価の返還等と分かるように別に用意するといった、通常の支払手数料と判別できるように明らかにする対応が考えられます。
この改正は経過措置でもなく、事業者の規模の制限等もない全事業者に対する恒久的な措置として整備されました。
(スタッフT)